アプリを起動したらリアル脱出ゲームでした

鷹夜月子

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第伍話 一筋の光

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次に辿り着いた場所は真っ暗。
手探りに何かないか探していると暖かい何かに触れた。
「誰かいるの?」
「その声…優ちゃん?」
「…みっしぇる?」
「うん、私だよ。」
どうやら同じ場所にみっしぇるがいるようだ。暗くて見えないけれど。
他に返事がないので紅蓮さんとライチさんとは離れてしまった様だ。
とりあえず立ち上がってみようとしたら頭をぶつけた。
「いっ!!」
「だ、大丈夫?」
「うん。ここ、押入れみたいだね。」
「じゃあ何処かから出れるね。」
「あ、ここから少しだけ光が漏れてる。」
開けようとした時だった。
隙間にかけた指に何かがかかる。
「な、何?」
指を引っ込めると、この世界で嗅ぎ慣れた匂いがする。
「…血の匂い?」
そう呟いた時だった。
グシャ、グチュ、グシャっという音が床をバットか何かで殴る音と一緒にしている。
「みっしぇる、外は今危ないからもう少しここにいよう。」
私が小声でそう言うと小さく「わかった」と返してくれた。
しばらくし、カランっと音がしてしばらくし、静かになり、ドアの開閉の音が鳴る。
「…大丈夫みたい。」
恐る恐る隙間に手をかけ、ゆっくりと開いていく。
「ひっ!?」
そこには死体があった。
それは予想していたが、その屍の主が見知った人だった。
嫌な汗が全身から溢れる。
「紅蓮さん…。」
顔は原型を留めていないぐちゃぐちゃにされており、身体はあっちこち骨が折れ、変な方向に折れ、曲がっていた。
とりあえずいつまでも押入れの中にはいられないのでゆっくりと出る。
「紅蓮さんっ!?」
その死はみっしぇるにもかなりこたえたようで、振り向くと震えて涙を流していた。
「っ、えっと…」
どう接して良いのか分からず、とりあえず背中をさする。
「…ありがとう。」
次第に震えが止まり、落ち着きを取り戻す。
「…ら、ライチさん。ライチさんはっ!?」
私は彼女を探そうと勢いよく部屋の扉を開けた。
ガンっと何かに当たった。
「いった…。」
と、声がドアの向こうからする。
「ライチさん!!よかった、無事で…。」
そこには頭をさすっているライチさんがいた。
「無事じゃないよ、今ドアあたったしー。」
「ご、ごめん…。」
「冗談冗談。…それより大変なことになってて…。」
「大変な事?」
「紅蓮が…」
「紅蓮さんなら…もう…」
「え?」
「…もう、助けれない。」
しばらく沈黙が続き、私はライチさんに話を切り出す。
「大変なことにってさっき言ったけれど一緒にいたの?」
「うん…。私と紅蓮、春日清彦で一緒に居たんだけれど…春日清彦が突然頭を抱え出して、豹変した。」
「豹変?」
「何かが乗り移ったという感じ。その豹変した春日清彦は私に襲いかかってきた。それで、私を庇って紅蓮が何処かに連れて行かれて…。」
なるほど、紅蓮さんこんなにしたのは春日清彦だった。何故豹変したのかは分からないが確実に分かるのは触るな危険って事だ。
「頭を抱え出す前、何か見てなったとか、前触れみたいなのってなかった?」
「ごめん、そこまでは…。」
「…その豹変した場所まで連れて行って。」
「え?」
「何か豹変した手がかりが見つかるかもしれない。それに、いつまでもここにいるわけにもいかないし…。」
「分かった、行こうか。」
そう言って私の手を引き連れて行ってくれるライチさん。
そこは隣の隣の部屋で、勉強机が置いてある事からここは学生の部屋だろうと推測される。
更に、春日清彦が豹変したことも踏まえると貞岡尚の部屋である可能性が高い。
「…あ、これ。」
写真立てに写真が入っている。
1人の女の子だ母親であろう人と写っている写真。
「この子、もしかして…貞岡尚?」
あくまで私の推測に過ぎないが。
確実性を探す為、机の引き出しを開ける。
トラップを警戒したが、開けても何も起きずに私は胸を撫で下ろす。
引き出しを見ると、生徒手帳が一番上に入っていた。
“3年4組   貞岡尚”と書かれている。
やはり、貞岡尚の部屋で間違いないようだ。
写真を見て春日清彦に何か起こったと見て良いようだ。
彼は貞岡尚を妹の様に可愛がって執着していた。
写真を見てきっといるであろう貞岡尚に殺すよう命じられたのだろう。
引き出しに中を一通り見る。
しかし、手がかりになりそうなものはなかった。
ゆっくりと部屋を出、私を先頭に階段をゆっくりと慎重に降りていく。
ただ階段を降りるだけなのに異常に汗をかいて何度か滑りそうになる。
「大丈夫、優ちゃん?赤ワイン飲む?」
いや、飲まねえよ!?
