少年、異世界に渡る

野上月子

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少年、異世界に渡る

少年、旬のできること

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世界とか陰謀とか
そんなだいそれたことなんか俺には無縁だった
今まで、ただ平穏に生きてきたんだ。
 日本という世界で、守られて生きてきたかもしれない
 だからなのかな、どこか、シリアス気味すぎるのも
 どうも、俺には理解できない
 ほら、内心が楽観的でいたい俺には
 どこか幼い願望を持っていたんだ
 でも、それが現実だと分かれば
 もう、シリアスから逃れられない
 
俺はただ、これからのことを理解できていなかったんだ・・・。


                       *********


人間では考えられない最速なスピードで走るジン
俺はどこかついていけない何かを感じている
その、後ろから激しい獣の鳴き声が聞こえて怖い
俺、何でこんな目にあうだろう!?

そもそも始まりは俺のいらない一言だった
疑問に思ったことをただ聞いただけ
それなのに、この理不尽に俺を追いかける声

 俺の要らない言葉のせいだ。
だけど、どうせ・・。
 言わなくてもきっと予想はしているけど
 あの獣はいずれ俺たちを襲う気満々だっただろう
 ある意味、このイベントフラグには感謝したい。
このフラグのおかげでジンは俺は巻き込まれてはいるが
喰い殺されてしまうよりはマシだ
 まぁ、どうでもいいけど


 そんなことを思っている俺
ジンは後ろを眺める気もなくただ前に走る
 そして、

 「なぁ、追いついてくるぞ」

 先ほどの獣たちの速度はさっきより早い
 このままじゃいずれ追いつかれる

 ど、どうしよう

 うろたえている俺
ジンだけは冷静だった
 そして判断もできない俺にジンはある提案をする

(旬、お前魔法はどこまで使える?)

え・・。
 魔法・・?

 「え、いきなりなんで」

(どのくらい使えるか聞いているんだ!!早く答えろ)

ジンの激しい声に俺は慌てて
使える術について話す

「大体、念じれば使えるよ。」

(そうか・・)

俺の力は、念じることで発動する
 いわば、無詠唱って奴か・・?
ジンはそのまま考えているのか
 やがて・・。

(旬、後ろの敵に時間が遅くなる魔法を詠唱しろ。)

「な・・いきなり!!」

いきなり無理難題のことをいわれた俺
遅くなる
激しい獣の唸り声は響く
早くしないと・・。
で、でも何か、呪文は・・・そ、そうだ
俺は後ろに振り向いた
で、見てしまった。

あ、獣のギラギラ眼が怖いわ。
死んだなと悟りそうになった。

獣たちの視線を合わせるのは嫌だ。
でも、そうしないと術は成功しない
 ええい~、ままよ。

 目を合せ、手をふりかざし

「時間よ、止まれ!!」

 「ストップ!!」

すると、一つの大きな時計が獣の前に出てきて
反対に周りだしたその途端、動きが止まる

「す、すげぇ」

 時間が止まったことで
鳴き声が止む

 それでも、ジンは走る
俺は止まってもいいのにと思って声をかけた

「ジ、ジンまだ走るのか!!時間が止まったから。もう・・。」

(甘い、お前の魔法はまだまだ修行段階だろうが
 そんな長く、時間は止まってはくれない。)

ヴっっと思わずグサっとくる
確かにまだ修行段階だとわかるけど
 あまりにもひどすぎる
涙目になる旬

(それに、時魔法は完全ではない。)

「えっ。」

(とにかく、行くぞ。振り落とされないように気をつけろ)

先ほどより早く走るジン
俺はその速さに確かに振り落とされようとしていた
だから、必死にジンの身体に身を寄せた俺
 落ちないように・・。

                     ********


獣の声があまり聞こえなくなった
ジンは、辺りを警戒しながら、泉の傍に俺をおろしてくれた
当然、辺りは森と泉
なんとも言えない幻想的な雰囲気がある場所におろしてくれたのは
いいんだけど・・。
 俺・・気持ち悪いだよね

乗り物よい?って感じ


(旬、大丈夫か?)

心配そうに旬の頬を舐める
旬に至っては大丈夫じゃなさそうだ

「・・大丈夫じゃないよ」

 先ほどの速さにもう俺は限界を超えていたのか
速さに目が追いついてくれたなかったようだ
気持ち悪さが酷い
 うえ~っと吐きそうだ
ジンはすまなさそうに俺に謝った

(とにかく横になれ)

「ああ、ありがとな」

 気分悪い俺に横になるようにいってくれる
 その優しい気遣いにより俺は横になる

横になったまま俺はジンの話を聞く

(すまない。だがどうやらあいつらをまくことができた)
「あいつら・・?」

 気持ち悪さはまだ続くけど
話は聞いておいた方が良い方だ

「さっき俺たちを追ってきたのは一体・・?」

(あれは、ここの森の主の手先だ)
「手先ねぇ」

横になりながら聞く
よくあるボスの前の敵か
今までゲームのなかでは
当たり前のようだったけど
現実になればなんだか実感にわかないくらいだ

「なぁ、その森の主とお前何か関係あるの?」

と聞くとジンは静かに昔話を語るように俺にある話をしてくれた

(よくある話だが、我はそこの主を討伐しにきたんだ。)

 「ふぅ~ん、確かによくある話だね」

(だがな、主が少し、強くて・・我は、負けたんだ。)

「そっか、だから俺に出会った時一人だったんだね?」

(そうさ。追われていて傷だらけの我の前に出会ったのは
 お前だったってことだ。)

ジンはそして俺に出会ったのか

 ジンは主に負けて、追われる身
それで俺も巻き込まれたということか
 なんだかよくあることに直面しているな
 どちらにしろそのおかげでジンが仲間になるフラグがたった訳だ
 この様子だとそのフラグをどうするかは俺次第

どうやらよくあるイベントに俺は立ち向かえと言っているようだ
 つくづく神様は俺に試練を与えるもんだ
仕方がない俺も覚悟を決めるか
立ち上がる旬にジンは心配そうに

(大丈夫か?)

「ああ、さっきよりフラフラ感はなくなったよ」

フラフラ感もなくなって
体調も万全だ。
このままにしていればいずれ俺もジンもやられる。
そうなる前に俺がするべきことは一つ

「なぁ、ジン」

(何だ?)

「俺を連れていって欲しい所があるんだ」

(・・・。)

ジンは黙った
俺はただ、前を向くだけだ
恩返しのために俺ができること
 それは・・。

 「お前がいう森の主の所だよ・・。」


俺ができること
無謀な賭けの中で

一瞬の光の道筋になれるように

俺が俺自身が動くことだ。

旬は強きな笑みを浮かべたのだった。

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