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第4章:金烏の咆哮、呪いの影
第1話:男装の陰陽師は神代の記憶に目覚める2
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朝。軽い朝食を済ませたけど、体は鉛みたいに重い。
僕は重い体を引きずるようにして、陰陽寮へと向かった。
昨日の夜に見た鮮烈な夢の残像と、「前世」っていう不思議な感覚が、現実の風景と混ざって、なんだか意識がフワフワしてる。
自分がどこに立ってるのか分からなくなりそうだけど、陰陽師としての責任を果たさなきゃっていう使命感が、かろうじて僕を現実に繋ぎとめていた。
陰陽寮の会議室には、すでに主要な陰陽師たちが勢揃いしていた。
部屋の空気は、ピリピリと張り詰めていて、息苦しいくらいだ。
上座には、陰陽頭である藤原玄道様が、いつもと変わらない涼しげな、どこか本心を見せない表情で座っている。
あの人は、何を考えてるのか全然読めないんだよな……。
会議の議題は、もちろん、先日来、都を大騒ぎさせている一連の怪事件についてだった。
護国豊穣祭での騒ぎと、後宮が妖魔に襲われた事件――どっちも未だに真相は謎のままで、黒幕の正体も、その目的さえも全然掴めていない。
まるで出口の見えない迷路に迷い込んじゃったみたいで、息が詰まる。
「先の、神事並びに後宮襲撃事件に関してだが、依然として犯人の特定には至っておらぬ」
玄道様が、重々しくてよく通る声で口火を切った。
その冷たい美貌にドキッとしつつも、青みがかった瞳が、まるで僕たちを品定めするかのように見渡すのがちょっと怖い。
「内裏の結界は破られておらず、内部からの手引き、あるいは特殊な術を用いた侵入の可能性が高い。しかし、それを裏付ける証拠がないのが現状だ」
重苦しい沈黙が、会議室を支配する。
誰もが、このワケの分からない事件に対して、有効な手がかりを見つけられずにいた。
焦りと無力感が、陰陽師たちの心にじわじわと広がっていくのが分かる。
僕だってそうだ。
「対症療法にはなるが、ひとまずは内裏、大内裏、および都の主要箇所の結界を再構築し、巡回による警備を強化する。各々、担当区域の状況把握に、より一層努めよ」
玄道様の淀みない指示に、陰陽師たちはみんな頷く。
その声には、逆らうことを許さないような威圧感があった。
続いて、先日、菅原紅子さんからもたらされた情報――どこかの偉い貴族の息子さんが、お屋敷で何者かによって呪い殺されたっていう、陰惨な事件についても議題に上がった。
「例の呪殺事件だが、これも調査は難航しているようだ。担当の者によれば、極めて高度な呪術の痕跡が確認されたものの、結界が破られていない絡繰りも、術者の特定に繋がる手掛かりも皆無とのことだ」
別の陰陽師が、苦虫を噛み潰したような顔で報告する。
次から次へと起こる不可解な事件に、陰陽寮全体が、重苦しい空気に包まれていた。
僕は、これらの事件の背後に、水面下で静かに進んでいる、何かとてつもなく大きな陰謀を感じていた。
その陰謀と、僕が見続けている神代の夢との間に、何か関係があるんじゃないか――その予感は、日増しに強くなっている。
(この胸騒ぎは、いったい何……?)
漠然とした不安が、胸の奥に暗い影を落とす。
それに、心に引っかかる別の疑いもあった。
後宮の襲撃事件で僕が重傷を負った時、朦朧とした意識の中で見た、あの人影。
その人が着ていた特徴的な瑠璃色の狩衣は、それが玄道様だってことを、はっきりと示していた。
(なんで、玄道様が、あの時、あの場所に……?)
そして、どうして何も言わずに立ち去ったんだろう……?
