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第参話 軋む音
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次に着いた場所は薄暗い病室だった。
近くには空のベット。“貞岡尚”と名札が下がっている。
「ここは貞岡尚の病室の様ね。」
「尚ちゃん…。」
空のベッドを悲しそうに見ている春日清彦。
「とりあえず、情報を集めなきゃいけないよね。出る?今なら人の気配は近くにないよ?」
愛姉、積極的に言ってくれて助かる。
「そうだね。歩きながら情報を一旦整理しよう。」
皆の同意を確認し、部屋を出る。
「とりあえずこのゲームの参加者は108人いて、第1ステージ終了時点で残ってる人数は50人。」
類が人数をまとめてくれる。
「そだね。ちなみに私は最初に歌の能力と簡易救急セットをアイテムにスタート。相方の一夜は目の能力とアイテムは懐中電灯。」
「私はアイテムはコーヒー。しかもこのコーヒー、不思議なことに飲み終わったら中身が勝手に満タンになるんだよ。」
コーヒー大好きな類らしいな。コーヒーなしじゃ生きていけないって言ってたこともあるくらいだし。
「能力は腕力かな。さっきのステージではかなり重いの片手でどかせたし、檻曲げれりもした。」
おおう、頼もしいな。仲間で良かった。
プレイヤーイコール仲間になるなんて考えは命取りだが、類に関しては心配はいらない。何より、愛姉がいる限り裏切りは分かるから安心して居られる。
「とりあえず今からの目的はここの鍵となる霊を特定すること。その霊の情報を集めて成仏させるか仲間にするか。あとは、貞岡尚の情報も集めなきゃいけない。このゲームのゲームマスターならRPGでいうラスボス。一番最後に必ず会わなきゃいけない。その時の為に。それに春日清彦の為に。」
「えっと、優に提案があるの。柳さんみたいにまだ生き残ってるプレイヤーも探して可能なら仲間にしない?その方が有利にゲームを進めて行けると思う。」
成る程、一理ある。道具や能力を考えると自分達じゃ進めないルートも進める様になるかもしれない。
「そうだね。それで行こう。仮に嘘ついてたら愛姉が分かるから本当に仲間になってくれるかは分かりやすいしね。大人数は好ましくはないけれど…能力は多種多様あった方が良いと思う。」
「私も意義ないよ。ていうか、助けて貰ってるし私がどうこう言える立場じゃないけど。」
「気を使わないで。それに気になることは遠慮せずに言って欲しい。何か気づけることがあるかもだし。」
「ん、分かった。じゃあとりあえず提案するわ。ナースステーション行かない?患者とかの情報あるはずだよ。」
「そうだね。私も同じこと考えてたわ。」
それから皆の意思を確認し、同意を得たところでナースステーションへ向かった。
ナースステーションには誰も居ない様で、引き出しを早速開けようとした。
しかし、鍵が全部かかっておりどこも開く気配がない。
「抉じ開ける?」
類の提案を慌てて止める。
「鍵を探そう。ここの看護師を探して見よう。」
「でも、敵の可能性もあるけど?」
確かに。落ちててくれたらそれが一番なんだけどね。
「とにかく、抉じ開けは禁止。看護師見つけたら話かけて危ないなら逃げる。鍵が落ちてる可能性も考えて床見ながらいこう。」
皆納得してくれた様で、また廊下を歩いていく。
愛姉の目を頼りに進んでいくととある病室に複数の人がいると言う。
人数は3人。
「ドア、開けてみるから下がってて。」
ゆっくりとドアを開くとそこには2人の女性と1人の男性がいた。
「え?あー、優じゃん!!」
こちらに気づいたらしく1人の女性が近づいてきた。
「えっと、どうして私が優だと分かったんです?姿は登録したアバターのものだからぱっと見じゃ分かんないはず。加えて会話もしていないのに…。」
能力か?千里眼的なやつか?
「あー、私のアイテムだよ。ほら、プレイヤーの姿と名前載ってるでしょ?これで名前と顔、生存が分かるようになってて。だから生きて会えて良かった!」
その女性はそう言ってハグしてくる。
私にハグする人なんてそうそういないからある程度までは絞り込めたけど…。
「その顔、私の正体わかってないね。寂しいなー?」
「そう言われても…ん?もしかして…いや、でも…。」
脳裏にとある女性の姿がよぎる。
いきつけのバーの店員さんで私を甘やかしてくれる優しい人。その人のこと、私はかなり慕っている。ついつい甘えたくなるくらいの姉御肌の人。甘えたな私は即鬱陶しいくらいに懐いた。
「もしかして、ライチさん…?」
間違ってたらやばい。色々終わる。
「当たり!え、よく分かったね。」
「まあ、私にこういう感じで話かけてくる人って限られてくるから。」
「そ、私、私!あとはなさんとコウタりんも一緒だよ。」
「え!?」
意外だった。はな先生がいる事が。
はなさんは私のいきつけの整体の先生だ。とても優しくて美人という反則的なステータスも持ち主。私が意外と言った訳はこの人、怖いもの…ホラーやグロいのが苦手なのだ。苦手なのにわざわざゲームを起動するとは思えない。
「なんではな先生が…。こういうのは苦手なんじゃ…。」
「月夜さんが心配だったから。ゲーム始める前にうちに予約入れてたでしょ?時間過ぎても来ないし、電話もLINEも繋がらなくて…。そしたらタイムラインにこのゲームやるって月夜さんが書いてたから何か手がかりになるかもって起動したらって感じで。」
「っ!!」
絶対怖かったはずなのに、笑顔で話てくれていて、胸が痛い。
「えっと、ライチさん、私は優のパートナーの月村一夜です。ちょっと質問しても良いですか?」
「ん?ああ、あの月村一夜ちゃんね。なるほど。」
「え?」
「よく優が話てるんだよ。優しい姉の様な人だって。」
事実だけどちょっと本人に言われると恥ずかしい。
「それで、質問って何?」
「それ、プレイヤーの人数も見れるんですよね?今、死んじゃった人含めて合計の人数って分かります?」
「分かるよ。今プレイヤー総数は2500人になってて死者は780人。」
「っ!?いきなり増え過ぎじゃない?」
「ちなみに私とコウタりんは第1ステージからいたけど、はなさんはこのステージから。」
「…つまり、今から始める人達はこの第2ステージからスタート?」
「あ、私がここに来る前に宙に浮かぶ文字で色々説明を受けたけど、“第1ステージはクリアされ、主となる霊が居ないので第2ステージからスタートとなります。”って言われた。」
なるほど、誰かがクリアすればもれなく皆クリアって訳ね。
「クリアしたのは私達。その後にはなさんはゲームを起動したって訳だ。その…ありがとうございます。わざわざ私を心配して…。そして心配かけてすいません。私のせいで巻き込まれてしまって。怖いの苦手なのに…。」
「無事で良かった。」
「っ!!」
ずるい。
そんな優しく微笑みながら言われたら甘えてすがってしまいそうになる。
「と、とにかく、せっかく合流出来たんだし一緒に行こう。お互いの能力も鍵となると思うし。」
慌てて言って、感情を誤魔化す。
ここに来てから無理をしてきた。私のせいで巻き込んでしまった愛姉を守る為必死だった。
しかし、今目の前にいる人達は無条件に甘えさせてくれて優しくしてくれる。
だから気が緩みそうになる。
「もちろん!」
そう笑ってクシャっと頭を撫でてくるライチさん。
「っ、ま、まずは私達の情報から…。」
私は自分達の能力、アイテム、これまでのことを話した。
「なるほど。とりあえず私達のアイテムと能力から教えるね。」
ライチさんが説明してくれた。
ライチさんのアイテムはさっき話題にあがったプレイヤーの名前と生存してるかが分かる魔法のノート、能力は時間を止めること。しかし、3回までという回数制限つき。
まあ、そりゃそうか。回数制限なかったらチートだよ。しかし、良いスキルをお持ちで。
コウタさんは瞬間移動の能力。こちらも制限があり、続けて使用は出来ないとのこと。アイテムはペンライト。特殊なペンライトらしく、悪い霊を遠ざける効果があるらしい。第1ステージで春日清彦に会ってペンライトを振ったら逃げて行ったと。
「その光見タら気分悪クナッタ。近寄れナカッタ…。」
そう春日清彦が言う。
よし、ペンライト持ってコウタさん十八番のヲタ芸やろう!安全地帯出来上がるぜ!
…と、まあ冗談はさておき、この2人、中々にチートプレイヤーだな。あ、勿論良い意味で。凄く頼もしい。
そしてはな先生はアロマオイルをアイテムに持っている。さっすが、こんな場所でも整体を…な、訳ないよね。アロマオイルの香りで気持ちを落ち着かせたり、魔除けにもなるのあるらしい。そして能力は水を操るもの。動かしたり、凍らせたりできる様だ。こちらもチートプレイヤーだな。
何はともあれ、ものすっごい心強い味方が加わった訳だ。
「そうそう、私達紅蓮とはぐれちゃってさ。一緒に探してくれない?」
ライチさんが紅蓮と呼ぶ人物。私が行きつけバーのオーナーである。
かなりノリが良くて豪快で優しさもあって。例えるなら現世の坂本龍馬かな。まあ、あくまで私の中では、だけども。
「勿論です。はぐれてっていつから?」
「このステージに来てからだよ。飛ばされてここに3人来たけど、何故か紅蓮だけ居なくて…。」
まじか。運悪すぎだろ。え?新手の嫌がらせかなんか?兎に角、早く合流しなきゃ。
「紅蓮さんについての情報もっとない?皆アバターの姿だからわかりにくい。」
「髪は赤で、目も赤。能力は火を操ることで、道具はライターだよ。」
「なるほど。了解。あ、私達は鍵を探してるんだ。」
「鍵?何の?」
私はナースステーションの話をする。
「なるほどね。つまり情報を得る為に引き出しの鍵を探してたのね。…私、鍵なら持ってるよ?
ただ、必要なとこの鍵かは分かんないよ?」
そう言ってライチさんは3つの鍵が入ったキーケースをポケットから取り出す。
「これ、どうしたの?」
「拾ったの。この部屋に落ちてたから使えるかもって思って。」
ナイス、ライチさんファインプレー!
「とりあえず一旦ナースステーションに戻ろう。愛姉、気配の探知よろしく。」
「うん、任せて。」
再び私達はナースステーションへと向かう。
「ナースステーションに気配が1つあるよ。」
「…物陰に隠れて様子を伺おう。もしかしたら仲間になってくれるかもだし、その反対で危険かもわからない。」
「そうね。いざとなったら私が能力で助けてあげるから大丈。」
そう言ってくれるライチさん。頷くコウタさん達。今まで巻き込んでしまったから私がなんとかしないとってずっと気をはっていたから安心してしまう。
様子を伺っていると、影が揺れて、1人の看護師の女性が出てくる。
「…い、…の…て…。」
ボソボソと何か喋っている。
聞き取ろうと少し近づく。
「ない、私の鍵。どうして。どこ。」
もしかして鍵を落とした看護師?その鍵ってまさか…。
「あ」
ふと、めまいがして倒れてしまう。
「誰!?」
気づかれてしまった。
「す、すいません。私人を探してて。…貞岡尚ちゃん、知りません?」
「え?今何て…?」
「貞岡尚ちゃんを探して…っ!?」
看護師の顔付きが恐ろしく禍々しいものへと変わる。
「ああああああああああっっっっっ!!!」
突然発狂した看護師が飛びかかってきて首を締めてきた。
しまった…。危ない奴だった。こいつがここの霊?
なんて…悠長なこと考えてる場合じゃない。
「っ」
息が苦しい。引き剥がそうにも力が強すぎて無理。
「優ちゃん!!」
いきなり視界が眩しくなり、刹那ー
「あああああっっっ!!!」
叫び声が聞こえ、急に酸素が入ってきてむせ返る。
「けほけほっ!!」
助かった。コウタさんがペンライトで追い払ってくれたようだ。
「ありが…とう。」
立ち上がろうとするが頭に酸素がまだ届いてなくてよろけてしまう。
「ああ…うう…。」
しかし、看護師の方から去ってくれた。
「とりあえず、優は休憩しな。私が側について一緒に見張ってて、ほかの人は資料探し。」
ライチさんがそう言って私の右横に座る。さらに左横に春日清彦が座る。
「君はどうして頑張るの?」
ふと、春日清彦が尋ねてくる。
「え?それは脱出して現実に帰りたいから。」
「それだけには見えない。…無理してる。」
鋭い。根っこはかなり良い人なのが分かる。
「もしかして心配…してくれるの?」
「心配。君は尚ちゃんに雰囲気が似てる。自分より人を優先させて自分を消耗していく。それこそ擦り切れるくらいに。」
「ありがとう、でも大丈夫。」
嘘だ。
私は嘘をついている。
本当は泣きたいし甘えたい。
私は大好きな愛姉やライチさん達を守らなきゃいけない。絶対失いたくない。その為ならなんだってやる。そう強く思う反面、怖い。本当に自分が守れるのか、皆はそれを望んでいるのか。私は本当に守りたいの?守って頑張って、褒めて貰いたい、認めて貰いたいだけなんじゃないのか。
そう、色んな感情や思考が入り乱れていて、平然を装うのもやっと。
「嘘はいけない。尚ちゃんもそうだった。無理して笑って。僕はそんなの望んでナイ。」
「望んで…ない。じゃあ、何を望んでいるの?」
「無理し過ぎないで。壊れてしまう前に頼って欲しい。そこのお姉さんも同じ。きっと。だから側にいる。」
確かにライチさんは気が効く。現実世界でも私の気持ちを察して動いてる時が多くあった。
「優、1人で頑張んなくて良いよ。一緒に頑張ろう。」
そう優しく頭を撫でてくれる。そに温もりが嬉しくて嬉し泣きしそうなのをこらえありがとうと告げる。
その時ー
「あった!!」
愛姉の声が響く。
「あった?もしかして…」
「そう、貞岡尚のカルテ!!」
早速皆で情報を確認する。
貞岡尚(17)
病棟、B棟精神科。
特殊な精神疾患あり。二重人格うたがい。
又、別に白内障、エイズがあり。
白内障は後日手術予定。
そこまで見たところで春日清彦涙する。
「良かった。尚ちゃん…眼を治して貰えるんだね。」
「良かったですね。」
これで成仏できる筈。そう思った。
しかし、変わらずに春日清彦はそこにいた。
「…春日さん?成仏しないんですか?目的は達成した筈ですよね?」
「まだ。まだ成仏できない。だって新しくしなければならないことができたから。」
「新しく?」
「僕は君達に救われた。尚ちゃんのことが気になって暴走していた僕を止めてくれて、尚ちゃんをちゃんと手術してくれるって答えを見つけてくれた。だから、恩返ししたい。僕にできることで。」
「…ありがとう。心強いわ。」
春日清彦はニカッと無邪気に笑う。こんな風に笑うんだ。
「とりあえず続き見よう。」
私の言葉に皆頷く。
白内障手術成功。視力の回復の為リハビリを計画。
精神病検査、二重人格ではない。しかし、所々記憶が抜けてしまうことから記憶障害がある可能性が高い。
精神疾患について、総合失調症、うつ病、不安障害、パーソナリティ障害の症状が見られる。
要治療。
あとは、内服やバイタルが書いてあるだけで終わった。
「バイタルは血圧がたまに低いけれど私もこのくらいの時あるし、大きな問題にはならないかな。」
「私が気になったのは、エイズに対して何も書いてなかったことかな。」
「そうね。治療しなかったのかな?現時点では何とも…。とりあえず、ここに入院していた。さっき襲いかかってきた看護師は何かしら知っている。それはわかったわ。でも…。」
正直又会っても襲われるだけだ。第1ゲームの時みたいに看守みたいな助っ人キャラがいたり、お助けアイテムかなんか必要だな。
「この後どう動くべきか…。目的を決めなきゃね。」
「だったらロッカー。職員のロッカーがここにもある筈…。どうかな?」
「なるほど、手がかりがあるかもしれないものね。よし、行こう。」
そうして私達はロッカーを探すことにした。
ロッカーはナースステーションから少し離れた所にあった。
「大丈夫、中には誰もいないよ。」
愛姉の目で状況を確認してもらい、ドアに的なをかける。
キイー。
鍵はかかっておらず、音をたてて開いた。
ロッカーが8個並んでいて、全部鍵が差しっぱなしだ。
「とりあえず一個一個確認しよう。」
ロッカーは2列並んでいるので私と愛姉で開けて行くことにした。
「私は左するわ。愛姉は右、お願い。」
「うん、わかった。」
片っ端から開けていく。
1つ目、空。
2つ目、…名札が入っている。顔写真付きで。あ、この顔、私を襲った看護師だ。“波獺庚(なみかわかのえ)”。それがあの看護師の名前のようだ。
それ以外は何もない。
3つ目、空。
4つ目…
「痛っ」
思わず声が出てしまった。
「優!?」
心配そうに愛姉がかけよってくる。
「あ、ごめん。大丈夫だから。」
「大丈夫じゃないよ!血が…。」
床に血が落ちていたようで怪我したと知られる。
「このくらい、私の能力で治るから。」
私はそう微笑むと能力を使う。
徐々に血が止まり、傷は癒えた。…深く切っていたら治らなかっただろうから危なかった。
私の開けたロッカーにはメスが沢山入っていた。
「でもよかった。怪我したのが私で。」
「良くないよ!いつものように言ってるけど、優は1人しかいないんだからもっと自分を大切にしなきゃ…。」
「…ごめん。でも皆も同じように大事だもの。痛いのは慣れてるから私は大丈夫。」
「…」
愛姉は何か言いかけてやめる。
疑問思ったが、それよりもここがいつ、危険になるかもわからないので話を進めることにした。
「こっちは私を襲ってきた看護師の名札だけだった。そっちは何か手がかりなりそうなのあった?」
「これ…。」
愛姉は封筒を取り出す。
「これ以外のとこは空っぽだった。」
封筒を受けとり、中身を取り出してみる。
大量の紙切れが出てきた。
紅黒い色が見える。まるで酸素に触れて時間の経った血液の様だ。
これは…文字が殴り書きしてある?
