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1――死別
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「ニート……ごめんなさいね。私に何の後ろ盾も無いばっかりに、王家の血筋だって言うのに……」
母が俺に謝って来る。
その頬はこけ、眼にも精気がない。
体ももうほとんど動かず、布団の中で寝たきりだった。
「何言ってるんだよ、母さん。俺そんな事全然気にしていないよ 」
母は末期の癌だった。
恐らくもう長くは持たないだろう。
「でも……残されたあんたの事が心配で……」
「ははは。庶子って言っったって、一応王族の血を引いているんだから大丈夫だよ」
王子とは言っても、王位継承権など実質与えられていないに等しい俺の王宮内での扱いは軽い。
勿論面と向かって周囲から何かされる様な事などないが、侮られているのは間違いなかった。
母はそんな俺を心配している様だが、俺は笑って大丈夫だと返す。
「それに、残されたなんて不吉な事言わないでくれよ。大丈夫、きっと良くなるさ」
これは気休めだ。
願望と言っていいだろう。
唯一の家族である母に生きていて欲しいと、そう願う俺の。
俺はこの国の王である父を、家族だとは思ってはいない。
父も俺には興味を持っていなかった。
所詮、平民との間に生まれた333番目の王子だからな。
それでも、子供の頃は何度か顔を見せてくれてはいたのだが……それも12歳までの事だった。
12の時に行われた魔法による検査で俺の女神の祝福が前代未聞の1と出て以来、この4年間、父は一度も俺の前に顔を出す事はなかった。
無能には用などないと言う事なのだろう。
だがそれはいい。
それは些細な事だ。
俺が本当に許せないのは――
「そうね。そうしたらまた、お父様と一緒に花を見に行きましょう。昔みたいに3人で」
母はそう言うと楽しげに笑う。
俺はそんな母を見て、悔しい気持ちになる。
俺に見切りを付けて以来、父は母にも会いに来ていない。
末期の癌だと言う事も伝わっているだろうに、見舞いにもやって来ないのだ。
それなのに母は、未だに父の事を愛していた。
「ごめん……母さん……」
「どうして謝るの?」
「父さんに見舞いに来る様お願いしたんだけど、凄く忙しいみたいで……」
母の意を汲んで、父に会いに来て欲しいと俺は何度も手紙をしたためている――王子とはいえ、木っ端であるため直接会う事が叶わない為。
だが返事は忙しいの一点張りだった。
父にとって、無能な息子と死にゆく母はもうどうでもいい存在だったのだろう。
少なくとも俺が無能でさえなければ、父を動かす事は出来たのかもしれない。
そう思うと悔しくて仕方がなかった。
「この国の王様だもの、仕方ない……うっ……ゲホッゲホッ……」
母が急に苦しみだし、口から大量の血が吐き出される。
「か、母さん!?レンダ!医者を!」
給仕の女性――レンダが俺の声を聞いて駆け込んでくる。
彼女は俺の指示に従い、すぐさま医者を呼びに行く。
普段から俺達親子を馬鹿にした様な態度を取る給仕だったが、流石に緊急時なので血相をかいて医者を連れて来た。
だが結局、母そのまま帰らぬ人となってしまう。
葬儀は極々小規模な物で、参列者の中に父の姿はなかった。
悪い事は重なるとはよくいった物だ。
その翌日――俺の誕生日に、王家からの卒業という名の放逐が伝えられた。
「母さんが死んで、誕生日に王家から放逐の報せとか……笑えないな、全く」
唯一の心の有り所だった母が死に。
王家からも放り出される。
その悲しみと将来への不安から、俺は自暴自棄になり自害しようと考える。
どうせなら父への恨み辛みをしたためた遺書を残してやろうかとも思ったが、やめておいた。
残した所で、封も開けずに処分されるのは目に見えている。
俺はレンダに用事を言いつけて離宮から追い出し、護身用の短刀を手に取った。
父が母にプレゼントした物らしいが、冷静に考えて継承権のない味噌っかすと、平民である母を態々狙う物好きなどいない。
そう考えると、“辛くなったら自害しろよ”との父からのメッセージが込められていたのではとすら勘ぐってしまう。
まあ考えても仕方がない。
俺は短刀を鞘から抜き放ち、目を瞑りその刃を首筋に当てる。
剣術を習っていたお陰で、人がどうすれば簡単に死ぬかはよく分かっている。
動脈を強く切り裂けばいい。
それで全てが終わる。
この方法なら大量失血によって直ぐに意識を失うため、そう長く苦しむ事も無いだろう。
俺は息を吐き。
ゆっくりと目を瞑る。
そして――
「――っ!?」
突如頭の中に何か――人の記憶の様な物が流れ込んで来る。
それは平凡な男の人生の記憶だった。
但しこの世界では無く、別の世界で生きた人間の。
「ああ、そうか……そうだった」
俺は全てを思い出す。
自分が異世界人であった事。
そして、神から有用な力を与えられていた事を。
「止め止め、死ぬのは止めだ」
前世の記憶が流れ込んできた事で、幼く不安定だった衝動が落ち着く。
俺は短刀を首筋から離し、床に放り投げた。
母が死んだのは悲しい事だ。
父はムカつくし。
王宮を放逐されるのも痛い。
だがだからと言って、死ぬのはどう考えてもまだ早い。
今生ではまだ王宮の外に出た事のない身ではあるが、この世界の教育は最低限ちゃんと受けているのだ。
そこにチート能力を合わせれば、普通に生きて行く事ぐらいは簡単な筈。
「放逐まではまだ日数がある。それまでに、色々と外の事を調べておくとしよう」
