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第10章:相剋の果て、世界の黄昏
第1話:男装の陰陽師は決戦の覚悟を決める3
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「行ってらっしゃいませ。ご武運を」
「朔夜様、気をつけて!」
紅子さんと竜胆丸に見送られて屋敷を出ると、神気とも妖気ともつかない不気味なプレッシャーが、さっきよりずっと強くのしかかってきた。
真っ昼間なのに、空は薄暗く、大内裏へ続く道は不気味なほど静まり返っている。
慎重に大路を進み、大内裏の正門の前で僕たちは足を止めた。
問題発生だ。
陰陽師の僕や真白、僕の式神たちは入れるけど、ただの白拍子である雅姐さんは、ここから先には入れない。
仲間としてずっと一緒にいるもんだから、立場の違いをすっかり忘れてた……。
僕のバカ!
「さて、どうすっかな……朔夜?」
「うーん、雅姐さんだけここで待っててもらうわけにもね……」
僕と真白が、堅く閉ざされた門を見上げて唸っていると、
「アタシにかかれば、こんなもの、どうってことないわよ」
と言って、雅姐さんがふわりと甘ったるい香りを漂わせながら、門番の方へ色っぽく歩み寄っていく。
え、マジで?
この香り、知ってる。
確か、催眠に使うヤツだ……。
呆気にとられる僕をよそに、雅姐さんは門番に親しげに話しかけた。
門番も白拍子の常連さんだったらしい。
彼女が甘い声で何かを囁き、上目遣いでニッコリ笑いかけたかと思うと……。
あれだけ厳格そうだった門番は、骨を抜かれたみたいにだらしない顔で、あっさり門を開け放った。
「……雅姐さん、一体何をしたんですか」
「やだ、朔夜ちゃん、そんな呆れた顔しないでちょうだい。ちょっと『お話』しただけよ」
「……この国の防衛、本気で大丈夫かよ」
僕と真白が本気で国の守りを心配する横で、雅姐さんは「ふふん」と得意げに鼻を鳴らした。
なんとか全員で中に入り、僕たちは内裏の入り口、金陽門の前で再び足を止める。
門の向こうには、白い砂利が敷き詰められただだっ広い庭があって、その遥か先に、威圧感を放つ正陽殿が見えた。 あそこから漏れ出してくる気配は、もはや神々しさなんて欠片もなくて、禍々しいだけだ。
「みんなは、ここで待機してて」
僕は静かにそう告げた。
心配そうに僕を見つめてくる真白に、できるだけ穏やかな笑みを向ける。
「真白、大丈夫だよ。でも、万が一の時は、手筈通りに頼む」
その手筈とは、雅姐さんの作り出す特殊な結界「幽玄領域」に、アマテラス姉様を僕と夜刀ごと閉じ込めてもらうこと。
僕たちが姉様を足止めしている間に、みんなには都に溢れ出す妖魔を叩いてもらう。
「……わかった。こっちは任せとけ」
真白は短くそう答えたけど、その瞳は不安で揺れていた。
行くな。
お前一人に、そんな危ない役目、背負わせたくない。
言葉にしなくても、彼の気持ちが痛いほど伝わってくる。
(ごめん、真白。でも、これは僕にしかできないことなんだ)
「異変があればすぐに駆け付けます。どうか、ご無理はなさらず」
夜刀の静かで力強い声と、みんなの覚悟に満ちた視線に背中を押されて、僕は一人、正陽殿へと足を踏み入れた。
***
正陽殿の中は、淀んだ神気が渦巻いていて息が詰まりそうだった。
帝や偉い人たちが、神妙な顔でずらっと並んでいる。
その中心、玉座に座っていたのは、黄金の瞳を持つ、息を呑むほど美しい女性。
光そのものを纏ったような神々しい姿。
でも、その身から放たれるオーラは、清らかな神気なんかじゃなく、穢れきって瘴気みたいになっていた。
「……ツクヨミ」
かつて姉と慕った神様は、憎しみに歪んだ顔で、僕の名を呪いのように呟いた。