もしかして、玄道様はこの一連の陰謀に、何らかの形で関わっているんだろうか。
それとも……。
僕は、冷静に指示を飛ばす玄道様の、何を考えてるのか分からない横顔を、気づかれないようにそっと盗み見た。
でも、その表情は普段と全然変わらなくて、感情の動きをまったく読み取ることができなかった。
(何か……何か少しでも手がかりが欲しい……このままじゃ、何も分からないまま、事態だけが悪化していく……)
そんな焦りとは裏腹に、時間だけが、ただむなしく過ぎていく。
「では、次の議題に……」
会議が、新しい対策の議論に移ろうとした、まさにその時だった。
「申し上げます! き、緊急事態にございます!」
一人の若い陰陽師が、血相を変えて会議室に駆け込んできた。
その顔は恐怖で引きつっていて、声も上ずっている。
「何事だ、騒がしい」
玄道様が、ほんの少しだけ眉をひそめる。
「そ、それが……都に……み、都に、金烏が現れました!」
「――金烏だと?」
玄道様の表情が、その時初めて、ほんのちょっぴりだけど動いた。
驚いた、とまではいかないけど、明らかに何かしら感情が揺れたのが見て取れた。
他の陰陽師たちも、一斉に「何!」「まさか!」って驚きの声を上げている。
キンウ……? 金烏――それって、太陽神アマテラス様の使いだって言われてる、伝説の霊鳥じゃなかったっけ?
そして、この都の名前でもある。
この国、この都は太陽神アマテラス様を主神として奉ってるんだ。
でも、金烏の存在はあくまでも言い伝えの中だけの話で、実際にその姿を見た人なんて、歴史上、誰もいないってされてきたはずだ。
「馬鹿な…金烏が、この現世に姿を現すなど……」
古参の陰陽師の一人が、信じられないって顔で呻いた。
「し、しかも……その金烏が……民を……民を襲っているのでございます!」
若い陰陽師の報告は、さらに衝撃的だった。
彼の言葉に、その場にいた全員が凍りついた。
「なんだとっ!? それは絶対にあり得ん! 金烏は守護の霊鳥であろう!」
別の古参の陰陽師が、声を荒らげて叫ぶ。
その言葉を聞いた瞬間、僕の背筋にぞくっと悪寒が走った。
金烏――それは、あの神代の夢の中で見た、太陽神アマテラス様と深く結びついてる存在。
その金烏が正気を失って、罪のない民を襲ってる……?
これって、ただの偶然で済まされることじゃないんじゃないか……?
僕の胸の中で、警鐘がけたたましく鳴り響いていた。
「場所はどこだ!」
玄道様が、普段の彼からは想像もつかないほど鋭く、短い言葉で問う。
その声には、焦りの色すら滲んでいるように聞こえた。
やっぱり、何か知ってるの……?
「は、はい! 西市の一角にございます! すでに多数の負傷者が出ているとのこと!」
緊迫した空気が、会議室全体を押し潰しそうなくらいに満ちていく。
玄道様はしばらく目を閉じて、何かを考えてるみたいだったけど、やがてゆっくりと目を開くと、その冷たい視線をまっすぐに僕と、僕の隣に座る真白に向けた。
その瞳の奥に宿る光は、全てを見通しているみたいで、僕は思わず息を呑んだ。
ドキッとした。
見透かされてる……?
「――安部朔夜、賀茂真白。両名に命ずる。直ちに現場へ向かい、事態の鎮圧と、原因の究明にあたれ」
「「はっ!」」
僕と真白は、弾かれたように即座に立ち上がって、力強く返事をした。
***
「また、西市か……おいおい、一体全体、何が起こってんだよ、マジで……」
真白が、珍しく厳しい表情でイライラしたみたいに吐き捨てる。
それに対して、僕はどこか焦点の定まらない、虚ろな表情をしていたと思う。
「金烏……太陽神アマテラス……」
僕の胸の中に、夢で見たアマテラス様の姿が、また鮮明に浮かび上がってくる。
慈愛に満ちた優しい微笑みの裏に隠されていた、あの暗くて冷たい光。
そして、今、都に現れたっていう狂った金烏。
この二つの出来事が、僕の中で、不吉なメロディーを奏でるみたいに、ゆっくりと、でも確実に結びついていく。
(これは……単なる妖魔の仕業なんかじゃないのかもしれない……もっと、ずっと根深い何かが……)
神代の記憶の断片が、現世で起こる不吉な事件と、不気味なくらいに共鳴し始めてる。
その本当の意味をまだ掴みきれないまま、僕は真白と一緒に騒然とする都へと、決然と駆け出した。
どうか、これ以上犠牲者が出ませんように――。
祈るような思いで、僕は唇を強く噛み締めた。
◇◇◇
【あとがき】
カオス会議:第4章第1話「男装の陰陽師は神代の記憶に目覚める」編
登場人物
朔夜:男装の陰陽師。実は月神ツクヨミの転生体。前世も今世も多方面から愛されて(?)つらい。
真白:元・親友、現・恋愛戦線爆走中。ボケと本気が紙一重。
夜刀:冷静沈着な剣士式神。朔夜への忠誠と溺愛の境界がもはや溶けている。
女神:今までは謎のマイペース神。実は“太陽神アマテラス”。妹(ツクヨミ=朔夜)への執着がすごい。
真白(今日も元気に):
さーて!記憶解禁、新章突入おめでとうございます~!我らが朔夜、まさかの月神ツクヨミだったとは!!
朔夜(頭抱え):
うう……ほんと、誰か夢って言って……地獄の姉妹再会フラグが立ったっぽいんだけど……
夜刀(静かに茶を注ぎつつ):
主、今はお心を乱されぬよう。目覚めた力の重み、私が共に背負いましょう。例えそれが、神であっても
朔夜(感涙):
夜刀……ありがとう
真白(ズイッと前に出る):
は?俺だってな?前世とか関係なく、朔夜を守るって決めてんの。ツクヨミがなんぼのもんじゃい!負けねえからな!(混乱)
朔夜:
いや、ツクヨミは僕だから! 誰と戦うつもりなの!?
女神(静かに空気が揺れヌルっと登場):
……ふふ、ついに思い出したか。我が妹よ
真白(即警戒):
うおおお!?出た!ウワサのアマテラス様!!
夜刀(すっと前に立ち):
主神よ……主の平穏を乱すつもりなら、たとえ太陽神であろうと、剣を抜きます
女神(微笑みながら):
ふふ……剣など、幾千振りあろうと、妾には永劫届かぬわ
朔夜(顔面蒼白):
ちょっ……アマテラス様、めっちゃ怖いです!その目、慈悲と狂気が3:7くらいなんですが……
女神(優雅に流し目を向けながら):
おや、“姉様”と呼んではくれぬのかえ?
朔夜(しどろもどろ):
いや、その、僕はツクヨミであってツクヨミではないというか。陰陽師・安部朔夜なんで……
女神(あからさまに悲嘆して):
なんと!妾の可愛いツクヨミはいずこへ……シクシク。悲しすぎてうっかり現世を滅ぼしてしまいそうじゃ……
朔夜(焦って):
いやいやいや、シャレにならないから!!
女神(朔夜をチラ見):
悲しいのう、悲しいのう……シクシク
朔夜(うんざりしつつ):
(そういえば超メンドクサイ神だった……)ね、姉様……
女神(笑顔で):
ほほ……それでこそ妾のツクヨミじゃ。可愛いのう……ニクラシイクライニ(ボソッ)
朔夜(即ツッコミ):
目が全然笑ってないんですけど!?あと最後なんか呟きました!?
真白(ビビりながら):
やべえやべえやべえ!怖い怖い怖い!姉の愛情、呪詛混じってるんだけど!?なにこれホラー!?
夜刀(低く):
愛と憎しみを履き違える者は、最も危険。これ以上主に近づかないでいただきたい
女神(涼しい顔で):
青いのう。愛も、憎しみも、根はひとつよ
朔夜(頭抱え)
でも割合がどう考えても“愛≪≪≪憎しみ”になってません!?
真白(力強く指差して):
俺は違うぞ!!憎しみゼロの愛情MAXだ!!朔夜は俺が守るッ!!
夜刀(すかさず被せて):
それは実績を重ねてきた私の役目です。愛の深さなら、譲るつもりはありません
女神(淡々と):
ならば気の済むまで争うがよい。果たして、この子を守れるのはどちらの“想い”かのう?
真白(やる気満々で):
はい、女神様の言質いただきました!勝負だ夜刀!!
夜刀(鼻で笑って):
望むところです。まあ、貴方が私に勝つなど万に一つもありませんが
朔夜(崩れ落ちて):
二人ともあとがきくらい静かにしろって言ったよね!?あと姉様も煽らないで!? ううっ……僕の平穏な日常返してええええ……
◇◇◇
以上、文字どおり愛憎入り乱れるカオス会議でした。
よろしければ、♡や、お気に入りで応援していただけるとありがたいです!
僕は重い体を引きずるようにして、陰陽寮へと向かった。
昨日の夜に見た鮮烈な夢の残像と、「前世」っていう不思議な感覚が、現実の風景と混ざって、なんだか意識がフワフワしてる。
自分がどこに立ってるのか分からなくなりそうだけど、陰陽師としての責任を果たさなきゃっていう使命感が、かろうじて僕を現実に繋ぎとめていた。
陰陽寮の会議室には、すでに主要な陰陽師たちが勢揃いしていた。
部屋の空気は、ピリピリと張り詰めていて、息苦しいくらいだ。
上座には、陰陽頭である藤原玄道様が、いつもと変わらない涼しげな、どこか本心を見せない表情で座っている。
あの人は、何を考えてるのか全然読めないんだよな……。
会議の議題は、もちろん、先日来、都を大騒ぎさせている一連の怪事件についてだった。
護国豊穣祭での騒ぎと、後宮が妖魔に襲われた事件――どっちも未だに真相は謎のままで、黒幕の正体も、その目的さえも全然掴めていない。
まるで出口の見えない迷路に迷い込んじゃったみたいで、息が詰まる。
「先の、神事並びに後宮襲撃事件に関してだが、依然として犯人の特定には至っておらぬ」
玄道様が、重々しくてよく通る声で口火を切った。
その冷たい美貌にドキッとしつつも、青みがかった瞳が、まるで僕たちを品定めするかのように見渡すのがちょっと怖い。
「内裏の結界は破られておらず、内部からの手引き、あるいは特殊な術を用いた侵入の可能性が高い。しかし、それを裏付ける証拠がないのが現状だ」
重苦しい沈黙が、会議室を支配する。
誰もが、このワケの分からない事件に対して、有効な手がかりを見つけられずにいた。
焦りと無力感が、陰陽師たちの心にじわじわと広がっていくのが分かる。
僕だってそうだ。
「対症療法にはなるが、ひとまずは内裏、大内裏、および都の主要箇所の結界を再構築し、巡回による警備を強化する。各々、担当区域の状況把握に、より一層努めよ」
玄道様の淀みない指示に、陰陽師たちはみんな頷く。
その声には、逆らうことを許さないような威圧感があった。
続いて、先日、菅原紅子さんからもたらされた情報――どこかの偉い貴族の息子さんが、お屋敷で何者かによって呪い殺されたっていう、陰惨な事件についても議題に上がった。
「例の呪殺事件だが、これも調査は難航しているようだ。担当の者によれば、極めて高度な呪術の痕跡が確認されたものの、結界が破られていない絡繰りも、術者の特定に繋がる手掛かりも皆無とのことだ」
別の陰陽師が、苦虫を噛み潰したような顔で報告する。
次から次へと起こる不可解な事件に、陰陽寮全体が、重苦しい空気に包まれていた。
僕は、これらの事件の背後に、水面下で静かに進んでいる、何かとてつもなく大きな陰謀を感じていた。
その陰謀と、僕が見続けている神代の夢との間に、何か関係があるんじゃないか――その予感は、日増しに強くなっている。
(この胸騒ぎは、いったい何……?)
漠然とした不安が、胸の奥に暗い影を落とす。
それに、心に引っかかる別の疑いもあった。
後宮の襲撃事件で僕が重傷を負った時、朦朧とした意識の中で見た、あの人影。
その人が着ていた特徴的な瑠璃色の狩衣は、それが玄道様だってことを、はっきりと示していた。
(なんで、玄道様が、あの時、あの場所に……?)
そして、どうして何も言わずに立ち去ったんだろう……?
