169 / 182
店の未来を託し、転職を決意 2
しおりを挟む
この日、最初に迎えたのがランチタイムだ。実際に店を休んだのは数日だったが、それでもとても忙しく感じた。前回もそうだったが、ちょっとしたブランクでも仕事の感覚がこんなにも変わるのか、ということを改めて感じていた。もう身体の方は何ともないのだが、思った以上に疲労感がある。
ランチタイムが終了し、夜の部の仕込みにかからなければならない時間になったが、その間に多少の休憩時間がある。
「矢島君、ランチタイムのお客様、今日は多かった?」
私は自分の疲れ具合から来店者数について尋ねたが、返ってきた答えはいつも通り、ということだった。やっぱり久しぶりの仕事だったから、変に緊張し、疲れたのだろうと思った。それを察したのか、矢島が私に言った。
「店長、病み上がりだから疲れたんですよ。仕込みは俺がやりますので、ちょっと休んでいてください」
このセリフも想像通りだが、私も出勤した以上、そういうわけにはいかない。厨房に一緒に立ち、仕込みをしながら口も動かした。
「再度店を任せる感じなったけれど、どうだった」
「店長の体調不良とはいえ、大切な店を任せてもらったのは大変嬉しかったです。なんだか自分の店を持ったような感じで頑張れました。常連の相沢さんは店長の姿が見えないことに心配されていましたが、事情を話すと早く復帰できるといいね、といったことを話されていました。多分今日もお見えになると思いますので、店長の元気な姿に見ると安心されますよ」
「そう、相沢さんも気にかけてくれていたんだ。嬉しいね。今日来店されたらご挨拶しておくよ」
「お願いします。相沢さんにとっては店長とこの店がセットになっているようで、ここで頑張っている姿を見て元気をもらっている、ともおっしゃっていました」
私はこの言葉を聞き、一瞬転職は自分の我儘なのではと思い、本当にその選択が正しいのかどうか迷った。確かに、今私がいろいろ考え、できるのはたくさんの人の助けがあってのことだ。だから自分の思いだけでその構図を変えてしまうことに、一種の罪悪感のようなものを感じてしまった。
表情こそ変えなかったが、こういうことを聞くにつれ心にグサッと刺さるものがある。
人の心は弱いものだと感じる時だが、そうなると自分の決心に揺らぎが出る。でも、人はやりたいことができなかったということが人生の最後で最も後悔する、という話を聞いたことがある。自分の人生が良かったと思うためにも、ここはきちんと考えたことを伝えようと思った。
その時、矢島やこれまでお世話になったいろいろな人に迷惑を掛けないようにしなければということを再度心に確認し、そのための方策を今晩、美津子と相談することにした。そこでは全てを話すというのではなく、今後のことで相談という建前にし、その上で4人に集まってもらう日程について矢島に考えてもらい、複数の案を出してもらった。2号店の予定と合わせ、そのうちのいずれかで話すことを決めた。矢島としては何の話が出てくるのか分からないわけだが、今後の店の経営方針などについてだろう、という気持ちだった。
ランチタイムが終了し、夜の部の仕込みにかからなければならない時間になったが、その間に多少の休憩時間がある。
「矢島君、ランチタイムのお客様、今日は多かった?」
私は自分の疲れ具合から来店者数について尋ねたが、返ってきた答えはいつも通り、ということだった。やっぱり久しぶりの仕事だったから、変に緊張し、疲れたのだろうと思った。それを察したのか、矢島が私に言った。
「店長、病み上がりだから疲れたんですよ。仕込みは俺がやりますので、ちょっと休んでいてください」
このセリフも想像通りだが、私も出勤した以上、そういうわけにはいかない。厨房に一緒に立ち、仕込みをしながら口も動かした。
「再度店を任せる感じなったけれど、どうだった」
「店長の体調不良とはいえ、大切な店を任せてもらったのは大変嬉しかったです。なんだか自分の店を持ったような感じで頑張れました。常連の相沢さんは店長の姿が見えないことに心配されていましたが、事情を話すと早く復帰できるといいね、といったことを話されていました。多分今日もお見えになると思いますので、店長の元気な姿に見ると安心されますよ」
「そう、相沢さんも気にかけてくれていたんだ。嬉しいね。今日来店されたらご挨拶しておくよ」
「お願いします。相沢さんにとっては店長とこの店がセットになっているようで、ここで頑張っている姿を見て元気をもらっている、ともおっしゃっていました」
私はこの言葉を聞き、一瞬転職は自分の我儘なのではと思い、本当にその選択が正しいのかどうか迷った。確かに、今私がいろいろ考え、できるのはたくさんの人の助けがあってのことだ。だから自分の思いだけでその構図を変えてしまうことに、一種の罪悪感のようなものを感じてしまった。
表情こそ変えなかったが、こういうことを聞くにつれ心にグサッと刺さるものがある。
人の心は弱いものだと感じる時だが、そうなると自分の決心に揺らぎが出る。でも、人はやりたいことができなかったということが人生の最後で最も後悔する、という話を聞いたことがある。自分の人生が良かったと思うためにも、ここはきちんと考えたことを伝えようと思った。
その時、矢島やこれまでお世話になったいろいろな人に迷惑を掛けないようにしなければということを再度心に確認し、そのための方策を今晩、美津子と相談することにした。そこでは全てを話すというのではなく、今後のことで相談という建前にし、その上で4人に集まってもらう日程について矢島に考えてもらい、複数の案を出してもらった。2号店の予定と合わせ、そのうちのいずれかで話すことを決めた。矢島としては何の話が出てくるのか分からないわけだが、今後の店の経営方針などについてだろう、という気持ちだった。
10
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
僕らの10パーセントは無限大
華子
青春
10%の確率でしか未来を生きられない少女と
過去に辛い経験をしたことがある幼ななじみと
やたらとポジティブなホームレス
「あり得ない今を生きてるんだったら、あり得ない未来だってあるんじゃねえの?」
「そうやって、信じたいものを信じて生きる人生って、楽しいもんだよ」
もし、あたなら。
10パーセントの確率で訪れる幸せな未来と
90パーセントの確率で訪れる悲惨な未来。
そのどちらを信じますか。
***
心臓に病を患う和子(わこ)は、医者からアメリカでの手術を勧められるが、成功率10パーセントというあまりにも酷な現実に打ちひしがれ、渡米する勇気が出ずにいる。しかしこのまま日本にいても、死を待つだけ。
追い詰められた和子は、誰に何をされても気に食わない日々が続くが、そんな時出逢ったやたらとポジティブなホームレスに、段々と影響を受けていく。
幼ななじみの裕一にも支えられながら、彼女が前を向くまでの物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる