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第35話 品薄の装備

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 突如として現れた――日向春日部。

 細身なのに筋肉質な身体。
 身体にフィッチしたベストを着こむ。
 ズボンは見えない。
 太ももの奥も見えそうだ。

 彼女は――《迷子》だった。

「ぇ、どういうこと、なのかな??」
 桜木が目を丸くさせた。
「ぇ? っと??」
 少し、困惑していた。
「迷子は迷子でやんすよ。言葉のままでやんす、まどか」
 たぬ吉が桜木に説明をした。
 言っている意味は分かるが、分かりたくもないという感じでもあった。
 日向も抱えた希美を下し、床に座りなおした。
「その、あの、おおお、おれは……方向音痴なのだ」
 日向の道具《アイテム》の――《提灯霊バケモ万物チョロスト》が、そんな彼女の顔を照らす。
 耳まで真っ赤で、涙目になっていた。

(はぅ! はぅうう‼)

 そんな彼女に、桜木の胸がときめいた。
 荒く息を吐いてしまう。
「まどか? 大丈夫でやんすか?」
「え、ぁ、ううん。大丈夫だょ……たぬ吉??」
 桜木に聞くたぬ吉の顔も緩んでいた。
「たぬ吉も、大丈夫なの?」
「ももも、もちろん! 大丈夫でやんすよ!?」
 たぬ吉も、桜木もギクシャクとしていた。

「「は、ははは」」

 そんな一人と、一匹に。
 日向が、首を傾げた。
「ご、ごめんよ?? 呆れちゃったよね」
 そして、顔を手で覆う。
「そんなことないよ? 日向さん」
 その手に、桜木が手を添えた。
「来てくれて助かったもん。かっこよかったです」
 ほんわかと微笑む桜木を、指の隙間から覗き込む日向。
「でも。おれは迷子なのだ」
「ううん。でも、助けてくれて嬉しかったです」
 力が緩んだ手を、桜木が外した。

 顔が紅潮していた。

「ぁ、う。まどか」

 桜木も、躊躇した。
 そして、視線を下すと、そこには、怪我を負ったままの希美の姿があった。
「っつ‼」
 桜木の身体が強張った。
 大きく、ビクついてしまう。
「ああ。このままでは、のなかちゃんはヤバイのだ」
 桜木が見た希美を、日向も見た。
「出血も、出血なのだ」
 桜木の衣服も、真っ赤に染まっていく。
 血を含んでいっていた。
「おれの友人なら、これしきの怪我をも癒すのだが」
 傷口に置いていた布も、真っ赤に染まり、吸い込みきれなくなった血が、大量に溢れ出し、こぼれていた。
「その友人も、一体、どこにるのだろうか」
 唇を噛み締める日向に。
「一階。ううん、一階に行こう!」
 桜木が、強く頷いた。
「?? イッカイとはなんなのだ??」

 桜木が、指を地面へと指示した。

「この建物の下です」

「イッカイに行って、どうするのだ??」
「薬局があるの。この傷に効く薬はないとは思うけど、抑えるガーゼや、包帯はあると思うの」
「ヤッキョクは分かるのだ。薬師くすしる場所だな?」
「そうでやんす! アニキ!」
 たぬ吉が日向の背中に、身体をこすりつける。
「……アニキではないのだ、たぬちゃん」
「アニキ! アニキでやんす~~‼」
 日向はたぬ吉の頭を、優しく撫ぜる。
「確かに、おれの装備も心ともない。うむ! イッカイの薬師の元に参ろうなのだ! 希美は、俺が担ぐのだ」
 勇ましい日向に。

(はう! はぅう~~‼)

 桜木は頬に手を添えた。
 同時に。
 何故だが、罪悪感を覚えた。

 少しだけ、怪我をした希美に――感謝していたからだ。

「のなかちゃん……」
 か弱く言う桜木を、日向が慰める。
「さ。のなかちゃんを救うべく参ろうではないか」

「うん」
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