「きっと肝臓が乾いて震えるから滑りそうになるんだよ!」
いやいや、どこのアル中だよ。
「いや、こんな状況で飲まないからね?」
「えー、こんな状況だからこそ飲むんだよ。」
人命かかってるのに!?
ある意味凄いな。尊敬するわ。
メンタル豆腐以下の私には真似できないわ。
「でも…ありがとう。気を使ってくれて。」
お陰で緊張がほぐれた気がする。
少し心が軽くなった。
「それにしても…。」
下に行くにつれて、段々と悪寒が酷くなる。
やがて一階に着くと、何箇所かドアがある。
耳をすますと何から声の様な物が聴こえてくる。
ドアを静かに開けると、そこには女性いた。
紺色のソファーに座り、俯いてぶつぶつと何かを呟いている。
「私は悪くない…どうしてこんな…。」
耳をすますとかろうじて聞こえてきた。
「一体何が…。」
とりあえず今ここで女性に話かけたら危ないだろうな。
そう考えているとガチャリと玄関の開く音がした。
慌てて隠れると、青年が1人入ってきた。
入って来るなり、いきなり強く壁を蹴る。
「っ、ざけんなよっ!俺らは何もしてねえっ!!」
吐き捨てるようにそう言うと、さっきの女性のいる部屋に入っていった。
「母さん、ただいま。」
「悠斗(ゆうと)…。」
「大丈夫、壁の落書きは消したから。」
「ごめんね…悠斗。」
「悪いのはアイツらだ。母さんが謝る必要ない。」
「引っ越せば良いんでしょうけれど…引っ越したら尚の帰る場所が…。」
「尚はもう…。」
「嫌よ!!尚も居なきゃ!!」
「でも!知ってるだろ、あの監獄の噂。あそこに収容されて生きて出てきた奴は1人もいないんだって。」
「所詮噂よ!!嗚呼…どうして尚が…尚…っ!」
泣き崩れる母親。悠斗と呼ばれた青年は居心地が悪いらしく、上の方へ行ってしまった。
「なるほど。この世界では貞岡尚はまだ監獄に入っててこの家族は外から叩かれて弱っている。」
「どうして分かったの?」
みっしぇるが不思議そうに聞いてくる。
「簡単だよ。悠斗って呼ばれた人が“壁の落書きは消した”ってまず言った。これは外の壁に落書きされていた事を指す。次に“尚ちゃんは監獄にいる”と言ったわ。」
「ちょっと待って、尚ちゃんが監獄にいるとは言ってないよ?」
「直接はね。母親の“引っ越したら尚の帰る場所が”という台詞と悠斗の“監獄の噂”と“収容されて出てきた奴はいない”って部分を抜粋するとつまりそういうこと。」
「なるほど。でもこれからどうするの?」
「私は悠斗って人と話をしたい。出れるなら一度家から出てみよう。そしてチャイムを鳴らして来客になるの。」
「そんな上手く行くかな?」
みっしぇるの言葉に私は首を横にふる。
「上手く行くか行かないかじゃない。やるしかないんだよ。」




それから鍵を開けようとつまみを回すが勝手に元に戻ってしまって開かない。
私は深呼吸をすると大きな声を出す。
「すいません!!」
少しして、母親が出てきた。
「貴女達は誰?」
「いきなりごめんなさい、私達は悠斗君の友達で…その、チャイムが壊れてて…。」
「まあ、悠斗のお友達?」
いきなり母親の顔が明るくなる。
「はい、悠斗君と遊びたくて来たんですけれど…。いらっしゃいますか?」
「ええ、部屋に居るわ。案内するわね。」
とりあえずこれで母親に殺されるという脅威はなくなったと言える。
「悠斗?お友達来てるわよ?」
部屋をノックし、母親が呼び続けてしばらく、部屋のドアが少し空いた。
「友達なんて居ねえよ!!帰れよ!!」
「悠斗!!なんて事言うの!」