再会の言葉なんて、交わす暇もなかった。
姉様は、問答無用で僕に襲いかかってきた。
「大神の呪い」に完全に心を喰われた彼女は、もう話し合いができる相手じゃなかったんだ。
「主!」
殺気の奔流が僕に届く、その寸前。
夜刀が殿内に飛び込んできて、僕の前に滑り込む。
そして、抜き放った刀で、姉様の攻撃を鋭く弾き返した。
「夜刀、助かった!」
「ご無事で何よりです」
彼の背中が、こんなにも頼もしいと思ったことはない。
「……小賢しい」
姉様が忌々しげに呟いた瞬間、正陽殿からとんでもない量の瘴気(悲しいけど、もう神気じゃなくて瘴気って断言する)が迸り、黒い濁流となってあっという間に金烏京を覆い尽くした。
真っ昼間なのに、太陽は光を失い、世界は真っ暗な夜になったみたいだ。
「朔夜!」
外で待機していたみんなが、ただならぬ気配に駆け込んでくる。
殿内では、帝や重鎮たちがなす術もなく震えあがっていた。
「この人たちと、都の人たちを頼む!」
僕の叫びに、みんなはすぐさま散り、人々を守る結界を張り始めた。
「雅姐さん、お願い!」
「わかったわ!」
僕の合図で、雅姐さんが呪文を唱える。
彼女を中心に空間がぐにゃりと歪み、異空間への扉が開いた。
「幽玄領域、展開!」
僕は姉様を巧みに誘導して、夜刀と一緒にその空間の歪みへと飛び込む。
雅姐さんが作ってくれた、決戦の舞台。
ここで、僕たち姉妹の、そしてこの世界の運命を賭けた戦いが、今、始まる──。
◇◇◇
【あとがき】
カオス会議:第10章第1話「男装の陰陽師は決戦の覚悟を決める」編
登場人物
夜刀:忠臣にして恋人候補?本編ではクールだけどあとがきでは色んなデレを拗らせてる、拗らせイケメン式神。
竜胆丸:今日も今日とて安定のツンデレ式神。実はめちゃくちゃ真面目くん。
狗:元気印の子犬系式神。重い雰囲気を緩和してくれるムードメーカー。
狛:おしゃまな子犬系式神。しっかり者だけど見た目の雰囲気はゆるふわ癒し系。
狛 (耳をペションとしつつ):
「うう……都が変な空気で尻尾がゾワゾワするのですううう」
狗 (尻尾の毛を逆立てて身震いしつつ):
「大丈夫か、狛?ホント嫌な感じだな」
夜刀 (キリっと登場):
「お前たち、しゃんとしないか。主が命を懸けた戦いに臨まれるのだ。私たちがお支えしないでどうする」
狗&狛 (ビシッと背筋を伸ばして):
「は、はい!」
竜胆丸 (不貞腐れ気味):
「……みんなは良いよな。朔夜様の傍で役に立てるんだから。俺なんて留守番だもんな……」
狛 (こぶしを握りつつ一生懸命訴えて):
「でもでも、紅子様の護衛だってとっても重要なお役目ですよ!」
狗 (ニヤニヤ):
「紅子姉ちゃん、優しいしキレイだし、役得じゃん♪」
竜胆丸 (頬をポリポリ):
「ま、まあ、紅子さんは美人だけど……じゃなくて!大事な役目なのもわかってるし、紅子さんに何かあったらボクも嫌だけど……」
夜刀 (フッと笑って):
「たったひとりで護衛を任されたのだ。お前はそれだけ主に信頼されているということだ」
狛 (コクコク頷いて):
「ですです!」
狗 (ニカッと笑って):
「だってさ!」
竜胆丸 (少し赤くなりつつゴニョゴニョ):
「ま、まあ、そういうことなら、任されてやってもいいけど……」
夜刀 (真面目な顔になって):
「紅子殿に何かあれば、主が悲しまれる。しっかり頼んだぞ」
竜胆丸 (キュッと補油場を引き締めて):
「うん、わかってる」
狛 (ニッコリ):
「というわけで、お話はついにアマテラス戦へ!」
狗 (気合を入れて):
「オイラたちの活躍、見守ってくれよな!」
全員 :
「「「「「第2話もお楽しみに!」」」」
◇◇◇
今回は式神回でした!
