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「さて、本題に入ります」

アディエルがピンと背筋を伸ばし、グレイスから視線を外して王達に顔を向けた。

「現在のカーティス子爵家のご当主は、数年前の嵐による水害にてお亡くなりになった前当主の弟君、アルベルト・カーティス様でございます。側妃様の婚約様ですね。子爵様は陛下と同じ髪色と瞳をお持ちなのです」

『っ!?』

全員の視線が側妃に向けられているというのに、側妃はそれに気づかず、憎々しげにアディエルを見上げていた。

「そこからは、私が話そうかな?」

立ち上がったカイエンが、グレイスとのアディエルの間に割り込むように入った。

「交易や港の話し合いの後、子爵は側妃様のご様子を心配して、仕切りに聞いていたのですが、酔った勢いなのか、ポロリと小さく呟いたのですよ…。『身も心も僕の物だと純血を捧げてくれたのに…』とね」

「っ!う、嘘ですっ!!アタクシが純血を捧げたのは陛下ですわっ!!」

叫び出したグレイスを気にもかけずに、カイエンは言葉を続けていく。

「おかしな事を言うものだと、その時は思ったのですよ?だって純血を奪ったからと、父上は側妃様に詫びを渡された。そして、その時の子だからと、私より先に生まれたグレインが第一王子になったのですから…。ところが、アディエルがある事に気づいたのです」

その言葉にカイエンに向けられていた視線が、アディエルへと向けられた。

「顔立ちがとてもよく似てらっしゃるばかりなら、稀にあることかと思っておりましたけど、体のある場所に同じ形のアザ・・・・・・があったのですわ。何でも、子爵家の男児には必ずと言っていほどに現れるアザなのだとか…」

「………アザなど、偶然かも知れませんのに…。アタクシが陛下を騙したとでも?そもそも、グレインの体にはアザなどありません…」

睨みつけるグレイスの視線をものともせずに、アディエルはにこやかに微笑む。

「ええ。偶然かも知れません。ですから、色々とカイエン様と調べてみたのですわ♪」

「調べたとは?」

王妃が眉を顰めながら、声を発する。

全て・・です」

穏やかな声で、なれどハッキリとした言葉で言い切る。

「幸いなことに、パーティーで出されていた食事。そして、陛下のお召しあがりになった内容と順番も残されておりましたので、まずはそこから始めました」

「そちらはわたくしがお話させていただきたく思います…」

アディエルの隣に、いつの間にか書類を手にしたリネットが並び立つ。

「王族の皆様は王族として、様々な薬や毒への耐性をお付けになられておられると思います。わたくしやアディエル様の妃教育の中にもございました。ですが陛下のお召し上がりになられた物に、かなり高い確率で、耐性のなかった物がございました」

「耐性のなかった物だと?」

驚く国王に、リネットが頷く。
リネットの生まれ育ったカラディル伯爵家は、医術に長けた一族であった。
妃教育に関係なく、リネット達カラディル家は毒や薬を幼い頃から体に慣らしているため、王族の毒味役として仕える者が多い一族でもあった。

「陛下のお召し上がりになった物の中に、『クォーツ』と呼ばれる東国縁の香辛料がございました。こちらは摂取後に決められた物を順番通りに・・・・・摂取することにより、睡眠薬と同じ効果をもたらすのです」

『っ!?』

「この『クォーツ』はこのような効能がある為、取り扱いはもちろん、販売先などの管理や流通経路を東国の担当商会がしておりました。我が国では、カーチス領内の決められた店舗でのみ・・・・・・・・・・使われていたのだそうです。となりますと、何故バーシャン領でのパーティーの料理に使われていたか。ということになります」

「………」

リネットの言葉に、グレイスは俯き、その体は小さく震えている。

「…カラディル伯爵家からのこの情報により、私達はバーシェン男爵家の料理人に確認しようとしたのですが、数年前に故人となっておりました」

「ですが、担当商会に当時の成り行きをよく知る方がいらっしゃいましたので、理由が判明したのですわ」

カイエンの言葉にフッと固く握っていた拳を弛めたが、続くアディエルの言葉に再び握りしめた。

「『アルベルト・カーティス様の婚約者であるグレイス・バーシェン様より、王太子殿下に是非、珍しい料理を振舞って差し上げたい。婚約者として、カーチス領をよく知っていただくためだと、そのお言葉に感銘を受け、注意事項をきちんと伝えてお譲りしました』と、当時の売買契約書も見せていただきました」

「『クォーツ』を摂取した後、お酒、乳製品、燻製物。この三つを摂取した後に、蜂蜜を摂取することにより、強い睡眠効果をもたらします。そして、当時の陛下のお食事も、この三つを間違いなく摂取されておりました」

「…蜂蜜…?」

リネットの言葉に、王は握った拳を口元に当てる。

「…陛下。お部屋に戻られた陛下のお部屋に、寝酒は用意されておりませんでしたか?」

アディエルの言葉に、王が顔を上げる。その顔からは表情が消えていた。

「…あった…。水ではなく何故、酒を置いてあるのかと思っていたので、使用人に水を頼んだのだ…」

「陛下。お酒を飲まれたのですか?」

王妃の言葉に、王は彼女を見た後、グレイスへと視線を向けた。

「…水を持ってきたのは側妃だった。自慢の領地の地酒なので、是非とも飲んで欲しいと言われ、飲んでしばらくしてからの記憶がなかった……」

視線を合わせないまま俯く側妃を、信じられないと見つめている。

「ええ!オススメしましたわっ!!ですが、我がカーチス領の地酒は蜂蜜酒ではありませんわよ!」

勝ち誇るような顔で、グレイスが顔を上げた。

「ええ。置いてあったお酒に蜂蜜は入っていませんでした。それは分かって・・・・おりますの」

にっこりと微笑むアディエルが、グレイスには死神のように思えていたーーーー。
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