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第2章 唯一の宝物
#20.
しおりを挟む彼女を抱き上げた瞬間、花束を抱えたように薔薇の香りが僕の鼻をくすぐった。そして、実際には持ったことは無いけれど花束のように軽い彼女の体を抱えてゆっくりとベッドまで運びゆっくりと下ろした。彼女は一向に起きる様子がなく、さっきよりも幸せそうな顔で眠っているように見えた。
「ん? ハルカさん、ど、どうしたんですか?」
ふと鼻を啜るような音がした。音のした方を振り向くと、ハルカさんは僕の方を見て目元を抑えて笑っていた。どうしてそんな表情をしているのだろうか。
「ううん。何かね、改めて2人が幸せそうだなぁって思ってさ! 何か微笑ましくて羨ましくて泣けてきちゃった! お酒飲みすぎたかな」
泣いているように笑うハルカさんにつられるように僕も笑った。
「おれはもちろん幸せですよ。チハルさんもおれと同じぐらい幸せだったらいいですけど」
「うんうん! いつまでもそのままでいてね! 2人も!」
「はい。けどそれはハルカさんとダイキも同じですよ」
「ふふ! そうだね。じゃあ私もそろそろ寝るね。チハル、多分カケルくんが側にいてあげる方が嬉しいだろうからベッドの中に潜り込んじゃったら?」
「え、えぇ? 今日はおれ、さっきチハルさんが寝てたソファで寝るつもりでしたけど」
「せっかく久々に会えたんだし絶対そっちの方が良いって! 私も今からダイキの腕枕で寝るつもりだし! お互いくっついて寝た方が嬉しいでしょ!」
「ま、まぁそこまで言うなら……」
あとはキミが決めな! と言い残し、チハルさんは言葉通り、寝ているダイキの側にもぞもぞと体を潜り込ませた。幸せそうな笑顔でおやすみと僕に言うと、ハルカさんはダイキの体に沿うように体をくっつけて目を閉じた。ハルカさんもダイキと同じくらい、ダイキのことを大切にしてくれているのだと改めて思えた。そして、ハルカさんに触発されるように僕も彼女を起こさないようにチハルさんの寝ているベッドに寝転んだ。このベッドに寝転ぶのも久しぶりだ。ここに寝転ぶと、彼女と2人で過ごしたあの夜の時間を思い出す。昂る感情を必死に抑えながら僕は彼女の横で目を閉じた。スースーと彼女のたてるか細い寝息が僕の意識をすぐに遠のかせていく。まどろむ意識のなかで彼女が僕のいる方へ体勢を変えてゆっくりと僕の体に触れているのが分かった。夢か現実かは曖昧だったけれど、僕は幸福感と一緒に彼女を抱きしめながら眠りについた。
『カケルくん、キミはやっぱりとっても優しい人だね』
ふと彼女の透き通る声が僕の耳元で聞こえた気がした。僕はそれに応えるように彼女の体をぎゅっと抱きしめた。このままずっとこうしていたいとも思ったけれど、やっぱり僕はお互いの意識がハッキリしている時に改めて触れ合いたいと思った。チハルさんの意識があるなかで、チハルさんとキスがしたいと思った。そんなことを考えていくと、僕の意識は次第に遠のいていった。
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