お気に入りの式神は居ますか?
教えてくださったら活躍増えちゃうかも!?
引き続き、応援よろしくお願いします!
「朔夜様、気をつけて!」
紅子さんと竜胆丸に見送られて屋敷を出ると、神気とも妖気ともつかない不気味なプレッシャーが、さっきよりずっと強くのしかかってきた。
真っ昼間なのに、空は薄暗く、大内裏へ続く道は不気味なほど静まり返っている。
慎重に大路を進み、大内裏の正門の前で僕たちは足を止めた。
問題発生だ。
陰陽師の僕や真白、僕の式神たちは入れるけど、ただの白拍子である雅姐さんは、ここから先には入れない。
仲間としてずっと一緒にいるもんだから、立場の違いをすっかり忘れてた……。
僕のバカ!
「さて、どうすっかな……朔夜?」
「うーん、雅姐さんだけここで待っててもらうわけにもね……」
僕と真白が、堅く閉ざされた門を見上げて唸っていると、
「アタシにかかれば、こんなもの、どうってことないわよ」
と言って、雅姐さんがふわりと甘ったるい香りを漂わせながら、門番の方へ色っぽく歩み寄っていく。
え、マジで?
この香り、知ってる。
確か、催眠に使うヤツだ……。
呆気にとられる僕をよそに、雅姐さんは門番に親しげに話しかけた。
門番も白拍子の常連さんだったらしい。
彼女が甘い声で何かを囁き、上目遣いでニッコリ笑いかけたかと思うと……。
あれだけ厳格そうだった門番は、骨を抜かれたみたいにだらしない顔で、あっさり門を開け放った。
「……雅姐さん、一体何をしたんですか」
「やだ、朔夜ちゃん、そんな呆れた顔しないでちょうだい。ちょっと『お話』しただけよ」
「……この国の防衛、本気で大丈夫かよ」
僕と真白が本気で国の守りを心配する横で、雅姐さんは「ふふん」と得意げに鼻を鳴らした。
なんとか全員で中に入り、僕たちは内裏の入り口、金陽門の前で再び足を止める。
門の向こうには、白い砂利が敷き詰められただだっ広い庭があって、その遥か先に、威圧感を放つ正陽殿が見えた。 あそこから漏れ出してくる気配は、もはや神々しさなんて欠片もなくて、禍々しいだけだ。
「みんなは、ここで待機してて」
僕は静かにそう告げた。
心配そうに僕を見つめてくる真白に、できるだけ穏やかな笑みを向ける。
「真白、大丈夫だよ。でも、万が一の時は、手筈通りに頼む」
その手筈とは、雅姐さんの作り出す特殊な結界「幽玄領域」に、アマテラス姉様を僕と夜刀ごと閉じ込めてもらうこと。
僕たちが姉様を足止めしている間に、みんなには都に溢れ出す妖魔を叩いてもらう。
「……わかった。こっちは任せとけ」
真白は短くそう答えたけど、その瞳は不安で揺れていた。
行くな。
お前一人に、そんな危ない役目、背負わせたくない。
言葉にしなくても、彼の気持ちが痛いほど伝わってくる。
(ごめん、真白。でも、これは僕にしかできないことなんだ)
「異変があればすぐに駆け付けます。どうか、ご無理はなさらず」
夜刀の静かで力強い声と、みんなの覚悟に満ちた視線に背中を押されて、僕は一人、正陽殿へと足を踏み入れた。
***
正陽殿の中は、淀んだ神気が渦巻いていて息が詰まりそうだった。
帝や偉い人たちが、神妙な顔でずらっと並んでいる。
その中心、玉座に座っていたのは、黄金の瞳を持つ、息を呑むほど美しい女性。
光そのものを纏ったような神々しい姿。
でも、その身から放たれるオーラは、清らかな神気なんかじゃなく、穢れきって瘴気みたいになっていた。
「……ツクヨミ」
かつて姉と慕った神様は、憎しみに歪んだ顔で、僕の名を呪いのように呟いた。
再会の言葉なんて、交わす暇もなかった。
姉様は、問答無用で僕に襲いかかってきた。
「大神の呪い」に完全に心を喰われた彼女は、もう話し合いができる相手じゃなかったんだ。