もしかして、玄道様はこの一連の陰謀に、何らかの形で関わっているんだろうか。
それとも……。
僕は、冷静に指示を飛ばす玄道様の、何を考えてるのか分からない横顔を、気づかれないようにそっと盗み見た。
でも、その表情は普段と全然変わらなくて、感情の動きをまったく読み取ることができなかった。
(何か……何か少しでも手がかりが欲しい……このままじゃ、何も分からないまま、事態だけが悪化していく……)
そんな焦りとは裏腹に、時間だけが、ただむなしく過ぎていく。
「では、次の議題に……」
会議が、新しい対策の議論に移ろうとした、まさにその時だった。
「申し上げます! き、緊急事態にございます!」
一人の若い陰陽師が、血相を変えて会議室に駆け込んできた。
その顔は恐怖で引きつっていて、声も上ずっている。
「何事だ、騒がしい」
玄道様が、ほんの少しだけ眉をひそめる。
「そ、それが……都に……み、都に、金烏が現れました!」
「――金烏だと?」
玄道様の表情が、その時初めて、ほんのちょっぴりだけど動いた。
驚いた、とまではいかないけど、明らかに何かしら感情が揺れたのが見て取れた。
他の陰陽師たちも、一斉に「何!」「まさか!」って驚きの声を上げている。
キンウ……? 金烏――それって、太陽神アマテラス様の使いだって言われてる、伝説の霊鳥じゃなかったっけ?
そして、この都の名前でもある。
この国、この都は太陽神アマテラス様を主神として奉ってるんだ。
でも、金烏の存在はあくまでも言い伝えの中だけの話で、実際にその姿を見た人なんて、歴史上、誰もいないってされてきたはずだ。
「馬鹿な…金烏が、この現世に姿を現すなど……」
古参の陰陽師の一人が、信じられないって顔で呻いた。
「し、しかも……その金烏が……民を……民を襲っているのでございます!」
若い陰陽師の報告は、さらに衝撃的だった。
彼の言葉に、その場にいた全員が凍りついた。
「なんだとっ!? それは絶対にあり得ん! 金烏は守護の霊鳥であろう!」
別の古参の陰陽師が、声を荒らげて叫ぶ。
その言葉を聞いた瞬間、僕の背筋にぞくっと悪寒が走った。
金烏――それは、あの神代の夢の中で見た、太陽神アマテラス様と深く結びついてる存在。
その金烏が正気を失って、罪のない民を襲ってる……?
これって、ただの偶然で済まされることじゃないんじゃないか……?
僕の胸の中で、警鐘がけたたましく鳴り響いていた。
「場所はどこだ!」
玄道様が、普段の彼からは想像もつかないほど鋭く、短い言葉で問う。
その声には、焦りの色すら滲んでいるように聞こえた。
やっぱり、何か知ってるの……?
「は、はい! 西市の一角にございます! すでに多数の負傷者が出ているとのこと!」
緊迫した空気が、会議室全体を押し潰しそうなくらいに満ちていく。
玄道様はしばらく目を閉じて、何かを考えてるみたいだったけど、やがてゆっくりと目を開くと、その冷たい視線をまっすぐに僕と、僕の隣に座る真白に向けた。
その瞳の奥に宿る光は、全てを見通しているみたいで、僕は思わず息を呑んだ。
ドキッとした。
見透かされてる……?
「――安部朔夜、賀茂真白。両名に命ずる。直ちに現場へ向かい、事態の鎮圧と、原因の究明にあたれ」
「「はっ!」」
僕と真白は、弾かれたように即座に立ち上がって、力強く返事をした。
***
「また、西市か……おいおい、一体全体、何が起こってんだよ、マジで……」
真白が、珍しく厳しい表情でイライラしたみたいに吐き捨てる。
それに対して、僕はどこか焦点の定まらない、虚ろな表情をしていたと思う。
「金烏……太陽神アマテラス……」
僕の胸の中に、夢で見たアマテラス様の姿が、また鮮明に浮かび上がってくる。
慈愛に満ちた優しい微笑みの裏に隠されていた、あの暗くて冷たい光。
そして、今、都に現れたっていう狂った金烏。
この二つの出来事が、僕の中で、不吉なメロディーを奏でるみたいに、ゆっくりと、でも確実に結びついていく。
(これは……単なる妖魔の仕業なんかじゃないのかもしれない……もっと、ずっと根深い何かが……)
神代の記憶の断片が、現世で起こる不吉な事件と、不気味なくらいに共鳴し始めてる。
その本当の意味をまだ掴みきれないまま、僕は真白と一緒に騒然とする都へと、決然と駆け出した。
どうか、これ以上犠牲者が出ませんように――。
祈るような思いで、僕は唇を強く噛み締めた。
◇◇◇
【あとがき】
カオス会議:第4章第1話「男装の陰陽師は神代の記憶に目覚める」編
登場人物
朔夜:男装の陰陽師。実は月神ツクヨミの転生体。前世も今世も多方面から愛されて(?)つらい。
真白:元・親友、現・恋愛戦線爆走中。ボケと本気が紙一重。
夜刀:冷静沈着な剣士式神。朔夜への忠誠と溺愛の境界がもはや溶けている。
女神:今までは謎のマイペース神。実は“太陽神アマテラス”。妹(ツクヨミ=朔夜)への執着がすごい。
真白(今日も元気に):
さーて!記憶解禁、新章突入おめでとうございます~!我らが朔夜、まさかの月神ツクヨミだったとは!!