「あの事件以来、友達なんて居るわけねえだろ!!」
「悠斗、いい加減にしなさい!!」
「っ!!」
母親も叫びに驚いたのか静かになる。
「…ち、勝手に入れば良いだろ。」
舌打ちし、機嫌悪そうだがなんとか了承を得た。
「ごめんなさいね、あの子口悪くて…。」
「いえ、大丈夫です。私も無神経でごめんなさい。」
母親が頭を下げながら離れていく。
ゆっくりとドアを開けると不機嫌なのが見て取れる顔で睨んでくる悠斗がいた。
「で、お前ら誰?学校じゃ見ない顔だけど。」
「私は優。貞岡尚さんによって別の時空から連れて来られた。脱出するには各ステージにいる霊を成仏させないといけない。勝手で申し訳ないけれど貴方の力が必要。私を庇って死んでしまった皆の為にも引く訳にはいかない!」
「っ、…もっと聞かせてくれ。」
意外な反応が返ってきた。
「…あ、悪かった。失礼な態度とったよ。俺は尚の兄の巳槢木悠斗(みするぎゆうと)だ。」
「え?貞岡じゃない?」
「…尚が捕まった後、世間体が一気に悪くなってそんな中親父が俺らを守ろうとしてたんだが…世間から見たら犯罪者の家族に見えてるだろ?そんな奴、雇うと会社に良くないイメージが付くんだと。親父は解雇され、最終的に自殺して…。それから俺は母親の元の苗字になったわけだ。」
「ごめんなさい、知らなくて…。」
「いや、良い。こっちこそ尚がすまない。どうして尚がこんなことしてるかもわからないんだ。」
「…真実を分かって欲しかったんじゃないかな。自分が罪をきせられたせいでどうなっているのか、それを知って欲しいから連れてきたんだと思う。色んな想いが入り混じって混乱してるだけなんだよ、多分。」
「…あんた、優しいんだな。」
「え?」
「普通、こんな状況にした張本人をそんな風に心配できないだろ。」
「…今までクリアしてきたステージで悪い子じゃないって分かったから。」
「そうか。」
悠斗は優しく笑う。
どうやら彼は鍵となる霊ではなく、助っ人キャラのようだ。
「…ねえ、春日清彦って人知ってる?」
ふと、私は尋ねてみた。
いきなり豹変した手がかりがもっと必要だ。
「いや、知らねえな。」
「そう…。」
少し考え混んでいた、その時だった。
「な、何よ、あんた!いや…嫌あっっ!!!」
母親の絶叫が響いた。
「母さんっ!!」
悠斗が部屋から飛び出していく。
慌ててその後を追う私達。
「っ!?」
リビングに着くと母親に襲いかかる春日清彦の姿。
「やめて!!」
思わず叫ぶとぐるりと春日清彦はこっちを向いた。
「ア…ウウ」
その顔は私が正気に戻す前の春日清彦だった。
「っ、本当は優しい貴方に戻って!!」
必死に叫んだお陰で母親への攻撃は止んだが正気に戻らなかい上に標的がこちらに向いた。
「ガア、ウウ…アアア!!」
言葉さえも失った春日清彦は私に向かってきた。
「っ、こんな狭い中じゃ逃げてもイタチごっこだよ。」
「…~♫」
「え?」
みっしぇるがいきなり歌い出す。
するとピタリと春日清彦の動きが止まった。
「ちょ、駄目だよみっしぇる!」
しかし、みっしぇるは歌うのをやめない。
「皆逃げたら私が時間を止めてから」
ライチさんが言いかけるとみっしぇるは横に首をふる。
「…分かった。ありがとう。」
ライチさんはそう悲しそうに目を伏せて走り出す。
私も振り返らずに走った。
振り返ったら私はきっと無理矢理でも助けようとするから…。
それはみっしぇるの行為を無駄にしてしまうから。
でも外に出れないのにどこに行けば…。
そう考えていた時、ライチさんが私の手を引いて走る。
