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店の未来を託し、転職を決意 5
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予定の時間の10分前、美津子と中村が1号店に着いた。
「お疲れ様です」
全員、ほぼ同時に同じ言葉を口にした。その時、全員の目が合い、思わず笑顔になった。その瞬間、大変和やかな良い雰囲気になったと思ったが、これからの話でどんな表情になるのかが心配になった。明るく和やかな雰囲気は私たちの店の特徴だったので、それが壊れることに心配があったのだ。
「今日は仕事を休んでまで集まってもらったけれど、みんなに大切な話があるんだ」
私の言葉からミーティングが始まったが、それが第一声だった。瞬間、みんなの表情がこわばった。さっきの笑顔にしても今の緊張もマスクをしている状態からなので微妙なところは分からないが、それでも表情の雰囲気が大きく変化したことは分かる。つまり、この第一声は時節柄、最悪な話になるのでは、という懸念が現れた表情だったのだ。それは矢島からの質問が物語っていた。
矢島は先ほどまで柔和な雰囲気が消え、しっかり先ほどの言葉の真意を聞こうとした。
「店長、さっきまでの感じと違い、とても緊張していましたね。もしかして経営のことですか? それなら俺たちももっといろいろ意見を出して売り上げアップを考えますし、中村、お前もそうだろう」
中村にも同意を求めたが、当然中村もその話には同調している。そしてその上で話した。
「この前、弁当のデリバリーの企画なども出ましたが、もっとこの点についてのアイデア出しなどがあるのではと思っていましたが、そういった積極的な意味でのミーティングだと思っていました。何を話されたいんですか?」
まだ話はスタートしたばかりだが、具体的には何も説明していないので良からぬ考えに結びつくのも無理はない。かといって説明する時間を設けていないのでこういう感じになっても仕方ない。事前に今日のミーティングのテーマを話しておく手もあったが、私たちの転職と仕事の移譲のことなので、きちんと順を追って話さなければならない。彼らが予想していない感じで話し始めたことでいつもと違う雰囲気になるのは、新型ウイルスがもたらす言いようのない不安感や苛立ちなどが関係しているのかもしれない。突然、大切な話があるといった大きなテーマのイメージで話し出されたのであれば、時節柄、廃業・閉店などのことと思ってしまっても仕方ないだろう。だから私はそういうことではないということを理解してもらうため、順を追って話すことにした。ただ、さっきの反応からみんなのためにプラスになると思われるところからスタートした。
「この前、俺は新型感染症ではないかと思うようなことになり、みんなに心配かけたよね。それからあまり間を置かず、今度はギックリ腰になり、またみんなに迷惑をかけた。直接的には矢島君だけど、美津子が2店舗を見るようなところもあったため、中村君にも迷惑をかけだ。この点についてはこの場でみんなに謝りたい。申し訳なかった。・・・そしてその間の話を聞き、君たち2人なら今後の店の運営を任せても良いのでは、と思ったんだ」
この話を聞き、2人は無言になった。互いに顔を見合わせつつも、適切な言葉が出てこない様子だった。その様子を見て美津子が言った。
「今、社長が言ったこと、びっくりした? 当然よね。体調が回復して初めてのミーティングの話としては似つかわしくないわね。でも、これは私たちが2人で話し合ったことなの。ただ、誤解してほしくないんだけど、新型感染症で大変だから居酒屋の商売から身を引きたいということじゃなく、別の考えからなの。今回の社長のことであなたたちの頑張り方や店に対する愛着のようなものがよく分かったわ。私たちが苦労して育ててきた店だもの。潰したくないし、きちんと後を任せられる人ができたからこそ考えているの」
美津子は私の言葉をフォローする形で説明した。
「お疲れ様です」
全員、ほぼ同時に同じ言葉を口にした。その時、全員の目が合い、思わず笑顔になった。その瞬間、大変和やかな良い雰囲気になったと思ったが、これからの話でどんな表情になるのかが心配になった。明るく和やかな雰囲気は私たちの店の特徴だったので、それが壊れることに心配があったのだ。
「今日は仕事を休んでまで集まってもらったけれど、みんなに大切な話があるんだ」
私の言葉からミーティングが始まったが、それが第一声だった。瞬間、みんなの表情がこわばった。さっきの笑顔にしても今の緊張もマスクをしている状態からなので微妙なところは分からないが、それでも表情の雰囲気が大きく変化したことは分かる。つまり、この第一声は時節柄、最悪な話になるのでは、という懸念が現れた表情だったのだ。それは矢島からの質問が物語っていた。
矢島は先ほどまで柔和な雰囲気が消え、しっかり先ほどの言葉の真意を聞こうとした。
「店長、さっきまでの感じと違い、とても緊張していましたね。もしかして経営のことですか? それなら俺たちももっといろいろ意見を出して売り上げアップを考えますし、中村、お前もそうだろう」
中村にも同意を求めたが、当然中村もその話には同調している。そしてその上で話した。
「この前、弁当のデリバリーの企画なども出ましたが、もっとこの点についてのアイデア出しなどがあるのではと思っていましたが、そういった積極的な意味でのミーティングだと思っていました。何を話されたいんですか?」
まだ話はスタートしたばかりだが、具体的には何も説明していないので良からぬ考えに結びつくのも無理はない。かといって説明する時間を設けていないのでこういう感じになっても仕方ない。事前に今日のミーティングのテーマを話しておく手もあったが、私たちの転職と仕事の移譲のことなので、きちんと順を追って話さなければならない。彼らが予想していない感じで話し始めたことでいつもと違う雰囲気になるのは、新型ウイルスがもたらす言いようのない不安感や苛立ちなどが関係しているのかもしれない。突然、大切な話があるといった大きなテーマのイメージで話し出されたのであれば、時節柄、廃業・閉店などのことと思ってしまっても仕方ないだろう。だから私はそういうことではないということを理解してもらうため、順を追って話すことにした。ただ、さっきの反応からみんなのためにプラスになると思われるところからスタートした。
「この前、俺は新型感染症ではないかと思うようなことになり、みんなに心配かけたよね。それからあまり間を置かず、今度はギックリ腰になり、またみんなに迷惑をかけた。直接的には矢島君だけど、美津子が2店舗を見るようなところもあったため、中村君にも迷惑をかけだ。この点についてはこの場でみんなに謝りたい。申し訳なかった。・・・そしてその間の話を聞き、君たち2人なら今後の店の運営を任せても良いのでは、と思ったんだ」
この話を聞き、2人は無言になった。互いに顔を見合わせつつも、適切な言葉が出てこない様子だった。その様子を見て美津子が言った。
「今、社長が言ったこと、びっくりした? 当然よね。体調が回復して初めてのミーティングの話としては似つかわしくないわね。でも、これは私たちが2人で話し合ったことなの。ただ、誤解してほしくないんだけど、新型感染症で大変だから居酒屋の商売から身を引きたいということじゃなく、別の考えからなの。今回の社長のことであなたたちの頑張り方や店に対する愛着のようなものがよく分かったわ。私たちが苦労して育ててきた店だもの。潰したくないし、きちんと後を任せられる人ができたからこそ考えているの」
美津子は私の言葉をフォローする形で説明した。
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