朔夜(頭抱え):
うう……ほんと、誰か夢って言って……地獄の姉妹再会フラグが立ったっぽいんだけど……
夜刀(静かに茶を注ぎつつ):
主、今はお心を乱されぬよう。目覚めた力の重み、私が共に背負いましょう。例えそれが、神であっても
朔夜(感涙):
夜刀……ありがとう
真白(ズイッと前に出る):
は?俺だってな?前世とか関係なく、朔夜を守るって決めてんの。ツクヨミがなんぼのもんじゃい!負けねえからな!(混乱)
朔夜:
いや、ツクヨミは僕だから! 誰と戦うつもりなの!?
女神(静かに空気が揺れヌルっと登場):
……ふふ、ついに思い出したか。我が妹よ
真白(即警戒):
うおおお!?出た!ウワサのアマテラス様!!
夜刀(すっと前に立ち):
主神よ……主の平穏を乱すつもりなら、たとえ太陽神であろうと、剣を抜きます
女神(微笑みながら):
ふふ……剣など、幾千振りあろうと、妾には永劫届かぬわ
朔夜(顔面蒼白):
ちょっ……アマテラス様、めっちゃ怖いです!その目、慈悲と狂気が3:7くらいなんですが……
女神(優雅に流し目を向けながら):
おや、“姉様”と呼んではくれぬのかえ?
朔夜(しどろもどろ):
いや、その、僕はツクヨミであってツクヨミではないというか。陰陽師・安部朔夜なんで……
女神(あからさまに悲嘆して):
なんと!妾の可愛いツクヨミはいずこへ……シクシク。悲しすぎてうっかり現世を滅ぼしてしまいそうじゃ……
朔夜(焦って):
いやいやいや、シャレにならないから!!
女神(朔夜をチラ見):
悲しいのう、悲しいのう……シクシク
朔夜(うんざりしつつ):
(そういえば超メンドクサイ神だった……)ね、姉様……
女神(笑顔で):
ほほ……それでこそ妾のツクヨミじゃ。可愛いのう……ニクラシイクライニ(ボソッ)
朔夜(即ツッコミ):
目が全然笑ってないんですけど!?あと最後なんか呟きました!?
真白(ビビりながら):
やべえやべえやべえ!怖い怖い怖い!姉の愛情、呪詛混じってるんだけど!?なにこれホラー!?
夜刀(低く):
愛と憎しみを履き違える者は、最も危険。これ以上主に近づかないでいただきたい
女神(涼しい顔で):
青いのう。愛も、憎しみも、根はひとつよ
朔夜(頭抱え)
でも割合がどう考えても“愛≪≪≪憎しみ”になってません!?
真白(力強く指差して):
俺は違うぞ!!憎しみゼロの愛情MAXだ!!朔夜は俺が守るッ!!
夜刀(すかさず被せて):
それは実績を重ねてきた私の役目です。愛の深さなら、譲るつもりはありません
女神(淡々と):
ならば気の済むまで争うがよい。果たして、この子を守れるのはどちらの“想い”かのう?
真白(やる気満々で):
はい、女神様の言質いただきました!勝負だ夜刀!!
夜刀(鼻で笑って):
望むところです。まあ、貴方が私に勝つなど万に一つもありませんが
朔夜(崩れ落ちて):
二人ともあとがきくらい静かにしろって言ったよね!?あと姉様も煽らないで!? ううっ……僕の平穏な日常返してええええ……
◇◇◇
以上、文字どおり愛憎入り乱れるカオス会議でした。
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