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第七章 世界を回すは女達
王太子妃のお茶会
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王族専用庭園で、五人の女性が丸テーブルを囲んでいた。
「エスタルディアからはレティーシア様に、何も仰って来られませんの?」
淡い金色の髪を緩く結い上げ、緑玉色の瞳の北方侯令嬢フローリア・セント・ロンドウォールが首を傾げて口を開いた。
「さあ?色々言っては来てるようですが、事前に伝えたことすら守れず、被害者ぶられても困りますわ。何より私はグランラディアの王太子妃になりましたのよ。両国の仲を取り持とうとする私を蔑ろにした方々のことなど存じません…」
レティーシアは紅茶を口にすると、カップを下ろして周りを見回した。
王太子妃であるレティーシアが、今日の茶会に招いたのは、五大侯爵家ー中央侯は嫡男のみーの令嬢達であった。
「何より、私が妹のように可愛いがっているアリスを拐われて許すわけありませんわ♪」
「ええ、本当に。わたくし達の可愛い妹を己が欲のために、我が国から奪おうなど許されませんことですわ♪」
深い紫の髪を高い位置で一つに纏め、少し吊り上がり気味の蒼玉色の瞳を細めた東方侯の令嬢カサンドラ・ルーラ・サーヴォルジュは、パシンと手にしていた扇を閉じ、口元に当てて微笑む。
「マリアステラ様もかなりご立腹でしたわね……」
クスクスと笑うのは、銀糸のような髪を左側に束ねて流し、ほっそりとした銀色の瞳を伏せる西方侯令嬢アルテッサ・ブーケ・イーシェンド。
「父はエベリウム家が、エスタルディアと事を構えるならば、是非とも手助けをするのだと申しておりましたわ……」
緩やかに波打つ黒髪を揺らし、黄玉の瞳を瞬かせながら笑うのは南方侯令嬢リズベット・ツェリク・スカルロック。
「まあ、うちもですわ。うちは兄夫婦がアリスを妹のワタクシよりも可愛いらしくて…。ワタクシもアリスが愛しいので構いませんのですけど♪」
フローリアが両手を合わせてそう話す。
「では皆さんは、アリスがグランディバルカス家に嫁ぐことはいかがお考えかしら?」
「勿論、ワタシは賛成ですわ。他の皆様もそうでしょう。皆様、あの日のことは見てますものね?」
アルテッサが首を傾げて、周りを見回す。
「ええ、アルテッサ様。エヴァン様の相手はわたし共では勤まりませんわ」
リズベットが奥義で口元を隠し、コロコロと笑う。
「本当に……。あの時はたまたま、ワタクシ達は離れていましたから、無事でしたが…」
フローリアは右手を頬に当て、ほうっと息を吐き出した。
「わたくし達にはあの力に対抗できるスキルはございませんもの。何より中央侯夫人からお聞きした話では、エヴァン様はアリスにと、自らドレスを縫われたとか…」
クスクスと思い出し笑いを始めるカサンドラ。
「「「「それは………」」」」
仮面姿のエヴァンの針仕事姿を想像し、他の四人は黙り込んでしまう。
ーー曲がりなりにも筆頭侯爵家の嫡男が、それでいいのだろうか…?
全員が一斉に心の中で呟いた内容である。
「…とにかく、皆様。エヴァン騎士団長とアリスティリア伯爵令嬢との婚姻に反対ではないということでよろしくて?」
コホンと咳払いをし、レティーシアが確認すると、四人はにっこりと笑って頷いた。
「では、王家より皆様に各家の当主への言伝をお願いしますわね。実は……」
話を聞き終えた四人の令嬢は、速やかに退出の挨拶をし、急ぎそれぞれの当主の元へ急ぐのであったーーーー。
※※※※※※※※
「レティ?」
一仕事終えて、ほっとひと息ついていると、声をかけてきたのは、夫であるオーディルであった。
「オーディル。どうしましたの?」
「君の方は大丈夫だったかい?」
驚くレティーシアの隣の席に腰を下ろし、近くのメイドにお茶を頼む。
「ええ。こちらは予定通りに。何しろ皆さん、アリスを妹のように可愛がっている方々ですもの」
「その中には君と母上もいるわけだ…」
遠い目をして呟くオーディルにレティーシアは苦笑した。
「…エベリウム兄弟は難航してますの?」
「………座礁しかけた…」
「…座礁?」
首を傾げて復唱する。
「エヴァンが既に屋敷に連れ込んでると知って、乗り込みかけたんだけど……」
目の前に出された紅茶を一口飲み込む。
「狙ったかのように現れたマリアステラ殿が、例の件を話した上で、アリスの婚姻を急ぐ理由も話されると、渋々ながら納得した……というか、納得しようとしている……」
「……それは、思いっきり狙っていたのでは?」
「だろうね…。どちらにせよ、五大侯爵家と王家の認めた婚姻だから、誰にも文句を言わせる気はないよ」
肩を竦めて、レティーシアを見つめる。
「レティ。君の母国と揉めたくはないけど…」
「気にしないでくださいませ。婚儀に集まった皆様の前で、アリスの血筋をはっきりさせねば、あの愚か者達には理解できませんでしょうから。それにこの事は、精霊王からの頼まれ事でもありますもの」
