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滝修行 7
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姿を見ると颯玄は驚いた。
「何故ここに?」
「驚かなくていい。わしがサキさんを呼んでいた。お前が滝行に出かけた時、いろいろ話をした。今日のお前の話、久米の血を引いているならと予想していた。だからもし、その通りだったらどうすると、サキさんに尋ねていた。いつお前が帰るか分からなかったが、稽古もあるので毎日来るという。玄関で家内からお前が帰ったと聞いたのだろう。だからここにいる」
祖父は颯玄に言った。サキがここにいる理由は分かったが、話の席にいる疑問はそのままだ。
「稽古なら庭のほうで・・・」
颯玄が言いかけたが、祖父がその言葉を遮った。
「サキさんがお前を追いかけてわしのところにやってきたのは知っている。お前と一緒に空手を修行し、その実力はわしも認めている。しかし、入門以来サキさんは一言もお前のことについて言わなくなった。聞けば、お前の修行の邪魔になりたくないと言う。健気ではないか。だが、わしはお前がいつか今日言った考えを口にするだろうと予想していた。だからサキさんにもそのことを話していた。すると、その時は自分も一緒に行くという。2人とももう大人だ。自分のことは自分で決めなければならない。だからサキさんがお前に付いて行きたいというなら反対しない。サキさんの両親にもすでに話してある。後はお前の心次第だ」
目を丸くして聞いている颯玄。その様は組手でどんな良い攻撃をもらった時よりも驚いた表情だ。口の締まりもない。明らかに動揺しているのだ。戦いならばどんなに強い相手と争い、たとえ地を這うことになっても闘気は衰えない自信があった。しかし、これは話が違う。どう返事したら良いのか、頭の中が混乱してまとまらない。
「どうした颯玄。言葉が出ないのか。まあ、無理はない。サキさんとはいろいろ話していたが、お前には何も話していない。仮に話したとしても一蹴しただろう。だがお前は今、人生の一大転機の話をした。ならばサキさんが同じように自分のことを話しても悪くないだろう」
祖父はサキの味方のような感じで話していた。その様子は、同じ空間で1対2の状態で戦っているような感じだった。突き・蹴りが飛び交っているわけではないが、今、颯玄が感じている状態はそれ以上に攻め込まれている感覚だったのだ。
「颯玄、私はここに来てからただ一緒に稽古だけをしてきた。でも、私の気持ちは以前と変わらない。そしてそばにいたからこそ、余計に颯玄のことが分かった。だから何も言わなかった。というより、一生懸命に空手の稽古をする颯玄を見て何も言えなかったというのが本当だ。稽古に打ち込んでいる颯玄の邪魔にならないようにしてきた。でも、ここを離れるというのなら私もこれまで自分に課してきた禁を破る。・・・颯玄に付いて行く」
颯玄はここでサキの言葉が変わっていることに気付いた。これまで自分のことを「オレ」という男勝りの言葉を使っていたのに、今回は「私」になっていたのだ。この変化には違和感があったが、それは話しの本気度ということで颯玄の心に響いていた。
そこに祖父が口を挟んできた。
「颯玄、サキさんの話、少しは心に響いたか。お前にとって寝耳に水、といった感じがするかもしれない。でもサキさんはずっと考えていたけれど、お前のことを思って黙っていた。何も言わずにそばにいる、ということがどんなに辛いか分かるか? 空手しか頭にないお前には難しいかもしれないが、人間の心が分からないようであれば本当の武術家、空手家にはなれないとわしは思う。人としての心を備えてこそ武術の本質も分かる。空手の本質は相手を戦いで叩きのめすことではない。あくまで身を護るものだ。だからこそ、必要以上に叩きのめさない。相手にも人生がある。そういう意識はこれから武者修行に出た時にも大切になるが、目の前にいる人の心を慮るという感覚も身に付けなければならない。サキさんの話を全く違うことと考えるのではなく、相手の心を感じる、考えるという形を変えたこととして捉えたら良い」
