美少女ゲームの悪役令息に転生した俺、『本編先乗り』と【モンスター錬成】で原作を破壊する

ふつうのにーちゃん

文字の大きさ
23 / 57

・毒親ざまぁ(強) 後日譚

しおりを挟む
 教室に向かう前に、学食で慌ただしい朝食を済ますのがここでの学園生活だ。
 特別クラスの女子生徒たちに怪しまれながら、皇女様とメメさんを待った。

「おはようございます、ヴァー様! 今日から2年生ですね!」

「おはよう。同じクラスになれるといいな」

「はいっ、私もずっとそう思っておりました! ヴァー様とクラスメイトになりたいですっ!」

 シナリオ通りなら俺たちは同じクラスだ。
 こればかりはシナリオ通りを願わずにはいられなかった。

「メメもでごじゃります。ヴァレリーは、座学中でも遊べる良いオモチャになる才能があるでしゅ」

「いや勉強しろよ……」

「嫌でしゅ、座学は大嫌いでしゅ、ヴァレリーで遊ぶでしゅ」

 周りの生徒に奇異の目で見られながら、俺は姫君たちと学食に向かった。
 その道中、実家にまつわる噂話を耳にした。あの決闘と、屋敷の炎上の話だった。

「まあ、それがDランクの朝食なのですね」

「そしてこれがー、ヴァレリー憧れのAランクの朝ご飯でしゅ♪ ほりほりー♪」

 今日の朝食は、魚肉ソーセージが挟まれた偽ホットドックに野菜サンド、それにトマトスープだった。

 それに対してAランクの朝食は、ベーコンに、スクランブルエッグ、フルーツサラダに、クロワッサン。さらに大きなカットトマトとミニプリンが付いて来る。

「羨ましい……。せめてトマトだけでも一切れ分けてくれ……」

「いいですよ、はいどうぞ」

「いいのか……?」

「はい、代わりに野菜サンドの端っこを下さい」

 女神は存在した。
 絶対にこの人を主人公になんか渡すものか。
 俺は野菜サンドをちぎって、赤々としたトマトと交換した。

「そうそう、ご実家の話ですが」

「んぐっっ?!」

「少し面白いことになっています。あの狭量なカラカラという当主ですが現在、都に出頭を命じられているようで」

 危うく貴重な生トマトを鼻から吹き出すところだった。
 しかし、父上が出頭、だと……?

