51 / 92
治療開始 3
しおりを挟む
午後、私の母がやってきた。病室の雰囲気は朝のままだ。
母親は病室内の雰囲気が明るいことに気付いた。
「みなさん、何か良いことがあったんですか? 今日、部屋の中が明るい感じがします」
「お母さん、分かります? 実は午前中、さくらちゃんの恋バナで盛り上がったんですよ。私たちみたいに入院が長いと、そういった明るい話は嬉しくて、顔にも出るようですね」
工藤の言葉に私も母も思わず笑顔になった。
「さくらちゃん、恋バナって? 私も聞きたいな」
「えぇ? 恥ずかしいよ」
「でも、皆さんにはお話ししたんでしょう? お母さんが知らないなんておかしいわ。私も元気になりそうだから聞かせてよ」
「さくらちゃん、話してあげたら? そういう良い話は何度聞いても気持ち良いから、私もまた聞きたいな」
他の患者さんからもリクエストがあった。
「仕方ないな。じゃあ、お母さんにも話すね。でも笑わないでね」
「笑うもんですか。そういう話、私のさくらくらいの頃のことを思い出しそう」
「じゃあ、お母さんの恋バナも聞きたいな。一緒に話してください」
工藤が話に割り込んできた。
「えっ? それ、ちょっと方向性が違っていませんか?」
「そんなことはありませんよ。母娘の恋バナなんてめったに聞けませんし、明るい話で笑顔になれば健康にも良いというじゃないですか。ぜひ、お願いします」
「私も話すんだから、お母さんも話して。そうすると公平でしょう」
「そうだ、さくらちゃん、良いことを言う」
野次ではないけれど、他の人からも同意するような言葉が出た。そのことで母も観念したようで話すことにした。ただ、話のきっかけは私から作った。
「皆さんに話したことなんだけど、時々見舞いに来てくれている坂本君のことなんだ。昨日の夢に坂本君が出てきたの。ノートを持ってきてくれるというところから、私、坂本君に恋したのかな、と思っちゃったんだ。夢の中では私も年頃の女の子で、元気なんだ。高校生活をみんなと同じように楽しんで、自然に坂本君との距離が近くなっている感じだった。そう話をしたら、皆さんが坂本君もまんざらじゃないと思うと言ってくれて、それで嬉しくなっちゃたんだ。私も話したんだから、お母さんも話して」
私は真顔で母の目を見た。
「仕方ないわね。さくらにとって初恋のようだから、私もその話をするね。やっぱり高校生の時だった。私の学校も共学だったので、男の子と知り合うことは自然だった。同じクラスの子でね、坂本君のようなクラス委員ということではなく、どちらかというと大人しい人だった。目立たない分、逆に気になっていた。あまりしゃべらなかったけれど、ちょっとしたことで優しくてね。天木君って言うんだけど、下校の時、道の端に捨てられていた子猫を見つけたの。私が足を止めて声をかけ、撫でたりしているところに天木君がやってきて、その子猫を同じように優しく撫でていたの。私がこの子猫、どうしようと思っていると、天木君が家に連れて行くと言ったの。ちょっと家で何か動物を飼いたいという話が出ているということだった。本当かどうか分からなかったけど、その話を聞いて私はホッとした。彼はそのまま優しく両手で子猫を持ち上げ、大切な壊れ物のような感じで帰った。次の日、その後のことを聞いたけれど、動物を飼うと言っても捨て猫ということで反対されたと言うの。でも天木君、また捨てるということはできない、ということで親と相当喧嘩したそうなの。結局、親が根負けして家族になったそうなの。ウチのミーちゃんと同じパターンね。私その話に感動して、一気に天木君のことが気になるようになった。それで勉強を一緒にしたり、お弁当のおかずを分け合ったりした。でも、受験があるでしょう。学年が上がってくると、勉強のことですれ違いになった。違う大学に行くことになったけれど、それでそのまま別れちゃった。きちんとお付き合いしていたって感じじゃなかったので、別れたという言い方も変だけどね。でも、自分の中では初恋だったと今でも思っている。何かさくらちゃんと同じ感じね。母娘だから似ちゃうのかな?」
「その話、初めて聞いた。お父さんと似ているところあるの? 天木さんっていう人」