辿り着いたのはお風呂場。
でも、何故こんな行き止まりの場所へ来たのだろう。
「人を探す時って大体、トイレとお風呂ってわざわざ入って確かめようと思わないでしょ?トイレだと隠れるには狭いし、霊もトイレするかもでしょ?」
「え?そこ?」
思わずツッコミを入れてしまった。
「それに、もしもの時にシャワーで目潰しできるでしょ?」
「え?何?それを目に向かって投げたりするわけ?」
「いやいや、普通に水を顔にかけるんだけど。」
「目潰しじゃなくて目くらましね。」
「一緒だよ。」
「いや、全然意味違ってくるよ!?」
恐ろしい表現だな。でも、この会話のお陰で、さっきより冷静になれた。
「なあ、談笑してる中悪いけどさ、あの巨漢ってお前らの知り合い?」
それまで黙っていた悠斗が聞いてくる。
「…彼は春日清彦。私達が渡り歩いて来た世界にいた霊よ。でも…。」
私は春日清彦と貞岡尚の関係、春日清彦の尚に対する想い、私達を助けてくれたこと、ここに来ていきなり豹変したことを話した。
「そんな…じゃあ、私があんな目にあったのって貴女達のせいってことじゃない!」
「母さん、それは違うよ。悪いのは尚だって。」
「違う!!尚は…尚は!…うう…。」 
母親はそれ以上何も言わず、重い空気が流れる。
「そういえば俺さ、効くかなって思って塩を持って来たんだよ。…やるよ。」
そう言って塩の入った瓶を手渡された。
「ありがとう。」
しかしどうしたものか。
塩だけでどうにかなるとは思えない。
「でも、困ったわ。春日清彦の最初の目的は尚ちゃんの病気がちゃんと治療されているかを知る事だった。その確認が終わった後、彼は私を助けると言ってくれた。でも、豹変している今、襲いかかってくるなんて矛盾しすぎで…。」
「優ちゃん、貞岡尚の部屋にもう一回行こう。尚に執着していたならあの部屋にヒントがあると思うんだよね。仮に危なくなった時は私の能力がまだ一回使えるから安心して。」
「…うん、行こう。ずっとここに居ても何も変わらないなら少しでも手がかりを探さないと。」
口で虚勢を張るが、身体は真逆で震えが止まらない。
「大丈夫、私と一緒に元の世界に帰ろう。」
ライチさんだって怖いはずなのに、そう言って笑って優しく抱きしめてくれた。
36度の体温が心地よくて次第に震えが止まる。
「…もう大丈夫、ありがとう。」
2人を風呂場に残して私とライチさんで貞岡尚の部屋へと向かった。



物音を立てない様に慎重に進み、なんとか目的地にたどり着く。
本立てをふと見ると、鍵付きのノートがあった。
「如何にもなんかありそうな感じだね。」
鍵を探したが見つからなかった。
「…そうだ。」
私は自分髪に付けていたヘアピンをとる。
「優ちゃん?」
「…昔、これで南京錠開けたことが…。」
カチャリー。
「ほら、開いたよ。」
「優ちゃん悪い子じゃん。」
冗談交じりに笑うライチさん。
「…日にち書いてないけど日記みたいだね。」
そこには日にちは書かれてないが何があった、どう思った等の日記の様な内容が記されていた。
「あ…」
ページをパラパラとめくっていると、春日清彦のことが書いてあるページを見つけた。
ー私に優しくしてくれた春日さん。2人目のお兄ちゃんが出来たみたいで嬉しかったな。監獄を出た後、会いに来てくれるって言ってくれたの嬉しかった。ー
その後数ページ、家に帰って来れたことなどが書いてあり、いきなり今まで可愛らしい字で書かれていた文字が荒々しく殴り書きのように書かれ始めた。