「主!」
殺気の奔流が僕に届く、その寸前。
夜刀が殿内に飛び込んできて、僕の前に滑り込む。
そして、抜き放った刀で、姉様の攻撃を鋭く弾き返した。
「夜刀、助かった!」
「ご無事で何よりです」
彼の背中が、こんなにも頼もしいと思ったことはない。
「……小賢しい」
姉様が忌々しげに呟いた瞬間、正陽殿からとんでもない量の瘴気(悲しいけど、もう神気じゃなくて瘴気って断言する)が迸り、黒い濁流となってあっという間に金烏京を覆い尽くした。
真っ昼間なのに、太陽は光を失い、世界は真っ暗な夜になったみたいだ。
「朔夜!」
外で待機していたみんなが、ただならぬ気配に駆け込んでくる。
殿内では、帝や重鎮たちがなす術もなく震えあがっていた。
「この人たちと、都の人たちを頼む!」
僕の叫びに、みんなはすぐさま散り、人々を守る結界を張り始めた。
「雅姐さん、お願い!」
「わかったわ!」
僕の合図で、雅姐さんが呪文を唱える。
彼女を中心に空間がぐにゃりと歪み、異空間への扉が開いた。
「幽玄領域、展開!」
僕は姉様を巧みに誘導して、夜刀と一緒にその空間の歪みへと飛び込む。
雅姐さんが作ってくれた、決戦の舞台。
ここで、僕たち姉妹の、そしてこの世界の運命を賭けた戦いが、今、始まる──。
◇◇◇
【あとがき】
カオス会議:第10章第1話「男装の陰陽師は決戦の覚悟を決める」編
登場人物
夜刀:忠臣にして恋人候補?本編ではクールだけどあとがきでは色んなデレを拗らせてる、拗らせイケメン式神。
竜胆丸:今日も今日とて安定のツンデレ式神。実はめちゃくちゃ真面目くん。
狗:元気印の子犬系式神。重い雰囲気を緩和してくれるムードメーカー。
狛:おしゃまな子犬系式神。しっかり者だけど見た目の雰囲気はゆるふわ癒し系。
狛 (耳をペションとしつつ):
「うう……都が変な空気で尻尾がゾワゾワするのですううう」
狗 (尻尾の毛を逆立てて身震いしつつ):
「大丈夫か、狛?ホント嫌な感じだな」
夜刀 (キリっと登場):
「お前たち、しゃんとしないか。主が命を懸けた戦いに臨まれるのだ。私たちがお支えしないでどうする」
狗&狛 (ビシッと背筋を伸ばして):
「は、はい!」
竜胆丸 (不貞腐れ気味):
「……みんなは良いよな。朔夜様の傍で役に立てるんだから。俺なんて留守番だもんな……」
狛 (こぶしを握りつつ一生懸命訴えて):
「でもでも、紅子様の護衛だってとっても重要なお役目ですよ!」
狗 (ニヤニヤ):
「紅子姉ちゃん、優しいしキレイだし、役得じゃん♪」
竜胆丸 (頬をポリポリ):
「ま、まあ、紅子さんは美人だけど……じゃなくて!大事な役目なのもわかってるし、紅子さんに何かあったらボクも嫌だけど……」
夜刀 (フッと笑って):
「たったひとりで護衛を任されたのだ。お前はそれだけ主に信頼されているということだ」
狛 (コクコク頷いて):
「ですです!」
狗 (ニカッと笑って):
「だってさ!」
竜胆丸 (少し赤くなりつつゴニョゴニョ):
「ま、まあ、そういうことなら、任されてやってもいいけど……」
夜刀 (真面目な顔になって):
「紅子殿に何かあれば、主が悲しまれる。しっかり頼んだぞ」
竜胆丸 (キュッと補油場を引き締めて):
「うん、わかってる」
狛 (ニッコリ):
「というわけで、お話はついにアマテラス戦へ!」
狗 (気合を入れて):
「オイラたちの活躍、見守ってくれよな!」
全員 :
「「「「「第2話もお楽しみに!」」」」
◇◇◇
今回は式神回でした!
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