元アンティーク修復家の異世界転生 - 人質として帝国に差し出された俺がチート能力【アイテム転生】で、皇女と釣り合う男に成り上がるまで -

ふつうのにーちゃん

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・九十九神に愛された男

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 うちの爺ちゃんは大魔法使いだった。
 どんな物も魔法のように蘇らせてくれる、正真正銘の大魔法使いだった。

「おじいさん……この子、なおして……くれる……?」

 爺ちゃんが営む時計屋は毎週のように壊れたオモチャを抱いた子供が駆け込んできて、大切な相棒の修理を涙ながらに求めた。

「おお、これは大変だ、すぐに急患のオペに入ろう。孫や、手伝ってくれるね?」

「う、うん……ぼくもかいじゅう、なおしてもらったし……てつだうよ、じいちゃん」

 爺ちゃんは誰にでもやさしかった。それでいてやたらに物持ちのいい人だった。
 オモチャの修理オペが終わると子供たちは弾むように喜び、爺ちゃんを尊敬の眼差しで見つめた。

 それも当然だ。子供の人生はオモチャを中心に回っている。それを壊してしまって筆舌に尽くしがたい苦しみを味わった経験は、誰の記憶にだってある。

 だから爺ちゃんは俺の誇りだった。こんなに立派な祖父を持てた自分は、なんて恵まれているんだと幼心に思った。

「さっきのこ、すごくよろこんでた! やっぱりじいちゃんはすごいよ!」

「ほっほっほっ。いいかい、孫や?」

「うん、いいよ?」

 前置きに素直に答える孫に当時の爺ちゃんは笑った。

「少し壊れたり、汚れたりしたからって、考えなしになんでも捨てちゃぁいけないよ? 物にはね、魂が、宿っているんだからね?」

「たま、しい……?」

「命のことだよ。どんな物にも命がある。毎日を一緒に生きた相棒を、手も尽くさず、ゴミ捨て場に送るような大人にはならないでおくれ」

「うん、わかんないけどわかったよ!」

 なんでもかんでも自分で直してしまう、年代物の家具や小物に囲まれて暮らす、変わり者の爺ちゃんだった。

 母さんはそんな爺ちゃんを貧乏臭いと言い切って、ことあるごとに愚痴を漏らしていた。
 買い換えた方が早い。時代遅れの物を使うのは貧乏人みたいで恥ずかしい。

 そう言っていた。

「あんたの爺ちゃんはね、ゴミを後生大事にとっておく変人なのよ。まったく、ガラクタばかり、困った人よ……」

「でも、ぼくのかいじゅう、なおしてくれた。じいちゃん、かっこいいよ……?」

「お願い、あんな人の影響を受けないで! あの人のせいでお母さん、小さい頃にいっぱい恥をかいたんだから……!」

 母さんはそう言うけど、俺は爺ちゃんの影響を受けて育った。
 爺ちゃんの隣でアンティークの修復を学んで育った。

 それから小学生になって、中学高校と進学して、大学生になって、就職活動をして、社会人2年目を迎えると――突然、職場が倒産した。

「もう勝手にしなさい……」

 俺は爺ちゃんの時計屋で店の仕事を手伝いながら、子供のオモチャやアンティークの修復をして生きるようになった。
 稼ぎはボチボチで、爺ちゃんもちょっとボケてきていたけど、それでも俺たちはそれなりに幸せだった。

 同じ趣味人として、好きな物を直し、互いに修復品を自慢して、助け合って生きた。


 けれども――


「アーケードの修理中に、屋根が落下、直撃、死亡。……残念ですね、全国ニュースにはならなかったみたいです……」

 ある日、突然の不幸が俺の頭頂部を襲った。
 こんなところで死にたくない。この痛みを止めてくれ。
 そう願ったところで、公平な神様は被害者を助けてなんてくれなかった。

 俺の死は誰にも看取られることもなく、ただ静かに訪れ、死の安らぎと共に終わった。
 二度と目覚めることのない眠りが、生にしがみつく哀れな男をやさしく包み込んでくれた。