「何故ここに?」
「驚かなくていい。わしがサキさんを呼んでいた。お前が滝行に出かけた時、いろいろ話をした。今日のお前の話、久米の血を引いているならと予想していた。だからもし、その通りだったらどうすると、サキさんに尋ねていた。いつお前が帰るか分からなかったが、稽古もあるので毎日来るという。玄関で家内からお前が帰ったと聞いたのだろう。だからここにいる」
祖父は颯玄に言った。サキがここにいる理由は分かったが、話の席にいる疑問はそのままだ。
「稽古なら庭のほうで・・・」
颯玄が言いかけたが、祖父がその言葉を遮った。
「サキさんがお前を追いかけてわしのところにやってきたのは知っている。お前と一緒に空手を修行し、その実力はわしも認めている。しかし、入門以来サキさんは一言もお前のことについて言わなくなった。聞けば、お前の修行の邪魔になりたくないと言う。健気ではないか。だが、わしはお前がいつか今日言った考えを口にするだろうと予想していた。だからサキさんにもそのことを話していた。すると、その時は自分も一緒に行くという。2人とももう大人だ。自分のことは自分で決めなければならない。だからサキさんがお前に付いて行きたいというなら反対しない。サキさんの両親にもすでに話してある。後はお前の心次第だ」
目を丸くして聞いている颯玄。その様は組手でどんな良い攻撃をもらった時よりも驚いた表情だ。口の締まりもない。明らかに動揺しているのだ。戦いならばどんなに強い相手と争い、たとえ地を這うことになっても闘気は衰えない自信があった。しかし、これは話が違う。どう返事したら良いのか、頭の中が混乱してまとまらない。
「どうした颯玄。言葉が出ないのか。まあ、無理はない。サキさんとはいろいろ話していたが、お前には何も話していない。仮に話したとしても一蹴しただろう。だがお前は今、人生の一大転機の話をした。ならばサキさんが同じように自分のことを話しても悪くないだろう」
祖父はサキの味方のような感じで話していた。その様子は、同じ空間で1対2の状態で戦っているような感じだった。突き・蹴りが飛び交っているわけではないが、今、颯玄が感じている状態はそれ以上に攻め込まれている感覚だったのだ。
「颯玄、私はここに来てからただ一緒に稽古だけをしてきた。でも、私の気持ちは以前と変わらない。そしてそばにいたからこそ、余計に颯玄のことが分かった。だから何も言わなかった。というより、一生懸命に空手の稽古をする颯玄を見て何も言えなかったというのが本当だ。稽古に打ち込んでいる颯玄の邪魔にならないようにしてきた。でも、ここを離れるというのなら私もこれまで自分に課してきた禁を破る。・・・颯玄に付いて行く」
颯玄はここでサキの言葉が変わっていることに気付いた。これまで自分のことを「オレ」という男勝りの言葉を使っていたのに、今回は「私」になっていたのだ。この変化には違和感があったが、それは話しの本気度ということで颯玄の心に響いていた。
そこに祖父が口を挟んできた。
「颯玄、サキさんの話、少しは心に響いたか。お前にとって寝耳に水、といった感じがするかもしれない。でもサキさんはずっと考えていたけれど、お前のことを思って黙っていた。何も言わずにそばにいる、ということがどんなに辛いか分かるか? 空手しか頭にないお前には難しいかもしれないが、人間の心が分からないようであれば本当の武術家、空手家にはなれないとわしは思う。人としての心を備えてこそ武術の本質も分かる。空手の本質は相手を戦いで叩きのめすことではない。あくまで身を護るものだ。だからこそ、必要以上に叩きのめさない。相手にも人生がある。そういう意識はこれから武者修行に出た時にも大切になるが、目の前にいる人の心を慮るという感覚も身に付けなければならない。サキさんの話を全く違うことと考えるのではなく、相手の心を感じる、考えるという形を変えたこととして捉えたら良い」
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