髪を拾い上げる。枚数は14枚。
一枚一枚、目を通す。
憎い。
許さない。
どうして。
何で。
悪魔。
助けて。
殺される。
怖い。
嫌だ。
痛い。
悲しい。
ごめんなさい。
病気が…。
貞岡尚。
これが14枚に書かれていた文字だ。
「この病院で一体何が起こったの?」
「尚ちゃん…。」
「貞岡尚は精神疾患を持っていたなら、精神疾患で何か事件が起こった可能性ありそうだよね。」
ライチさんの言葉を聞いて改めて紙切れを見る、
「…あくまで私の推測だけど、これ書いたのは私を襲った看護師、波獺庚。何かをきっかけに尚ちゃんは精神疾患疾患が出て事故で大切な人が、もしくは自分自信が怪我かなにかをした。いや、違う。この恨みから察するに大切な人が後遺症が残るほどの重症、昏睡、死亡の可能性が高い。それで、波獺庚は貞岡尚に食ってかかる。精神疾患のせいでと理性では思ってても感情は止まらなくて…。それで罪悪感が後から出て謝るんだけどまた精神疾患が発動して殺されかけた。…辻褄は合うと思う。」
「優、まるで探偵みたい。」
「ミステリーじゃなくてホラーゲームがけどね、ここ。まあミステリー小説読み漁ってた時期があるからなんとなくって感じ。」
愛姉は某探偵アニメ好きだからかちょっと嬉しそう。
「この後どうしよう?まだ波獺庚に会うには早い。」
「じゃあ、波獺庚以外の霊を探して見ようよ。私の目で気配探して…。波獺庚だったら逃げれば良い訳だしもしかしたら紅蓮さんに会えるかもだよ?」
「そうだね。…お願いする。でも、無理のない様に、ね。」
「優がそれ言う?」
そう呆れたように笑う愛姉。
確かに私が言っても説得力ないか。
愛姉の目を頼りに進んでいくと薬品管理室と書いてある所へ辿り着いた。
「ここに気配が3人分ある…。」
「入ろう。いざとなったらライチさん、時間を止めて欲しい。あ、その前に、時間止めるのって回数以外に制限ってある?知りたいのは一回の使用時間と動ける人について。」
「んー、最大15分。止まってる時に動けるのは私だけ。」
「つまり、危険になって止めて貰っても私達は動けないから一人一人運んで貰わないとだめなのか…。」
全員で中に入ったらライチさんへの負担が多い。
「よし、じゃあ中にはとりあえず私、ライチさんで入る。安全だったら呼びにくるから皆は待ってて。」
「え?」
愛姉は驚いた顔で私を見ている。
「皆で行ってもしも危なかったらライチさんに負担がかかる。だからこの方法で行く。」
愛姉は少し戸惑っていたが頷く。
「気をつけてね?」
「ええ、分かってる。」
中に入ると薬品独特の匂いが鼻をくすぐる。
「薬品の匂い好きだな。」
何て笑いながらライチさんがいう。そういえば前にも言ってたな。
この状況でも言える何て肝が座りすぎだよ。流石というか何というか…。
とりあえず姐御と呼びたい。
なんて半分冗談はさておき、薬品が並んでいる列を抜けると又扉があった。
扉を開くと愛姉が3人と言ってたが都合よく3人揃っていた。
「あー!紅蓮!!」
まじか!!無事で良かった。
「おー!ライチちゃん。良かった、合流できて。と、そっちは?」
「私だよ、優だよ。」
「優ちゃん!?偶然やね。よく生き残ってたよ。」
私、悪運だけは強いからな。悪運だけは。
とにかく、合流出来て良かった。
紅蓮さんが無事いるならあとの2人も危険ではないだろう。
「話はライチさんから聞いてます。無事で良かったです。ところでそのお二人は?」
「ああ、この世界の霊だけど助っ人キャラだから安全。」
「まじか!こっちは優ちゃんが危ない目にあってたのに。」
「え?大丈夫ね?」
「なんとか。コウタさんが助けてくれましたし。お陰で情報が少し手に入りました。」
「…もしかして貴女は女性看護師に襲われたんじゃないですか?」
霊のうちの1人の白衣に聴診器を首からかけた医師らしき人物が言う。
「はい。看護師の名前は波獺庚。様子と情報から察するに貞岡尚に怨みをそれもかなり強く持っている様子でした。彼女の名前を口にした瞬間豹変し、襲いかかってきました。」
「…そう、ですか。ああ、申し遅れました。私は鶴羽燈弥(つるばねとうや)。貞岡尚さんの眼の治療にあたった医者です。」
「尚ちゃんの眼は治ったのか?」
春日清彦の問いに鶴羽燈弥は頷く。
「ええ、治りましたよ。」
「教えて。看護師の暴走のワケ。」
「そうですね。…彼女は元々、僕のとこの看護師でした。丁度、貞岡尚さんが入院するくらいに精神科へ異動しました。彼女はとても優しい人で、患者に慕われてましてね。それを買われたのでしょう。」
「でも、彼女は望んでいなかった。」
もう1人の白衣を着た女性が言う。
「望んでいなかった?えっと…」
「ああ、私は九条千亞(くじょうちあ)。精神科の医者だ。彼女…波獺庚くんはそこの男の幼馴染で恋心を持っていた。だから同じ眼科という空間が失われるのが嫌だったのであろう。しかし、上が決めたことだからどうしようもなかった。そんな中、貞岡尚が入院し、眼の手術が決まった時、彼女は喜んでいた。不謹慎だが想い人に会えると。だが、そこで事件は起きた。」
「それってもしかして…。」
「ああ、君の察する通り、彼女が貞岡尚を怨む事になる。」
「あれは事故なんだけどね。彼女は手術が終わったあと、麻酔が切れて…。その時彼女の目は包帯で覆われていたから不安を覚えて、そこから精神疾患が出て、少し暴れてしまいましてね。僕の眼が失明してしまって。あ、霊になってからは視力は戻りました。」
「それで…?その後が本題ですよね?」
「ああ。その現場に勿論、波獺庚くんは居合わせた。彼女は普段温厚な分、キレたら厄介でな。とりあえず仕事中だったからその場は何とか理性で抑えて麻酔で再び眠らせその場は終わった。しかし、徐々に耐えきれなくなり、数日経って、波獺庚くんは貞岡尚くんを殺そうとする。しかし、その日に彼女は見てしまったのだ。」
「見てしまったって?彼女にとって良くないこと…。想い人が部屋に居た…とか。」
「半分くらいは正解だ。君は頭がきれるな。嫌いじゃないよ。それはともかく、そうだ。貞岡尚くんの部屋には鶴羽燈弥くんがいた。まあ、この病院をやめるって話をしに行ってたらしいのだが、気が動転していた彼女には会話の内容なんて聞こえないだろうな。次の日、彼女は貞岡尚に問いただした。そして貞岡尚くんはまた精神疾患を発動し、豹変した。その後、波獺庚くんは私のとこに逃げてきた。首から血を流しながら「助けて」と。」
「ようやく繋がったわ。」
封筒の中身と一致する。
「とりあえず、外に出て皆と合流しよう。」
皆が頷くのを確認し、外へ向かった。
「皆、お待たせ。」
「優!!遅いから心配したよ。良かった、無事で。」
「もう…愛姉は心配症だなあ。」
とりあえず 私はさっき中で話してたことを皆に説明した。
「なるほど。じゃあ、ここのボスはやっぱりあの看護師なんだね。それで、どうするの?月夜さんの事だから何かするんでしょ?」
柳類が私に言ってくる。鋭いな。
「まあ、ね。そこのお医者さんの霊が協力してくれるなら…だけれど。」
「私がかまわん。元々もう死んでる身だからな。今更どうなろうが変わらない。」
「私も、彼女を止めたい気持ちは一緒ですし、彼女の暴走は私にも原因がありますから。」
「と、言うわけで私とこいつは了承している。頭の良い君の実力に興味がある。あとは従うよ。」
そう悪戯に笑う九条千亞。良い性格してんな。
「プレッシャーかけるのやめてください。私は頭が良いんじゃなく、こういう状況に慣れただけなんですから。」
本当は頭が良い訳ではなく、似たようなゲームを多々やっていたからなんとなくこうすれば良いと分かるのだ。
「とりあえず、波獺庚を探して鶴羽燈弥先生に名前を呼んで貰い反応を見ます。会話が通じるならそのまま話で説得でもして貰います。」
「分かったよ。私に出来ることはそのくらいでしょうし。」
「とりあえず、話が通じたら私とライチさん、コウタさん、それから九条千亞先生が近くまで行きます。質問をいくつかして成仏できるようにします。」
「理解した。私はかまわないよ。大体、あいつは決まった時間に決まった場所にいる。この時間だと…医務室にいるんじゃないか。」
壁にかかった時計を見ながら九条千亞は言う。
「なるほど。…そういえば、私達がこの世界に来てどれくらい経ったんだろうね。」
私が来たのはお昼の12時半。整体を予約してたのは夕方の18時。つまり私と愛姉は少なくとも5時間半はここにいることになる。
「はな先生は何時くらいにここに?」
「仕事が終わって帰ってからだから大体22時くらいかな。」
「なるほど。少なくとも私と愛姉は7時間半はここにいるわけか。」
「そんなに!?なんか言われたたらお腹空いてきたし眠くもなってきたかも。」
確かに私もお腹は空いてないが喉が乾いている。
しかし、こんな場所に水はまだしも食べ物なんて…
「あ…?っ!!」
一つの光景が脳裏を過ぎる。
まだ、第1ゲームが始まってすぐのこと。死体を貪り食べていた人物がいたのを思い出した。
それからその前見つけた死体の握っていた紙切れ。欲に負けての部分がもしも空腹だとしたら…。全ては辻褄が合う。
「優?どうしたの?顔色悪いよ?」
「え?ああ、…ん、何でもないよ。」
言ったらきっと不安にさせるし気分悪くなる。只でさえ、生死が危うい状況の中で余計なことは言わないに限る。
「無理しちゃ駄目!休もう?」
「私は大丈夫。きっと暗いから顔色悪く見えるんだよ。」
「…嘘つき。」
懐中電灯で顔を照らし愛姉は言う。
「良いから、進もう。もう、このステージを抜けれるんだから。」
そう言って私は歩き出す。納得できないといった顔で愛姉も渋々歩き始めた。
歩いていると、九条千亞が横に来る。
「君は意外と嘘が下手だな。何か気になっていることがあるんだろう?」
「…貴女は霊だから話ても大丈夫かな。実は…。」
私はさっき考えていたことを話す。
「なるほど。この世界に連れて来られた人間は空腹や狡猾が普通にあり、長くいると餓死の恐れがある。そういう欲に負けた人間は最悪仲間を襲って食べる輩がいると。」
「勿論私は自分の仲間は大丈夫って信じてる。皆には余計なことは考えて欲しくないだけ。変な考えごとしてたら命取りになってしまうもの。」
「意外に君はアホか。」
「は?」
予想外の言葉に私は思わず変な声が出た。
「まさに今、君が命取りな状況にあるのに人の心配とはな。…君はもう少し自分を大切にしなさい。」
そう言いながら、頭を撫でてくる。
…私頭撫でられるの弱いんだよ。甘えたな性格が表に出そうなのを隠して笑う。
「ありがとう。私はもう吹っ切れたわ。貴女が話を聞いてくれたから。」
と…。
何か声のようなものが聞こえる。
「…いたい。しくじったわ。…だれか…。」
女性の声のようだ。
声の方へ行くと2人の女性がいて1人は足を怪我していて、もう1人はオロオロと困った様にしている。
「あの…大丈夫ですか?」
私の心配のすぐ後に
「あ、みっしぇる!!」
とライチさんの声が響く。
「え?」
どっちが?
みっしぇると呼ばれた人物は私の行きつけのバーの元店員さん。私と食べ物の趣味が似ていてたまにご飯に行ったり、お互い、バンドをしているので練習がてらカラオケに行ったりする。何より、料理好きでたまに作って持って行った私の料理をとっても美味しそうに食べてくれる優しく面白い人だ。
「え?え?」
みっしぇると呼ばれ、反応したのはオロオロしていた方の女性。
「まじですか。」
ここまで知ってる人が集まっているとかすげえな。最早偶然でなく必然を感じる。
「私だよ、ライチだよ。」
「ライチさん?ってことは他の人も私が知ってる人?」
「そうそう。紅蓮にコウタりんに優ちゃん。と、そのお友達や先生。」
「良かった、今まで1人で人と会えたって思ったら怪我してて…。」
「私に任せて。」
私はさっき自分の傷を癒した時と同じ様に能力を使い、歌で傷を癒していく。
傷は少し深かった様で、完全には治せなかった。とりあえず、傷からの出血は止まったが少し後が残ってしまった。
「すいません、私の力じゃここまでしか治せませんでした。」
「いえ、助かったわ。ありがとう。…もしかして貴女、月夜さん…?」
「はい、そうですが…。」
「私は貴女の担当医師よ。邦孟陸奥(くにたけむつ)よ。」
「え!?」
もしかしてこの人もはなさんと同じようにここに…?
「担当医師…?」
心配そうにしている愛姉。
「ああ、皮膚科だよ。ほら、私前にストレス性皮膚炎起こしてるって言ってたやつ。なかなか治んないからって精神科じゃないけど心の治療も一緒にしてくれているんだよ。」
「といっても、私は話を聞くだけよ?何もしてない。」
「ううん、いつもありがとう。でも、何で先生まで?」
「予約時間、すぎても来ないから心配になって。LINE通じないし…。そしたらタイムラインにここのことが書いてあって…。」
…ブルータス、お前もか。
「なんか聞いた台詞。」
皆まで言うな…。なんか恥ずかしくなってきたではないか。
しかし、私が皮膚科予約してたのは整体の2日後の午前10時半。つまりは現実世界はそんなにも時間が経っているということ。なるべく早く皆を元の世界に返さないと。
その焦りを察したのか、九条千亞が傍に来て肩へ手を起きゆっくりと首を横にふる。
おかげで焦りがなくなり、冷静さを取り戻す。
「ありがとう。おかげで冷静になれた。」
「それは何より。」
「…2人とも、私達と一緒に来て欲しいの。力を貸して。この歪な世界から脱出する為に。」
私の言葉に2人は笑う。
「そんなの当たり前じゃん。水臭いよ、優ちゃん!」
「そうよ。それに、私は貴女に助けられた。断る理由がないわ。」
「まあ、完全には治ってないけど…。でも、ありがとう。」
改めて2人のアイテムと能力を聞いた。
みっしぇるはアイテムは赤ワイン。って酒かよ!?らしいっちゃらしいけれども…。しかし、脱出ゲームにまで酒とはブレないな。本人曰く、酒のない世界じゃ生きていけないらしい。それで赤ワインか芋焼酎か悩んで持つ運びやすい方にした、と。類もコーヒーないと死ぬって言ってたな。案外似た者同士なのか?
それはともかく、能力は私と同じ歌。ただ、私のは能力アップと治癒の能力なのに対して、みっしぇるは相手への負荷や行動停止がメイン。そして私達に共通して言えることだが、歌の能力を使っている時はかなり集中しないと発動しない為、能力を使っている間は動けない。つまり動ける誰か一緒にいないと意味のない能力。
一方、邦孟先生のアイテムは手術セット。流石医者、というべきか。中には麻酔やらメスやら、縫合に必要な一式、手袋が入っている。そして能力は鍵を開ける能力。手をかざすと自動的に開くらしい。
とにかく、そんな2人を仲間に迎え、波獺庚が居るという医務室へと向かう。
九条千亞に案内され、たどり着いた医務室。扉は開きっぱなしで、中からはすすり泣く声が聞こえる。波獺庚のものだろうか。
「じゃあ、お願いします。」
私の言葉に鶴羽燈弥先生は頷く。
ゆっくりと、波獺庚へ近づき、声を掛ける。
「か、庚くん。」
呼んだ瞬間、ピクリと反応がある。
「燈弥…クン?」
反応あり。
「もう、いいんですよ。僕たちは既に死者の身なんですし。僕は今、ちゃんと目が見えてるし。ね?」
優しい声でそう宥め、彼女はゆっくりと頷いた。
それを確認し、私、ライチさん、コウタさん、九条千亞で2人に近づく。
「…あのっ、」
私が声をかけようとした時、彼女は私を見て目の色を変える。
やばい!!
私は直感で悟った。
刹那、波獺庚は私に掴みかかってきた。
「ぐっ」
首を強く締められて息が出来ないし喋るのもままならない。
「貴女ダケは許さナイ!!貞岡尚!!」
彼女には私が貞岡尚に見えているらしい。暴走させてしまった。
「違う!彼女は貞岡さんじゃないですよ。」
そう鶴羽燈弥が言うが、頭に血が上っている彼女に聴こえていない。
「がっ、…ふ…」
爪が喉に食い込んで血が滲み始める。
ライチさん達が私を助けようとかまえたが、九条千亞が何故かそれを止める。
そしてつかつかと私達の方へ歩いてきたかと思うと、いきなり波獺庚を殴り飛ばした。
いきなりの事で皆理解が出来てない様で固まったいた。
床に倒れた波獺庚の胸ぐらを掴み立たせる九条千亞。
「波獺くん、いい加減にしてくれ。鶴羽燈弥に嫌われるぞ。」
「あんたに何が分かるの!!」
「彼女は月夜優であって貞岡尚じゃない。お前が勝手に暴走して関係ないことに巻き込んでいるのはわかる。目を覚ませ。あの子、一見似てるかもしれんが全く似てない。」
「っつ!!私は!!」
「あの子を襲えばそれこそ貞岡尚の思うツボだぞ?」
「く…。ご、めんなさい。」
正気に戻った様であの怖い顔はなく、弱々しい顔へとなっていた。
「…そんなにも私は尚ちゃん似てたんですか?」
2回も殺そうとしたくらいだ。彼女の中で何か似てたんだろう。
「似ていたわ。その一見優しそうなでも腹黒いとこ。」
「腹黒はまあ否定しない。けど優しくなんてないわ。」
「いい子ちゃんぶってるとこも似てる。」
「私がいい子な訳ないわ。私、この作戦で貴女を説得できなかったら容赦なく殺すつもりだったし。」
「ふふ、私に殺されかけといてよく言うわ。」
「私、自分の目的の為なら手段を選ばないの。だから最悪そこの2人をけしかけて止めるつもりだったわ。」
「ふふふ、前言撤回するわ。やっぱり貴女は全く似てない。」
これでこのステージはクリアかな?
「…ありがとう。もう一度燈弥に会わせてくれて。」
それだけ残すと波獺庚は光となり消えていった。
その後すぐ、鶴羽燈弥を後を追いかけるかの様に光となり消えていく。
まるで蛍灯の様に…ー。
「すごいじゃん、優ちゃん!またクリアさせたの優ちゃんだよ。」
「うん、ありがとう。…というか、なんでまだいるの?九条千亞先生…。」
そう、波獺庚と鶴羽燈弥の2人は成仏したが、この人がまだしない。
「貴女の未練は何?」
「未練はないよ。」
「は?」
じゃあ何故成仏しない?
「何で成仏しないかって思ってるね?」
分かってて言ってるな。本当、いい性格してるわ。
「興味が出たのさ、君に、ね。」
そう言って顎をクイっと持ち上げてくる。
これが少女漫画であればドキってトキメクシチュエーションなんだろうが、生憎、ここはホラーゲームで相手は女。モチのロン、私も生物学上女。トキメク筈がない。別の意味でドキドキはするがな。
「趣味悪いですね。」
顎を持ち上げている手を振り払い歩き出す。
「決めたわ。私、貴女について行くわ。色々気になって仕方ない。」
怖いよ!目や息遣いがハンターだよ!
