売れない作家の俺がダンジョンで顔も知らない女編集長を助けた結果

カイシャイン36

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売れない作家、顔も知らない編集長に振り回される

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「あぁ、しんどいなぁ」


 あの大立ち回りを終えて以来、俺には気が重くてしょうがないことばかりが起き、ついつい愚痴が止まらない。

 まず「伝説の盾男」の噂が広まり一種のブームが起きていた。

 あの戦闘動画の無断転載は当たり前、考察動画に捜索動画、「盾だけでどこまで潜れるか」なんて検証動画も上げられる始末。

 それらは軒並み万近い再生数を叩き出しており……美波のアップした動画の方なんて二百万再生を突破していた。


「俺も撮られているのを忘れてちょっと派手にやりすぎたもんな……」


 それもこれも姪っ子の美波とダンジョンで出会う系小説を書けと要望した編集長が悪い。

 と、責任転換し心の安寧を得る日々だ。

 ムーッ……ムーッ……

 おっと、その編集長からのメールだ。何故か松尾さんと戦ったあの日以来、良くて一ヶ月に一度のやり取りが三日に一度くらい頻度が跳ね上がっている。


「嬉しい限りだけどやる気のムラッ気はちょっと困るんだよな」


 と、言いつつ来たメールに目を通す。

 そこには――


「プロットの設定変更!? ダンジョンのガールミーツボーイ物!? 女性主人公に変更して……えぇ? 人気配信主の主人公が王子様に助けられてそこから恋が芽生える……俺のプロットの原型ないじゃんか」


 えっ? 何でここまで指定してくるの? 急にどうした?

 塩対応からの落差に風邪を引いてしまいそうになる俺。ていうか乗り気すぎて変な悪寒が背筋を走るんだけど。


「っていうかこれ編集長の願望かよ?」


 全部読み終え呆れる俺。

 ここまで細かくプロット指示するなら「自分で書けや」と言いたくなるが……


「書いて欲しい言われると悪い気がしないのが作家の性だよなぁ」


 まぁ俺の書きたい、ライバルと戦って熱を取り戻した部分は残っているし良しとするか。


「でも、なんでここまで前向きになったかわかんねぇな」


 担当していた作家が飛んだとか? そんな感じでもないし……まぁ大学飛び級するレベルの天才様の考えは分からないぜ。

 編集長の変節ぶりに不気味さを覚えるが……もう一つ、こっちの方が問題だ。

 それは――



「ういっす、やってるかい? 「伝説」さんよぉ」
「……」


 喫茶店作業をしている俺の席に、肩で風切る美波がやってきた。

 店内に現れた彼女の態度はまるで芸能人。サングラスなんか掛けちゃって、実に分かりやすく調子に乗っていた。


「どうした、湿気たツラして、「伝説」がよぉ」
「その往年のヤンキー漫画みたいな喋り方やめてくれよ、あと何だそのサングラス」
「ツッコミ遅いぞ~カイ兄。グラサンはほら、自分が眩しくてさ」
「はぁ」
「オイオイ、ツッコんでよ~、職務放棄?」
「……俺の仕事は作家なんだよ」


