お母さん、私、恋したよ!

藤堂慎人

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治療開始 18

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「さくらさん、落ち着いて聞いてください。・・・現在、あなたはガンを患っています」
 主治医は私の目を見ながら静かに言った。
「・・・」
 この宣告に私はさすがに言葉が出なかった。ウェルナー症候群に加えてガン、という現実を告げられ、何も言うことができなかった。
「さくら」
「さくらちゃん」
「高野さん」
 両親や坂本が口々に私に話しかけようとする。しかし、茫然自失の私に応える元気はなかった。さっきの威勢もどこかに飛んでしまっていた。頭の中は真っ白になっていたのだ。表情も失い、能面のような顔になっていた。
 沈黙の時間が過ぎた。客観的な時間は大したことはなかったかもしれないが、私にとっては長い時間が経過し、やっと言葉が口から出てきた。
「・・・じゃあ、治療として受けていた点滴、あれは抗ガン剤だったのですか?」
「そうです」
「私もドラマなんかで抗ガン剤の副作用として私が今、経験しているようなことが起こるのは知っています。その理解で良いんですよね」
 私は主治医に詰め寄るような感じで問い質した。
「おっしゃる通りです」
「では、看護師さんから聞いたビタミン剤の投与というのは噓だったんですね。私、スマホで調べて、ビタミン剤の投与が過剰の場合にも、あり得る副作用ということを知っていました。先生たちのことを信用していたのに・・・」
 私の言葉には失望と怒りに似た思いが籠っていた。きっと、目にもその気持ちが宿っていたはずだ。その時、私の中の何かがプツンと音を立てて切れたような気がした。
「これまで私、周りのみんなのことを大切に思い、辛いことにも文句を言わず、自分だけで耐えていた。なのにそんな大切なこと、私に教えてくれなかった。もし知ったら落ち込んだりすることを心配してくれたんだろうけど、私は黙っていられたり、嘘をつかれたりすることの方が耐えられない。お父さん、お母さん、私がガンだってこと、知っていたの?」
「治療開始前に知った」
「坂本君も知っていたの?」
「この前、先生から話を聞いた。それで今日、高野さんのそばにいられたらと思ってここにいる」
「・・・そう。みんな知っていて、肝心の私だけ知らなかったんだ。そうだよね、多分みんなよりも早く死ぬから何も知らないほうが静かでいいもんね。知ったらこんな風にうるさくなるから、教えないほうが良いって考えるよね」
 私はガンという言葉を聞いたことで精神的に乱れていた。これまでだったら言わないであろうことを口走ったのだ。その様子に両親も坂本も驚いていたが、私の心を慮って坂本が言った。
「・・・高野さん。ガンと聞いて平然としている人はいない。僕もお父さんから聞いている。だから今の言葉、本心だとは思っていない。一時の感情が言わせたことだ。高野さんの本質は人を思いやれることだと信じている」
 坂本は私の両肩をしっかり掴み、私の目を見て言った。激高した私は肩に力が入っていたが、このことで力が抜け、気持ちも少し落ち着いた。
「・・・」
「さくら、黙っていて悪かった。俺たちは必要以上にお前に負担をかけないようにし、もし今の投薬だけで病状の進行が良くなったら、何も知らせず退院まで待つつもりだった。手術や放射線療法もあったが、まだ高校生の娘にできるだけ傷を付けたくない。そういう思いからの選択だった。先生やお母さんとも話し合った結果なんだ。この責任はお父さんにある。俺は高野家の家長だからな。みんなを守らなくてはならないんだ」
「・・・ふうん。だから私に黙っていたのか。私が子供だからって考えていたんだ。子供だから騙せるって・・・」
「違う。子供だからってことを未来がある存在、と考えていたんだ。娘の身体に傷を付けることを望む親がどこにいる。そうせずに、本当のことを告げなくても治るという可能性があるなら、心を苦しませずに治せるものなら、と考えるんだ。決してお前を幼いという意味の子供と考えて騙そうといるわけではない。そこは理解してほしい」
 父は私の方をまっすぐ見ていった。その様子に言葉が本心であることは分かったが、同時にガンという現実を知ったことで将来のことが心配になった。
「・・・先生。私、あとどれくらい生きられるんですか?」
「今、余命宣告するような段階ではありません。治療をすることで、元気に退院できるよう私も最大限の努力をします」
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