「まさか、屋敷の炎上の件か……? 告発でもする気か……?」

「それなら、なんのご心配もごじゃりませぬ♪」

 メメさんが含みのある笑顔を浮かべて、長いベーコンを口からたらした。
 まるで目の前の男が屋敷に火を放ったことを、詳しく知っているかのような態度だった。

「ええ、当主は『火の不注意によるただの火災』と証言しているそうですよ」

「あぐあぐ……ヴァレリーも、極悪でしゅね~。訴えたくとも訴えられない状況になると、わかった上で焼いたでしゅね……?」

「ふふふっ、そういうことよねっ! 私、スッキリしちゃった!」

 ミシェーラ皇女は人の不幸を爽やかな笑顔で笑った。
 まああの見苦しい一家に、散々嫌な思いをさせられた後だしな……。

「つまり、どういうことだ?」

「帝国法により『魔導兵の私的な運用は法律で厳しく禁じられている』のでごじゃります」

「いちいちお家騒動が起きるたびに軍用兵器を使われたら、領地が焼け野原になってしまうものね。……貴方はこの法律を利用した」

 結果論ではあるがその通りだった。
 屋敷を焼いても賠償を請求されることなどないと、最初からわかっていたからああやった。

「生き残るためには他になかったんだ」

「なら最初から、誘いに乗らなければ良かっただけのことでしゅ」

 それはそうだが、断っても不都合なタイミングで似たことをされただろう。
 ならあの瞬間に、あの避けられないイベントを起こす必要があった。

「でも貴方は行った。自らの手で、生まれ育った屋敷を焼き払った。ふふ、貴方って、やっぱり素敵……。特に普通じゃないところが」

 普通ドン引きするところなのに、バーサーカー系皇女とその侍女はニンマリと笑う。
 あの恥知らずの虚飾の一家には、屋敷の炎上がお似合いの結末であると。

「屋敷を焼いたのは、軍用魔法兵の私的な運用を明るみにするためね?」

「丘の上の領主の屋敷が大炎上。篝火となった屋敷に映し出される22機の魔法兵。それを領民に見られてしまっては、もうおしまいでしゅ」

 まるで見て来たかのようにメメさんは言う。

「ええ、それは噂となり、いずれは国王の耳に届き、あの最低の父親は、説明を要求されることになるでしょう」

「火事さえ起きなければ、殺戮を隠し通せたはずなのに、不幸な領主様もいたものでしゅ」

 領民を目撃者に仕立て上げるところまで、全てが計算ずくであったと。

「けど本当のことなんて言える訳がないです。実の息子を殺すために、魔法兵22機を揃えて騙し討ちにしようとしたのに、逆に屋敷に火を放たれて、逃げられてしまっただなんて」

「メメたちを出し抜けるなんて思わないことでしゅ。ぜーんぶ、見てたんでしゅから」

 要するにそういうことだった。
 裏世界を利用すれば、見える範囲ならばのぞきなんてし放題だ。

 この2人は裏世界の仕組みを利用した。
 俺が決戦に挑んだ晩、2人はヴァイシュタイン一家のお家騒動を天から見下ろしていた。そういうことになる。

「最高の見せ物だったでしゅ♪」

「ええ、血沸き肉踊りました! ああ、デネブ夫人の悲鳴がまだこの耳に残っています! 最高のショーでした!」

「姫様のお口添えで、国王陛下もこの事態をもう把握しているでしゅよ」

「はい! ヴァー様を守るためですもの、当然です」

 つまりやつらは泣き寝入りをするしかない。
 俺が賠償請求の可能性に不安を抱く必要は何一つない。
 さらに国王の判断次第では、軍用魔法兵の私的運用で、やつらに厳しい沙汰が下る。……ということになるのだろうか。

「むふふふふ……♪」

「ベーコン噛み切ってから笑えよ……」

 そう俺が注文すると、メメさんは蛇みたいに肉をペロリと飲み込んだ。
 クソ、あんな美味そうな肉を、ほとんど噛まずに食いやがって……。

「あ、ちなみにですが――」

 ちなみに屋敷は全焼を免れた。
 災害救助モードに入った魔法兵が近くにいたおかげだった。

 しかし資産の大半は2階で保管していたため、彼らは莫大な富を失うことになった。
 ネルヴァは家族を捨てるように寮に戻り、継母デネブは煤けた汚いメイド部屋で、焦げ臭い屋敷に毎日発狂している。

 趣味が悪いと言われてしまうかもしれないが、ぶっちゃそんなことを食事の席で聞かされたら、まったくもってメシウマと感じる他になかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

主人公に殺されるゲームの中ボスに転生した僕は主人公とは関わらず、自身の闇落ちフラグは叩き折って平穏に勝ち組貴族ライフを満喫したいと思います

リヒト
ファンタジー
 不幸な事故の結果、死んでしまった少年、秋谷和人が転生したのは闇落ちし、ゲームの中ボスとして主人公の前に立ちふさがる貴族の子であるアレス・フォーエンス!?   「いや、本来あるべき未来のために死ぬとかごめんだから」  ゲームの中ボスであり、最終的には主人公によって殺されてしまうキャラに生まれ変わった彼であるが、ゲームのストーリーにおける闇落ちの運命を受け入れず、たとえ本来あるべき未来を捻じ曲げてても自身の未来を変えることを決意する。    何の対策もしなければ闇落ちし、主人公に殺されるという未来が待ち受けているようなキャラではあるが、それさえなければ生まれながらの勝ち組たる権力者にして金持ちたる貴族の子である。  生まれながらにして自分の人生が苦労なく楽しく暮らせることが確定している転生先である。なんとしてでも自身の闇落ちをフラグを折るしかないだろう。  果たしてアレスは自身の闇落ちフラグを折り、自身の未来を変えることが出来るのか!? 「欲張らず、謙虚に……だが、平穏で楽しい最高の暮らしを!」  そして、アレスは自身の望む平穏ライフを手にすることが出来るのか!?    自身の未来を変えようと奮起する少年の異世界転生譚が今始まる!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

処理中です...