13 / 182
2020年、感染拡大前夜 13
しおりを挟む
その2日後、私は奥田の整体院にいた。
「先日は妻がお世話になりました」
まず私は奥田にお礼を言った。
「あの日、結構店は忙しかったようですが、午前中に先生のところに伺っていたので、疲れを感じなかったと言っていました。ありがとうございました」
私は美津子から聞いていた通りの話をした。
「そうですか、それは良かった。それで今日、ご主人のほうは何か気になるところはありますか?」
いつもと同じように奥田は私に尋ねた。
ここでは毎回、何かしらの異常はないか質問がある。メインの主訴はあっても、前回から今回の間にいつもと違う出来事があり、それが今日の問題になっている可能性があるということから、必ず問診からスタートするのだ。時には世間話的な感じになることもあるが、そこから得られた情報で施術の際に流れが変わることがあると聞いている。だから、施術前の話も、一見雑談的に見えるが、自然に話を聞き出すための工夫らしい。
この日、私はたまたまテレビで見ていた新型ウイルスの話をした。
「先生、今テレビを見ると、例の感染症の話が出ていますよね」
「そうですね。今後どうなっていくか、心配ですよね。私たちは医者ではないし、手技療法ですので感染症には何もできませんが、疲れて体力を奪われないようなお手伝いができればと思っています」
私はこの時、整体の仕事というのはそういうお役に立てるものなのか、ということを感じた。同時に、今自分がやっている仕事は、そういう時どういったお役に立てるのか、ということを考えた。
「雨宮さん、今、自分の仕事はどうなんだろう、と考えませんでした?」
私は奥田の言葉に驚いた。何も言っていないのに、なぜ私が考えたことが分かったのだろう、と思ったのだ。
そのことを察した奥田が言った。
「もしかすると今の私の話を不思議に思われたかもしれませんが、癒しの仕事というのはクライアントの方の心情を推し量ることが要求されます。話の流れから、また、雨宮さんとのお付き合いもそれなりになっているので、性格などから何となく読めることがあるんですよ」
奥田は自然にそう言ったが、それも長年の経験からくるものだろうか、と思った。私もたまにだが、メニューのオーダーの予測が何となく当たることがある。それは常連客の好みがいつの間にか頭に入っているため、ということが理由だが、当たった時には少しテンションが上がる。経験を積むことが意外なところに波及するという経験は、実は私もしていたということを改めて気付かされた。
「それで、今日の調子ですが・・・」
話が横道に逸れてしまったので、私は本日気になるところということで、肩や上肢の調子について具体的な様子を告げた。仕事でフライパンを振ったりすることが続いたので、このところちょっと疲れ気味だったのだ。
「先日は妻がお世話になりました」
まず私は奥田にお礼を言った。
「あの日、結構店は忙しかったようですが、午前中に先生のところに伺っていたので、疲れを感じなかったと言っていました。ありがとうございました」
私は美津子から聞いていた通りの話をした。
「そうですか、それは良かった。それで今日、ご主人のほうは何か気になるところはありますか?」
いつもと同じように奥田は私に尋ねた。
ここでは毎回、何かしらの異常はないか質問がある。メインの主訴はあっても、前回から今回の間にいつもと違う出来事があり、それが今日の問題になっている可能性があるということから、必ず問診からスタートするのだ。時には世間話的な感じになることもあるが、そこから得られた情報で施術の際に流れが変わることがあると聞いている。だから、施術前の話も、一見雑談的に見えるが、自然に話を聞き出すための工夫らしい。
この日、私はたまたまテレビで見ていた新型ウイルスの話をした。
「先生、今テレビを見ると、例の感染症の話が出ていますよね」
「そうですね。今後どうなっていくか、心配ですよね。私たちは医者ではないし、手技療法ですので感染症には何もできませんが、疲れて体力を奪われないようなお手伝いができればと思っています」
私はこの時、整体の仕事というのはそういうお役に立てるものなのか、ということを感じた。同時に、今自分がやっている仕事は、そういう時どういったお役に立てるのか、ということを考えた。
「雨宮さん、今、自分の仕事はどうなんだろう、と考えませんでした?」
私は奥田の言葉に驚いた。何も言っていないのに、なぜ私が考えたことが分かったのだろう、と思ったのだ。
そのことを察した奥田が言った。
「もしかすると今の私の話を不思議に思われたかもしれませんが、癒しの仕事というのはクライアントの方の心情を推し量ることが要求されます。話の流れから、また、雨宮さんとのお付き合いもそれなりになっているので、性格などから何となく読めることがあるんですよ」
奥田は自然にそう言ったが、それも長年の経験からくるものだろうか、と思った。私もたまにだが、メニューのオーダーの予測が何となく当たることがある。それは常連客の好みがいつの間にか頭に入っているため、ということが理由だが、当たった時には少しテンションが上がる。経験を積むことが意外なところに波及するという経験は、実は私もしていたということを改めて気付かされた。
「それで、今日の調子ですが・・・」
話が横道に逸れてしまったので、私は本日気になるところということで、肩や上肢の調子について具体的な様子を告げた。仕事でフライパンを振ったりすることが続いたので、このところちょっと疲れ気味だったのだ。
43
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
僕らの10パーセントは無限大
華子
青春
10%の確率でしか未来を生きられない少女と
過去に辛い経験をしたことがある幼ななじみと
やたらとポジティブなホームレス
「あり得ない今を生きてるんだったら、あり得ない未来だってあるんじゃねえの?」
「そうやって、信じたいものを信じて生きる人生って、楽しいもんだよ」
もし、あたなら。
10パーセントの確率で訪れる幸せな未来と
90パーセントの確率で訪れる悲惨な未来。
そのどちらを信じますか。
***
心臓に病を患う和子(わこ)は、医者からアメリカでの手術を勧められるが、成功率10パーセントというあまりにも酷な現実に打ちひしがれ、渡米する勇気が出ずにいる。しかしこのまま日本にいても、死を待つだけ。
追い詰められた和子は、誰に何をされても気に食わない日々が続くが、そんな時出逢ったやたらとポジティブなホームレスに、段々と影響を受けていく。
幼ななじみの裕一にも支えられながら、彼女が前を向くまでの物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
レオナルド先生創世記
ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる