81 / 82
【二部】侯爵令嬢は今日もあざやかに断罪する
【番外編】世の中には触れてはならない世界がある…
しおりを挟む
「………ふー、ふーう……」
とある伯爵は、妻に目を向け首を振った。
今、彼の妻は痩身に効果があるという薬草茶を飲んでいる最中である。
その効果は、少し前まで『肉饅頭』と呼ばれていた皇弟殿下が半分以上も細くなるという奇跡を起こして見せたのだ。
それを見た夫人は、飛びついた。
彼の妻はぽっちゃりしているのを気にしていたからだ。
別段、ぽっちゃりでもいいではないか。
己自身もポッテリした腹を持つ伯爵は、そう思いながら目の前の妻の顔を見た。
怖い……………。
それしか言葉に出来ない表情である。
白い肌を青白く変え、榛色の瞳は血走っている。
肩で息をしながら、ボタボタと汗を流す頬には、明るい茶色の髪が張り付いていた。
そんな状態になりながらも、彼女は薬草茶を飲み干そうとしているのだ。
「…マギー。無理なら飲める薄さから始めた方が良いと言われたのだろう?そんなに辛いのなら、倍に薄めてはどうだい?」
妻を案じーーついでに自分の精神状態もー、伯爵は優しい声で語りかけた。
「………旦那様。旦那様は黙っていて下さいませ。これはアタクシの意地というものなのですから…」
ギロリと親の仇を見るような視線を向けられ、伯爵は説得を諦めた。
「……そうかい。無理はするんじゃないよ?」
これ以上は意固地にさせるだけだと、伯爵は部屋を後にした。
食堂では目の前に並べられた食事の量に悲しくなった。
「あたくしは美のためにですが、旦那様は健康のために必要なのですわ!!」
そう言って叫ぶ妻に、料理長が負けた……。
食卓から肉が減り、野菜が増えた。
ちなみに、量も半分にされている。
「……マギー。もう少しだけ量を増やせないかね?」
毎日毎日、物足りない気分で過ごしている。
いや、最初は妻だけだったのだが、恨めしそうに、獲物を狙う捕食者のような目で、妻に見られながら食べるのは、精神的に堪えた。
だから、平等にしようと同じ食事内容にしたのだが、まさか量まで同じにされるとは思わなかった。
おかげで伯爵は、貴族なのに飢えることの辛さを少し知った。
孤児院や浮浪者への配給は、次からもう少し増やしてあげようと思ったほどである。
そうして、減らされた食事と心労により、彼のポッテリしていた腹は引っ込んだが、頭のてっぺんが薄くなってきた。ついでに、胃がキリキリと痛むことも増えた。
社交で集まった場所では、似たような男達が増えていて、皆が皆、疲れていた。
美を追求する女達に口を挟んではいけない……。
彼らは皆、等しく同じ想いを抱いていた。
そして、彼らは皆、妻達の姿に体調を崩した。
ある者は頭皮が悲しいことになり、またある者は家に帰ろうとすると胃がキリキリと痛むようになった。
そんな彼らに、ある日。どこからか届け物が送られてきた。
差出人不明の怪しい物ではあったが、事前にとある噂を聞いていた彼らは、有難くそれを使用した。
とある薬師が、妻達を見守る夫達を不憫に思い、それぞれの体調にあった薬を送り付けてきている。と。
その品にはある特徴があり、それを真似する事が出来る者がいないということで、それを確認した後、彼らは薬の効果に救われていった。
夫達が薬の効果に安堵した頃、それぞれの妻達にも効果が現れ始めた。
明らかに目に見え始めた効果に、妻達の機嫌は良くなり、ついでに付き合わされていた夫達も食生活が改善された為か、それなりに見え良い姿へと変わっていく。
一年が過ぎる頃には、帝国内は見映えの良い貴族が増えた。
彼らの多くは夫婦円満で仲睦まじかった。
それ以降の帝国は、【美の国】と呼ばれ始める程に、健康で美しい者達が溢れることとなっていったーーーー。
とある伯爵は、妻に目を向け首を振った。
今、彼の妻は痩身に効果があるという薬草茶を飲んでいる最中である。
その効果は、少し前まで『肉饅頭』と呼ばれていた皇弟殿下が半分以上も細くなるという奇跡を起こして見せたのだ。
