吾輩は時々、黒猫である。

やまとゆう

文字の大きさ
12 / 33
第2章 ロボ子と優子

#12.

しおりを挟む
            ✳︎ 

 目が覚めた。朝はいつも鉛が体の中に入っているようにずっしりと体が重い。私はゆっくり上体を起こすと、ズキズキと頭が痛んだ。その痛みに耐えつつベッドの側に置いている水の入ったペットボトルに手を伸ばして喉を潤した。重い腰を上げ、一通り朝にするルーティンを終え、外に出る準備をする。いつもよりスムーズに進んだ化粧を終えて、いつもより早い時間におばあちゃんに行ってきますと言って家を出た。今日の街はいつもより人通りが少なくて私の気持ちもゆったりしていた。私はいつも行くネットカフェに行き、いつものやり取りをした。それもいつもより早く終わった。体の調子は良くないが、今日の私の頭は冴えている。
 時間を持て余した私は、少し前からお気に入りの公園へ向かった。あの日、生きることが疲れた私に師匠が手を差し伸べてくれた場所。師匠に救われたあの日から、あの公園は私にとって特別な場所になっている。そこへ着くと、普段は見ないような黒猫がのんびりと歩いていた。その猫と目が合うと、私は無意識のうちに猫に駆け足で近づいていた。そしてそのままの流れでその猫を抱き上げた。私はどうしてこんな行動をしたのだろう。猫は好きだけれど、いつもはこんな大胆な行動はしない。

 「お前も1人なの?」

 目が合う黒猫と私。どこか人間のような表情に見えなくもないその顔をじっと見つめて猫の体を撫でた。猫が満更でもない声を出したので私も安堵した。

 「私も1人なんだ。お前と一緒」

綺麗で滑らかな黒い毛並みを撫でていると、猫はじっと私の顔を見つめた。あどけない顔で見つめられ、私は自分でも分かるくらい顔の力が緩んだ。

 「ふふ、何だよ。お前って言ったこと、怒ってるの?」

猫が人間の言葉を理解出来るとは考え難いけれど、私の言葉を聞いた猫は照れた顔を隠すようにそっぽを向いた。

 「そういう態度、何だか私の知ってる人に似てるよ」

猫はそっぽを向いたまま、私の座るベンチの隣に寝転んだ。

 「まぁお前に言っても分からないよね」

猫に子守唄を歌うように私は呟きながら背中の黒い毛並みを撫で続けた。しばらくすると猫はリラックスしたのか、気持ちよさそうに眠っていた。気がつくと、少し遠い所に茶色の毛並みの猫と、真っ白な毛並みの猫が私を見ていた。ここは猫の憩い場だったのだろうか。いい事を知った気がした私は、またここに来ようと心の中で決めた。その時はまた、この黒猫がここにいるといいな。私はそう思い黒猫の頭を優しく撫でてベンチから立ち上がった。

 「あとは任せるね」

私は遠くの2匹にそう伝え、公園を後にした。なんだろう、とてもリラックス出来た気分だ。充実、という言葉が一番しっくりくる気持ちで心の中が満たされた。やっぱり私は猫が好きだ。特別な場所がさらに好きな場所になった。

           
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...