テーブルの上のオーディルの手に、そっと手を重ねる。
「共に頑張りましょうね」
優しく微笑む妻の笑顔に、ほんのひと時の安らぎを得たオーディルであったーーーー。
「エスタルディアからはレティーシア様に、何も仰って来られませんの?」
淡い金色の髪を緩く結い上げ、緑玉色の瞳の北方侯令嬢フローリア・セント・ロンドウォールが首を傾げて口を開いた。
「さあ?色々言っては来てるようですが、事前に伝えたことすら守れず、被害者ぶられても困りますわ。何より私はグランラディアの王太子妃になりましたのよ。両国の仲を取り持とうとする私を蔑ろにした方々のことなど存じません…」
レティーシアは紅茶を口にすると、カップを下ろして周りを見回した。
王太子妃であるレティーシアが、今日の茶会に招いたのは、五大侯爵家ー中央侯は嫡男のみーの令嬢達であった。
「何より、私が妹のように可愛いがっているアリスを拐われて許すわけありませんわ♪」
「ええ、本当に。わたくし達の可愛い妹を己が欲のために、我が国から奪おうなど許されませんことですわ♪」
深い紫の髪を高い位置で一つに纏め、少し吊り上がり気味の蒼玉色の瞳を細めた東方侯の令嬢カサンドラ・ルーラ・サーヴォルジュは、パシンと手にしていた扇を閉じ、口元に当てて微笑む。
「マリアステラ様もかなりご立腹でしたわね……」
クスクスと笑うのは、銀糸のような髪を左側に束ねて流し、ほっそりとした銀色の瞳を伏せる西方侯令嬢アルテッサ・ブーケ・イーシェンド。
「父はエベリウム家が、エスタルディアと事を構えるならば、是非とも手助けをするのだと申しておりましたわ……」
緩やかに波打つ黒髪を揺らし、黄玉の瞳を瞬かせながら笑うのは南方侯令嬢リズベット・ツェリク・スカルロック。
「まあ、うちもですわ。うちは兄夫婦がアリスを妹のワタクシよりも可愛いらしくて…。ワタクシもアリスが愛しいので構いませんのですけど♪」
フローリアが両手を合わせてそう話す。
「では皆さんは、アリスがグランディバルカス家に嫁ぐことはいかがお考えかしら?」
「勿論、ワタシは賛成ですわ。他の皆様もそうでしょう。皆様、あの日のことは見てますものね?」
アルテッサが首を傾げて、周りを見回す。
「ええ、アルテッサ様。エヴァン様の相手はわたし共では勤まりませんわ」
リズベットが奥義で口元を隠し、コロコロと笑う。
「本当に……。あの時はたまたま、ワタクシ達は離れていましたから、無事でしたが…」
フローリアは右手を頬に当て、ほうっと息を吐き出した。
「わたくし達にはあの力に対抗できるスキルはございませんもの。何より中央侯夫人からお聞きした話では、エヴァン様はアリスにと、自らドレスを縫われたとか…」
クスクスと思い出し笑いを始めるカサンドラ。
「「「「それは………」」」」
仮面姿のエヴァンの針仕事姿を想像し、他の四人は黙り込んでしまう。
ーー曲がりなりにも筆頭侯爵家の嫡男が、それでいいのだろうか…?
全員が一斉に心の中で呟いた内容である。
「…とにかく、皆様。エヴァン騎士団長とアリスティリア伯爵令嬢との婚姻に反対ではないということでよろしくて?」
コホンと咳払いをし、レティーシアが確認すると、四人はにっこりと笑って頷いた。
「では、王家より皆様に各家の当主への言伝をお願いしますわね。実は……」
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※※※※※※※※
「レティ?」
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「君の方は大丈夫だったかい?」
驚くレティーシアの隣の席に腰を下ろし、近くのメイドにお茶を頼む。
「ええ。こちらは予定通りに。何しろ皆さん、アリスを妹のように可愛がっている方々ですもの」
「その中には君と母上もいるわけだ…」
遠い目をして呟くオーディルにレティーシアは苦笑した。
「…エベリウム兄弟は難航してますの?」
「………座礁しかけた…」
「…座礁?」
首を傾げて復唱する。
「エヴァンが既に屋敷に連れ込んでると知って、乗り込みかけたんだけど……」
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「……それは、思いっきり狙っていたのでは?」
「だろうね…。どちらにせよ、五大侯爵家と王家の認めた婚姻だから、誰にも文句を言わせる気はないよ」
肩を竦めて、レティーシアを見つめる。
「レティ。君の母国と揉めたくはないけど…」
「気にしないでくださいませ。婚儀に集まった皆様の前で、アリスの血筋をはっきりさせねば、あの愚か者達には理解できませんでしょうから。それにこの事は、精霊王からの頼まれ事でもありますもの」
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