死の予言のかわし方

海野宵人

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本編(シーニュ王国編)

横領容疑 (7)

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 学院での卒業式は、アンヌマリーが屋敷に軟禁されている間に終わってしまった。もちろん、卒業式の日に開かれる卒業夜会もしかりだ。

 卒業夜会には、婚約者のシャルルはニナを伴って参加していたと、マグダレーナからの手紙で知った。彼女はランベルトから聞いた話を詳しく手紙につづってくれたのだ。だからアンヌマリーは、夜会の場で何が起きたのか、だいたい知っている。

 ニナはアントノワ侯爵家の紋章入りの指輪を、シャルルから贈られた細い金鎖に通して、常に身につけている。
 いつもどおり、夜会でもその指輪を首から下げていたようだ。

 露骨にこれ見よがしなので、会話をするほうも礼儀として一応は尋ねる。

「その指輪は、どなたかの贈り物ですか?」
「亡くなった父の形見なんです。形見の品は、これしかなくて……」

 尋ねられると、ニナは必ず悲しそうに目を伏せて「亡き父の形見」と説明する。
 説明された側は、これまた礼儀として驚いた顔をつくろい、まじまじと指輪の意匠を確認してみせる。

「おや、これはアントノワ侯爵家の紋章とよく似ていますね」
「似てるんじゃなくて、そのものなんです。父はアントノワ侯爵家の長男でした」

 この説明だけ聞けば、まるでニナが正当な嫡子のようだ。
 そして彼女の横にいるシャルルは、それを否定しない。
 ニナの出自を知っている者からすると失笑ものの詐称であっても、王族が否定しない限りは面と向かって指摘する者などいるわけがない。

 例外は同じ王族であるリヒャルトだが、残念ながらあえて耳に痛いことを告げるほどシャルルと親しくなることはなかったようだ。シャルルが聞く耳を持たないので、あまり親しくなりようがなかったとも言える。
 それでも親切心から、一応何度かは助言を試みたらしい。だがシャルルは、ニナに対して批判的な言葉には耳を傾ける姿勢を見せなかった。

 事情を知っている者の間では、つまりそれは「そういうこと」と認知されるに至った。要するに「シャルルは黒を白にしようとしている」と認識されたというわけだ。
 逆に事情を知らない者の間では、ニナの言葉が額面どおりに受け取られる傾向にあった。素直に信じる者もいれば、鵜呑みにしないまでも「シャルルが認めているのなら」と、シャルルの意を汲もうとする者も少なからず存在したからだ。

 シャルルの前でアンヌマリーの名前を出したり、ロベールに公金横領の容疑をかけられた話題に触れたりすることは、卒業夜会の場では誰もしなかった。だがあえてそのような不躾な真似をしなくても、シャルルとニナの親密な雰囲気を見れば、よほど鈍い者でない限りはいろいろと察するものだ。

 そして卒業夜会が終わると、リヒャルトとランベルトは留学を終えてオスタリアに帰国した。
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