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第4章:金烏の咆哮、呪いの影
第1話:男装の陰陽師は神代の記憶に目覚める1
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うっ……また、この夢か。
深い眠りの底で、僕はまた同じ夢を見ていた。
たぶん、これって神代って呼ばれる、ずーっと昔の記憶なんだろうな。
「……現世からの祈りが、弱まっておるようじゃのぅ」
姉神――アマテラス様が、ぽつりと呟く声が聞こえる。
その声はどこか寂しげで、でも冷たい。
(姉様……)
夢の中の僕は、なぜか彼女を「姉様」と呼んでいる。
なぜか、胸に痛みが走るような切なさを感じる。
「――密儀を執り行え。ツクヨミ、そなたが月の女神として舞い、そして歌うのじゃ」
今度は、威厳に満ちた父神――イザナギ様の声。
逆らえない、絶対的な響き。
夢の中の僕は、ツクヨミと呼ばれている。
そして、父神様の言葉に、不安と躊躇いを覚えてる。
だって、舞うためには、この男装を解かなきゃいけないから……。
本当の姿、女性としての姿を晒さなきゃいけない。
それが、たまらなく怖い。
でも、逆らえない。
満月が蒼白い光を地上に投げかける中、僕は白銀の絹で織られた、すごく綺麗で豪華な衣を纏って、舞を奉じる。
緊張で心臓がバクバクしてるけど、舞い始めると自然と体が動く。
僕の歌声が、清らかな祈りとなって、光の粒みたいに天に昇っていく。
そして、それがアマテラス様に降り注いでいくのが見える。
(姉様の御力が増していく……)
儀式は上手くいったみたい。
よかった……。
ホッとすると同時に、やり遂げたっていう達成感が湧いてくる。
だけど……。
舞い終えた僕を見つめる姉様――アマテラス様の瞳。
そこには、感謝の色と一緒に、隠しきれない嫉妬の炎と、ドス黒い闇がゆらゆらと揺らめいていた。
ヒッ……と息を呑むほど、怖い。
「ツクヨミよ。――これからも、女神の姿でいるがよい」
穏やかな微笑みを浮かべているはずなのに、その声は氷みたいに冷たかった。
(え……? どういう、意味……?)
その言葉の本当の意味が分からなくて、なんだかよく分からない恐ろしさに、息が詰まりそうになる。
ここ最近、何度も何度も、繰り返し見てきた夢。
でも、今夜の夢は、いつもよりもっとリアルだった。
何もかもが鮮明で……。
夢に出てくる神様たちの表情や声色、そして心の奥底にあるドロドロした感情まで、まるで自分のことみたいに生々しく伝わってくる。
夢と現実の境目が、だんだん曖昧になっていくような、変な感覚。
僕はぼんやりと、でも、妙な確信を持って理解し始めていた。
夢に現れる煌びやかな女神は太陽神アマテラス様、そして男の姿をした美しい神は月神ツクヨミ――つまり、僕の遠い前世の姿なんだって。
その認識は、まるでパズルの最後のピースがカチッとはまるみたいに、すとん、と僕の胸の奥深くに落ちてきた。
***
「――っ!」
思わず息を詰めて、僕は暗闇の中から意識を引き上げた。
心臓が、ありえないくらいバクバクいってる。
見慣れた自室の天井が、薄暗い闇の中に静かに広がっている。
まだ夜明けには時間があるみたいだ。
「……う……ぅ……」
浅くて速い呼吸を繰り返しながら、ゆっくりと身を起こす。
冷や汗が全身を覆って気持ち悪い……。
夢の強烈な余韻が、まだ現実の感覚を歪ませていて、自分が今どこにいるのかさえ曖昧な感じ。
だけど、あの女神たちの正体、夢の中でハッキリと感じた強烈な認識だけは、奇妙なくらいリアルな感触で、心の奥底に深く刻み付けられていた。
「主。いかがなされましたか」
枕元から静かな声が聞こえた。
ハッとしてそちらを見ると、僕の警護のために傍に控えていてくれた夜刀が、心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。
異変に気づいたんだろう。
その深紅の瞳には、いつもの鋭さの中に深い気遣いが浮かんでいる。
「……夜刀……」
呼んでみたけど、声が掠れてうまく出ない。
あの夢の内容を、そして、僕の中で芽生え始めた「前世」っていう、とんでもない認識を、どう説明したらいいんだろう。
僕自身だって、まだこの荒唐無稽すぎる感覚を、全然整理できてないのに。
「ひどくうなされていたご様子。もしや……また、あの常世での辛い記憶でも思い出されましたか」
夜刀の気遣わしげな顔を見たら、少しだけホッとした。
「いや……そうじゃないけど……少し、混乱しているだけ」
僕は力なく首を横に振って、ズキズキ痛むこめかみをそっと押さえた。
前世の記憶っぽいものが、少しずつ蘇ってきてること。
そして、それが太陽神とか月神とか、人間の理解を遥かに超えた、とんでもない存在と結びついてるかもしれないこと――。
あまりにも現実離れしていて、まるで出来の悪いお芝居の台本みたいだ。
自分が自分でなくなっちゃうような恐怖。
足元がガラガラと崩れ落ちていくみたいな不安感が、僕の心を容赦なく襲ってくる。
夜刀は、それ以上何も聞いてこなかった。
ただ、静かに僕の傍らに寄り添って、その存在だけで僕を支えようとしてくれてるみたいだった。
その無言の忠誠が、今は何よりも僕の揺れる心を、強く、確かに支えてくれていた。
いつも夜刀には助けられてばっかりだな。
「夜刀……いつも、ありがとう……」
心を込めてそう伝えると、夜刀は穏やかに微笑んだ。
その笑顔は、すごく優しい。
「もうひと眠りなさいませ。私が付いておりますゆえ」
その言葉に小さく頷いて、僕は再び目を閉じた。
夜刀がそばにいるなら、きっと大丈夫。
深い眠りの底で、僕はまた同じ夢を見ていた。
たぶん、これって神代って呼ばれる、ずーっと昔の記憶なんだろうな。
「……現世からの祈りが、弱まっておるようじゃのぅ」
姉神――アマテラス様が、ぽつりと呟く声が聞こえる。
その声はどこか寂しげで、でも冷たい。
(姉様……)
夢の中の僕は、なぜか彼女を「姉様」と呼んでいる。
なぜか、胸に痛みが走るような切なさを感じる。
「――密儀を執り行え。ツクヨミ、そなたが月の女神として舞い、そして歌うのじゃ」
今度は、威厳に満ちた父神――イザナギ様の声。
逆らえない、絶対的な響き。
夢の中の僕は、ツクヨミと呼ばれている。
そして、父神様の言葉に、不安と躊躇いを覚えてる。
だって、舞うためには、この男装を解かなきゃいけないから……。
本当の姿、女性としての姿を晒さなきゃいけない。
それが、たまらなく怖い。
でも、逆らえない。
満月が蒼白い光を地上に投げかける中、僕は白銀の絹で織られた、すごく綺麗で豪華な衣を纏って、舞を奉じる。
緊張で心臓がバクバクしてるけど、舞い始めると自然と体が動く。
僕の歌声が、清らかな祈りとなって、光の粒みたいに天に昇っていく。
そして、それがアマテラス様に降り注いでいくのが見える。
(姉様の御力が増していく……)
儀式は上手くいったみたい。
よかった……。
ホッとすると同時に、やり遂げたっていう達成感が湧いてくる。
だけど……。
舞い終えた僕を見つめる姉様――アマテラス様の瞳。
そこには、感謝の色と一緒に、隠しきれない嫉妬の炎と、ドス黒い闇がゆらゆらと揺らめいていた。
ヒッ……と息を呑むほど、怖い。
「ツクヨミよ。――これからも、女神の姿でいるがよい」
穏やかな微笑みを浮かべているはずなのに、その声は氷みたいに冷たかった。
(え……? どういう、意味……?)