 永遠の眠りが約束されているはずだった。

「君、誰……?」

 ところが俺は再び目覚めていた。
 白い世界に黒い書斎机が1つ。他には何もない空っぽの世界に、死んだはずの俺は自分が居ることに気づいた。

「天使です」

 天使を名乗る女性事務員は筆を取り、こちらに振り向きもせずに受け答えをしていた。

「……自分でそれ、言います?」

「はぁ……つまらない返しですね。ここにくる4割の人間がそう答えます」

「あの、すみませんが……状況が飲み込めないので説明をしていただけますか?」

 問うと天使が顔を上げた。天使を自称するだけあって美しい女性だった。金髪碧眼、高身長。手足はモデルのように細く、しきりに手元のペンを回す癖があった。

「アヌビスの天秤をご存じですか?」

 ささやくような語り口で彼女は淡々と語った。

「え……? あ、ああ……死者の心臓をはかりにかけるという、エジプト神のアレのことですか?」

「では話が早そうですね。これから、天使であるわたくしが、貴方を審判します」

「天国か地獄か、そういう――うわっ!?」

 俺の胸から光る球体が抜け出し、天秤の片方に運ばれた。

「軽い魂ですね、人生ふわふわ」

「な、何を……っ! それは閻魔大王様でも言ってはならないことでしょうっ!?」

「おや……?」

 天使がバインダーをパラパラとめくると、そこからホタルのような光が無数に生まれて天秤の反対側に乗り込んだ。

 すると俺の魂とおぼしき球体は天秤に高々と釣り上げられた。
 残念ながら俺の魂は確かに軽くてふわふわだった……。

「どうやら貴方は、生前におびただしい数のを救ったようですね。評価を改めさせていただきます、貴方はとても立派な方のようです」

「お、俺が……っ!?」

「はい。軽い魂などと、先ほどはとんだ失礼を」

 よほど珍しい結果なのか、天使様がしげしげと天秤を観察する。

「い、いや……それは何かの間違いです! 俺はただの一般市民、誰も救っちゃいませんよ!」

「誰も? ふ……おかしな言い方をするのですね」

 そう言って彼女が手のひらを返すと、そこに光の粒子のうち1つが天秤から乗り移った。

「たとえば、こちらの魂。貴方に命を救われたと、か弱い声でおっしゃっています」

「人違いです」

「人、とは言っておりません」

「え……?」

「それが生物である、とも。こちらの魂は、確かに、貴方に壊れた身体を直していただいたと、そうおっしゃっております」

 光の粒子は実体を持ち、かわいらしい白ウサギの人形に変わった。その人形は話しかけると人の言葉を喋る、ある女の子の大切な友達だった。

 それがある日壊れてしまい、うちの時計屋にやってきた。

「救ったって、人形の話ですか。確かにそのウサギならば当店で直しましたが……」

「そう、貴方は沢山の魂を救いました。変身ヒーローの人形、思い出の運動靴、故人の楽器、結婚日に買ったフードミキサー。ここにある皆が貴方に感謝しています」

「確かにまあ、直しましたけど……。それはただの仕事で……」

「おや、こちらの魂の方は――サビだらけ、埃だらけ、オイルまみれ、廃品同然だったボロボロの身体を、生まれたて同然にしていただいたと、涙ながらにおっしゃっていますね」

 骨董品アンティークの修復のことだろうか。
 それも爺ちゃんの影響で、趣味と実益をかねてやっていただけだ。

 サビだらけ、汚れだらけのボロボロの物を新品同然に修理して、ピカピカに磨くのが俺の趣味だった。
 それを店の棚に飾ったり、ネットオークションに出して買い手が付いたりすると、月並みに言って脳汁が出る。

「趣味でやっただけです、これは誓って善意ではありません」

 しかし物品に宿る魂たちからすれば、気まぐれで2度目の人生を授けてくれる神か何かに見えたのだろうか。

「わたくし、久々に感動いたしました。彼らにこんなによくした貴方には、わたくしもよくして差し上げなければなりませんね」

「いえ結構です。これはタクシーの運転手がお客を目的地に運ぶのと、全く同じことですから」

「まあ、謙虚なお方。わたくし、ますます貴方が気に入ってしまいました。さらに素晴らしい転生特典を差し上げましょう」

「ですから何もいらないです。――ん? 転、生……?」

 それと転生特典とは、いったいなんなのだろう?

「はい、貴方は亡くなられましたので」

「あの待って下さい、死んだ先に天国はないのですか?」

「はて? どうして我々が、人間に都合のいい楽園を工面するのですか?」

 神や天使にそんな義理はない。
 それはそうなのかもしれない。
 けれど天国くらいあってほしかった。

「時間のようです。千の魂を救った偉大なる聖人よ、どうか御冥福を。そしてどうか、幸せにあふれた来世を」

「え、もう始まるんです!? ちょっと話が早くないですか!?」

「死ねばまたこれますよ」

「縁起でもないことを言わないで下さい!」

 天使は書類にサインを刻むと、それをいくつかのうち1番に薄い方のバインダーに納めた。

「ふ……楽しみでございます……。では、来世でも、頭上にはどうかご注意を」

「うっ……なんだ……急に……ぅ……」

 天使が微笑むと突然の眠気に襲われた。
 それは死の眠りのように耐え難く、甘く逆らいがたい感覚だった。
 とても意識を保てそうにない。俺は知らぬうちに目を閉じていた。

「……あ。転生特典の説明、しておりませんでした。貴方に与えられるギフトの名は【アイテム転生リィン・サイクル】」

 リサイクル。天使がそう言った気がする。

「様々な経緯から魂の宿った物品を、転生させる能力です。上手く応用すれば、貴方は神にも悪魔にもなれるでしょう。どちらでも構いませんので、好き放題に暴れてどうぞ」

 死んだ先に天国なんてなかった。
 天国が欲しければ暴れ回れ。そう言われたような気がした。
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