ー私はなんて事を彼に言ってしまったのだろう。監獄中に優しくしてくれた彼に家族に関しての愚痴を言ってしまったせいだ。帰って来たら2人とも死んでたのは…。ー
更にページをめくる。
ーやっぱり、春日さんだった。私が2人を悪く言ったから怒りを抑えらずに、私の為と思ってやったんだ。彼は私に言ってきた。“尚ちゃんのいないところで2人は尚ちゃんを悪く言ってて許せなかった”って。そして彼はお願いをしてきた。“一緒に死んでくれ”って。どうすればいいの?ー
「なんか一気にヤンデレチックになったな。」
更にページをめくり、私達は息を飲んだ。
ーごめんなさい。ー
と、一面にびっしり書かれていた。
それは、数ページに渡り、びっしりと殴り書きしてある。
それからいきなり憑き物が堕ちたかの様に最初の方に書いてあった可愛らしい丁寧な字に戻っていた。
ー私は悪い子。家族を追い込んで春日さんに1人で死なせて…。私は最初、本当に春日さんと心中する予定だった。だって、生きて行くにはあまりに孤独すぎるから…。けれどいざ死ぬとなっていきなり怖くなった。死ぬ時ってどんな感じなんだろう?どんなに痛くて、どんなに苦しくて…。想像しただけで恐怖に襲われて足が止まった。気づいたら、春日さんが“どうして、尚ちゃん”って言いながら地に落ちていって、やがてグシャ、パンって音がして、頭が割れて顔の潰れた変わり果てた姿になった春日さんが見えて、更に恐怖が増して、私はその場から逃げてしまった。今思い返せば、彼はどんな心境で死んでいったのだろう。きっと私は許して貰えない。ー
更に次のページに懺悔は続いていた。
ーごめんなさい、皆。私は死ぬのが怖かったけれど、今は生きる方が怖い。皆が居なくなった世界でやっとわかった。一歩外にでれば皆は“真実”を知らない人達が“犯罪者って目で見てくるから私は独りで…そっちの方が死ぬより辛いと分かったから…。今からそっちに行くね。…こんな私はもう受け入れてもらえないんだろうな。…寂しいよ、ごめんなさい。ー




「…ちゃん、…ゆ…、優ちゃん!!」
身体を揺さぶられてやっとライチさんに呼ばれていたのに気づいた。
「大丈夫?」
「ん、大丈…え?」
何がだろうと疑問に思っていたら自分の頬をつたって涙がこぼれたことに気づく。
「あれ?なんで私、泣いて…。」
思い当たる節はある。
彼女も気持ちに共感できる部分が多々あったから、痛いほどに気持ちが分かってしまったから…。
現実にいた頃も時々自分が孤独に感じることがあった。それから逃げる様に二次元や妄想の世界に逃げ込んで…。
孤独は何よりも辛い。そのことを知っているから…。
だからこんなにも抉られた様に胸が痛い。
「あはは、大丈夫。あ…」
手が滑って、日記を落としてしまった。
「ん?」
偶然に開いたページを見て拾おうと伸ばした手が止まる。
「これ…これだよ。」
「優ちゃん?」
「見て、このページ。」
ー私が脱獄して帰ってきてからサプライズがあった。私の親友と白木先生に音楽室でピアノを教えて貰ってたって言ったからってピアノを小さいし中古だけどって買ってくれてた。そのピアノで春日さんに簡単な曲だけど私の好きな曲、“『翼をください』を聞いて貰った。そしたらいきなり春日さんが涙を浮かべたからとってもびっくりした。大きい男の人でもあんな風に涙するんだって。でもとても喜んでくれたから嬉しいな。ー
「ピアノ?確かリビングに見えたけど…。」
「…ライチさん、私に力を貸して。」
本当は危険だから私1人でやりたい。
でも、1人では限界があるから…。
「勿論、優ちゃんの為なら協力しちゃうよ。お姉さんに任せとき!」
「ありがとう。…優しすぎだよ。」
後半は聞こえない様に呟く。
「で、何したら良い?」
「私はピアノを弾く為にリビングに待機。ライチさんは春日清彦をリビングまで誘導。危なくなったら能力使ってね。これだけは約束して!」
少し強めに念を押す。
じゃないと、私の為って無理しそうだし。
現実の世界でも似たような事があったから…。
「…分かった。」
ライチさんは渋々とだが、納得してくれた。
「誘導してくれたら私は“翼をください”をピアノで弾く。そしてライチさんは日記を読んで欲しい。大丈夫、きっと上手くいく。」
半分くらい自分言い聞かせるように言った。
上手くいくなんて保証、何処にもない。
でも可能性が1でもあるならやるしかない。
「大丈夫だよ。」
私の不安を悟ったのかそうライチさんは笑ってくれた。
「今まで、その優の思いつきで成功して救われてきたんだから。もっと自信持って良いよ。」
「ん、ありがとう。」
エスパーなのかなって思う程に私に欲しい言葉をくれる。
一度深呼吸をし、私達は部屋をあとにした。




予定通り、私はリビングで待機してから15分以上経った。
「っ、もうあと3分で20分経っちゃう。大丈夫かな…。」
不安が増していく中だった。バタバタと走ってくる足音が2つする。
私は耳が良いからすぐ分かった。
ライチさんと春日清彦の足音だ。
「3、2、1…。」
カウントが終わると同時に2人がリビングに走ってきた。
そのタイミングで、私はピアノを弾き始める。
と、ー
「あ…?」
春日清彦の動きが止まる。
「コレ…聞いたコト…?」
「春日さん、尚ちゃんから聞かされたことあるんじゃない?」
ライチさんの問いかけにピクリと反応がある。
「尚ちゃんの日記に書いてあったよ。自分の好きな曲を弾いたら涙してくれたって。」
「あ…う、尚…ちゃ、ピアノ…。」
「春日さん、尚ちゃんの日記を読んで。」
「尚ちゃん…日記?」
正気を取り戻してきたようだ。
春日清彦はライチさんの手から、日記を受け取るとパラパラとめくり読み始めた。
「うう、尚ちゃん…。それに…僕は何てことを…。」
ポタポタと溢れる涙を私はただ見つめることしか出来なかった。
それから、春日清彦が落ち着くのを待ち、3人で風呂場へ向かう。
尚の兄と母に謝罪をしたいと春日清彦から申し出があったのだ。
「ところで、一つ気になってたことがあるんだけど、春日さんはなんで豹変したの?」
と、単刀直入にライチさんが聞く。
「…ごめん、分からない。突然頭真っ白になった。そこから先はボンヤリとしか…。」
「このゲームを始めたのは貞岡尚ならその時だけ操ってたのかもね。そうなるように仕組んだというか…。上手く説明できないんだけど、あの空間、もしくは写真を見たら豹変する様に設定されていた。移動した際あの部屋に飛ばしたら必然的にトリガーが引かれる様にしてたんだよ。」
「なるほどね。きっと春日さんに日記を読んで欲しかったんだろうね。きっとそれが尚の未練だったんじゃないかな。」
ライチさんの言葉に頷く。
「でも…現実にまだ帰れない。」
「僕達が今から成仏しても尚ちゃんがまだ残ってる。」
「え…。このステージに?」
何か知っているらしい春日清彦を問いただそうとした時だった。
黒い渦に私とライチさんは吸い込まれていった。
「気をつけて…。」
と、春日清彦の言葉を耳に残して…_。
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