その言葉の本当の意味が分からなくて、なんだかよく分からない恐ろしさに、息が詰まりそうになる。
ここ最近、何度も何度も、繰り返し見てきた夢。
でも、今夜の夢は、いつもよりもっとリアルだった。
何もかもが鮮明で……。
夢に出てくる神様たちの表情や声色、そして心の奥底にあるドロドロした感情まで、まるで自分のことみたいに生々しく伝わってくる。
夢と現実の境目が、だんだん曖昧になっていくような、変な感覚。
僕はぼんやりと、でも、妙な確信を持って理解し始めていた。
夢に現れる煌びやかな女神は太陽神アマテラス様、そして男の姿をした美しい神は月神ツクヨミ――つまり、僕の遠い前世の姿なんだって。
その認識は、まるでパズルの最後のピースがカチッとはまるみたいに、すとん、と僕の胸の奥深くに落ちてきた。
***
「――っ!」
思わず息を詰めて、僕は暗闇の中から意識を引き上げた。
心臓が、ありえないくらいバクバクいってる。
見慣れた自室の天井が、薄暗い闇の中に静かに広がっている。
まだ夜明けには時間があるみたいだ。
「……う……ぅ……」
浅くて速い呼吸を繰り返しながら、ゆっくりと身を起こす。
冷や汗が全身を覆って気持ち悪い……。
夢の強烈な余韻が、まだ現実の感覚を歪ませていて、自分が今どこにいるのかさえ曖昧な感じ。
だけど、あの女神たちの正体、夢の中でハッキリと感じた強烈な認識だけは、奇妙なくらいリアルな感触で、心の奥底に深く刻み付けられていた。
「主。いかがなされましたか」
枕元から静かな声が聞こえた。
ハッとしてそちらを見ると、僕の警護のために傍に控えていてくれた夜刀が、心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。
異変に気づいたんだろう。
その深紅の瞳には、いつもの鋭さの中に深い気遣いが浮かんでいる。
「……夜刀……」
呼んでみたけど、声が掠れてうまく出ない。
あの夢の内容を、そして、僕の中で芽生え始めた「前世」っていう、とんでもない認識を、どう説明したらいいんだろう。
僕自身だって、まだこの荒唐無稽すぎる感覚を、全然整理できてないのに。
「ひどくうなされていたご様子。もしや……また、あの常世での辛い記憶でも思い出されましたか」
夜刀の気遣わしげな顔を見たら、少しだけホッとした。
「いや……そうじゃないけど……少し、混乱しているだけ」
僕は力なく首を横に振って、ズキズキ痛むこめかみをそっと押さえた。
前世の記憶っぽいものが、少しずつ蘇ってきてること。
そして、それが太陽神とか月神とか、人間の理解を遥かに超えた、とんでもない存在と結びついてるかもしれないこと――。
あまりにも現実離れしていて、まるで出来の悪いお芝居の台本みたいだ。
自分が自分でなくなっちゃうような恐怖。
足元がガラガラと崩れ落ちていくみたいな不安感が、僕の心を容赦なく襲ってくる。
夜刀は、それ以上何も聞いてこなかった。
ただ、静かに僕の傍らに寄り添って、その存在だけで僕を支えようとしてくれてるみたいだった。
その無言の忠誠が、今は何よりも僕の揺れる心を、強く、確かに支えてくれていた。
いつも夜刀には助けられてばっかりだな。
「夜刀……いつも、ありがとう……」
心を込めてそう伝えると、夜刀は穏やかに微笑んだ。
その笑顔は、すごく優しい。
「もうひと眠りなさいませ。私が付いておりますゆえ」
その言葉に小さく頷いて、僕は再び目を閉じた。
夜刀がそばにいるなら、きっと大丈夫。
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