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第10章:相剋の果て、世界の黄昏
第1話:男装の陰陽師は決戦の覚悟を決める2
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「なっ……!」
僕の言葉に真白が絶句した。
そしてその隣で、夜刀の空気が一瞬で凍りついたのが分かった。
彼の綺麗な白銀の長髪が、僕への強い反対意見を示すかのように、サッと揺れる。
「主、それはなりません。いかに奴が有能であろうと、あの大罪人を野に放つなど……!」
夜刀の静かな声に、普段の彼からは考えられないくらい、強い拒絶の色が滲んでいた。
藤原玄道。
スサノオの神核を解放して、この都をめちゃくちゃにした張本人。
それだけじゃない。
僕を自分の野望のために利用しようとした、絶対に許せない男。
「あの男を、また主の側に近づけるなど……!」
夜刀から溢れんばかりの怒りが伝わってきて、僕の胸までチリチリと痛む。
彼の目は、僕を傷つけようとするもの全てを排除しようとする、鋭い光を宿していた。
「夜刀の言う通りだ、朔夜! あいつだけは……!」
真白も、強い口調で夜刀に賛同する。
前から玄道のこと苦手そうにしてたけど、スサノオ騒動の辺りからは、はっきりとした敵意に変わってる。
僕が利用されかけたこと、そして、何より玄道が僕に向ける、あのねっとりとした視線が、真白には我慢ならないんだって言ってた。
「他に、良い手がないんだ」
僕の声は、自分でも驚くほど、有無を言わせない響きを持っていた。
もちろん、僕だってあの男を頼るのは、めちゃくちゃ抵抗がある。
でも、今は僕個人の感情で判断を間違っちゃいけない。
陰陽師として、今、一番たくさんの命を救うためのベストな選択をしなくちゃ。
「帝の許可を待ってる時間はない。これは、僕の独断だ。事後承諾ってことで玄道を牢から出して、現場の指揮を任せてくれ。牢屋番がゴネたら、強行突破してでも。責任は、全部僕が取る」
「責任取るって、お前、それがどういうことか分かってんのか!?」
真白が声を荒らげるのも、当然だ。
許可なく大罪人を解放するなんて、前代未聞の暴挙だ。
いくら緊急事態でも、最悪、僕の首が飛ぶ。
「覚悟の上だよ。都が落ちたら、この世界が終わるんだから」
「主のお命に関わるようなこと、私には到底、容認できません。それに、奴は主を利用しようとした男です。再び我らを裏切らないという保証は、どこにも……」
静かだけど、絶対に引かない、という強い意志を感じさせる夜刀に、僕はスサノオ様の呪縛から解放された時の、玄道の顔を思い出していた。
あの時の彼は、憑き物が落ちたように、穏やかな瞳をしていたんだ。
「今の玄道なら、きっと力を貸してくれる」
彼は負けて、全てを失った。
でも、陰陽師としてのプライドまで消えたわけじゃないはず。
やり方は最悪に間違ってたけど、彼も彼なりに、この世界を救おうとしてたんだ。
世界が目の前で滅ぶのを、あの男だって黙って見てるはずがない。
(……もっとも、僕への執着心が妙な方向にパワーアップしちゃったのは、正直、かなり思うところがあるけど)
後で何を要求されるか、考えただけで背筋が凍る。
でも、それは後で考えよう。
今は、都の人たちの命が最優先だ。
「ですが……」
それでも食い下がろうとする夜刀の言葉を、僕は強い視線で遮った。
夜刀は不服そうにしながらも、口をつぐんだ。
ごめん、夜刀。
でも、これしか無くて。
君の忠誠心も、僕を想ってくれる深い気持ちも、痛いほど分かってる。
分かってるからこそ、辛い。
彼の前では決して見せないけれど、その真っ直ぐすぎる愛情を、僕は時々持て余してしまう。
「……わかったよ。朔夜がそう言うなら、それが一番良い手なんだろうな」
先に折れてくれたのは、真白だった。
苦々しい顔で、でも、僕の覚悟を無下にはできないって、分かってくれた。
「アタシも、一族の者たちに声をかけとくわ。少しは足しになるでしょ」
雅姐さんの頼もしい申し出に、僕は力強く頷いた。
「わたくしは、このままお部屋をお借りして、水鏡で戦況をお伝えすればよろしいのですね」
「うん。今回は広範囲での戦いになるから。戦場全体を見て、的確な指示を出してくれる紅子さんが頼りなんだ」
「責任重大ですわね。頑張りますわ」
紅子さんが小さな拳をきゅっと握る。
その健気な姿に、思わず頬が緩んだ。
それから僕は、傍らで控えている半妖の少年に向き直った。
「竜胆丸、君は屋敷に残って、紅子さんの護衛をお願い」
「……わかったよ、朔夜様」
本当は僕と一緒に戦いたい。
その気持ちが、彼の真っ直ぐな紫の瞳から伝わってくる。
でも、彼はぐっと堪えて、僕の命令を受け入れてくれた。
「ごめんね、竜胆丸。でも、これもすっごく重要な役目なんだ」
「うん、分かってる。絶対守るから、安心して任せてよ。紅子さん」
「ええ、頼りにしていますわ、竜胆丸くん」
紅子さんの優しい微笑みに、竜胆丸の耳がほんのり赤く染まる。
その頭をわしゃわしゃと撫でてやると、彼は照れくさそうにそっぽを向いた。
最後に、黒い犬耳をピンと立てている双子に目をやる。
「狗、狛。君たちは、真白の指示に従って」
「わかった、朔!」
「はい、朔夜様」
真白の実力を認めている二人は、素直に従ってくれた。
こうしてみんな、それぞれの覚悟を決めてくれた。
僕は決意を込めて、もう一度、姉様の待つ正陽殿へと視線を向けた。
僕の言葉に真白が絶句した。
そしてその隣で、夜刀の空気が一瞬で凍りついたのが分かった。
彼の綺麗な白銀の長髪が、僕への強い反対意見を示すかのように、サッと揺れる。
「主、それはなりません。いかに奴が有能であろうと、あの大罪人を野に放つなど……!」
夜刀の静かな声に、普段の彼からは考えられないくらい、強い拒絶の色が滲んでいた。
藤原玄道。
スサノオの神核を解放して、この都をめちゃくちゃにした張本人。
それだけじゃない。
僕を自分の野望のために利用しようとした、絶対に許せない男。
「あの男を、また主の側に近づけるなど……!」
夜刀から溢れんばかりの怒りが伝わってきて、僕の胸までチリチリと痛む。
彼の目は、僕を傷つけようとするもの全てを排除しようとする、鋭い光を宿していた。
「夜刀の言う通りだ、朔夜! あいつだけは……!」
真白も、強い口調で夜刀に賛同する。
前から玄道のこと苦手そうにしてたけど、スサノオ騒動の辺りからは、はっきりとした敵意に変わってる。
僕が利用されかけたこと、そして、何より玄道が僕に向ける、あのねっとりとした視線が、真白には我慢ならないんだって言ってた。
「他に、良い手がないんだ」
僕の声は、自分でも驚くほど、有無を言わせない響きを持っていた。
もちろん、僕だってあの男を頼るのは、めちゃくちゃ抵抗がある。
でも、今は僕個人の感情で判断を間違っちゃいけない。
陰陽師として、今、一番たくさんの命を救うためのベストな選択をしなくちゃ。
「帝の許可を待ってる時間はない。これは、僕の独断だ。事後承諾ってことで玄道を牢から出して、現場の指揮を任せてくれ。牢屋番がゴネたら、強行突破してでも。責任は、全部僕が取る」
「責任取るって、お前、それがどういうことか分かってんのか!?」
真白が声を荒らげるのも、当然だ。
許可なく大罪人を解放するなんて、前代未聞の暴挙だ。
いくら緊急事態でも、最悪、僕の首が飛ぶ。
「覚悟の上だよ。都が落ちたら、この世界が終わるんだから」
「主のお命に関わるようなこと、私には到底、容認できません。それに、奴は主を利用しようとした男です。再び我らを裏切らないという保証は、どこにも……」
静かだけど、絶対に引かない、という強い意志を感じさせる夜刀に、僕はスサノオ様の呪縛から解放された時の、玄道の顔を思い出していた。
あの時の彼は、憑き物が落ちたように、穏やかな瞳をしていたんだ。
「今の玄道なら、きっと力を貸してくれる」
彼は負けて、全てを失った。
でも、陰陽師としてのプライドまで消えたわけじゃないはず。
やり方は最悪に間違ってたけど、彼も彼なりに、この世界を救おうとしてたんだ。
世界が目の前で滅ぶのを、あの男だって黙って見てるはずがない。
(……もっとも、僕への執着心が妙な方向にパワーアップしちゃったのは、正直、かなり思うところがあるけど)
後で何を要求されるか、考えただけで背筋が凍る。
でも、それは後で考えよう。
今は、都の人たちの命が最優先だ。
「ですが……」
それでも食い下がろうとする夜刀の言葉を、僕は強い視線で遮った。
夜刀は不服そうにしながらも、口をつぐんだ。
ごめん、夜刀。
でも、これしか無くて。
君の忠誠心も、僕を想ってくれる深い気持ちも、痛いほど分かってる。
分かってるからこそ、辛い。
彼の前では決して見せないけれど、その真っ直ぐすぎる愛情を、僕は時々持て余してしまう。
「……わかったよ。朔夜がそう言うなら、それが一番良い手なんだろうな」
先に折れてくれたのは、真白だった。
苦々しい顔で、でも、僕の覚悟を無下にはできないって、分かってくれた。
「アタシも、一族の者たちに声をかけとくわ。少しは足しになるでしょ」
雅姐さんの頼もしい申し出に、僕は力強く頷いた。
「わたくしは、このままお部屋をお借りして、水鏡で戦況をお伝えすればよろしいのですね」
「うん。今回は広範囲での戦いになるから。戦場全体を見て、的確な指示を出してくれる紅子さんが頼りなんだ」
「責任重大ですわね。頑張りますわ」
紅子さんが小さな拳をきゅっと握る。
その健気な姿に、思わず頬が緩んだ。
それから僕は、傍らで控えている半妖の少年に向き直った。
「竜胆丸、君は屋敷に残って、紅子さんの護衛をお願い」
「……わかったよ、朔夜様」
本当は僕と一緒に戦いたい。
その気持ちが、彼の真っ直ぐな紫の瞳から伝わってくる。
でも、彼はぐっと堪えて、僕の命令を受け入れてくれた。
「ごめんね、竜胆丸。でも、これもすっごく重要な役目なんだ」
「うん、分かってる。絶対守るから、安心して任せてよ。紅子さん」
「ええ、頼りにしていますわ、竜胆丸くん」
紅子さんの優しい微笑みに、竜胆丸の耳がほんのり赤く染まる。
その頭をわしゃわしゃと撫でてやると、彼は照れくさそうにそっぽを向いた。
最後に、黒い犬耳をピンと立てている双子に目をやる。
「狗、狛。君たちは、真白の指示に従って」
「わかった、朔!」
「はい、朔夜様」
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