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三番目の過去 (1)
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昼食を済ませたら、さっそく探索の続きだ。プレイの記憶どおりに、さくさく進める。
ここまではプレイ済みだから、手順はいろいろと面倒だけど、何をすればいいか迷うことはない。うっかり手順を抜かしそうになったときには、アンドリューが活躍した。しっぽを振り振り先導するから「これは何かヤバいな」とすぐ気がつくのだ。
次のキーアイテムは、隠し部屋の姿見だ。隠し部屋の鍵を手に入れるまでが、なかなか面倒くさい。鍵を入手するまでに、なんだかんだと三時間以上はかかった気がする。
やっと手にした鍵で隠し部屋のドアを開け、部屋の奥に置かれた姿見のカバーを外してランタンで照らすと、視界が暗転した。
* * *
視界が明るくなると、そこはちょっと高級そうな小料理店だった。目の前のカウンターには、若い男が二人並んで座っている。ひとりは優しく上品そうな青年、もうひとりは若いのに何だか少しくたびれた感じの青年だった。くたびれているほうの青年は、なぜか伯父にそっくりだ。
お通しとビールが運ばれてくると、上品なほうの青年が二人分のグラスにビールをつぐ。それをうなだれて見ていたもうひとりが、がばっと勢いよく頭を下げた。
「佐々木部長、せっかくいいお話をいただいたのに、本当に申し訳ありません!」
上品な青年は佐々木さんというらしい。しかも、この若さでどこぞの部長だそうだ。
「佐藤君、謝らないでよ。美咲(みさき)さんに話をしてくれて、感謝してるんだからさ。結果は残念だったけど、それは仕方のないことだし」
え、佐藤? それに美咲? 佐藤美咲なら、母の名前じゃないの。そう言われると、佐々木という名前にも覚えがある。父が行方不明になった後、ときどき週末になると母を訪ねてくるおじさんの名前だ。佐々木さんはいつも何かしらちょっとしたお土産を持ってきて、少し母とお茶を飲みながら話をしてから帰っていく。
もしかして、この人たちは若い頃の伯父と佐々木さんだったりするのだろうか。そう思って辺りを見回してみても、日付のわかるものが何もない。もっと庶民的なお店ならテレビでもつけてるんだろうけど、残念ながらここにはなかった。何かないかな、ときょろきょろしていると、佐々木さんが胸ポケットに手を入れながら、伯父に似た人に声をかけた。
「あ、ちょっとごめん」
佐々木さんはポケットから電話の子機のようなものを取り出すと、店の入り口から外へと歩いていく。私もそれを追いかけた。
「はい、佐々木です。──えっ? 納品先でトラブル発生? 内容は? ──わかった。とりあえず緊急性は低そうだね。今日は開発部門も打ち上げで出払っちゃってるからなあ。明日朝イチで対応できるよう、連絡だけ回しておいてもらえるかな──」
仕事の連絡のようだ。聞いても意味がわからず退屈だけど、入り口が閉まっているので私は中に戻れない。仕方ないので、佐々木さんのそばでぼうっと外の景色を眺めていた。そして、そこはかとなく違和感を覚えた。
何というか、街中を歩く人たちのお行儀がいいような気がする。歩きスマホの人がひとりもいない。どこにだって、たいていひとりか二人はいるものなのに。
そう言えば、佐々木さんが使っているのもスマホじゃなかった。ガラケーでさえない。トランシーバーみたいな電話だ。これはつまり、まだスマホのない時代ってことなんだろうか。だとすれば、この人は本当に若い頃の佐々木さんで、あれは若い頃の伯父なのかもしれない。
佐々木さんと伯父が知り合いだなんて、全然知らなかった。
そう言えば、母と佐々木さんはどんな話をしてたんだろう。大人の話の邪魔をしたらいけないと思って、いつも挨拶だけして自分の部屋へ引きこもっていたから、話の内容を聞いたことがない。
やがて佐々木さんは電話を終えて、店内に戻って行った。もちろん私もその後ろについて店内に入る。席に戻った後、伯父がひたすらペコペコと謝り続けているのを、佐々木さんは困ったような顔をしてなだめながら食事をしていた。どうやら佐々木さんは、伯父に謝らせたいわけではなく、逆にお礼を言おうとしているようだった。