それを見た夫人は、飛びついた。
彼の妻はぽっちゃりしているのを気にしていたからだ。
別段、ぽっちゃりでもいいではないか。
己自身もポッテリした腹を持つ伯爵は、そう思いながら目の前の妻の顔を見た。
怖い……………。
それしか言葉に出来ない表情である。
白い肌を青白く変え、榛色の瞳は血走っている。
肩で息をしながら、ボタボタと汗を流す頬には、明るい茶色の髪が張り付いていた。
そんな状態になりながらも、彼女は薬草茶を飲み干そうとしているのだ。
「…マギー。無理なら飲める薄さから始めた方が良いと言われたのだろう?そんなに辛いのなら、倍に薄めてはどうだい?」
妻を案じーーついでに自分の精神状態もー、伯爵は優しい声で語りかけた。
「………旦那様。旦那様は黙っていて下さいませ。これはアタクシの意地というものなのですから…」
ギロリと親の仇を見るような視線を向けられ、伯爵は説得を諦めた。
「……そうかい。無理はするんじゃないよ?」
これ以上は意固地にさせるだけだと、伯爵は部屋を後にした。
食堂では目の前に並べられた食事の量に悲しくなった。
「あたくしは美のためにですが、旦那様は健康のために必要なのですわ!!」
そう言って叫ぶ妻に、料理長が負けた……。
食卓から肉が減り、野菜が増えた。
ちなみに、量も半分にされている。
「……マギー。もう少しだけ量を増やせないかね?」
毎日毎日、物足りない気分で過ごしている。
いや、最初は妻だけだったのだが、恨めしそうに、獲物を狙う捕食者のような目で、妻に見られながら食べるのは、精神的に堪えた。
だから、平等にしようと同じ食事内容にしたのだが、まさか量まで同じにされるとは思わなかった。
おかげで伯爵は、貴族なのに飢えることの辛さを少し知った。
孤児院や浮浪者への配給は、次からもう少し増やしてあげようと思ったほどである。
そうして、減らされた食事と心労により、彼のポッテリしていた腹は引っ込んだが、頭のてっぺんが薄くなってきた。ついでに、胃がキリキリと痛むことも増えた。
社交で集まった場所では、似たような男達が増えていて、皆が皆、疲れていた。
美を追求する女達に口を挟んではいけない……。
彼らは皆、等しく同じ想いを抱いていた。
そして、彼らは皆、妻達の姿に体調を崩した。
ある者は頭皮が悲しいことになり、またある者は家に帰ろうとすると胃がキリキリと痛むようになった。
そんな彼らに、ある日。どこからか届け物が送られてきた。
差出人不明の怪しい物ではあったが、事前にとある噂を聞いていた彼らは、有難くそれを使用した。
とある薬師が、妻達を見守る夫達を不憫に思い、それぞれの体調にあった薬を送り付けてきている。と。
その品にはある特徴があり、それを真似する事が出来る者がいないということで、それを確認した後、彼らは薬の効果に救われていった。
夫達が薬の効果に安堵した頃、それぞれの妻達にも効果が現れ始めた。
明らかに目に見え始めた効果に、妻達の機嫌は良くなり、ついでに付き合わされていた夫達も食生活が改善された為か、それなりに見え良い姿へと変わっていく。
一年が過ぎる頃には、帝国内は見映えの良い貴族が増えた。
彼らの多くは夫婦円満で仲睦まじかった。
それ以降の帝国は、【美の国】と呼ばれ始める程に、健康で美しい者達が溢れることとなっていったーーーー。
4
あなたにおすすめの小説
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
その婚約破棄、卒業式では受け付けておりません
柊
ファンタジー
卒業パーティの最中、第一王子アデルは突如として婚約者クラリッサに婚約破棄を宣言する。
いわゆる『公開断罪』のはずだった。
しかし、周囲は談笑を続け、誰一人としてその茶番に付き合おうとしない。
困惑する王子と令嬢たちの前に立ったのは……。
※複数のサイトに投稿しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる