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「ノクタール侯爵令嬢アディエル・ノクタール!貴様の卑劣な行い目に余る!!この場にて第一王子であり、次期国王・・・・たるグレイン・リードビッヒは、貴様との婚約を破棄し、我が愛しのナタリー男爵令嬢フィルマと新たに婚約することを宣言する!」

その日。王立学院の卒業パーティーにて、第一王子グレインの声がホール中に響き渡った。

「…婚約破棄…でございますか…」

名指しされたアディエルは、頬に手を当て、コテンと少し首を傾げた。

向かい合う二人の周りは、遠巻きながらも囲まれるように人集りが出来ていく。

今日の卒業パーティーは、在学する生徒達の家族ばかりか、国王と王妃。そして、その側妃達も参加する大規模なものであった。
その中での発言である。
王達の登場を待っている最中の第一王子のやらかしに、周囲は呆れていたのだが、彼自身はその事に気がついていなかった。

「婚約破棄と申されましても、私には身に覚えがございませんが?」

頬に手を当て、困り顔のアディエルの姿に舌打ちをし、グレインはとある場所へと視線を向けた。

「さあ、来るがよい。フィルマ」

「はい、グレイン様♡」

向けられた視線の先から、甘ったるい声で返事をしながら、トトト…と一人の令嬢がグレインに駆け寄った。
フワフワとしたストロベリーブロンドの髪をツインテールにし、ピンク色生地に、これでもかとふんだんに白いフリルが使われているドレスを着た令嬢は、甘えるようにグレインの左腕に絡みついた。

「アディエル・ノクタール!貴様は俺の婚約者であるからと、俺の側にいるという理由で、この可憐なフィルマに嫌がらせをしていたそうだな!」

「………嫌がらせ…ですか?」

アディエルは傾げていた首を、コテンと反対側へと傾げた。

「そうだ!周囲から孤立させるだけでなく、持ち物を隠したり壊したり…。そればかりでなく、フィルマに怪我をさせたそうではないかっ!!」

「グレイン様…。もういいのです。アディエル様!グレイン様に愛してもらえないからと、わたくしを責められるお気持ちは痛いほどに分かります…。ですが、どうかわたくしが殿下の…グレイン様の妻となることをお許しいただきたいのです!!」

水色の大きな瞳に涙を溢れさせ、フィルマは左手を胸に当ててそう言い切った。右手はしっかりとグレインの腕に絡めたままである。

「はあ。お好きになさればよろしいのでは?」

高い位置で一つに纏められていた黒髪を揺らし、アディエルは興味無さげにそう答える。

「貴様!その態度は何だっ!!フィルマに対して詫びようという気がないのかっ!?」

アディエルの態度に、グレインは激昂したものの、令嬢は淡々とした態度を崩さなかった。

「恐れながらグレイン殿下。私と婚約破棄をすると申されましたが、そもそも私。殿下と婚約しておりませんが?」

「「え?」」

アディエルの発言に目を丸くしていたのは、二人だけである。

「確かに学院入学前に、婚約の打診はございましたが当家はお受けしておりませんわ。そもそも私を婚約者と仰いますが、お手紙も贈り物も頂いたことはございませんし、夜会などでエスコートもしていただいておりませんわ…」

「そ、それは王族の婚約発表は、王太子が発表される時・・・・・・・・・・と決まっているから、周りに分からぬようにと…」

「はい。確かに王太子となる方の婚約発表は、学院の卒業と同時に交付されますわ。ですが、次期国王・・・・と殿下は仰いました。何故、殿下はそう仰られるのでしょう?」

「無礼なっ!第一王子の私が王太子でなくて、誰が王太子になると言うのだ、貴様っ!!王太子となる俺が時期国王なのは、当然だろうがっ!!」

グレインのこの発言に周囲はざわつき始めた。

「???」

「…グ、グレイン様ぁ。なんか変ですよ?」

周りからの様々な視線に、二人は自分達に味方が居ないことを感じ始めた。

「恐れながら兄上。位のない側妃の子・・・・・・・・である貴方が、王太子になるには、私達を殺さなくてはなりませんよ?」

声の方へ顔を向けると、道が開かれるように周囲が空いていき、そこから二人の男性が姿を現した。

「カイエン!第二王子のお前が、兄である俺に向かってその言い草は何だっ!?」

肩にかかる長さの真っ直ぐなプラチナブロンドの髪を揺らしながら、第二王子カイエン・リードリッヒは苦笑した。

「兄と言っても、私より二日早く生まれただけではありませんか。それに、王族でありながら、ちゃんと王位継承権の順番を知らぬ・・・などとは信じられませんよ…」

「そうですよ、グレイン兄上。側妃の子の貴方は、一番最後の五番目の王位継承権。カイエン兄上や僕達が居るのに、立太子出来るはずないじゃないですか♪」

第三王子エイデン・リードリッヒは、肩を竦めながらそう話した。

「五、五番目だと!?お前達、俺をバカにしているのかっ!!」

顔を真っ赤にして叫ぶグレインだが、周囲は冷たい視線を向けてくるだけである。

「グレイン殿下。恐れながら殿下の母君は側妃様です。三代前の国王陛下の決められた法にて、王位継承権は正妃の子、二妃の子と続き、位のない側妃の子が得る場合は王弟殿下の後となっております。故に正妃の子たるカイエン殿下が王位継承権一位。同母である第四王子のユエイン殿下が二位ですわ」

カイエンとエイデンの二人に挟まれるようになったアディエルがそう話すと、後をエイデンが続けた。

「二妃様には王女しかいないから、三妃の子である僕が三位。王弟である叔父上が四位。そして、側妃の子の兄上が五位。ほらね、兄上が王太子になるには、僕達四人がいなくならなきゃならない」

「そ、そんなはずはないっ!俺が王太子になるから、アディエルが妃教育を受けに来ていた「違いますよ」」

グレインの言葉をカイエンが遮る。

「アディエルは確かに妃教育を受けに通ってましたが、私の・・婚約者として過ごしてましたからね。そうだろ、アディ?」

「もちろんですわ、カイ様♡」

腰に手を起き、体を引き寄せられたアディエルは、にっこりと微笑んで耳に飾られていたイヤリングに触れた。

「今日の卒業パーティーのためにと、カイ様から送られたドレスもアクセサリーも、ちゃんと身につけて参りましたのよ。如何です?」

「うん。私の色を身にまとった君は、最高だね♪」

見つめ合う二人の姿に、グレインとフィルマはその姿に目を向けた。

アディエルの纏うドレスの生地は、カイエンの瞳と同じ青色をし、裾や襟には金糸の刺繍がされていた。
身につけているイヤリングとネックレスは金の台座にサファイアが光っている。
そして、カイエンの胸元には、アディエルの鮮やかな瞳と同じエメラルド色のチーフに髪色と同じ黒糸で蔦模様が刺繍されていた。

どこからどう見ても、相愛の婚約者の服装であったーーーー。

















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