二人のやり取りを聞いていると、だいたいの事情が見えてきた。佐々木さんは、伯父の務めている会社のオーナー社長の長男で、当然将来は約束されている。伯父とは大学が一緒のよしみで、会社では部署が違うものの、何かと気に掛けてくれているらしい。面倒見のいい人だ。
そんな佐々木さんが、会社のイベントに顔を出した母にひと目ぼれした。そして、もし母に今付き合っている人がいないなら見合いをさせてもらえないか、と伯父に持ちかけたようだ。伯父は張り切って母との見合いの席を設けようとしたのだが、あいにく母はすでに父と付き合っていたため断った。
佐々木さんとしては、結果はどうあれ、骨を折ってくれた伯父には感謝していた。それで謝意を伝えようと飲みに誘ったのだけど、伯父はひたすら謝りどおしというわけだった。
こういう事情を知ると、伯父の私への態度がすんなり腑に落ちた。父が気に入らないのも、父との間に生まれた私が気に入らないのも、きっとこれが理由なんだろう。だって父さえいなければ、母は佐々木さんとお見合いをしていたかもしれない。そのお見合いがうまくいけば、伯父は将来の社長と縁続きになれたのだ。その可能性をつぶした母も父も、その二人の子である私も、伯父は気に入らないんだろう。なんだかなあ。
そう言えば、伯父に引き取られる前、佐々木さんが訪ねてきたことがあったっけ。あれはしおちゃんの家にお世話になりつつ、週末に自宅でしおちゃんと二人で過ごしていたときのことだった。
「千紘ちゃん、お母さんはご在宅?」
「すみません、留守です」
「そうか。すぐ帰りそうなら、待たせてもらってもいいかな?」
「ごめんなさい。帰ってくるかどうか、わかりません」
「え? 遠出してるの?」
あのとき私は、顔見知りの佐々木さんになら事情を説明しても大丈夫だろうと思い、母が行方不明となっていることを話したのだ。
「そうだったのか。それはひとりで心細かったね」
佐々木さんはそう言って、お土産だけ置いて帰って行った。思えば、伯父が私を引き取りに来たのはその数日後のことだった。もしかしたら、警察ではなく佐々木さんから話を聞いたのかもしれない。よけいなことを、と恨めしく思う気持ちがないでもないけど、きっと佐々木さんはよかれと思って伯父に知らせてくれたのだろうと思う。
何となくやりきれない気持ちになったところで、視界が暗転した。
* * *
そしてシュヴァリエのところに戻ってきた。
ここまではプレイ済みだから、手順はいろいろと面倒だけど、何をすればいいか迷うことはない。うっかり手順を抜かしそうになったときには、アンドリューが活躍した。しっぽを振り振り先導するから「これは何かヤバいな」とすぐ気がつくのだ。
次のキーアイテムは、隠し部屋の姿見だ。隠し部屋の鍵を手に入れるまでが、なかなか面倒くさい。鍵を入手するまでに、なんだかんだと三時間以上はかかった気がする。
やっと手にした鍵で隠し部屋のドアを開け、部屋の奥に置かれた姿見のカバーを外してランタンで照らすと、視界が暗転した。
* * *
視界が明るくなると、そこはちょっと高級そうな小料理店だった。目の前のカウンターには、若い男が二人並んで座っている。ひとりは優しく上品そうな青年、もうひとりは若いのに何だか少しくたびれた感じの青年だった。くたびれているほうの青年は、なぜか伯父にそっくりだ。
お通しとビールが運ばれてくると、上品なほうの青年が二人分のグラスにビールをつぐ。それをうなだれて見ていたもうひとりが、がばっと勢いよく頭を下げた。
「佐々木部長、せっかくいいお話をいただいたのに、本当に申し訳ありません!」
上品な青年は佐々木さんというらしい。しかも、この若さでどこぞの部長だそうだ。
「佐藤君、謝らないでよ。美咲(みさき)さんに話をしてくれて、感謝してるんだからさ。結果は残念だったけど、それは仕方のないことだし」
え、佐藤? それに美咲? 佐藤美咲なら、母の名前じゃないの。そう言われると、佐々木という名前にも覚えがある。父が行方不明になった後、ときどき週末になると母を訪ねてくるおじさんの名前だ。佐々木さんはいつも何かしらちょっとしたお土産を持ってきて、少し母とお茶を飲みながら話をしてから帰っていく。
もしかして、この人たちは若い頃の伯父と佐々木さんだったりするのだろうか。そう思って辺りを見回してみても、日付のわかるものが何もない。もっと庶民的なお店ならテレビでもつけてるんだろうけど、残念ながらここにはなかった。何かないかな、ときょろきょろしていると、佐々木さんが胸ポケットに手を入れながら、伯父に似た人に声をかけた。
「あ、ちょっとごめん」
佐々木さんはポケットから電話の子機のようなものを取り出すと、店の入り口から外へと歩いていく。私もそれを追いかけた。
「はい、佐々木です。──えっ? 納品先でトラブル発生? 内容は? ──わかった。とりあえず緊急性は低そうだね。今日は開発部門も打ち上げで出払っちゃってるからなあ。明日朝イチで対応できるよう、連絡だけ回しておいてもらえるかな──」
仕事の連絡のようだ。聞いても意味がわからず退屈だけど、入り口が閉まっているので私は中に戻れない。仕方ないので、佐々木さんのそばでぼうっと外の景色を眺めていた。そして、そこはかとなく違和感を覚えた。
何というか、街中を歩く人たちのお行儀がいいような気がする。歩きスマホの人がひとりもいない。どこにだって、たいていひとりか二人はいるものなのに。
そう言えば、佐々木さんが使っているのもスマホじゃなかった。ガラケーでさえない。トランシーバーみたいな電話だ。これはつまり、まだスマホのない時代ってことなんだろうか。だとすれば、この人は本当に若い頃の佐々木さんで、あれは若い頃の伯父なのかもしれない。
佐々木さんと伯父が知り合いだなんて、全然知らなかった。
そう言えば、母と佐々木さんはどんな話をしてたんだろう。大人の話の邪魔をしたらいけないと思って、いつも挨拶だけして自分の部屋へ引きこもっていたから、話の内容を聞いたことがない。
やがて佐々木さんは電話を終えて、店内に戻って行った。もちろん私もその後ろについて店内に入る。席に戻った後、伯父がひたすらペコペコと謝り続けているのを、佐々木さんは困ったような顔をしてなだめながら食事をしていた。どうやら佐々木さんは、伯父に謝らせたいわけではなく、逆にお礼を言おうとしているようだった。
二人のやり取りを聞いていると、だいたいの事情が見えてきた。佐々木さんは、伯父の務めている会社のオーナー社長の長男で、当然将来は約束されている。伯父とは大学が一緒のよしみで、会社では部署が違うものの、何かと気に掛けてくれているらしい。面倒見のいい人だ。
そんな佐々木さんが、会社のイベントに顔を出した母にひと目ぼれした。そして、もし母に今付き合っている人がいないなら見合いをさせてもらえないか、と伯父に持ちかけたようだ。伯父は張り切って母との見合いの席を設けようとしたのだが、あいにく母はすでに父と付き合っていたため断った。
佐々木さんとしては、結果はどうあれ、骨を折ってくれた伯父には感謝していた。それで謝意を伝えようと飲みに誘ったのだけど、伯父はひたすら謝りどおしというわけだった。
こういう事情を知ると、伯父の私への態度がすんなり腑に落ちた。父が気に入らないのも、父との間に生まれた私が気に入らないのも、きっとこれが理由なんだろう。だって父さえいなければ、母は佐々木さんとお見合いをしていたかもしれない。そのお見合いがうまくいけば、伯父は将来の社長と縁続きになれたのだ。その可能性をつぶした母も父も、その二人の子である私も、伯父は気に入らないんだろう。なんだかなあ。
そう言えば、伯父に引き取られる前、佐々木さんが訪ねてきたことがあったっけ。あれはしおちゃんの家にお世話になりつつ、週末に自宅でしおちゃんと二人で過ごしていたときのことだった。
「千紘ちゃん、お母さんはご在宅?」
「すみません、留守です」
「そうか。すぐ帰りそうなら、待たせてもらってもいいかな?」
「ごめんなさい。帰ってくるかどうか、わかりません」
「え? 遠出してるの?」
あのとき私は、顔見知りの佐々木さんになら事情を説明しても大丈夫だろうと思い、母が行方不明となっていることを話したのだ。
「そうだったのか。それはひとりで心細かったね」
佐々木さんはそう言って、お土産だけ置いて帰って行った。思えば、伯父が私を引き取りに来たのはその数日後のことだった。もしかしたら、警察ではなく佐々木さんから話を聞いたのかもしれない。よけいなことを、と恨めしく思う気持ちがないでもないけど、きっと佐々木さんはよかれと思って伯父に知らせてくれたのだろうと思う。
何となくやりきれない気持ちになったところで、視界が暗転した。
* * *
そしてシュヴァリエのところに戻ってきた。
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