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「お待ちくださいませっ!王子であるグレインが男爵家に婿入りして、アタクシはどうなるのですかっ!?」
「生家に戻るなり、男爵家で世話になるなり、好きにすれば良い」
興味無さげにそう言われ、側妃グレイスは半狂乱に叫び始めた。
「ああ。忘れるところでした。父上、アディエルが是非、みんなの前で側妃様にお聞きしたいことがあるそうなのです」
騒がしい室内は、のんびりとそう言ったカイエンの言葉に静かになる。
「…アタクシに?」
訝しげに顔を向けた側妃に、アディエルはにっこりと微笑む。
「ふむ…。良かろう。話してみるが良い」
「有難く存じます、陛下。では側妃様。側妃様は、隣国との交易は何処で行われているかご存知でしょうか?」
立ち上がり頭を下げると、アディエルはにこやかにそう尋ねた。
「バカにしてますの?隣国との交易はアタクシの生まれ育ったバーシャン領の隣。カーチス領の港ですわ!」
ムッとした顔で答える側妃に、気にせず笑顔で続けるアディエル。
「では、カーチス領の領主様もご存知でしょうか?」
「とことんバカにしてますの?カーチス領の領主はカーティス子爵家の方ですわ。これで満足しまして!?」
「はい、ひとまずは。さて、皆様。夏の長期休暇。私はカイエン様の公務に今後の参考にと、同行させていただいておりました」
「ええ、存じてますよ。命じたのは他ならぬ私ですからね」
正妃の言葉に頷くと、再び側妃に顔を向ける。
「私、カイエン様のご公務の合間に、港である方とお知り合いになりましたの。とても見覚えのあるお顔の方で、初対面とは思えませんでしたのよ?」
アディエルの言いたいことが分からず、側妃は首を傾げた。
「陛下と同じ髪の色に瞳の色をしてらして、お顔もそのお方に似てらっしゃいましたの♪」
「………」
アディエルの言葉に、側妃の顔がどんどん下を向いていく。
「お若い頃はバーシェン男爵家とも頻繁に交流なされていたとかで、側妃様の事もご存知でしたわ…」
次第に室内の空気がひりついた物に変わっていく。
「家族同然のお付き合いでしたのに、ある日突然、交流を断れたとかで、とても残念がられておりましたわ…」
気の毒そうに首を振るアディエル。そんな彼女に三妃がニヤリと口の端に笑みを浮かべた。
「まあまあ。家族同然のお付き合いを突然断たれるなんて、いったい何があったのかしらね?」
「何でもご令嬢の嫁ぎ先が急遽決まったのだそうですわ」
「まあ!おめでたいお話ではありませんか。どうしてそれが原因で?」
不思議そうな顔で尋ねる二妃に、アディエルは気の毒そうな顔で続きを口にした。
「それが子爵家の次男の方とご令嬢が婚約されていたそうなのですが、男爵家の一方的な都合で婚約を破棄することになったからだそうなのです…」
「まあ!バーシェン男爵家には側妃様以外にもご令嬢がいらっしゃったの?」
おっとりとした声で二妃が首を傾げる。
「……」
側妃はギリッと音が聞こえそうな程に歯を食いしばって、アディエルを下から睨んでいる。
「…いいえ。側妃様のお相手だったそうですわ。半年後には結婚も決まっていたので、かなりの衝撃だったそうです…」
「…それは…」
王妃が眉を顰めて王へと視線を向ける。
王は眉間に深い皺を刻み、冷たい視線で側妃を見ていた。
本来、王の側妃にも妃教育をされるのだが、それは前もって王と王妃、そして重臣達の賛同を得られた伯爵家以上の令嬢が選ばれ、教育を終えた妃に位が与えられる。
位のある側妃に求められるのは、王妃の支えとしての能力だからである。
故に、王の欲だけを優先されただけの側妃に、位が与えられることはない。
これは三代前に身分の低い側妃が、息子に跡を継がせようと、王位継承権を持つものばかりか、国王にまで毒を盛ろうとしたことにより、国法で定められたからだ。当然、王位継承権に関しても、この時に変更されている。
現在の位のある側妃は、二人とも王妃の親友であり、王妃のためにと自ら名乗り出るほど、王妃を支えたいと思っている。
それに対し、側妃グレイスに位がなかったのは、彼女が王にすら望まれていない妃だったからであった。
立太子してすぐに、公務で訪れたバーシャン領。そこでバーシェン男爵家で受けた歓迎パーティーの後、酒に酔った彼は目覚めれば全裸でグレイスと床を共にしていたのだ。ただし、本人には酔っていたせいか記憶は全くなかったが、シーツに残る純血の証に、詫びとして幾ばくかの金銭を男爵と話し合って支払っている。
さらに数ヶ月後。グレイスの妊娠が判明するも、位持ちの側妃の子でないため、王族とすることは出来ないと、説明のための文官が派遣され、説明された全てに納得して、誰からも望まれていないのに、位のない側妃として後宮に入ったのである。
後宮に入ってからのグレイスが、勝手気ままに振る舞えたのは、周囲の者達がいずれ確実に出ていくまでの辛抱だと思っていたからだ。
だからこそ、王族でなくなるグレインに仕えようとする者などいなかったのだが、まともに教育を受けていない側妃グレイスと、勉強から逃げ回っていたグレインはその事に気づけなかったのだ。