死ぬのをやめた俺は、生きるために動き出す。
「母さん、見ててくれ。立派にとは言わない。だけど俺、ちゃんと生きて行くよ」
母が俺に謝って来る。
その頬はこけ、眼にも精気がない。
体ももうほとんど動かず、布団の中で寝たきりだった。
「何言ってるんだよ、母さん。俺そんな事全然気にしていないよ 」
母は末期の癌だった。
恐らくもう長くは持たないだろう。
「でも……残されたあんたの事が心配で……」
「ははは。庶子って言っったって、一応王族の血を引いているんだから大丈夫だよ」
王子とは言っても、王位継承権など実質与えられていないに等しい俺の王宮内での扱いは軽い。
勿論面と向かって周囲から何かされる様な事などないが、侮られているのは間違いなかった。
母はそんな俺を心配している様だが、俺は笑って大丈夫だと返す。
「それに、残されたなんて不吉な事言わないでくれよ。大丈夫、きっと良くなるさ」
これは気休めだ。
願望と言っていいだろう。
唯一の家族である母に生きていて欲しいと、そう願う俺の。
俺はこの国の王である父を、家族だとは思ってはいない。
父も俺には興味を持っていなかった。
所詮、平民との間に生まれた333番目の王子だからな。
それでも、子供の頃は何度か顔を見せてくれてはいたのだが……それも12歳までの事だった。
12の時に行われた魔法による検査で俺の女神の祝福が前代未聞の1と出て以来、この4年間、父は一度も俺の前に顔を出す事はなかった。
無能には用などないと言う事なのだろう。
だがそれはいい。
それは些細な事だ。
俺が本当に許せないのは――
「そうね。そうしたらまた、お父様と一緒に花を見に行きましょう。昔みたいに3人で」
母はそう言うと楽しげに笑う。
俺はそんな母を見て、悔しい気持ちになる。
俺に見切りを付けて以来、父は母にも会いに来ていない。
末期の癌だと言う事も伝わっているだろうに、見舞いにもやって来ないのだ。
それなのに母は、未だに父の事を愛していた。
「ごめん……母さん……」
「どうして謝るの?」
「父さんに見舞いに来る様お願いしたんだけど、凄く忙しいみたいで……」
母の意を汲んで、父に会いに来て欲しいと俺は何度も手紙をしたためている――王子とはいえ、木っ端であるため直接会う事が叶わない為。
だが返事は忙しいの一点張りだった。
父にとって、無能な息子と死にゆく母はもうどうでもいい存在だったのだろう。
少なくとも俺が無能でさえなければ、父を動かす事は出来たのかもしれない。
そう思うと悔しくて仕方がなかった。
「この国の王様だもの、仕方ない……うっ……ゲホッゲホッ……」
母が急に苦しみだし、口から大量の血が吐き出される。
「か、母さん!?レンダ!医者を!」
給仕の女性――レンダが俺の声を聞いて駆け込んでくる。
彼女は俺の指示に従い、すぐさま医者を呼びに行く。
普段から俺達親子を馬鹿にした様な態度を取る給仕だったが、流石に緊急時なので血相をかいて医者を連れて来た。
だが結局、母そのまま帰らぬ人となってしまう。
葬儀は極々小規模な物で、参列者の中に父の姿はなかった。
悪い事は重なるとはよくいった物だ。
その翌日――俺の誕生日に、王家からの卒業という名の放逐が伝えられた。
「母さんが死んで、誕生日に王家から放逐の報せとか……笑えないな、全く」
唯一の心の有り所だった母が死に。
王家からも放り出される。
その悲しみと将来への不安から、俺は自暴自棄になり自害しようと考える。
どうせなら父への恨み辛みをしたためた遺書を残してやろうかとも思ったが、やめておいた。
残した所で、封も開けずに処分されるのは目に見えている。
俺はレンダに用事を言いつけて離宮から追い出し、護身用の短刀を手に取った。
父が母にプレゼントした物らしいが、冷静に考えて継承権のない味噌っかすと、平民である母を態々狙う物好きなどいない。
そう考えると、“辛くなったら自害しろよ”との父からのメッセージが込められていたのではとすら勘ぐってしまう。
まあ考えても仕方がない。
俺は短刀を鞘から抜き放ち、目を瞑りその刃を首筋に当てる。
剣術を習っていたお陰で、人がどうすれば簡単に死ぬかはよく分かっている。
動脈を強く切り裂けばいい。
それで全てが終わる。
この方法なら大量失血によって直ぐに意識を失うため、そう長く苦しむ事も無いだろう。
俺は息を吐き。
ゆっくりと目を瞑る。
そして――
「――っ!?」
突如頭の中に何か――人の記憶の様な物が流れ込んで来る。
それは平凡な男の人生の記憶だった。
但しこの世界では無く、別の世界で生きた人間の。
「ああ、そうか……そうだった」
俺は全てを思い出す。
自分が異世界人であった事。
そして、神から有用な力を与えられていた事を。
「止め止め、死ぬのは止めだ」
前世の記憶が流れ込んできた事で、幼く不安定だった衝動が落ち着く。
俺は短刀を首筋から離し、床に放り投げた。
母が死んだのは悲しい事だ。
父はムカつくし。
王宮を放逐されるのも痛い。
だがだからと言って、死ぬのはどう考えてもまだ早い。
今生ではまだ王宮の外に出た事のない身ではあるが、この世界の教育は最低限ちゃんと受けているのだ。
そこにチート能力を合わせれば、普通に生きて行く事ぐらいは簡単な筈。
「放逐まではまだ日数がある。それまでに、色々と外の事を調べておくとしよう」
死ぬのをやめた俺は、生きるために動き出す。
「母さん、見ててくれ。立派にとは言わない。だけど俺、ちゃんと生きて行くよ」
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