[完結]飲食店のオーナーはかく戦えり! そして下した決断は?

藤堂慎人

文字の大きさ
172 / 182

店の未来を託し、転職を決意 5

しおりを挟む
 予定の時間の10分前、美津子と中村が1号店に着いた。
「お疲れ様です」
 全員、ほぼ同時に同じ言葉を口にした。その時、全員の目が合い、思わず笑顔になった。その瞬間、大変和やかな良い雰囲気になったと思ったが、これからの話でどんな表情になるのかが心配になった。明るく和やかな雰囲気は私たちの店の特徴だったので、それが壊れることに心配があったのだ。
「今日は仕事を休んでまで集まってもらったけれど、みんなに大切な話があるんだ」
 私の言葉からミーティングが始まったが、それが第一声だった。瞬間、みんなの表情がこわばった。さっきの笑顔にしても今の緊張もマスクをしている状態からなので微妙なところは分からないが、それでも表情の雰囲気が大きく変化したことは分かる。つまり、この第一声は時節柄、最悪な話になるのでは、という懸念が現れた表情だったのだ。それは矢島からの質問が物語っていた。
 矢島は先ほどまで柔和な雰囲気が消え、しっかり先ほどの言葉の真意を聞こうとした。
「店長、さっきまでの感じと違い、とても緊張していましたね。もしかして経営のことですか? それなら俺たちももっといろいろ意見を出して売り上げアップを考えますし、中村、お前もそうだろう」
 中村にも同意を求めたが、当然中村もその話には同調している。そしてその上で話した。
「この前、弁当のデリバリーの企画なども出ましたが、もっとこの点についてのアイデア出しなどがあるのではと思っていましたが、そういった積極的な意味でのミーティングだと思っていました。何を話されたいんですか?」
 まだ話はスタートしたばかりだが、具体的には何も説明していないので良からぬ考えに結びつくのも無理はない。かといって説明する時間を設けていないのでこういう感じになっても仕方ない。事前に今日のミーティングのテーマを話しておく手もあったが、私たちの転職と仕事の移譲のことなので、きちんと順を追って話さなければならない。彼らが予想していない感じで話し始めたことでいつもと違う雰囲気になるのは、新型ウイルスがもたらす言いようのない不安感や苛立ちなどが関係しているのかもしれない。突然、大切な話があるといった大きなテーマのイメージで話し出されたのであれば、時節柄、廃業・閉店などのことと思ってしまっても仕方ないだろう。だから私はそういうことではないということを理解してもらうため、順を追って話すことにした。ただ、さっきの反応からみんなのためにプラスになると思われるところからスタートした。
「この前、俺は新型感染症ではないかと思うようなことになり、みんなに心配かけたよね。それからあまり間を置かず、今度はギックリ腰になり、またみんなに迷惑をかけた。直接的には矢島君だけど、美津子が2店舗を見るようなところもあったため、中村君にも迷惑をかけだ。この点についてはこの場でみんなに謝りたい。申し訳なかった。・・・そしてその間の話を聞き、君たち2人なら今後の店の運営を任せても良いのでは、と思ったんだ」
 この話を聞き、2人は無言になった。互いに顔を見合わせつつも、適切な言葉が出てこない様子だった。その様子を見て美津子が言った。
「今、社長が言ったこと、びっくりした? 当然よね。体調が回復して初めてのミーティングの話としては似つかわしくないわね。でも、これは私たちが2人で話し合ったことなの。ただ、誤解してほしくないんだけど、新型感染症で大変だから居酒屋の商売から身を引きたいということじゃなく、別の考えからなの。今回の社長のことであなたたちの頑張り方や店に対する愛着のようなものがよく分かったわ。私たちが苦労して育ててきた店だもの。潰したくないし、きちんと後を任せられる人ができたからこそ考えているの」
 美津子は私の言葉をフォローする形で説明した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

僕らの10パーセントは無限大

華子
青春
 10%の確率でしか未来を生きられない少女と  過去に辛い経験をしたことがある幼ななじみと  やたらとポジティブなホームレス 「あり得ない今を生きてるんだったら、あり得ない未来だってあるんじゃねえの?」 「そうやって、信じたいものを信じて生きる人生って、楽しいもんだよ」    もし、あたなら。  10パーセントの確率で訪れる幸せな未来と  90パーセントの確率で訪れる悲惨な未来。  そのどちらを信じますか。 ***  心臓に病を患う和子(わこ)は、医者からアメリカでの手術を勧められるが、成功率10パーセントというあまりにも酷な現実に打ちひしがれ、渡米する勇気が出ずにいる。しかしこのまま日本にいても、死を待つだけ。  追い詰められた和子は、誰に何をされても気に食わない日々が続くが、そんな時出逢ったやたらとポジティブなホームレスに、段々と影響を受けていく。  幼ななじみの裕一にも支えられながら、彼女が前を向くまでの物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

処理中です...