「生家に戻るなり、男爵家で世話になるなり、好きにすれば良い」
興味無さげにそう言われ、側妃グレイスは半狂乱に叫び始めた。
「ああ。忘れるところでした。父上、アディエルが是非、みんなの前で側妃様にお聞きしたいことがあるそうなのです」
騒がしい室内は、のんびりとそう言ったカイエンの言葉に静かになる。
「…アタクシに?」
訝しげに顔を向けた側妃に、アディエルはにっこりと微笑む。
「ふむ…。良かろう。話してみるが良い」
「有難く存じます、陛下。では側妃様。側妃様は、隣国との交易は何処で行われているかご存知でしょうか?」
立ち上がり頭を下げると、アディエルはにこやかにそう尋ねた。
「バカにしてますの?隣国との交易はアタクシの生まれ育ったバーシャン領の隣。カーチス領の港ですわ!」
ムッとした顔で答える側妃に、気にせず笑顔で続けるアディエル。
「では、カーチス領の領主様もご存知でしょうか?」
「とことんバカにしてますの?カーチス領の領主はカーティス子爵家の方ですわ。これで満足しまして!?」
「はい、ひとまずは。さて、皆様。夏の長期休暇。私はカイエン様の公務に今後の参考にと、同行させていただいておりました」
「ええ、存じてますよ。命じたのは他ならぬ私ですからね」
正妃の言葉に頷くと、再び側妃に顔を向ける。
「私、カイエン様のご公務の合間に、港である方とお知り合いになりましたの。とても見覚えのあるお顔の方で、初対面とは思えませんでしたのよ?」
アディエルの言いたいことが分からず、側妃は首を傾げた。
「陛下と同じ髪の色に瞳の色をしてらして、お顔もそのお方に似てらっしゃいましたの♪」
「………」
アディエルの言葉に、側妃の顔がどんどん下を向いていく。
「お若い頃はバーシェン男爵家とも頻繁に交流なされていたとかで、側妃様の事もご存知でしたわ…」
次第に室内の空気がひりついた物に変わっていく。
「家族同然のお付き合いでしたのに、ある日突然、交流を断れたとかで、とても残念がられておりましたわ…」
気の毒そうに首を振るアディエル。そんな彼女に三妃がニヤリと口の端に笑みを浮かべた。
「まあまあ。家族同然のお付き合いを突然断たれるなんて、いったい何があったのかしらね?」
「何でもご令嬢の嫁ぎ先が急遽決まったのだそうですわ」
「まあ!おめでたいお話ではありませんか。どうしてそれが原因で?」
不思議そうな顔で尋ねる二妃に、アディエルは気の毒そうな顔で続きを口にした。
「それが子爵家の次男の方とご令嬢が婚約されていたそうなのですが、男爵家の一方的な都合で婚約を破棄することになったからだそうなのです…」
「まあ!バーシェン男爵家には側妃様以外にもご令嬢がいらっしゃったの?」
おっとりとした声で二妃が首を傾げる。
「……」
側妃はギリッと音が聞こえそうな程に歯を食いしばって、アディエルを下から睨んでいる。
「…いいえ。側妃様のお相手だったそうですわ。半年後には結婚も決まっていたので、かなりの衝撃だったそうです…」
「…それは…」
王妃が眉を顰めて王へと視線を向ける。
王は眉間に深い皺を刻み、冷たい視線で側妃を見ていた。
本来、王の側妃にも妃教育をされるのだが、それは前もって王と王妃、そして重臣達の賛同を得られた伯爵家以上の令嬢が選ばれ、教育を終えた妃に位が与えられる。
位のある側妃に求められるのは、王妃の支えとしての能力だからである。
故に、王の欲だけを優先されただけの側妃に、位が与えられることはない。
これは三代前に身分の低い側妃が、息子に跡を継がせようと、王位継承権を持つものばかりか、国王にまで毒を盛ろうとしたことにより、国法で定められたからだ。当然、王位継承権に関しても、この時に変更されている。
現在の位のある側妃は、二人とも王妃の親友であり、王妃のためにと自ら名乗り出るほど、王妃を支えたいと思っている。
それに対し、側妃グレイスに位がなかったのは、彼女が王にすら望まれていない妃だったからであった。
立太子してすぐに、公務で訪れたバーシャン領。そこでバーシェン男爵家で受けた歓迎パーティーの後、酒に酔った彼は目覚めれば全裸でグレイスと床を共にしていたのだ。ただし、本人には酔っていたせいか記憶は全くなかったが、シーツに残る純血の証に、詫びとして幾ばくかの金銭を男爵と話し合って支払っている。
さらに数ヶ月後。グレイスの妊娠が判明するも、位持ちの側妃の子でないため、王族とすることは出来ないと、説明のための文官が派遣され、説明された全てに納得して、誰からも望まれていないのに、位のない側妃として後宮に入ったのである。
後宮に入ってからのグレイスが、勝手気ままに振る舞えたのは、周囲の者達がいずれ確実に出ていくまでの辛抱だと思っていたからだ。
だからこそ、王族でなくなるグレインに仕えようとする者などいなかったのだが、まともに教育を受けていない側妃グレイスと、勉強から逃げ回っていたグレインはその事に気づけなかったのだ。
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