追放されし老学園長の若返り再教育譚 ~元学園長ですが一生徒として自分が創立した魔法学園に入学します~

カイシャイン36

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老学園長、若返る

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「旦那ぁ大変ですね」


 魔法学園都市の片隅にある小さな木造の薬屋「ブラウン雑貨商店」。

 砂埃で汚れた窓から差し込む光は青や赤、緑色のポーションに反射しステンドグラスの中を揺蕩っているかのようだ。

 商品棚と思わしき一角にはポーションや毒消し、調合器具や生活雑貨などが所狭しと並んでいる。

 一つ一つの物は良いのだが客足は乏しい。

 理由は明白だ、廃墟と間違えても不思議ではない門構えと――


「心中お察ししますよぉ、えっへっへ」


 この胡散臭い女店主のせいである。

 瓶からこぼれた錠剤が散乱し、すり鉢の中には調合中の木の根が粉になっている。

 作りかけなのだろうか、潰した手の薬草が放つ青い臭いがニコライの鼻をつく、客が嗅いだら購買意欲が一気に削がれるだろう。

 胡散臭い薬品に囲まれた女店主――オードリー=ブラウンは机に身を乗り出し笑っていた。
 赤みがかった茶髪のくせ毛が目元を隠すで目の奥が見えず何とも不気味だ。常に口元がにんまり笑っているのが余計拍車をかける。

 バラの刺繍が入った黒いとんがり帽子を身につけ、袖を絞ったブラウスの上に金の刺繍が入ったローブを羽織っていた。

 うらぶれた雑貨屋に似つかわしくない意匠の服、この羽振りの良さが胡散臭をさらに加速させていた。


「日陰者の私には縁遠いことですが、偉い人ってのは大変ですねぇ」


 彼女はニヤニヤしながら作った薬剤を瓶に詰めていた。

 ニコライは出されたお茶を口にすることなくオードリーの顔を怪訝そうに見やった。


「大変? 何のことかわからないなぁ」
「とぼけたって無駄ですよ。こっちには筒抜けなんですからね」


 ニヤニヤしながら彼女は「すべて知ってます」という感じでニコライに笑いかけてきた。

 彼は小さく嘆息を一つこぼすと観念したかのように白状した。


「もう君に伝わったのか、私の学園長解任の知らせは」
「こっちも商売なんでね。雑貨屋ってのは何も現物だけが商品とは限らないんですよ」
「あぁ、そうだった、君は情報屋の一面もあるんだったな」
「どっちかっつーとそっちの方が儲かってるんですよぉ。棚も圧迫しないし在庫も気にしなくていいし」


 迂闊に色々喋れないなとヒゲを撫でるニコライだった。


「で、何の用事だい? まさか慰めの言葉を売ってくれるというのかな? 明日から無職の老人から金をせびるのは非人道的とは思わないかい?」
「無職の老人!? 何をおっしゃいます、近代魔法の始祖と呼ばれる貴方ともあろうお方が」
「褒めすぎさ」
「もう何年も王国貢献度ランキングは上位をキープしているではないですか?」
「一部からは老害と揶揄されているけどね」
「あなたの凄さを知らない連中が自分の無知をひけらかしているだけですよ。そいつらも貴方が作った魔法伝達装置を使って電話したり車に乗ったり……滑稽だと思いませんか?」
「ずいぶんと褒めてくれるね」
「……一介の研究者として当然です」


 そうって彼女、私に敬意を払ってくれる。

 オードリー=ブラウン。

 魔法学園都市の情報屋にして魔術研究者。

 ずば抜けた発想力と技術力を用いて様々なアイテムを次々に開発する……要注意人物である。

 彼女の「ずば抜けた発想力」というのが非常に厄介で、しばしば常識や倫理観というものが欠如した研究や発明を次々に実行し「歴史に名を残すのが先か犯罪者として新聞に載るのが先か」なんて賭けの対象にまでされている。ちなみにニコライは捕まる方に賭けているとのこと。

