素行不良で僻地に追いやられた第4王子、自分が転生者だった事を思い出す~神様から貰ったランクアップで楽々領地経営~

榊与一

文字の大きさ
24 / 158

第23話 行ける

しおりを挟む
「砂煙……」

遠くに上がる砂煙が見える。
目を凝らすと、それが複数のバラックボアの疾走によって上がっている物だと確認できた。

……以前なら絶対見えなかっただろうな。

距離は相当ある。
なので気づいているのは俺だけだ。

「本当にきやがるとはな」

領主であるエドワード・スパムがこの村に魔物が押し寄せて来ると伝えられた時は、正直半信半疑だった。
死者を蘇生させる程の力を持ち、ましてや、俺達を騙す意味などない事は分かっている。
それでも、本当に来るのかという疑問は残っていた。

「何にも見えないけど?」

「俺にはスキルがあるから、ずっと遠くも見えるんだよ」

アリンの疑問に俺は答える。

筋力の強化の末、俺はスキルを身に着けている。
それは守護用のスキルだったが、その副次効果として視力も上がる様だった。
だから他の人間の目には映らない距離でも、俺にはっきりと目にする事ができるのだ。

今俺達は村から少し離れた、死の森方面に向かって陣取っていた。

村の建物を遮蔽物にする事もできたが、それだと村が滅茶苦茶になってしまう。
それに鼻がよくパワーのあるバラックボア相手では、粗末な木の壁などはあってない様な物である。
それだったらもう、いっそ村の外で迎え撃とうという事になったのだ。

「ほんとだ、砂煙が……」

森でバラックボアと遭遇した時、俺達は19人がかりにもかかわらず4人も死者を出している。
現在は少し頭数が増えて26人だが、それでも魔物は8体だ。
以前のままの俺達では絶対に勝ち目はなかっただろう。

だが今は違う。

「くそ、きやがったか!」

「村は俺達が守る!」

エドワードのスキルで俺達全員の力が上がり、さらに武器も目に見えて強力なものに変わっていた。
今の俺達なら、たとえ8体が相手でもどうにかなる。
それだけの自信が俺達にはあった。

――特に、俺にはスキルがある。

【シスター・ガーディアン】
妹を守る際、大きな力を発揮するスキルだ。
その効果は絶大で、まだ戦いも始まってもいないのに体に力が漲ってくる程である。

アリンを守らなければならない俺にはうってつけ能力と言えるが……

「アリン!絶対に前には出るなよ!魔物は俺が倒してやるから」

「言われなくても前になんて出ないって、兄さん。私弓使いなんだから」

逆に言うと、こうして妹を危険にさらさなければ力を発揮できない欠陥スキルとも言えた。

アリンを守る力を振るうためには、アリンを危険にさらす必要がある
もどかしい話だ。

だがまあ、その事は考えても仕方がない。
要は守ればいいのだ。
そう、俺の力で守り抜けばいい。

「皆は無理せずバラックボアの牽制だけを心掛けてくれればいい!魔物は俺が仕留める」

――砂煙がもうかなり迫ってきていた。

領主は体の不調を訴え、この場にはいない。
ので、代わりに俺が指揮を執る。

体調不良が嘘か誠かは知らないが、どうせ居ても邪魔になるだけだからな。
余計な口出しをされないだけ寧ろ有難い。

「俺達の力で村を守るぞ!!」

「「「「「「おおおおおおおおお!」」」」」」

間近まで迫ったバラックボア達。

「ビギュアアアアア!」

その先頭を走るバラックボアに向かって突っ込み、俺は手にした鉈を振るう。

――その一撃はバラックボアの太い首を引き裂き、胴体から完全に分断した。

行ける!
今の俺なら、一人で八匹全部だって相手に出来る!

領主は気に入らないが、奴から与えられた力は本物だ。
そこは疑いようがない。

勝利を確信した俺は、次のバラックボアに向かって鉈を振るうのだった。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

処理中です...