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第34話 衝撃の日向

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 さて。

(大丈夫、と言ったものの)

 オレは、彼女の――のなかちゃんの傷の深さに唖然としたのだ。
 恐らく、いや、このままでは、長くは持たないのだ。
(ここは、一体、どこなのだろうか)
 しかも。
 この場所は、オレの知らない場所。
 そして、この女の子も、狸も。
 見知らぬ衣服を着てる。

(医療器具があるとも思えないのだ)

 ちと。

 いや。

 かなり――やヴぁいのだ。
(出血も、破瓜から続いておるから、貧血にもなっておろう)
 このまま、居っても仕方がないのだ!

 ザッ!

「?! 春日部、さん??」
 立ち上がったオレを見るまどかちゃんの目には、オレだけが映り、潤んでいるのだ。少し、恥ずかしいのだ。
「ここから出るのだ! オレがのなかちゃんを支える」
「ぇ、でも……どこに、行くの、かな??」
 怯えるまどかちゃんは、小動物みたいで可愛いのだ。
「ここではない場所なのだ」
「?? 話しが見えないでやんす! アニキ‼」
 たぬちゃんがオレに聞く。
 アニキは、勘弁なのだ。

「たぬちゃん。オレね――女だよ?」

 たぬちゃんが硬直した。
「ふぇ??‼」
「え?」
 次いで、小さく悲鳴を漏らしたまどかちゃん。

 嘘でしょ??

「ぇ、っと?? まどかちゃん??」

 確かに、オレは……胸がない。
 それは、認めざるを得ないのだ。
 声帯も、どっちか分からないのも、また。
 認めざるを得ないのだ。

「ああ。言ったほうが、よかったのかな?」

 オレは苦笑するほかない。

 少し、悲しいのだ。
 しゅん、と萎れたオレに。

「いいえ! アニキはアニキでやんすぅ~~! アッニッキ! アッニッキ‼」

 たぬちゃんが、傷口に塩を塗ってくれたのだ。
「たぬ吉。ダメだよ!」
「何がやんすか~~まどか~~」
 少し、拗ねたたぬちゃんに、まどかちゃんが続けた言葉は。
「お兄さん、だよ」
「え~~アニキのほうが恰好いいでやんす~~」
「じゃあ、それは後で、のなかちゃんに聞こうよ」
「いいでやんすよ! 姐さんに従うでやんす」

 お兄さんって……。

 あの、まどかちゃん???

「……よいっしょ!」
 悲しくなったのだ。
 話しを逸らしたいのだ。
「では行くのだ」

「「どこに??」」

 思わず、オレも――頭が真っ白になってしまう。
「ぁ、忘れてた……のだ」
 そう、どうしてオレがここに居るのか。
 そう、どうしてオレが――異世界に居るのか。

 オレは。

「はは、は?? 本当にどこなのだぁ~~??」

 オレは。

「あ、アニキ?? ひょっとしてでやんすが……」
 恐る恐る、とたぬちゃんが勘繰るように聞いてくる。

 そう。
 そうだよ。

 たぬちゃん!

「ま、ぃ……迷子なんで、やんす……か??」

 オレは迷子だよ!
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