まあ、危なくなったら誰か助けてくれるだろうし、ほっといたらこのステージがクリアにならないかもしれない。
「…好きにして。」
そして皆の所へ戻り、2人が成仏したこと、九条千亞が仲間としてついてくることを話す。
「優が無事で良かった。」
「当たり前でしょ。こんなとこで死ねないって。」
「よく言うよ。庚くんに殺されかけたのに。」
「え!?大丈夫?痛いとこない?怪我してない?」
「だ、大丈夫だって。」
良かった。能力で怪我治しておいて。
と、その時だった。
「あ…。」
移動の時間がきたようで…。
暗闇へと吸い込まれていく。
これから後悔と自分の弱さという罪を背負うことになるだなんて知らずに…。
思えばこの時から私の心は甘えきっていたのかもしれない。
近くには空のベット。“貞岡尚”と名札が下がっている。
「ここは貞岡尚の病室の様ね。」
「尚ちゃん…。」
空のベッドを悲しそうに見ている春日清彦。
「とりあえず、情報を集めなきゃいけないよね。出る?今なら人の気配は近くにないよ?」
愛姉、積極的に言ってくれて助かる。
「そうだね。歩きながら情報を一旦整理しよう。」
皆の同意を確認し、部屋を出る。
「とりあえずこのゲームの参加者は108人いて、第1ステージ終了時点で残ってる人数は50人。」
類が人数をまとめてくれる。
「そだね。ちなみに私は最初に歌の能力と簡易救急セットをアイテムにスタート。相方の一夜は目の能力とアイテムは懐中電灯。」
「私はアイテムはコーヒー。しかもこのコーヒー、不思議なことに飲み終わったら中身が勝手に満タンになるんだよ。」
コーヒー大好きな類らしいな。コーヒーなしじゃ生きていけないって言ってたこともあるくらいだし。
「能力は腕力かな。さっきのステージではかなり重いの片手でどかせたし、檻曲げれりもした。」
おおう、頼もしいな。仲間で良かった。
プレイヤーイコール仲間になるなんて考えは命取りだが、類に関しては心配はいらない。何より、愛姉がいる限り裏切りは分かるから安心して居られる。
「とりあえず今からの目的はここの鍵となる霊を特定すること。その霊の情報を集めて成仏させるか仲間にするか。あとは、貞岡尚の情報も集めなきゃいけない。このゲームのゲームマスターならRPGでいうラスボス。一番最後に必ず会わなきゃいけない。その時の為に。それに春日清彦の為に。」
「えっと、優に提案があるの。柳さんみたいにまだ生き残ってるプレイヤーも探して可能なら仲間にしない?その方が有利にゲームを進めて行けると思う。」
成る程、一理ある。道具や能力を考えると自分達じゃ進めないルートも進める様になるかもしれない。
「そうだね。それで行こう。仮に嘘ついてたら愛姉が分かるから本当に仲間になってくれるかは分かりやすいしね。大人数は好ましくはないけれど…能力は多種多様あった方が良いと思う。」
「私も意義ないよ。ていうか、助けて貰ってるし私がどうこう言える立場じゃないけど。」
「気を使わないで。それに気になることは遠慮せずに言って欲しい。何か気づけることがあるかもだし。」
「ん、分かった。じゃあとりあえず提案するわ。ナースステーション行かない?患者とかの情報あるはずだよ。」
「そうだね。私も同じこと考えてたわ。」
それから皆の意思を確認し、同意を得たところでナースステーションへ向かった。
ナースステーションには誰も居ない様で、引き出しを早速開けようとした。
しかし、鍵が全部かかっておりどこも開く気配がない。
「抉じ開ける?」
類の提案を慌てて止める。
「鍵を探そう。ここの看護師を探して見よう。」
「でも、敵の可能性もあるけど?」
確かに。落ちててくれたらそれが一番なんだけどね。
「とにかく、抉じ開けは禁止。看護師見つけたら話かけて危ないなら逃げる。鍵が落ちてる可能性も考えて床見ながらいこう。」
皆納得してくれた様で、また廊下を歩いていく。
愛姉の目を頼りに進んでいくととある病室に複数の人がいると言う。
人数は3人。
「ドア、開けてみるから下がってて。」
ゆっくりとドアを開くとそこには2人の女性と1人の男性がいた。
「え?あー、優じゃん!!」
こちらに気づいたらしく1人の女性が近づいてきた。
「えっと、どうして私が優だと分かったんです?姿は登録したアバターのものだからぱっと見じゃ分かんないはず。加えて会話もしていないのに…。」
能力か?千里眼的なやつか?
「あー、私のアイテムだよ。ほら、プレイヤーの姿と名前載ってるでしょ?これで名前と顔、生存が分かるようになってて。だから生きて会えて良かった!」
その女性はそう言ってハグしてくる。
私にハグする人なんてそうそういないからある程度までは絞り込めたけど…。
「その顔、私の正体わかってないね。寂しいなー?」
「そう言われても…ん?もしかして…いや、でも…。」
脳裏にとある女性の姿がよぎる。
いきつけのバーの店員さんで私を甘やかしてくれる優しい人。その人のこと、私はかなり慕っている。ついつい甘えたくなるくらいの姉御肌の人。甘えたな私は即鬱陶しいくらいに懐いた。
「もしかして、ライチさん…?」
間違ってたらやばい。色々終わる。
「当たり!え、よく分かったね。」
「まあ、私にこういう感じで話かけてくる人って限られてくるから。」
「そ、私、私!あとはなさんとコウタりんも一緒だよ。」
「え!?」
意外だった。はな先生がいる事が。
はなさんは私のいきつけの整体の先生だ。とても優しくて美人という反則的なステータスも持ち主。私が意外と言った訳はこの人、怖いもの…ホラーやグロいのが苦手なのだ。苦手なのにわざわざゲームを起動するとは思えない。
「なんではな先生が…。こういうのは苦手なんじゃ…。」
「月夜さんが心配だったから。ゲーム始める前にうちに予約入れてたでしょ?時間過ぎても来ないし、電話もLINEも繋がらなくて…。そしたらタイムラインにこのゲームやるって月夜さんが書いてたから何か手がかりになるかもって起動したらって感じで。」
「っ!!」
絶対怖かったはずなのに、笑顔で話てくれていて、胸が痛い。
「えっと、ライチさん、私は優のパートナーの月村一夜です。ちょっと質問しても良いですか?」
「ん?ああ、あの月村一夜ちゃんね。なるほど。」
「え?」
「よく優が話てるんだよ。優しい姉の様な人だって。」
事実だけどちょっと本人に言われると恥ずかしい。
「それで、質問って何?」
「それ、プレイヤーの人数も見れるんですよね?今、死んじゃった人含めて合計の人数って分かります?」
「分かるよ。今プレイヤー総数は2500人になってて死者は780人。」
「っ!?いきなり増え過ぎじゃない?」
「ちなみに私とコウタりんは第1ステージからいたけど、はなさんはこのステージから。」
「…つまり、今から始める人達はこの第2ステージからスタート?」
「あ、私がここに来る前に宙に浮かぶ文字で色々説明を受けたけど、“第1ステージはクリアされ、主となる霊が居ないので第2ステージからスタートとなります。”って言われた。」
なるほど、誰かがクリアすればもれなく皆クリアって訳ね。
「クリアしたのは私達。その後にはなさんはゲームを起動したって訳だ。その…ありがとうございます。わざわざ私を心配して…。そして心配かけてすいません。私のせいで巻き込まれてしまって。怖いの苦手なのに…。」
「無事で良かった。」
「っ!!」
ずるい。
そんな優しく微笑みながら言われたら甘えてすがってしまいそうになる。
「と、とにかく、せっかく合流出来たんだし一緒に行こう。お互いの能力も鍵となると思うし。」
慌てて言って、感情を誤魔化す。
ここに来てから無理をしてきた。私のせいで巻き込んでしまった愛姉を守る為必死だった。
しかし、今目の前にいる人達は無条件に甘えさせてくれて優しくしてくれる。
だから気が緩みそうになる。
「もちろん!」
そう笑ってクシャっと頭を撫でてくるライチさん。
「っ、ま、まずは私達の情報から…。」
私は自分達の能力、アイテム、これまでのことを話した。
「なるほど。とりあえず私達のアイテムと能力から教えるね。」
ライチさんが説明してくれた。
ライチさんのアイテムはさっき話題にあがったプレイヤーの名前と生存してるかが分かる魔法のノート、能力は時間を止めること。しかし、3回までという回数制限つき。
まあ、そりゃそうか。回数制限なかったらチートだよ。しかし、良いスキルをお持ちで。
コウタさんは瞬間移動の能力。こちらも制限があり、続けて使用は出来ないとのこと。アイテムはペンライト。特殊なペンライトらしく、悪い霊を遠ざける効果があるらしい。第1ステージで春日清彦に会ってペンライトを振ったら逃げて行ったと。
「その光見タら気分悪クナッタ。近寄れナカッタ…。」
そう春日清彦が言う。
よし、ペンライト持ってコウタさん十八番のヲタ芸やろう!安全地帯出来上がるぜ!
…と、まあ冗談はさておき、この2人、中々にチートプレイヤーだな。あ、勿論良い意味で。凄く頼もしい。
そしてはな先生はアロマオイルをアイテムに持っている。さっすが、こんな場所でも整体を…な、訳ないよね。アロマオイルの香りで気持ちを落ち着かせたり、魔除けにもなるのあるらしい。そして能力は水を操るもの。動かしたり、凍らせたりできる様だ。こちらもチートプレイヤーだな。
何はともあれ、ものすっごい心強い味方が加わった訳だ。
「そうそう、私達紅蓮とはぐれちゃってさ。一緒に探してくれない?」
ライチさんが紅蓮と呼ぶ人物。私が行きつけバーのオーナーである。
かなりノリが良くて豪快で優しさもあって。例えるなら現世の坂本龍馬かな。まあ、あくまで私の中では、だけども。
「勿論です。はぐれてっていつから?」
「このステージに来てからだよ。飛ばされてここに3人来たけど、何故か紅蓮だけ居なくて…。」
まじか。運悪すぎだろ。え?新手の嫌がらせかなんか?兎に角、早く合流しなきゃ。
「紅蓮さんについての情報もっとない?皆アバターの姿だからわかりにくい。」
「髪は赤で、目も赤。能力は火を操ることで、道具はライターだよ。」
「なるほど。了解。あ、私達は鍵を探してるんだ。」
「鍵?何の?」
私はナースステーションの話をする。
「なるほどね。つまり情報を得る為に引き出しの鍵を探してたのね。…私、鍵なら持ってるよ?
ただ、必要なとこの鍵かは分かんないよ?」
そう言ってライチさんは3つの鍵が入ったキーケースをポケットから取り出す。
「これ、どうしたの?」
「拾ったの。この部屋に落ちてたから使えるかもって思って。」
ナイス、ライチさんファインプレー!
「とりあえず一旦ナースステーションに戻ろう。愛姉、気配の探知よろしく。」
「うん、任せて。」
再び私達はナースステーションへと向かう。
「ナースステーションに気配が1つあるよ。」
「…物陰に隠れて様子を伺おう。もしかしたら仲間になってくれるかもだし、その反対で危険かもわからない。」
「そうね。いざとなったら私が能力で助けてあげるから大丈。」
そう言ってくれるライチさん。頷くコウタさん達。今まで巻き込んでしまったから私がなんとかしないとってずっと気をはっていたから安心してしまう。
様子を伺っていると、影が揺れて、1人の看護師の女性が出てくる。
「…い、…の…て…。」
ボソボソと何か喋っている。
聞き取ろうと少し近づく。
「ない、私の鍵。どうして。どこ。」
もしかして鍵を落とした看護師?その鍵ってまさか…。
「あ」
ふと、めまいがして倒れてしまう。
「誰!?」
気づかれてしまった。
「す、すいません。私人を探してて。…貞岡尚ちゃん、知りません?」
「え?今何て…?」
「貞岡尚ちゃんを探して…っ!?」
看護師の顔付きが恐ろしく禍々しいものへと変わる。
「ああああああああああっっっっっ!!!」
突然発狂した看護師が飛びかかってきて首を締めてきた。
しまった…。危ない奴だった。こいつがここの霊?
なんて…悠長なこと考えてる場合じゃない。
「っ」
息が苦しい。引き剥がそうにも力が強すぎて無理。
「優ちゃん!!」
いきなり視界が眩しくなり、刹那ー
「あああああっっっ!!!」
叫び声が聞こえ、急に酸素が入ってきてむせ返る。
「けほけほっ!!」
助かった。コウタさんがペンライトで追い払ってくれたようだ。
「ありが…とう。」
立ち上がろうとするが頭に酸素がまだ届いてなくてよろけてしまう。
「ああ…うう…。」
しかし、看護師の方から去ってくれた。
「とりあえず、優は休憩しな。私が側について一緒に見張ってて、ほかの人は資料探し。」
ライチさんがそう言って私の右横に座る。さらに左横に春日清彦が座る。
「君はどうして頑張るの?」
ふと、春日清彦が尋ねてくる。
「え?それは脱出して現実に帰りたいから。」
「それだけには見えない。…無理してる。」
鋭い。根っこはかなり良い人なのが分かる。
「もしかして心配…してくれるの?」
「心配。君は尚ちゃんに雰囲気が似てる。自分より人を優先させて自分を消耗していく。それこそ擦り切れるくらいに。」
「ありがとう、でも大丈夫。」
嘘だ。
私は嘘をついている。
本当は泣きたいし甘えたい。
私は大好きな愛姉やライチさん達を守らなきゃいけない。絶対失いたくない。その為ならなんだってやる。そう強く思う反面、怖い。本当に自分が守れるのか、皆はそれを望んでいるのか。私は本当に守りたいの?守って頑張って、褒めて貰いたい、認めて貰いたいだけなんじゃないのか。
そう、色んな感情や思考が入り乱れていて、平然を装うのもやっと。
「嘘はいけない。尚ちゃんもそうだった。無理して笑って。僕はそんなの望んでナイ。」
「望んで…ない。じゃあ、何を望んでいるの?」
「無理し過ぎないで。壊れてしまう前に頼って欲しい。そこのお姉さんも同じ。きっと。だから側にいる。」
確かにライチさんは気が効く。現実世界でも私の気持ちを察して動いてる時が多くあった。
「優、1人で頑張んなくて良いよ。一緒に頑張ろう。」
そう優しく頭を撫でてくれる。そに温もりが嬉しくて嬉し泣きしそうなのをこらえありがとうと告げる。
その時ー
「あった!!」
愛姉の声が響く。
「あった?もしかして…」
「そう、貞岡尚のカルテ!!」
早速皆で情報を確認する。
貞岡尚(17)
病棟、B棟精神科。
特殊な精神疾患あり。二重人格うたがい。
又、別に白内障、エイズがあり。
白内障は後日手術予定。
そこまで見たところで春日清彦涙する。
「良かった。尚ちゃん…眼を治して貰えるんだね。」
「良かったですね。」
これで成仏できる筈。そう思った。
しかし、変わらずに春日清彦はそこにいた。
「…春日さん?成仏しないんですか?目的は達成した筈ですよね?」
「まだ。まだ成仏できない。だって新しくしなければならないことができたから。」
「新しく?」
「僕は君達に救われた。尚ちゃんのことが気になって暴走していた僕を止めてくれて、尚ちゃんをちゃんと手術してくれるって答えを見つけてくれた。だから、恩返ししたい。僕にできることで。」
「…ありがとう。心強いわ。」
春日清彦はニカッと無邪気に笑う。こんな風に笑うんだ。
「とりあえず続き見よう。」
私の言葉に皆頷く。
白内障手術成功。視力の回復の為リハビリを計画。
精神病検査、二重人格ではない。しかし、所々記憶が抜けてしまうことから記憶障害がある可能性が高い。
精神疾患について、総合失調症、うつ病、不安障害、パーソナリティ障害の症状が見られる。
要治療。
あとは、内服やバイタルが書いてあるだけで終わった。
「バイタルは血圧がたまに低いけれど私もこのくらいの時あるし、大きな問題にはならないかな。」
「私が気になったのは、エイズに対して何も書いてなかったことかな。」
「そうね。治療しなかったのかな?現時点では何とも…。とりあえず、ここに入院していた。さっき襲いかかってきた看護師は何かしら知っている。それはわかったわ。でも…。」
正直又会っても襲われるだけだ。第1ゲームの時みたいに看守みたいな助っ人キャラがいたり、お助けアイテムかなんか必要だな。
「この後どう動くべきか…。目的を決めなきゃね。」
「だったらロッカー。職員のロッカーがここにもある筈…。どうかな?」
「なるほど、手がかりがあるかもしれないものね。よし、行こう。」
そうして私達はロッカーを探すことにした。
ロッカーはナースステーションから少し離れた所にあった。
「大丈夫、中には誰もいないよ。」
愛姉の目で状況を確認してもらい、ドアに的なをかける。
キイー。
鍵はかかっておらず、音をたてて開いた。
ロッカーが8個並んでいて、全部鍵が差しっぱなしだ。
「とりあえず一個一個確認しよう。」
ロッカーは2列並んでいるので私と愛姉で開けて行くことにした。
「私は左するわ。愛姉は右、お願い。」
「うん、わかった。」
片っ端から開けていく。
1つ目、空。
2つ目、…名札が入っている。顔写真付きで。あ、この顔、私を襲った看護師だ。“波獺庚(なみかわかのえ)”。それがあの看護師の名前のようだ。
それ以外は何もない。
3つ目、空。
4つ目…
「痛っ」
思わず声が出てしまった。
「優!?」
心配そうに愛姉がかけよってくる。
「あ、ごめん。大丈夫だから。」
「大丈夫じゃないよ!血が…。」
床に血が落ちていたようで怪我したと知られる。
「このくらい、私の能力で治るから。」
私はそう微笑むと能力を使う。
徐々に血が止まり、傷は癒えた。…深く切っていたら治らなかっただろうから危なかった。
私の開けたロッカーにはメスが沢山入っていた。
「でもよかった。怪我したのが私で。」
「良くないよ!いつものように言ってるけど、優は1人しかいないんだからもっと自分を大切にしなきゃ…。」
「…ごめん。でも皆も同じように大事だもの。痛いのは慣れてるから私は大丈夫。」
「…」
愛姉は何か言いかけてやめる。
疑問思ったが、それよりもここがいつ、危険になるかもわからないので話を進めることにした。
「こっちは私を襲ってきた看護師の名札だけだった。そっちは何か手がかりなりそうなのあった?」
「これ…。」
愛姉は封筒を取り出す。
「これ以外のとこは空っぽだった。」
封筒を受けとり、中身を取り出してみる。
大量の紙切れが出てきた。
紅黒い色が見える。まるで酸素に触れて時間の経った血液の様だ。
これは…文字が殴り書きしてある?