 俺の返答に美波は痛いことを言い出す。


「最近本出せてないに作家なのかね?」
「こんにゃろ」
「おう、ちょっと言い過ぎた、メンゴメンゴ」


 姪の軽口は慣れたものだが……今日の美波はいつにもまして饒舌だ。まぁ、理由は明確なんだけどさ。

 俺は苦笑い一つして、姪に対してこう言った。


「で、いくら儲けたんだ、あの動画」
「今の所このグラサンを二、三十個買えるかな?」


 分かりにくいが相当儲けているようだ。

 美波は足を組むと「にゃはは」と笑ってる。


「いや、まさかあんな広告料入ってくるなんてね、ほら見てみ」
「……」


 俺は絶句した、俺の本一冊分を遙かに超えた金額だった。


「マジかよ、俺なんて担当とあーだこうだ言って半年近く同じ文章こねくり回してやっと世に出した印税を一日で超えるとか……おっと」


 心の中の闇が漏れ始めるのを自制する、危ない危ない。

 とまぁ一日で富と名声を手に入れた美波はしっかり調子に乗っていた。この様子じゃ学校でも相当ちやほやされたんだろうな。

 一応俺は姪っ子に釘を刺す。


「なぁ美波、俺のことは……」
「大丈夫、大丈夫、安心してよ。こういうのはね、バラさないから意味があるんだよ。神秘性ってヤツ? カイ兄は作家だし分かるでしょう」


 意外に考えていると舌を巻く。俺も作家だから情報を伏せて気を引く手法はよく分かる。

 したたかな姪っ子は足を組み直してニヤニヤ笑っている。


「現生入ったおかげでお母さんもお父さんも配信者やることにオッケーを出してくれたし、これから本格的に頑張るよん」


 ダブルピースの美波……姉貴夫婦はちゃっかりしているなぁ。

 そんな彼女は机に身を乗り出しこっちを覗きこんできた……何だか嫌な予感が。


「で、こっちが本題なんだけど、週末空いてるよね?」
「まあ、空いてるっちゃ空いてるけど……なんで暇人確定みたいな言い方するんだ?」
「色々時間に融通付けられるのがカイ兄の強みじゃん。だから土日空いているよね、よしOK」
「待て待て、急に何の用事があるんだよ」
「え? ハルルとのコラボ」
「はぁ!?」
「有名配信者とのコラボだよ! 私が受けてカイ兄が友情出演って感じ? みんな気になってんだから、盾のみで相手を制圧した伝説、再生数また稼げちゃうかな~」


 ダメだコイツ、すっかり再生数の虜になってやがる。

 美波は「うへへ」と笑うと早速メールを打ち始めている。


「ハルルさんにオッケーのメール打っとくね~」
「こいつ、いつの間にハルルさんと……」


 さすがのコミュ強、俺とは大違いだ……っと感心している場合じゃ無い。


「あのなぁ美波……俺、久しぶりに本出せそうなんだよ」
「送信終わりっと! ……え? そうなの? あの偏屈編集長、ようやく話を聞いてくれたの?」
「覚えていたのか……だからさ、まったく忙しくないわけじゃないんだ」


 ムーッ……ムーッ……

 そのタイミングでこれの携帯が震える。


「おっと噂をすれば編集長だ――」



<忙しくなったので、書籍化の件は当分先でお願いします>



 たった一文、これだけが送られ俺は固まるしか無い。


「余裕、出来たわ」
「ど、ドンマイ……すっごいね、偏屈編集長」


 ほんと何だ? やる気が出たかと思ったら急に忙しくなったって企画凍結して……


「だ、出さないって言っているわけじゃないから」


 姪っ子に慰められる俺。涙目の俺にサングラスを掛けてくれる……情けないなぁ。


「ま、まぁ、この隙に本文完成させちって編集長の鼻を空かしてやれって神様のお達しか……おっと?」


 今度は美波のスマホが震える。


「ねぇ見て見て、ハルルさんからすぐメール来たよ」


 美波のこっちにスマホ画面を見てきた。



件名<ご連絡ありがとうございます>

 暖かいお返事ありがとうございます。なにぶん初コラボゆえ拙い部分があるかも知れませんが何卒よろしくお願いします。
 つきましてはダンジョン慣れしているカイ兄さんにもお手伝いいただいて今後末永くお付き合いさせていただければと思い――



「この差よ」


 編集長の塩対応の後に熱意ある文章……つい俺はぼやいてしまう。

 執筆作業があるから断ろうと思ってたけれども、この熱量に俺の顔はほころんだ。


「でもまあ」


 俺は温くなったアイスコーヒーに口をつけ考える。


(編集さんが求めているのが、ダンジョン出合い系だとしたら、取材も兼ねて潜るのも悪くないんじゃないかな?)


 昔は出会いなんてあり得ない空気だったんだけどね、殺伐としていて。円佳とそんな感じには絶対にならなかったし。



「へくちょん!」
「主任!?」
「……いえ、なんでもありません」


「取材がてら付き合うぜ」
「お、いいね、カイ兄も再生数の魅力に取りつかれるがよい! 一緒に小銭稼ごう!」
「まったく……姉貴と仲良くやれている理由がよくわかるぜ」


 ていうかだんだん似てきてないかコイツ? 

 くだらない事を考えている最中、俺はハルルさんに対しふとした疑問を抱く。


「ところでハルルさんって返事早いけど、普段何やってる人なんだ?」
「うーん、それは知らないけれども、何だか飛び級の天才だったとか聞いたね」
「そうか、20歳そこそこに見えるけれども働いているかも知れないのか」


 だとしたら自営業か何かか? しかし……


(飛び級かぁ、うちの編集長も海外の大学飛び級で卒業したって聞くし、意外にいるんだな、そんな人)


 まぁいいか、あまり目立つのは好きではないが、編集長に振り回されているストレスを解消するのも悪くない。

 そんなこんなで、俺はコラボ撮影を受けることにしたのだった。


※次回は12/17 18:00更新予定です

 ブクマ・評価などをいただけますととっても嬉しいです。励みになります。

 皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。 

 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。


 この作品の他にも多数エッセイや


・追放されし老学園長の若返り再教育譚 ~元学園長ですが一生徒として自分が創立した魔法学園に入学します~

・売れない作家の俺がダンジョンで顔も知らない女編集長を助けた結果

・「俺ごとやれ!」魔王と共に封印された騎士ですが、1000年経つ頃にはすっかり仲良くなりまして今では最高の相棒です

 という作品も投稿しております。

 興味がございましたらぜひ!
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