[完結]飲食店のオーナーはかく戦えり! そして下した決断は?

藤堂慎人

文字の大きさ
64 / 182

緊急事態宣言発出 37

しおりを挟む
 次の日の午前9時少し前、私は奥田の店に来ていた。今回も私のわがままを聞いてくれた奥田に改めて礼を言い、施術に入った。本来なら問診にもっと時間をかけるスタイルだが、私の事情も理解してくれており、施術を受ける目的も先日の美津子の件や予約の時点での話である程度了解してもらっている。
 だから、具体的な相談内容については理解しているということで、他の点は施術中に感じたことを質問しつつやってもらうようにしていた。
 私は施術ベッドの上で仰向けなっていた。いつもならうつ伏せからのスタートだが、今回の主訴はメンタル面のことも絡んでいるからということらしい。
 先日、美津子が施術を受けた後にそういうことを聞いていたから理解できたが、こういったクライアントの状態に合わせて施術の内容を組み立ててくれるところが有難い。以前通っていたところは、何を相談しても同じ手順で同じ加減だった。それで具合の悪さが改善されれば良いのだが、そういうわけではなかったのであちこち回り、結果的に奥田の店に通うようになった。改めて、一人一人に合う施術の大切さを身に染みて感じる。そしてこういう時も自分の仕事に置き換え、今のメニュー構成や接客などで、来店する人にきちんと満足を与えているかを考えていた。
 その時、お腹の調整中だったが、ここで奥田が言った。
「雨宮さん、今何か余計なことを考えていませんでした?」
 私はドキッとした。心の中を見透かされたような気がしたのだ。もちろん、変なことを考えていたわけではないが、それが奥田の手に何かを感じさせたのかもしれない。
「すみません、お店のことを考えていました」
「そうですか。リラックスできていないのではないかと手で感じたものですから・・・。確かに今、未経験のことが起こっていますからね。心配もおありでしょうが、今は何も考えず自分の感覚に正直にしていてください。そのほうが効果的ですから」
 奥田は優しく微笑みながら言った。私は手から感じる情報だけで相手のことが読めるものなのかということに驚いていた。
「すごいですね、人の手の感覚というのは」
「まあ、これも勉強と経験からですよ。ある程度やっているといろいろ手が教えてくれます。もっとも、具体的な内容までは分かりません。それは当たり前のことだけど、何かあるのでは、ということくらいは分かることがあります。すべてのクライアントの方についてというわけでもありませんが」
 控えめの奥田の様子に、信頼感はますます高まっていた。
「それで先生、今リラックスするようにとおっしゃったばかりですが、一つだけ教えてください。先日、美津子からも聞かれたと思いますが、先生の仕事、今、どうなんですか? 業種は違ってもそういったお話は参考になると考えているのですが・・・。仕事のことが頭に残ってストレスになっていますし、他でも頑張っている方がいらっしゃる様子が分かれば心の支えになると思っています。そして自分の体調のことも関係するので、メンテナンスを前提に通いたいと思っているのですが」
 私は失礼を承知の上で尋ねてみた。奥田は変な顔一つせず、普通に答えた。
「私たちの仕事は人の心身の不調を改善させることです。単なるリラクゼーション目的であればこの時期、お越しにならない方もいらっしゃいますが、本気で自分の体調不良を改善したいという方はいつも通りお越しになります。整体は健康関係の仕事になりますので、普段から衛生的な意識は強いし、今回のようなことが起こる前から施術の前後で手洗いなどはしていますし、その点も自然な感じです。確かに、いろいろな目的の方がいらっしゃいますので、数字として少なくなっていることは事実ですが、逆に予約が取りやすくなって有難いというクライアントの方もいらっしゃいます。想像していたよりは少なくなっていません」
 奥田は私の質問に丁寧に答えてくれた。この話だけでも私は気持ちがすっきりし、その後施術に身を任せていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

僕らの10パーセントは無限大

華子
青春
 10%の確率でしか未来を生きられない少女と  過去に辛い経験をしたことがある幼ななじみと  やたらとポジティブなホームレス 「あり得ない今を生きてるんだったら、あり得ない未来だってあるんじゃねえの?」 「そうやって、信じたいものを信じて生きる人生って、楽しいもんだよ」    もし、あたなら。  10パーセントの確率で訪れる幸せな未来と  90パーセントの確率で訪れる悲惨な未来。  そのどちらを信じますか。 ***  心臓に病を患う和子(わこ)は、医者からアメリカでの手術を勧められるが、成功率10パーセントというあまりにも酷な現実に打ちひしがれ、渡米する勇気が出ずにいる。しかしこのまま日本にいても、死を待つだけ。  追い詰められた和子は、誰に何をされても気に食わない日々が続くが、そんな時出逢ったやたらとポジティブなホームレスに、段々と影響を受けていく。  幼ななじみの裕一にも支えられながら、彼女が前を向くまでの物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...