髪を拾い上げる。枚数は14枚。
一枚一枚、目を通す。
憎い。
許さない。
どうして。
何で。
悪魔。
助けて。
殺される。
怖い。
嫌だ。
痛い。
悲しい。
ごめんなさい。
病気が…。
貞岡尚。
これが14枚に書かれていた文字だ。
「この病院で一体何が起こったの?」
「尚ちゃん…。」
「貞岡尚は精神疾患を持っていたなら、精神疾患で何か事件が起こった可能性ありそうだよね。」
ライチさんの言葉を聞いて改めて紙切れを見る、
「…あくまで私の推測だけど、これ書いたのは私を襲った看護師、波獺庚。何かをきっかけに尚ちゃんは精神疾患疾患が出て事故で大切な人が、もしくは自分自信が怪我かなにかをした。いや、違う。この恨みから察するに大切な人が後遺症が残るほどの重症、昏睡、死亡の可能性が高い。それで、波獺庚は貞岡尚に食ってかかる。精神疾患のせいでと理性では思ってても感情は止まらなくて…。それで罪悪感が後から出て謝るんだけどまた精神疾患が発動して殺されかけた。…辻褄は合うと思う。」
「優、まるで探偵みたい。」
「ミステリーじゃなくてホラーゲームがけどね、ここ。まあミステリー小説読み漁ってた時期があるからなんとなくって感じ。」
愛姉は某探偵アニメ好きだからかちょっと嬉しそう。
「この後どうしよう?まだ波獺庚に会うには早い。」
「じゃあ、波獺庚以外の霊を探して見ようよ。私の目で気配探して…。波獺庚だったら逃げれば良い訳だしもしかしたら紅蓮さんに会えるかもだよ?」
「そうだね。…お願いする。でも、無理のない様に、ね。」
「優がそれ言う?」
そう呆れたように笑う愛姉。
確かに私が言っても説得力ないか。
愛姉の目を頼りに進んでいくと薬品管理室と書いてある所へ辿り着いた。
「ここに気配が3人分ある…。」
「入ろう。いざとなったらライチさん、時間を止めて欲しい。あ、その前に、時間止めるのって回数以外に制限ってある?知りたいのは一回の使用時間と動ける人について。」
「んー、最大15分。止まってる時に動けるのは私だけ。」
「つまり、危険になって止めて貰っても私達は動けないから一人一人運んで貰わないとだめなのか…。」
全員で中に入ったらライチさんへの負担が多い。
「よし、じゃあ中にはとりあえず私、ライチさんで入る。安全だったら呼びにくるから皆は待ってて。」
「え?」
愛姉は驚いた顔で私を見ている。
「皆で行ってもしも危なかったらライチさんに負担がかかる。だからこの方法で行く。」
愛姉は少し戸惑っていたが頷く。
「気をつけてね?」
「ええ、分かってる。」
中に入ると薬品独特の匂いが鼻をくすぐる。
「薬品の匂い好きだな。」
何て笑いながらライチさんがいう。そういえば前にも言ってたな。
この状況でも言える何て肝が座りすぎだよ。流石というか何というか…。
とりあえず姐御と呼びたい。
なんて半分冗談はさておき、薬品が並んでいる列を抜けると又扉があった。
扉を開くと愛姉が3人と言ってたが都合よく3人揃っていた。
「あー!紅蓮!!」
まじか!!無事で良かった。
「おー!ライチちゃん。良かった、合流できて。と、そっちは?」
「私だよ、優だよ。」
「優ちゃん!?偶然やね。よく生き残ってたよ。」
私、悪運だけは強いからな。悪運だけは。
とにかく、合流出来て良かった。
紅蓮さんが無事いるならあとの2人も危険ではないだろう。
「話はライチさんから聞いてます。無事で良かったです。ところでそのお二人は?」
「ああ、この世界の霊だけど助っ人キャラだから安全。」
「まじか!こっちは優ちゃんが危ない目にあってたのに。」
「え?大丈夫ね?」
「なんとか。コウタさんが助けてくれましたし。お陰で情報が少し手に入りました。」
「…もしかして貴女は女性看護師に襲われたんじゃないですか?」
霊のうちの1人の白衣に聴診器を首からかけた医師らしき人物が言う。
「はい。看護師の名前は波獺庚。様子と情報から察するに貞岡尚に怨みをそれもかなり強く持っている様子でした。彼女の名前を口にした瞬間豹変し、襲いかかってきました。」
「…そう、ですか。ああ、申し遅れました。私は鶴羽燈弥(つるばねとうや)。貞岡尚さんの眼の治療にあたった医者です。」
「尚ちゃんの眼は治ったのか?」
春日清彦の問いに鶴羽燈弥は頷く。
「ええ、治りましたよ。」
「教えて。看護師の暴走のワケ。」
「そうですね。…彼女は元々、僕のとこの看護師でした。丁度、貞岡尚さんが入院するくらいに精神科へ異動しました。彼女はとても優しい人で、患者に慕われてましてね。それを買われたのでしょう。」
「でも、彼女は望んでいなかった。」
もう1人の白衣を着た女性が言う。
「望んでいなかった?えっと…」
「ああ、私は九条千亞(くじょうちあ)。精神科の医者だ。彼女…波獺庚くんはそこの男の幼馴染で恋心を持っていた。だから同じ眼科という空間が失われるのが嫌だったのであろう。しかし、上が決めたことだからどうしようもなかった。そんな中、貞岡尚が入院し、眼の手術が決まった時、彼女は喜んでいた。不謹慎だが想い人に会えると。だが、そこで事件は起きた。」
「それってもしかして…。」
「ああ、君の察する通り、彼女が貞岡尚を怨む事になる。」
「あれは事故なんだけどね。彼女は手術が終わったあと、麻酔が切れて…。その時彼女の目は包帯で覆われていたから不安を覚えて、そこから精神疾患が出て、少し暴れてしまいましてね。僕の眼が失明してしまって。あ、霊になってからは視力は戻りました。」
「それで…?その後が本題ですよね?」
「ああ。その現場に勿論、波獺庚くんは居合わせた。彼女は普段温厚な分、キレたら厄介でな。とりあえず仕事中だったからその場は何とか理性で抑えて麻酔で再び眠らせその場は終わった。しかし、徐々に耐えきれなくなり、数日経って、波獺庚くんは貞岡尚くんを殺そうとする。しかし、その日に彼女は見てしまったのだ。」
「見てしまったって?彼女にとって良くないこと…。想い人が部屋に居た…とか。」
「半分くらいは正解だ。君は頭がきれるな。嫌いじゃないよ。それはともかく、そうだ。貞岡尚くんの部屋には鶴羽燈弥くんがいた。まあ、この病院をやめるって話をしに行ってたらしいのだが、気が動転していた彼女には会話の内容なんて聞こえないだろうな。次の日、彼女は貞岡尚に問いただした。そして貞岡尚くんはまた精神疾患を発動し、豹変した。その後、波獺庚くんは私のとこに逃げてきた。首から血を流しながら「助けて」と。」
「ようやく繋がったわ。」
封筒の中身と一致する。
「とりあえず、外に出て皆と合流しよう。」
皆が頷くのを確認し、外へ向かった。
「皆、お待たせ。」
「優!!遅いから心配したよ。良かった、無事で。」
「もう…愛姉は心配症だなあ。」
とりあえず 私はさっき中で話してたことを皆に説明した。
「なるほど。じゃあ、ここのボスはやっぱりあの看護師なんだね。それで、どうするの?月夜さんの事だから何かするんでしょ?」
柳類が私に言ってくる。鋭いな。
「まあ、ね。そこのお医者さんの霊が協力してくれるなら…だけれど。」
「私がかまわん。元々もう死んでる身だからな。今更どうなろうが変わらない。」
「私も、彼女を止めたい気持ちは一緒ですし、彼女の暴走は私にも原因がありますから。」
「と、言うわけで私とこいつは了承している。頭の良い君の実力に興味がある。あとは従うよ。」
そう悪戯に笑う九条千亞。良い性格してんな。
「プレッシャーかけるのやめてください。私は頭が良いんじゃなく、こういう状況に慣れただけなんですから。」
本当は頭が良い訳ではなく、似たようなゲームを多々やっていたからなんとなくこうすれば良いと分かるのだ。
「とりあえず、波獺庚を探して鶴羽燈弥先生に名前を呼んで貰い反応を見ます。会話が通じるならそのまま話で説得でもして貰います。」
「分かったよ。私に出来ることはそのくらいでしょうし。」
「とりあえず、話が通じたら私とライチさん、コウタさん、それから九条千亞先生が近くまで行きます。質問をいくつかして成仏できるようにします。」
「理解した。私はかまわないよ。大体、あいつは決まった時間に決まった場所にいる。この時間だと…医務室にいるんじゃないか。」
壁にかかった時計を見ながら九条千亞は言う。
「なるほど。…そういえば、私達がこの世界に来てどれくらい経ったんだろうね。」
私が来たのはお昼の12時半。整体を予約してたのは夕方の18時。つまり私と愛姉は少なくとも5時間半はここにいることになる。
「はな先生は何時くらいにここに?」
「仕事が終わって帰ってからだから大体22時くらいかな。」
「なるほど。少なくとも私と愛姉は7時間半はここにいるわけか。」
「そんなに!?なんか言われたたらお腹空いてきたし眠くもなってきたかも。」
確かに私もお腹は空いてないが喉が乾いている。
しかし、こんな場所に水はまだしも食べ物なんて…
「あ…?っ!!」
一つの光景が脳裏を過ぎる。
まだ、第1ゲームが始まってすぐのこと。死体を貪り食べていた人物がいたのを思い出した。
それからその前見つけた死体の握っていた紙切れ。欲に負けての部分がもしも空腹だとしたら…。全ては辻褄が合う。
「優?どうしたの?顔色悪いよ?」
「え?ああ、…ん、何でもないよ。」
言ったらきっと不安にさせるし気分悪くなる。只でさえ、生死が危うい状況の中で余計なことは言わないに限る。
「無理しちゃ駄目!休もう?」
「私は大丈夫。きっと暗いから顔色悪く見えるんだよ。」
「…嘘つき。」
懐中電灯で顔を照らし愛姉は言う。
「良いから、進もう。もう、このステージを抜けれるんだから。」
そう言って私は歩き出す。納得できないといった顔で愛姉も渋々歩き始めた。
歩いていると、九条千亞が横に来る。
「君は意外と嘘が下手だな。何か気になっていることがあるんだろう?」
「…貴女は霊だから話ても大丈夫かな。実は…。」
私はさっき考えていたことを話す。
「なるほど。この世界に連れて来られた人間は空腹や狡猾が普通にあり、長くいると餓死の恐れがある。そういう欲に負けた人間は最悪仲間を襲って食べる輩がいると。」
「勿論私は自分の仲間は大丈夫って信じてる。皆には余計なことは考えて欲しくないだけ。変な考えごとしてたら命取りになってしまうもの。」
「意外に君はアホか。」
「は?」
予想外の言葉に私は思わず変な声が出た。
「まさに今、君が命取りな状況にあるのに人の心配とはな。…君はもう少し自分を大切にしなさい。」
そう言いながら、頭を撫でてくる。
…私頭撫でられるの弱いんだよ。甘えたな性格が表に出そうなのを隠して笑う。
「ありがとう。私はもう吹っ切れたわ。貴女が話を聞いてくれたから。」
と…。
何か声のようなものが聞こえる。
「…いたい。しくじったわ。…だれか…。」
女性の声のようだ。
声の方へ行くと2人の女性がいて1人は足を怪我していて、もう1人はオロオロと困った様にしている。
「あの…大丈夫ですか?」
私の心配のすぐ後に
「あ、みっしぇる!!」
とライチさんの声が響く。
「え?」
どっちが?