 彼女は不気味な笑みを絶やさずにニコライの顔を見やっている。


「聡明な貴方のことです、わざと追放されたんでしょ。バルザック=モグロに痛い目を見てもらうために……合ってますか? それとも違いますか? 合っていたら褒美としてニコライさんの体を下さい、違っていたら私の体を好きにしていいですから」


 どっちも御免被るとニコライは言及せずに会話を続けた。


「そこまで分かっているなら、いったいどんな用件なんだい?」


 彼女は一拍おくとニンマリと笑ってみせた。



「一回、死んでもらえません? ニコライさん」



 冗談とも本気ともとれない声音。

 ニコライはオードリーの突拍子もない台詞に慣れているのかサラリと返事を返す。


「断るよ、人生一回死んだら終わりだからね」
「いや、本気ですよ」


 彼女は表情を崩すことなく本気であると告げてくる。

 オードリーは意味なく冗談を言うタイプではないと知っているニコライは机に身を乗り出し問い詰めた。


「オードリー君、ハッキリ言いたまえ」
「気になりますかぁ」
「あいにくまだ死ぬ予定はないんだよね。少しのんびりしながらバルザック君の動向を探り、不穏分子を一斉排除するつもりだ」
「そして学園に手を出す貴族連中に「わからせる」といったところでしょうかね」
「そこまで分かっていながら「死ね」なんて、何か別の意図があるのかな?」


 彼女はごまかすように手元にあったポーションをチャプチャプ揺らし、悪い笑みを浮かべてこう言った。


「相変わらず勘が鋭いですねぇ、そうなんですよ良い商品がありまして、ちょっと人体実験に付き合ってもらえませんかね……という相談なんですが」
「人体実験ねぇ、ちょっとは余暇をのんびりしたいんだけどな」
「そのあとバルザック氏の調査でございましょう? 微力ながらお手伝いをさせて欲しいのですよ、コレで」


 そう言いながら彼女は謎の薬を目の前に差しだした。

 おどろおどろしい血にも似た色合いのポーション。毒々しい雰囲気と浮かんでいる気泡を見てニコライは片眉を上げた。


「コレが私に役立つとでも言うのかい?」
「そうなんですよ、何だと思いますこのポーション」
「毒にしか思えないが」


 オードリーは楽しそうにポーションの正体を教えてきた。


「これはね、若返りの薬でございます」


 突拍子もない一言にニコライは動揺を隠せないでいた。

 その反応をを見たかったオードリーはニコライの顔をじっくり覗き込み「若返りの薬でございます」と、再度念押しする。


「まさか……ね」
「飲めばたちまち全盛期の頃の若さに戻せる。そういう代物ですよ」
「……本当なのか?」
「ええは実験に実験を重ねまして、ただまあ人間には使ってないのでね。魔法抵抗力のあるニコライさんだったらば大きな障害は負わないと思いますけれども」


 ずいぶんと物騒な単語が飛び込んでくるが、自身も研究者の面を持つニコライは「なるほどね」と納得してみせた。


「僕なら比較的安全だろうね」
「ちなみに効果は三年ほどでございます。多分ニコライさんが飲んだら十五、十六ぐらいの年齢になるんじゃないでしょうかね。一度死んで、神童と呼ばれたあの頃に戻ってみたくありません?」
「効果は三年間、本当なんだね?」
「ええ、もちろんでございます……マウス実験ではですが」ボソリ。


 その小声が聞こえたかはわからないがニコライはアゴに手を当てて考えこむ。


(三年間……今から入学して丁度卒業。バルザックの学園長として動向を生徒として間近で見ることができる)
「その通りでございます」


 心を読んだかのようなオードリーにニコライも苦笑いだ。


「ついでに他の教師の仕事ぶりも生徒目線で見れますよ。学生の身分で自分が創立した学園を支えるというのもまた一興でしょう。違う角度から見れば新しい物も見える、そうは思いませんかね?」
「なるほどな」


 用意したかのような台詞だが当を得ているとニコライは頷いた。
 オードリーはニコライの心を見透かしたようにニヤニヤ笑っている。


「根回しだけじゃ足りないと思っていた所でしょう? ね、悪い話じゃございませんよ」
「……ただ三年も姿をくらますことになると家のことが心配だな。王国に資産が没収されることになったら泣くぞ」
「その辺はお任せ下さい、こう見えても国に顔効くんでぇ」


 妙に手回しが良いことは気にかかるがニコライは「悪くない」と考えた。

 自分が動いたらバルザックも警戒するだろう。ならば若返り、いっそ別人として調査した方が都合がいいのではないか。

 ――邪魔もされず、気分転換にもなる。

 ニコライが中の頭の中にそんな青写真を浮かべていると、オードリーはさっそく薬を飲むように薦めてきた。深くは考えさせない……といったところか。


「覚悟はできましたか? 他に何か質問でも?」
「いや、この薬がマズそうなのが気がかりなだけさ」
「ご安心下さい、貴方の大好きなレッドアイ風味ですよ」
「……至れり尽くせりだ」


 用意周到なのが気がかりだが、研究者気質でもあるニコライは好奇心に勝てず「ものは試し」とオードリーの薦めた薬を飲むことにした。

 ゴキュゴキュ……ゴキュ……

 勢いよく飲もうとしたようだが味が合わないのかすぐに眉間にしわを寄せる。


「……まず! どこがレッドアイだ、ビールもトマトの風味も感じられな――」


 味に文句を言いながらニコライはその姿勢のまま卒倒。

 気を失った彼が最後に見たのはにこにこ笑うオードリーの姿だった。







 
 目を覚ますとニコライは自分の体が縮まっているのがわかった。

 成長痛にも似た痛みが全身に広がっている。

 だが不思議と嫌な痛みではない。

 若々しく漲った肉体が「動きたい」と声を上げているような心地良い痛みだ。

 ベッドに預けた背中や動かした指先からも明かな違いを感じ、彼は沸き上がる好奇心を胸に起き上がる。


「こ、これは」


 窓に映る自分の顔を見たニコライは目を丸くして驚いた。

 白髪交じりで髭を蓄えていた容貌から一変、黒髪の若々しい姿。

 あの頃、神童などと呼ばれていた十代の姿だった。

 ニコライはベッドから降りるとゆっくり歩き出す。

 何日間も動かしていなかったからだろうか、寒い冬の日に外から帰ってきた時のようなかじかんだ痒みが彼の身体のいたるところに生じる。


(何時間寝ていたんだ? っと、まずベッドに運んでくれたオードリーに感謝しないと)


 まだボーっとする頭をコツコツ叩きながらニコライは部屋を出る。


(夕方に雑貨屋に来て今太陽が昇っているのを見ると一晩過ごしたことになるな)


 「まいったな」とニコライは呟いた。


「まあ、捜索願いを出されるような歳じゃないか、一度ローズ君辺りに説明したらよかった……いや、オードリー君の家で一晩過ごしたとなると何言われるかわからんな」


 なんて後悔をしているニコライの前にオードリーが現れた。


「おぉ、オードリーく……ん?」


 彼女の様子は昨日と少し変わっていた。

 どことなく大人びた雰囲気……服装も雰囲気も趣味が変わったオードリーは彼の顔を見てちょっと驚くニコライ。


「あぁ! お久しぶりです旦那」

「久しぶり?」


 気になったニコライは何日寝ていたのかオードリーにを訊ねてみる。


「そんなに寝ていたのか? 一体どのくらいだ?」
「あいや、それは」


 言葉を濁すオードリー。

 彼女らしからぬ曖昧な態度にニコライは怪訝な表情だ。

 オードリーはゆっくり指を三本立てた。

 様子を見るに三時間ではないと察する。


「まさか三日か? そんなにも寝ているは……捜索願いが出されているかもしれないな」


 困った素振りを見せるニコライに、オードリーは未だバツの悪い顔をしていた。


「あいや、その――」
「さ、三週間か?」


 首を振った後、意を決した彼女は途切れ途切れの言葉で切り出した。


「あの、三年……です」
「はあ!?」


 想定外の月日が流れていたことに、さすがのニコライも素っ頓狂な声を上げるのだった。








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