お母さん、私、恋したよ!

藤堂慎人

文字の大きさ
25 / 92

父親の帰宅

しおりを挟む
 2人はサラダを準備し、唐揚げの下準備を終えていた。そこから少し経った頃、父が帰ってきた。
「おかえりなさい」
 父の帰宅に母と私が2人で出迎えた。
「おっ、今日は2人でお出迎えか。嬉しいな」
 満面の笑みで父が言った。
「着替えて、ダイニングにいらしてください。今日は私とさくらで夕食を準備したわ」
「そうか、何を食べさせてくれるのかな」
「期待させるようなものじゃないけど、今日は暑かったからさらっと食べられるようにそうめんよ。それはサラダと唐揚げ。すぐに用意するから待ってて」
 父は頷いて自分たちの部屋で着替え、ダイニングにやってきた。
「一番落ち着く時間だな」
 そういう父に母と私が笑顔で答えた。
 サラダはテーブルに出してあり、母は唐揚げ担当、私はそうめん担当ということで手早く調理した。
 すぐに食事の準備ができたので、その分、会話が楽しめる。
「さくら、1学期は大変だったな。学校のほうはどうだ?」
「うん、もうずいぶん落ち着いた。話せる友達も増えた。2学期が楽しみ」
 笑顔で話す私に両親は少し安堵していた。だが、ウェルナー症候群を患っているという現実がある。だからこそ両親は娘に少しでも楽しい時間を過ごしてほしいと願っている。学校生活そのものについて両親には不安はあるものの、ここは娘の言葉を信じることにした。私も両親が気を使っていることはよく理解しているつもりだ。だからこそ、なるべく明るく振舞っている。大切な家族との食事の時間。笑顔は最もおいしい食事の調味料だ。私と両親は努めて明るい話題で場を明るくした。
 食事の後、お茶などを飲んでいると、適度な満腹感が私に眠気を連れてきた。
「お父さん、お母さん。ちょっと眠くなってきたから部屋に行くね。2人はそのまま話を続けていて」
 私はそう言って自分の部屋に行った。両親は目線で私を見送り、ビールを飲んでいる。
 他愛のない話を続けていた両親だが、私が部屋に戻り、少し時間が経った時、母の表情が真顔になった。その変化に父は何かに気付いた。
「さくらのことで何かあったのか?」
 父も緊張の面持ちになった。その表情に母は病院で聞いたことを話した。
「・・・さくら、ガンなのか?」
「いいえ、まだ確定というわけではないわ。でも、この前の検査でその疑いが出たの。それで夏休みを利用して検査入院をと先生に勧められたわ」
「そんな・・・。ウェルナー症候群と言われ、ただでさえ普通の年頃の娘と違う人生なのに、ガンなんてことになったら・・・。さくらが可哀そうすぎる。何とかならないのか」
「私たちで何とかできるなら何でもする。でも、今回の一連の話、親として無力さを感じるだけだわ。先生との話の後、私もいろいろ考えてみた。ここは先生の力に頼ることしかできない。私たちにできるのはその環境づくりしかない、と思ったの。あなた、何か良い知恵ある?」
 突然言われても父に返す言葉はなかった。しばらく考えた後、ポツリと言った。
「・・・そうだな、俺たちには医者に頼ることしかできない。となると、さくらにどう話し、検査入院をさせるかだ。現時点でガンの可能性が高いということは、検査では進行具合などを確認することも含まれているのだろう。そのまま治療のための入院ということもあり得る。そうなると、さくらは高校生活をまともに送れない。その時の心のケアも大切だ。クラスメイトや担任の先生にもいろいろ協力してもらうことも出てくるだろう。俺たちができることはそれくらいしかない。だが、まずは検査入院し、その上で再度対応を考えよう」
 父は落胆したような声ではあったが、できるだけ冷静に答えたつもりだった。母はその言葉に頷くだけだったが、その後ポツリと言った。
「さくらには何て言います?」
「ガンの疑いがあるから入院して検査するなんて本当のことは言えない。夏休みを利用した健康診断を時間をかけてやることになった、とでも言うか。病院の先生の話ではいつでも大丈夫ということだな?」
 父親は入院について再度確認した。
「ええ」
「それでは明日、俺は会社を休む。そして、俺も先生から話を聞く。2人で病院に行こう。さくらにはうまく理由を考えて、明日の夜、俺から言う。お前も一人で大変だったな。これからは2人でこれまで以上にさくらのことを見ていこう」
 母は父の言葉に目を潤ませ、静かに頷いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

小さなパン屋の恋物語

あさの紅茶
ライト文芸
住宅地にひっそりと佇む小さなパン屋さん。 毎日美味しいパンを心を込めて焼いている。 一人でお店を切り盛りしてがむしゃらに働いている、そんな毎日に何の疑問も感じていなかった。 いつもの日常。 いつものルーチンワーク。 ◆小さなパン屋minamiのオーナー◆ 南部琴葉(ナンブコトハ) 25 早瀬設計事務所の御曹司にして若き副社長。 自分の仕事に誇りを持ち、建築士としてもバリバリ働く。 この先もずっと仕事人間なんだろう。 別にそれで構わない。 そんな風に思っていた。 ◆早瀬設計事務所 副社長◆ 早瀬雄大(ハヤセユウダイ) 27 二人の出会いはたったひとつのパンだった。 ********** 作中に出てきます三浦杏奈のスピンオフ【そんな恋もありかなって。】もどうぞよろしくお願い致します。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。 「だって顔に大きな傷があるんだもん!」 体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。 実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。 寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。 スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。 ※フィクションです。 ※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

処理中です...