「全く違う。お父さんにはお父さんの良いところがあって・・・」
「へえ、そうなんだ。退院したら、お父さんと一緒にその話、聞きたいな。ここで話すと約束して」
「えっ、困るな。照れくさいじゃない。本人の前ではそういう話はしにくいわよ」
「でも、聞きたいな。私、治療、頑張るから、そのご褒美ということでお願い」
「・・・うーん、分かった」
照れたような顔で母は約束した。
「皆さんが証人です。私、早く退院してお母さんとお父さんの恋バナ、聞きます。そしたら皆さんにもお話しします」
「それは楽しみだ。もしかすると私たちも退院しているかもしれないけれど、そしたら家に遊びにお出でよ。そこで聞かせて。同室になったのも何かのご縁だがら、さくらちゃんとお母さんの恋バナ、楽しみにしておきます。これで私も元気になるパワーをもらったね」
≪日記≫
『今日は思わぬ展開になった。私のちょっとした思いが病室の他の方にも伝わり、恋バナで盛り上がった。
病気のことなどすっかり忘れた1日だった。
退院してからの楽しみもできたし、先生の言うことを聞いて、1日も早く元気になるぞ。ミーちゃんも待っててね』
母親は病室内の雰囲気が明るいことに気付いた。
「みなさん、何か良いことがあったんですか? 今日、部屋の中が明るい感じがします」
「お母さん、分かります? 実は午前中、さくらちゃんの恋バナで盛り上がったんですよ。私たちみたいに入院が長いと、そういった明るい話は嬉しくて、顔にも出るようですね」
工藤の言葉に私も母も思わず笑顔になった。
「さくらちゃん、恋バナって? 私も聞きたいな」
「えぇ? 恥ずかしいよ」
「でも、皆さんにはお話ししたんでしょう? お母さんが知らないなんておかしいわ。私も元気になりそうだから聞かせてよ」
「さくらちゃん、話してあげたら? そういう良い話は何度聞いても気持ち良いから、私もまた聞きたいな」
他の患者さんからもリクエストがあった。
「仕方ないな。じゃあ、お母さんにも話すね。でも笑わないでね」
「笑うもんですか。そういう話、私のさくらくらいの頃のことを思い出しそう」
「じゃあ、お母さんの恋バナも聞きたいな。一緒に話してください」
工藤が話に割り込んできた。
「えっ? それ、ちょっと方向性が違っていませんか?」
「そんなことはありませんよ。母娘の恋バナなんてめったに聞けませんし、明るい話で笑顔になれば健康にも良いというじゃないですか。ぜひ、お願いします」
「私も話すんだから、お母さんも話して。そうすると公平でしょう」
「そうだ、さくらちゃん、良いことを言う」
野次ではないけれど、他の人からも同意するような言葉が出た。そのことで母も観念したようで話すことにした。ただ、話のきっかけは私から作った。
「皆さんに話したことなんだけど、時々見舞いに来てくれている坂本君のことなんだ。昨日の夢に坂本君が出てきたの。ノートを持ってきてくれるというところから、私、坂本君に恋したのかな、と思っちゃったんだ。夢の中では私も年頃の女の子で、元気なんだ。高校生活をみんなと同じように楽しんで、自然に坂本君との距離が近くなっている感じだった。そう話をしたら、皆さんが坂本君もまんざらじゃないと思うと言ってくれて、それで嬉しくなっちゃたんだ。私も話したんだから、お母さんも話して」
私は真顔で母の目を見た。
「仕方ないわね。さくらにとって初恋のようだから、私もその話をするね。やっぱり高校生の時だった。私の学校も共学だったので、男の子と知り合うことは自然だった。同じクラスの子でね、坂本君のようなクラス委員ということではなく、どちらかというと大人しい人だった。目立たない分、逆に気になっていた。あまりしゃべらなかったけれど、ちょっとしたことで優しくてね。天木君って言うんだけど、下校の時、道の端に捨てられていた子猫を見つけたの。私が足を止めて声をかけ、撫でたりしているところに天木君がやってきて、その子猫を同じように優しく撫でていたの。私がこの子猫、どうしようと思っていると、天木君が家に連れて行くと言ったの。ちょっと家で何か動物を飼いたいという話が出ているということだった。