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第36話 上か下か
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「お兄さんはどこから来たの?」
傷を負った希美を背負った日向に、桜木が聞く。
「む? ……お兄さんではなく、日向でも、春日部でもいいのだよ??」
少し、はにかんだ笑顔を向ける。
諦めた様子でもあった。
「ん。でも……お兄さんは、お兄さんだよ?」
「ふぅ」
「やんす! やんす! アニキはどこから来たのか、おいらも聞きたいでやんす!」
ため息を漏らす、日向にたぬ吉も、興味津々にい聞き返した。
たたたた。
「おれは漁師なのだ」
闇の中で、何かを振り回していた。
「子々孫々と続く家系なのだ」
「あ!」
銀色の細長いものを。
魚を殺す、銛だったと、ここで初めて知る。
「? でも。銛は、どこにいったのかな? ない、よね」
桜木と、日向。
たぬ吉の周りには《提灯霊の万物》が明るく照らしていた。
「銛は使うときに大きくしているのだ。最初は持っていたのだが、あいつが、勝手にいじったのだ! ぐうー~~」
片手を離し、拳を握った。
桜木の目が細められる。
「その人、誰なの、かな?」
声も、トーンが低くなっていたが、
「ん? ああ。おれを拾った恩人の親戚の――」
日向は気にせずにいると、
「誰なの、かな?」
満面の笑みを浮かべた桜木が、改めて聞き返した。
「ん? ああ。ササクラの姉妹たちなのだ」
腕を希美のお尻の下に戻しながら、続けた。
「その子たちと、この屋敷に参ったのだよ」
明るい下で、はにかむ日向に、桜木の、小さな胸がざわめいた。
(はうっ)
そんな桜木を他所に、たぬ吉が言った。
「で。なんで、下に行くのに、上に行っているんでやんすか??」
一階のはずが、三階に近づいていた。
「の、ぉあ゛!?」
慌てて、日向も立ち止まった。
「し、しまった! 危うく上がってしまうところなのだ‼」
顔には汗が滲んでいた。
「っせ、先頭はまどかちゃんにお願いするのだ! おれだと、逆走するのだ~~」
涙声で、懇願する日向に、
「ううん。いいよ、お兄さん」
桜木も頷いた。
◆
うん。
三階に来ちゃったみたい。
(お兄さん、ったら)
でも、この階には《薬局》はないんだよね。
のなかちゃんの傷を癒したいけど。
やっぱり、一階に戻ったほうがいいよね?
ううん。
それだったら、四階の別館に行ったほうがいい、のかな??
でも、私――あっちの別館のこと、何も知らない。
あっちのグループじゃなかったし。
どうしょう、のなかちゃん??
「一階に行けば癒すものがあるのなら、参った方が賢明ではないか? まどかちゃん」
お兄さんが、私に声をかけてきた。
うん。
ううん。
「でも、あと一階。四階にはね、別館に行く道《ルート》あるの」
私は頬を抑えた。
すごく、困ると抑えちゃう。
(ぉ、しっこ……出ちゃ、い……そ……うーー)
身体が、少し震え出しちゃうよ。
(ぅ゛、はぅううう~~)
「ね。まどかちゃん、君は、どっちの道が詳しいのだ?」
カカカカ!
ぉ、兄さん、顔近いよ~~ッッ!
「っこ、っちぃ~~」
声を押し殺しながら、そう伝えた。
「うむ。では、こちらの一階に行くほかないのだよ!」
「ううん!」
「まどかー~~顔が真っ赤でやんすよー~~あ! おしっこが漏れそうなんでやんすね?! そうでやんしょう?? おいらには匂いで分かるでやんすよー~~」
たぬ吉、お兄さんの前で言わないで!
もう、やだ!
ヒドイよー~~‼
「あ! ?!」
ちょろ、チョロローー……。
「ひぁ゛!」
ぴちょ。
ぽちょん。
「--~~っつッ‼」
もうヤダ!
最悪だよ~~っっ‼
「まどかちゃん」
そう声を漏らしたお兄さんの顔を、私は見ることが出来ないよ。
傷を負った希美を背負った日向に、桜木が聞く。
「む? ……お兄さんではなく、日向でも、春日部でもいいのだよ??」
少し、はにかんだ笑顔を向ける。
諦めた様子でもあった。
「ん。でも……お兄さんは、お兄さんだよ?」
「ふぅ」
「やんす! やんす! アニキはどこから来たのか、おいらも聞きたいでやんす!」
ため息を漏らす、日向にたぬ吉も、興味津々にい聞き返した。
たたたた。
「おれは漁師なのだ」
闇の中で、何かを振り回していた。
「子々孫々と続く家系なのだ」
「あ!」
銀色の細長いものを。
魚を殺す、銛だったと、ここで初めて知る。
「? でも。銛は、どこにいったのかな? ない、よね」
桜木と、日向。
たぬ吉の周りには《提灯霊の万物》が明るく照らしていた。
「銛は使うときに大きくしているのだ。最初は持っていたのだが、あいつが、勝手にいじったのだ! ぐうー~~」
片手を離し、拳を握った。
桜木の目が細められる。
「その人、誰なの、かな?」
声も、トーンが低くなっていたが、
「ん? ああ。おれを拾った恩人の親戚の――」
日向は気にせずにいると、
「誰なの、かな?」
満面の笑みを浮かべた桜木が、改めて聞き返した。
「ん? ああ。ササクラの姉妹たちなのだ」
腕を希美のお尻の下に戻しながら、続けた。
「その子たちと、この屋敷に参ったのだよ」
明るい下で、はにかむ日向に、桜木の、小さな胸がざわめいた。
(はうっ)
そんな桜木を他所に、たぬ吉が言った。
「で。なんで、下に行くのに、上に行っているんでやんすか??」
一階のはずが、三階に近づいていた。
「の、ぉあ゛!?」
慌てて、日向も立ち止まった。
「し、しまった! 危うく上がってしまうところなのだ‼」
顔には汗が滲んでいた。
「っせ、先頭はまどかちゃんにお願いするのだ! おれだと、逆走するのだ~~」
涙声で、懇願する日向に、
「ううん。いいよ、お兄さん」
桜木も頷いた。
◆
うん。
三階に来ちゃったみたい。
(お兄さん、ったら)
でも、この階には《薬局》はないんだよね。
のなかちゃんの傷を癒したいけど。
やっぱり、一階に戻ったほうがいいよね?
ううん。
それだったら、四階の別館に行ったほうがいい、のかな??
でも、私――あっちの別館のこと、何も知らない。
あっちのグループじゃなかったし。
どうしょう、のなかちゃん??
「一階に行けば癒すものがあるのなら、参った方が賢明ではないか? まどかちゃん」
お兄さんが、私に声をかけてきた。
うん。
ううん。
「でも、あと一階。四階にはね、別館に行く道《ルート》あるの」
私は頬を抑えた。
すごく、困ると抑えちゃう。
(ぉ、しっこ……出ちゃ、い……そ……うーー)
身体が、少し震え出しちゃうよ。
(ぅ゛、はぅううう~~)
「ね。まどかちゃん、君は、どっちの道が詳しいのだ?」
カカカカ!
ぉ、兄さん、顔近いよ~~ッッ!
「っこ、っちぃ~~」
声を押し殺しながら、そう伝えた。
「うむ。では、こちらの一階に行くほかないのだよ!」
「ううん!」
「まどかー~~顔が真っ赤でやんすよー~~あ! おしっこが漏れそうなんでやんすね?! そうでやんしょう?? おいらには匂いで分かるでやんすよー~~」
たぬ吉、お兄さんの前で言わないで!
もう、やだ!
ヒドイよー~~‼
「あ! ?!」
ちょろ、チョロローー……。
「ひぁ゛!」
ぴちょ。
ぽちょん。
「--~~っつッ‼」
もうヤダ!
最悪だよ~~っっ‼
「まどかちゃん」
そう声を漏らしたお兄さんの顔を、私は見ることが出来ないよ。
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