素行不良で僻地に追いやられた第4王子、自分が転生者だった事を思い出す~神様から貰ったランクアップで楽々領地経営~

榊与一

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第97話 安心

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ついに戦争が始まった。
始まってしまった。

「私のせいで……」

少し前。
グラント帝国皇帝、グライム陛下が聖女である私の元を訪ねて来た。
グライム陛下は高齢で、自らの天寿を察し、なんとかそれを伸ばせないものかと私を頼られたのだ。

寿命を延ばす様な方法は、代々受け継がれて来た聖女の秘儀録にも記されていない。
もしそんな物があるのなら、もっと以前から権力者達がそれを頻繁に利生いていたはずである。
なので、聖女であってもどうしようもない事だ。

――私以外なら。

そう、私は別だった。
神に選ばれた聖女である私には、光と闇を司る精霊デストラクションが付いている。
そして彼女の持つ古代の知識の中には、尽きかけた人の寿命を延ばす秘術すらあったのだ。

――但し、それを実行するには太陽石が必要だった。

「あの時……」

精霊石はポロロン王国の至宝である。
そんな物、金銭は勿論、どんな取引材料を持ち出そうが手に入れる事は出来ない。
そのため、グライム陛下の寿命を延ばす手段はあっても、実行は絶望的だった。

「そんな事は不可能だって言っていれば……」

対処できないのなら、手段がないと言えばよかったのだ。
だが私は、その事を素直に伝えてしまう。

――それは私の見栄だった。

手が出ないのではない。
条件的に出来ないという事で、力及ばずどうしようもないという聖女への評価を本能的に嫌ったため、私は手段がある事をグライム陛下に伝えてしまったのだ。

けど、あの時の私はそれが戦争の引き金になるとは、夢にも思いもしなかった。

グライム陛下は賢王と呼ばれた、優れた為政者だったからだ。
まさか自分の寿命の為だけに、戦争なんて愚かな真似をする訳がない。
私はそう高を括っていた。

それがまさか、本当に戦争を起こしてしまうなんて……

『君のせいじゃないよ。君は聖女としての役割を果たしただけ。悪いのは欲深いあの男だ』

「でも、このままじゃポロロン王国は……」

ポロロン王国側は初戦で大敗を喫し、第二王子であるガイオスが戦死している。

彼は性格にこそ難はあったが、その実力はポロロン王国屈指と言われていた。
更に彼の率いる第二王宮軍団は精鋭で、しかもガイオス王子には【戦王】のスキルがあった。

【戦王】は味方の能力を広範囲、かつ大幅に強化するスキルで、戦場に置いて最も力を発揮する強力なスキルだ。

【戦王】の支援を受けた第二王子率いる第二王宮軍団は、実質ポロロン王国最強の戦力である。
それ故に、帝国の出鼻を挫く目的で初戦に投入され――

そして壊滅してしまった。

指揮官すら守れずの壊滅。
これは圧倒的戦力差がなければ起こりえない。
つまりそれはグラント帝国とポロロン王国との間に、大きな戦力差がある証拠だ。

『そう心配しなくてもいいよ。ポロロン王国には、君が慰謝料代わりに渡した聖器があるじゃないか』

私とポロロン王国第一王子であるケイレスは婚約していた。
だが私の聖女の儀で、ある奇跡が起こった事でその関係は解消されている。

聖女の儀において、古代より伝わるエルロンド神の像が輝いたのだ。

まさに奇跡としか言いようがない現象。
教会はその奇跡を目の当たりにし、私が神に認められた真なる聖女と定義した。
そして神人に近い私が、ただの人間であるケイレス王子と結婚するのは相応しくないと判断し、王国に破談を求めたのだ。

神聖エルロンド教にそう求められたのでは、ポロロン王国側もそれを飲むしかない。
こうして私と彼の婚約は解消された訳だが……

私は彼に大きな借りがあった。

そう、私が聖女の座へと至るきっかけとなった黒い石を用意してくれたのは、他でもない彼だ。
まあ正確には、子爵家長男であったアルゴンからの献上品なのだが、それを橋渡してくれたのはケイレス王子なので、実質彼から貰ったのと同義である。

借りがあるのに、一方的に婚約破棄をする。
その事に、私は心苦しくあった。
そんな時、私にアドバイスをくれたのがデストラクションだ。

『そんなに気に病むなら、代わりに彼が満足する物を送ってやればいい。僕ならそれを用意できるよ。もちろん、君の力を使ってだけどね』

そして私はデストラクションの力を借り、強力な力を秘めた聖器を生み出し、それをケイレス王子へと送った。

『あれを使えば、そう簡単には負けないはずさ』

「そう……だといいんだけど……」

そうあって欲しくはあるが、どうしても不安はぬぐえない。

『それにあの国には、エドワード・スパムもいるしね』

「……エドワード?」

唐突に、デストラクションの口から出されたエドワードの名前に、私は困惑する。

元王族ではあるが、今の彼は辺境の男爵でしかない。
しかも、特に秀でた能力を持っていた訳でもない人物だ。
彼がいるからと言って、何かが変わるとは到底思えなかった。

『ああ、彼にも精霊が付いているからね』

「精霊が!?」

エドワードに、私と同じ様に精霊がいるなんて……

『しかも4体もね。まあ一体一体は僕の足もとにも及ばないけど……それでも、4体も精霊が付いている人間があの国にいるんだ。君が心配するには及ばないさ』

正直、エドワードに4体も精霊がついてると言われても現実味がない。
私の知るエドワードは無能で無気力の、どうしようもない男だったからだ。
普通に考えれば、そんな人間に高貴な精霊が力を課すとは到底思えなかった。

けど、デストラクションが私に嘘をつく訳がないから事実なのだろう。
きっと私が気づかなかっただけで、エドワードには精霊を惹き付ける何かがあったに違いない。

『だから安心するといい』

「……分かったわ」

戦争が起こってしまった事自体問題ではあるけれど、少なくとも、ポロロン王国自体が滅びる様な事はないと聞いて、身勝手ながら一安心する。
私の軽率な行動のせいで国が亡びるなんて、考えたくもないもの。
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