本当かどうか分からなかったけど、その話を聞いて私はホッとした。彼はそのまま優しく両手で子猫を持ち上げ、大切な壊れ物のような感じで帰った。次の日、その後のことを聞いたけれど、動物を飼うと言っても捨て猫ということで反対されたと言うの。でも天木君、また捨てるということはできない、ということで親と相当喧嘩したそうなの。結局、親が根負けして家族になったそうなの。ウチのミーちゃんと同じパターンね。私その話に感動して、一気に天木君のことが気になるようになった。それで勉強を一緒にしたり、お弁当のおかずを分け合ったりした。でも、受験があるでしょう。学年が上がってくると、勉強のことですれ違いになった。違う大学に行くことになったけれど、それでそのまま別れちゃった。きちんとお付き合いしていたって感じじゃなかったので、別れたという言い方も変だけどね。でも、自分の中では初恋だったと今でも思っている。何かさくらちゃんと同じ感じね。母娘だから似ちゃうのかな?」
「その話、初めて聞いた。お父さんと似ているところあるの? 天木さんっていう人」
「全く違う。お父さんにはお父さんの良いところがあって・・・」
「へえ、そうなんだ。退院したら、お父さんと一緒にその話、聞きたいな。ここで話すと約束して」
「えっ、困るな。照れくさいじゃない。本人の前ではそういう話はしにくいわよ」
「でも、聞きたいな。私、治療、頑張るから、そのご褒美ということでお願い」
「・・・うーん、分かった」
照れたような顔で母は約束した。
「皆さんが証人です。私、早く退院してお母さんとお父さんの恋バナ、聞きます。そしたら皆さんにもお話しします」
「それは楽しみだ。もしかすると私たちも退院しているかもしれないけれど、そしたら家に遊びにお出でよ。そこで聞かせて。同室になったのも何かのご縁だがら、さくらちゃんとお母さんの恋バナ、楽しみにしておきます。これで私も元気になるパワーをもらったね」
≪日記≫
『今日は思わぬ展開になった。私のちょっとした思いが病室の他の方にも伝わり、恋バナで盛り上がった。
病気のことなどすっかり忘れた1日だった。
退院してからの楽しみもできたし、先生の言うことを聞いて、1日も早く元気になるぞ。ミーちゃんも待っててね』
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
小さなパン屋の恋物語
あさの紅茶
ライト文芸
住宅地にひっそりと佇む小さなパン屋さん。
毎日美味しいパンを心を込めて焼いている。
一人でお店を切り盛りしてがむしゃらに働いている、そんな毎日に何の疑問も感じていなかった。
いつもの日常。
いつものルーチンワーク。
◆小さなパン屋minamiのオーナー◆
南部琴葉(ナンブコトハ) 25
早瀬設計事務所の御曹司にして若き副社長。
自分の仕事に誇りを持ち、建築士としてもバリバリ働く。
この先もずっと仕事人間なんだろう。
別にそれで構わない。
そんな風に思っていた。
◆早瀬設計事務所 副社長◆
早瀬雄大(ハヤセユウダイ) 27
二人の出会いはたったひとつのパンだった。
**********
作中に出てきます三浦杏奈のスピンオフ【そんな恋もありかなって。】もどうぞよろしくお願い致します。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。
「だって顔に大きな傷があるんだもん!」
体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。
実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。
寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。
スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。
※フィクションです。
※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる