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第3章:宮廷の闇、血塗られた神事
第1話:男装の陰陽師は穢された祈りの謎を追う2
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「な、なんだこれはッ!?」
「妖魔だ! 妖魔が現れたぞォォッ!」
貴族たちの間に、恐怖と混乱の波が、津波のように広がっていく。
悲鳴と怒号が入り乱れ、天上の音楽が流れていたはずの神聖な儀式の場は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図へと叩き落された。
(まずい、これは本当にまずい!)
「帝をお守りしろ! 帝の御前へ!」
警護の武官たちが血相を変えて叫び、一斉に抜刀する。
しかし、蠢鬼たちは、まるで嘲笑うかのようにその数を瞬く間に増やし、逃げ惑う貴族たちに、次々と襲い掛かった!
その大混乱の中、蠢鬼に混じって、ひときわ禍々しい気を放つ異形の一体が姿を現した。
四足の獣のようだが、その毛並みは煤けたように淀んだ黒。
異様に長く伸びた前肢の鉤爪が、陽光を反射して鈍く、鋭く光っている。
狼に似た姿だが、全身から放たれる妖気は、そこらの妖魔とは比べ物にならないほど強大だ。
「……あれは、中級以上……いや、見たことのない変異種か……!」
僕は低く、鋭く呟く。
その異形の妖魔が、鋭い爪を閃かせ、一直線に帝を目がけて突進した!
(まずい!)
「させるかァッ!」
真白が獣のような雄叫びを上げ、懐から数枚の霊符を引き抜く。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前! 破ァッ!」
力強く九字を切ると同時に放たれた符が、目映い閃光を放ち、突進してきた獣型妖魔の眼前に、攻撃と防御を兼ねた光り輝く障壁を展開する!
牙を剥いたその異形は、黒煙をまといながら障壁に激突し、炎と雷の複合術に焼かれながら、凄まじい衝撃音を轟かせた。
辛うじて防ぎきったものの、真白は数歩、地を滑るように後退する。
「くそっ……! 内裏の結界は、一体どうなってるんだよッ!?」
真白が、苦々しげに悪態をついた。
結界が破られた形跡はない。
だというのに、これほどまでの数の妖魔が、一体どこから湧いて出たというのか。
全く、理解が追いつかない。
「真白、帝の御前へ急げ!」
戦場を切り裂くような声で指示を飛ばす。
自分も既に数体の蠢鬼に囲まれていたが、冷静に状況を把握し、的確に判断を下した。
「式神召喚――来たれ、夜刀!」
空間がぐにゃりと歪み、白銀の髪を風に靡かせた美丈夫――僕の頼れる式神、夜刀が姿を現す。
抜き放たれた白銀の刀が、まるで月光のような優美な軌跡を描き、襲い来る蠢鬼を、一刀のもとに両断した。
流石は夜刀だ。
しかし、切り裂かれたはずの蠢鬼は、黒い煙を上げながらも、すぐに再生しようと蠢き始める。
常世事件以降、確認されている“再生型”の特性を持つ、厄介な変異体だ。
「チッ、再生型か……! 面倒な!」
夜刀が、忌々しげに舌打ちする。
その美しい顔が、わずかに歪んだ。
「夜刀、数を減らせ! 僕が核を浄化する!」
常世事件を機に確認された変異型の中には、“核”と呼ばれる妖力の集中点を持つ個体が存在する。
――僕の視線は、それを瞬時に、そして正確に見抜いていた。
素早く印を結び、霊力を練り上げる。
瞳が、淡い月光のような色に輝き始めたのが自分でも分かった。
「滅!」
破邪の力が、銀色の閃光となってほとばしり、数体の蠢鬼の核を寸分違わず貫く。
聖なる光に焼かれた妖魔は、断末魔の叫びと共に、塵と化して消え去った。
他の陰陽師たちも、ようやく体勢を立て直し応戦を開始する。
武官たちも、恐怖を押し殺し、必死に奮戦していた。
しかし、妖魔の数はあまりにも多く、次々と貴族たちが傷つき、倒れていく。
あれほど優雅だった装束は見る影もなく引き裂かれ、鮮血に染まり、神聖なる南庭は、恐怖と混沌に支配された戦場と化していた。
(こんな……こんなことになるなんて……!)
帝は武官たちに幾重にも守られ、辛うじて難を逃れたものの、その顔色は恐怖と衝撃で蒼白だった。
天覧の神事が血で穢され、このような形で中断を余儀なくされたという事実は、帝の権威に、そして国の安寧に、大きな傷をつけることになるだろう。
民の動揺は計り知れない。
やがて、僕たち陰陽師の決死の奮闘により、あれほど猛威を振るっていた妖魔は徐々に数を減らし、残った妖魔も、まるで潮が引くように、黒い靄となってスルスルと消え去っていった。
荘厳だったはずの祭壇は無残に破壊され、捧げられた供物も見る影もなく散乱している。
秋の澄んだ陽光が、その凄惨な光景を、ただ無情に照らし出していた。
「……なんてこった……ひどい有様だ……」
真白が、目の前の惨状に、呆然と呟くのが聞こえた。
周囲を見渡せば、負傷者は数十名に及び、数名の貴族が、その場で命を落としていた。
僕は、唇を固く結び、その惨状を、怒りと悲しみの入り混じった瞳で見つめていた。
「妖魔だ! 妖魔が現れたぞォォッ!」
貴族たちの間に、恐怖と混乱の波が、津波のように広がっていく。
悲鳴と怒号が入り乱れ、天上の音楽が流れていたはずの神聖な儀式の場は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図へと叩き落された。
(まずい、これは本当にまずい!)
「帝をお守りしろ! 帝の御前へ!」
警護の武官たちが血相を変えて叫び、一斉に抜刀する。
しかし、蠢鬼たちは、まるで嘲笑うかのようにその数を瞬く間に増やし、逃げ惑う貴族たちに、次々と襲い掛かった!
その大混乱の中、蠢鬼に混じって、ひときわ禍々しい気を放つ異形の一体が姿を現した。
四足の獣のようだが、その毛並みは煤けたように淀んだ黒。
異様に長く伸びた前肢の鉤爪が、陽光を反射して鈍く、鋭く光っている。
狼に似た姿だが、全身から放たれる妖気は、そこらの妖魔とは比べ物にならないほど強大だ。
「……あれは、中級以上……いや、見たことのない変異種か……!」
僕は低く、鋭く呟く。
その異形の妖魔が、鋭い爪を閃かせ、一直線に帝を目がけて突進した!
(まずい!)
「させるかァッ!」
真白が獣のような雄叫びを上げ、懐から数枚の霊符を引き抜く。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前! 破ァッ!」
力強く九字を切ると同時に放たれた符が、目映い閃光を放ち、突進してきた獣型妖魔の眼前に、攻撃と防御を兼ねた光り輝く障壁を展開する!
牙を剥いたその異形は、黒煙をまといながら障壁に激突し、炎と雷の複合術に焼かれながら、凄まじい衝撃音を轟かせた。
辛うじて防ぎきったものの、真白は数歩、地を滑るように後退する。
「くそっ……! 内裏の結界は、一体どうなってるんだよッ!?」
真白が、苦々しげに悪態をついた。
結界が破られた形跡はない。
だというのに、これほどまでの数の妖魔が、一体どこから湧いて出たというのか。
全く、理解が追いつかない。
「真白、帝の御前へ急げ!」
戦場を切り裂くような声で指示を飛ばす。
自分も既に数体の蠢鬼に囲まれていたが、冷静に状況を把握し、的確に判断を下した。
「式神召喚――来たれ、夜刀!」
空間がぐにゃりと歪み、白銀の髪を風に靡かせた美丈夫――僕の頼れる式神、夜刀が姿を現す。
抜き放たれた白銀の刀が、まるで月光のような優美な軌跡を描き、襲い来る蠢鬼を、一刀のもとに両断した。
流石は夜刀だ。
しかし、切り裂かれたはずの蠢鬼は、黒い煙を上げながらも、すぐに再生しようと蠢き始める。
常世事件以降、確認されている“再生型”の特性を持つ、厄介な変異体だ。
「チッ、再生型か……! 面倒な!」
夜刀が、忌々しげに舌打ちする。
その美しい顔が、わずかに歪んだ。
「夜刀、数を減らせ! 僕が核を浄化する!」
常世事件を機に確認された変異型の中には、“核”と呼ばれる妖力の集中点を持つ個体が存在する。
――僕の視線は、それを瞬時に、そして正確に見抜いていた。
素早く印を結び、霊力を練り上げる。
瞳が、淡い月光のような色に輝き始めたのが自分でも分かった。
「滅!」
破邪の力が、銀色の閃光となってほとばしり、数体の蠢鬼の核を寸分違わず貫く。
聖なる光に焼かれた妖魔は、断末魔の叫びと共に、塵と化して消え去った。
他の陰陽師たちも、ようやく体勢を立て直し応戦を開始する。
武官たちも、恐怖を押し殺し、必死に奮戦していた。
しかし、妖魔の数はあまりにも多く、次々と貴族たちが傷つき、倒れていく。
あれほど優雅だった装束は見る影もなく引き裂かれ、鮮血に染まり、神聖なる南庭は、恐怖と混沌に支配された戦場と化していた。
(こんな……こんなことになるなんて……!)
帝は武官たちに幾重にも守られ、辛うじて難を逃れたものの、その顔色は恐怖と衝撃で蒼白だった。
天覧の神事が血で穢され、このような形で中断を余儀なくされたという事実は、帝の権威に、そして国の安寧に、大きな傷をつけることになるだろう。
民の動揺は計り知れない。
やがて、僕たち陰陽師の決死の奮闘により、あれほど猛威を振るっていた妖魔は徐々に数を減らし、残った妖魔も、まるで潮が引くように、黒い靄となってスルスルと消え去っていった。
荘厳だったはずの祭壇は無残に破壊され、捧げられた供物も見る影もなく散乱している。
秋の澄んだ陽光が、その凄惨な光景を、ただ無情に照らし出していた。
「……なんてこった……ひどい有様だ……」
真白が、目の前の惨状に、呆然と呟くのが聞こえた。
周囲を見渡せば、負傷者は数十名に及び、数名の貴族が、その場で命を落としていた。
僕は、唇を固く結び、その惨状を、怒りと悲しみの入り混じった瞳で見つめていた。
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