みっしぇると呼ばれた人物は私の行きつけのバーの元店員さん。私と食べ物の趣味が似ていてたまにご飯に行ったり、お互い、バンドをしているので練習がてらカラオケに行ったりする。何より、料理好きでたまに作って持って行った私の料理をとっても美味しそうに食べてくれる優しく面白い人だ。
「え?え?」
みっしぇると呼ばれ、反応したのはオロオロしていた方の女性。
「まじですか。」
ここまで知ってる人が集まっているとかすげえな。最早偶然でなく必然を感じる。
「私だよ、ライチだよ。」
「ライチさん?ってことは他の人も私が知ってる人?」
「そうそう。紅蓮にコウタりんに優ちゃん。と、そのお友達や先生。」
「良かった、今まで1人で人と会えたって思ったら怪我してて…。」
「私に任せて。」
私はさっき自分の傷を癒した時と同じ様に能力を使い、歌で傷を癒していく。
傷は少し深かった様で、完全には治せなかった。とりあえず、傷からの出血は止まったが少し後が残ってしまった。
「すいません、私の力じゃここまでしか治せませんでした。」
「いえ、助かったわ。ありがとう。…もしかして貴女、月夜さん…?」
「はい、そうですが…。」
「私は貴女の担当医師よ。邦孟陸奥(くにたけむつ)よ。」
「え!?」
もしかしてこの人もはなさんと同じようにここに…?
「担当医師…?」
心配そうにしている愛姉。
「ああ、皮膚科だよ。ほら、私前にストレス性皮膚炎起こしてるって言ってたやつ。なかなか治んないからって精神科じゃないけど心の治療も一緒にしてくれているんだよ。」
「といっても、私は話を聞くだけよ?何もしてない。」
「ううん、いつもありがとう。でも、何で先生まで?」
「予約時間、すぎても来ないから心配になって。LINE通じないし…。そしたらタイムラインにここのことが書いてあって…。」
…ブルータス、お前もか。
「なんか聞いた台詞。」
皆まで言うな…。なんか恥ずかしくなってきたではないか。
しかし、私が皮膚科予約してたのは整体の2日後の午前10時半。つまりは現実世界はそんなにも時間が経っているということ。なるべく早く皆を元の世界に返さないと。
その焦りを察したのか、九条千亞が傍に来て肩へ手を起きゆっくりと首を横にふる。
おかげで焦りがなくなり、冷静さを取り戻す。
「ありがとう。おかげで冷静になれた。」
「それは何より。」
「…2人とも、私達と一緒に来て欲しいの。力を貸して。この歪な世界から脱出する為に。」
私の言葉に2人は笑う。
「そんなの当たり前じゃん。水臭いよ、優ちゃん!」
「そうよ。それに、私は貴女に助けられた。断る理由がないわ。」
「まあ、完全には治ってないけど…。でも、ありがとう。」
改めて2人のアイテムと能力を聞いた。
みっしぇるはアイテムは赤ワイン。って酒かよ!?らしいっちゃらしいけれども…。しかし、脱出ゲームにまで酒とはブレないな。本人曰く、酒のない世界じゃ生きていけないらしい。それで赤ワインか芋焼酎か悩んで持つ運びやすい方にした、と。類もコーヒーないと死ぬって言ってたな。案外似た者同士なのか?
それはともかく、能力は私と同じ歌。ただ、私のは能力アップと治癒の能力なのに対して、みっしぇるは相手への負荷や行動停止がメイン。そして私達に共通して言えることだが、歌の能力を使っている時はかなり集中しないと発動しない為、能力を使っている間は動けない。つまり動ける誰か一緒にいないと意味のない能力。
一方、邦孟先生のアイテムは手術セット。流石医者、というべきか。中には麻酔やらメスやら、縫合に必要な一式、手袋が入っている。そして能力は鍵を開ける能力。手をかざすと自動的に開くらしい。
とにかく、そんな2人を仲間に迎え、波獺庚が居るという医務室へと向かう。
九条千亞に案内され、たどり着いた医務室。扉は開きっぱなしで、中からはすすり泣く声が聞こえる。波獺庚のものだろうか。
「じゃあ、お願いします。」
私の言葉に鶴羽燈弥先生は頷く。
ゆっくりと、波獺庚へ近づき、声を掛ける。
「か、庚くん。」
呼んだ瞬間、ピクリと反応がある。
「燈弥…クン?」
反応あり。
「もう、いいんですよ。僕たちは既に死者の身なんですし。僕は今、ちゃんと目が見えてるし。ね?」
優しい声でそう宥め、彼女はゆっくりと頷いた。
それを確認し、私、ライチさん、コウタさん、九条千亞で2人に近づく。
「…あのっ、」
私が声をかけようとした時、彼女は私を見て目の色を変える。
やばい!!
私は直感で悟った。
刹那、波獺庚は私に掴みかかってきた。
「ぐっ」
首を強く締められて息が出来ないし喋るのもままならない。
「貴女ダケは許さナイ!!貞岡尚!!」
彼女には私が貞岡尚に見えているらしい。暴走させてしまった。
「違う!彼女は貞岡さんじゃないですよ。」
そう鶴羽燈弥が言うが、頭に血が上っている彼女に聴こえていない。
「がっ、…ふ…」
爪が喉に食い込んで血が滲み始める。
ライチさん達が私を助けようとかまえたが、九条千亞が何故かそれを止める。
そしてつかつかと私達の方へ歩いてきたかと思うと、いきなり波獺庚を殴り飛ばした。
いきなりの事で皆理解が出来てない様で固まったいた。
床に倒れた波獺庚の胸ぐらを掴み立たせる九条千亞。
「波獺くん、いい加減にしてくれ。鶴羽燈弥に嫌われるぞ。」
「あんたに何が分かるの!!」
「彼女は月夜優であって貞岡尚じゃない。お前が勝手に暴走して関係ないことに巻き込んでいるのはわかる。目を覚ませ。あの子、一見似てるかもしれんが全く似てない。」
「っつ!!私は!!」
「あの子を襲えばそれこそ貞岡尚の思うツボだぞ?」
「く…。ご、めんなさい。」
正気に戻った様であの怖い顔はなく、弱々しい顔へとなっていた。
「…そんなにも私は尚ちゃん似てたんですか?」
2回も殺そうとしたくらいだ。彼女の中で何か似てたんだろう。
「似ていたわ。その一見優しそうなでも腹黒いとこ。」
「腹黒はまあ否定しない。けど優しくなんてないわ。」
「いい子ちゃんぶってるとこも似てる。」
「私がいい子な訳ないわ。私、この作戦で貴女を説得できなかったら容赦なく殺すつもりだったし。」
「ふふ、私に殺されかけといてよく言うわ。」
「私、自分の目的の為なら手段を選ばないの。だから最悪そこの2人をけしかけて止めるつもりだったわ。」
「ふふふ、前言撤回するわ。やっぱり貴女は全く似てない。」
これでこのステージはクリアかな?
「…ありがとう。もう一度燈弥に会わせてくれて。」
それだけ残すと波獺庚は光となり消えていった。
その後すぐ、鶴羽燈弥を後を追いかけるかの様に光となり消えていく。
まるで蛍灯の様に…ー。
「すごいじゃん、優ちゃん!またクリアさせたの優ちゃんだよ。」
「うん、ありがとう。…というか、なんでまだいるの?九条千亞先生…。」
そう、波獺庚と鶴羽燈弥の2人は成仏したが、この人がまだしない。
「貴女の未練は何?」
「未練はないよ。」
「は?」
じゃあ何故成仏しない?
「何で成仏しないかって思ってるね?」
分かってて言ってるな。本当、いい性格してるわ。
「興味が出たのさ、君に、ね。」
そう言って顎をクイっと持ち上げてくる。
これが少女漫画であればドキってトキメクシチュエーションなんだろうが、生憎、ここはホラーゲームで相手は女。モチのロン、私も生物学上女。トキメク筈がない。別の意味でドキドキはするがな。
「趣味悪いですね。」
顎を持ち上げている手を振り払い歩き出す。
「決めたわ。私、貴女について行くわ。色々気になって仕方ない。」
怖いよ!目や息遣いがハンターだよ!
まあ、危なくなったら誰か助けてくれるだろうし、ほっといたらこのステージがクリアにならないかもしれない。
「…好きにして。」
そして皆の所へ戻り、2人が成仏したこと、九条千亞が仲間としてついてくることを話す。
「優が無事で良かった。」
「当たり前でしょ。こんなとこで死ねないって。」
「よく言うよ。庚くんに殺されかけたのに。」
「え!?大丈夫?痛いとこない?怪我してない?」
「だ、大丈夫だって。」
良かった。能力で怪我治しておいて。
と、その時だった。
「あ…。」
移動の時間がきたようで…。
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