「青春」という名の宝物

やまとゆう

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第3章  絶望と希望

28.

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 「そういやこの前あったクラブチームの大会さ、私もちょっとだけ見に行ったんだよ」

注がれているビールの半分近くを一気に飲んでしまった私は、それと同じぐらいの勢いで枝豆や鶏肉の唐揚げに手を伸ばした。それを口の中でパンパンにさせながら二人に話しかけた。それを聞いた柴やんが、今日も瞳を大きくさせて私を見た。

 「えぇ?来てたのかい?俺も一試合目からいたのに。全く見つけられなかったよ。おがっちゃんはどこで見てたんだ?」
 「あぁ、私は決勝しか見てなかったんだ。それも、VCリライズの応援席で見てたからいっぱいいた観客の中に紛れてたんだよ」
 「そっかぁ。来賓席とかにいたなら絶対分かったのに。教え子たちのチームだったよね」
 「あぁ、そうだよ。あいつらも一丁前に歳とって良い親父になってそうなやつもいっぱいいたね」
 「そういう時ってさ、俺たちももう歳だなぁって思っちゃったりしない?」
 「そんなの毎日思ってるよ」
 「参ったな。上には上がいたか」

柴やんはガハハと笑いながら、私の拳ぐらいありそうなほど大きな唐揚げを豪快にひと口で口の中に入れた。

 「何をおっしゃいますかお二人とも。僕らなんかよりも若々しく見える先生方は、いつまでも現役ですよね」
 「谷口が一丁前の監督になったら私は引退しようかと思ってるよ」
 「いやいや!それは困ります!それなら僕はいつまでも半人前でいますよ!」
 「それは絶対ダメだろ。谷口」

確かに成長したアイツらの姿を見た時、時間の流れを強く感じた。もうあの頃から十年も経ったんだ。だが、あの頃に見たアイツらの輝いていた瞳は、今もなお輝いていたままに見えたのが、私は試合を見ていて一番嬉しく思った。

 「そういや柴やん、残念だったな」
 「ん?何が?」
 「森内、今回はいなかったろ。杉江スマイリーズ。メンバーが揃わなかったのか知らないが、アイツらのチームは見なかったな。あわよくば、森内のプレーも見たかったんだけどな。柴やんがアイツのプレーを見るのもまた先の話になったな」
 「おがっちゃん、実は俺、その子のプレー見ちゃったんだよね」
 「え?」

柴やん渾身のドヤ顔は昔から同じで鼻の穴が大きくなる。私の目線はすぐにそこへ行った。

 「杉江はね、一回戦勝った後すぐに棄権しちゃったんだよね、理由は分からないけど」
 「どういうこと?」
 「俺もあんまり詳しくは知らないんだけど、俺の知り合いが森内くんが慌てた様子で会場から出て行くのが見えたって言ってたんだ。それからしばらくして、俺は杉江スマイリーズの棄権を知った。だからその辺が理由なのかなって思ってね」
 「試合をすっぽかしてでも向かわないといけない理由があったってことか」
 「何にせよ、相当な理由があったんだと思うよ」

柴やんはまた一つ大きな唐揚げを口の中に入れた。それを真似しているのか、隣に座る谷口も同じように口を大きく開けて唐揚げを口の中に入れていた。

 「真柴先生、よくこの唐揚げひと口でいけますね。僕は口が小さいから相当大変です」
 「ハハ。真似しなくていいんだよ。俺はひと口で食べるのが好きなだけだからね」

谷口は必死に口を動かしながら最後はジンジャーエールで唐揚げを流し込んでいた。ふーっと大きく息を吐いて柴やんの方を見た。

 「当の森内くんのプレーは、真柴先生の目にはどう写りましたか?」
 「そうだね、一言で言うとマスターベーションかな。彼のプレーは」

予想だにしない言葉を柴やんから聞いた谷口は盛大にむせて呼吸することが出来なくなっていた。そんな谷口の背中を柴やんが笑いながら摩っている。

 「急に何を言い出すんだよ」
 「だから一言で言うとって言ったろ?要するに自己満足のプレーなんだよ」
 「例えるものが攻めすぎだ」

私も呆れながら気分を変えるために唐揚げに手を伸ばした。取り皿にそれを置くと、改めてこいつの大きさに驚かされる。そして、それをひと口で食べた柴やんに驚かされる。

 「確かにプレーは一人だけ明らかにレベルが違っていた。小学生のチームに一人だけ高校生がいるみたいだったからね。どこからでもどんな体勢からでも、彼の上げるトスは同じリズム、同じ質、同じ高さで上がっていた。でもね、所詮はそこまでさ」
 「というと?」

私が柴やんに尋ねると、おがっちゃんは俺が言いたいことはもう分かるだろ?と笑った。

 「彼は人にトスを上げていなかった。ただ自分の上げたいトスを上げていただけなんだよ。一人一人に合ったトスを上げられていなかった。表のレフトの子にはもう少し早いテンポのトスを、裏のセンターの子は高さがある分、そこでしか勝負していなかった。もっと攻撃のバリエーションがあったのかもしれないけどね。まぁそこまで手こずる相手じゃなかったから、手札を見せていなかっただけなのかもしれないけどね」

柴やんはそう話し終えると、今度はちょうど今来た串カツに手を伸ばした。

 
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