異世界経営術!現代知識で無双したら、毎回破滅フラグが立つ

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第60章「天空城で爆死!? 羽ばたく夢は落下の果て」

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 「地上を開発し尽くしたと思うなよ。まだ空の上が残っているだろ? いままでの飛行船や浮遊島なんか小規模に過ぎない。だったら、もっと大きな“天空城”を建設しちまえば、観光から防衛まで何でも利用できるはずだ!」



 黒峰銭丸は王都を見下ろす高台で、天を仰ぐように腕を広げて力説していた。足元で資料を広げる水無瀬ひかりは、いつものように深いため息をつく。空を舞う開発プロジェクトといえば過去に散々な失敗をしてきたはずなのに、懲りずにさらに規模を拡大しようという彼の野心は止まらないようだ。

 「天空城って、そんな簡単に建てられるものなんですか? 飛行船や小さな浮遊島は見たことがあるけど、一国の街みたいに広大な城を空に浮かせるなんて、魔力も資金もとんでもない量が必要では……」

 「だからこそ価値があるんだよ。地上には限界があるが、空はまだ手つかずだ。飛行船よりもはるかにデカい基盤を魔導石で支える。そこに城や街区を建てれば、誰もが行きたがる『天空リゾート』になる。しかもいざというときは防衛拠点にもなる。儲けと安全を両立させる最高の計画さ!」

 ひかりの表情は曇ったままで、「どうせまた爆死にならない?」と無言のまま考えているようだったが、銭丸の熱意に押し切られる形で、プロジェクト準備が始まっていった。



 王都近郊の広大な敷地では、まず“浮遊基盤”となる巨大な土台を地上で組み立てる作業が行われる。無数の魔導石が仕込まれた鉄骨パネルをつなぎ合わせ、“浮遊陣”と呼ばれる膨大な魔方陣を組み込むことで、広い面積を一挙に宙へと持ち上げるという仕掛けだ。メルティナが魔導技術部門をまとめ、バルドが資材と警備の指揮を執り、ひかりが財務を管理しながら書類を整える。銭丸は出資者をさらに引き込み、大々的に「天空城プロジェクト」を宣伝していた。

 建築工事は困難を極めた。揺らぎのない大きな“プレート”を作るために多数の結界と補強パネルが要り、メルティナは毎日徹夜で魔力バランスを計算。想定外に魔導石の消費量が大きく、調達コストが跳ね上がるたび、ひかりは苦い顔をする。だが、銭丸は「こんなところで止まれない」とさらに投資を募り、ビル建築や城郭デザインも拡張していく。工事現場には作業員がひしめき、毎日が戦場のような喧騒だった。

 「そろそろ浮かせてみるか?」
 工期が半ばを過ぎたころ、銭丸が軽い調子で言い出した時、メルティナやバルドはぎょっとする。まだ城全体は完成していないのに、浮遊させるとなると大事故のリスクが高いからだ。しかし銭丸は「試験浮上なしで本番やって失敗するほうが怖いだろ?」と押し切り、ついに“基盤の仮浮上テスト”が行われることになった。



 工事現場の大広間で魔導エンジンが唸り、練り込まれた無数の魔導石が一斉に光を放つ。すると巨大な基盤がじわりと浮き始め、ゆっくりと地上を離れていく。最初は数メートル程度だったが、その光景だけでも作業員の歓声が沸き、「本当に浮いた!」「これなら大成功かも!」と興奮が広がった。銭丸も「見ろよ、夢じゃないだろ?」と胸を張って笑みを浮かべる。

 だが、魔力の消費量が凄まじいため長くは浮かせておけず、すぐに再び地上へ降ろす形となった。メルティナが「本番ではこれの何倍もの重量を支えなきゃならないのに、今の魔石消費量でもギリギリなんて……」と危惧を口にするが、銭丸は「大量の追加魔石を仕入れれば何とかなる」と楽観する。さらに、バルドたちに安定装置や補助フロートを増やす追加工事を指示し、より強力な浮力とバリアを組み込ませることにした。

 工事終盤、城の外壁や内部施設を組み立てる段階になると、予算と資材がどんどん膨張し、ひかりが管理する帳簿は赤字の山だった。「こんなに投資して、本当に稼げるのかしら……?」と呟く彼女に対し、銭丸は「天空城は完成すれば世界で唯一無二だ。観光客が押し寄せて借金なんてすぐ返せるさ」と無理な自信を見せ、さらに貸し付けを繰り返してしまう。



 ようやく“天空城リゾート”が形を成し、試験的に再浮上させて安定した浮遊を確認したあと、グランドオープンの日が決定する。広大な城内には観光客向けの宿泊施設やレストラン、展望台が設けられ、浮遊庭園には精霊の花々が咲き、魔導ランプが夕暮れを彩る構想だった。地上からは大型の飛行船やゴンドラで乗客を運び、城に着くと空の上から遠くの山々や雲を見下ろせるという夢のような観光が可能になる……はずだった。

 オープン初日はまさにお祭り騒ぎ。王都や近隣の国々から多数の貴族や商人、冒険者などが駆けつけ、「空中で一泊してみたい」とゴンドラに行列を作る。天空城はゆったりと高度を保ち、広々とした城内のライトアップが雲間に映える。あちこちで感嘆の声が上がり、「すごい、本当に空に浮いてる!」と大勢が驚嘆していた。

 「ほら、やっぱり成功だろ? 地上とは比べ物にならない絶景だ」
 銭丸が彼らの歓声を耳にしながら鼻を鳴らすと、ひかりは半信半疑ながらも「これだけ盛り上がれば回収できるのかも……」とつぶやく。少なくともその瞬間は、天空城は順調に見えた。



 ところが、いざ運営を続けてみると、“浮遊石の魔力消費”が凄まじいペースで増大していく問題が表面化する。これは、観光客が多く乗れば乗るほど重量が増し、城の維持にさらに魔力が必要になるからだ。メルティナが「もっと魔石を追加補給しないと落下の危険がある」と口を酸っぱくして言うが、銭丸は「魔石の仕入れコストが急騰してるんだ。そんなにポンポン買えない」と頭を抱える。
 さらに天候の悪化が続いたり、強風が吹いて城が揺れたりすると、バリアや浮遊が不安定になり、観光客から「酔う」「酔う」「怖い」と苦情が来る。バルドが安全対策を何度も繰り返すが、一時的な対応でしかなく、根本的な解決には至らない。

 加えて、城内の上下水設備や物流経路も複雑化し、地上と空を行き来するのに時間がかかるなど、生活や業務の面でも不便が続出。高コスト構造の割に売上が伸び悩み、ひかりの帳簿には再び借金の嵐が吹き荒れる形になってきた。



 とはいえ、一番の凶兆は、“浮遊石の臨界負荷”が近いかもしれないとメルティナが感づいた時に始まる。何度かメンテナンスで石を入れ替えても、「あまりに重量が増えすぎて、石が本来の耐久限界を超えつつある」とのデータが出るのだ。観光客が多く宿泊したり、城内に大荷物を運んだりすれば、その分だけ浮力を維持する魔力が必要になり、石の負担は跳ね上がる。

 「このまま客が増え続けると、石がオーバーロードしてパニックになりますよ。一時的に定員を制限したほうがいい」
 バルドやメルティナが進言しても、銭丸は「客を絞ったら稼げないだろ?」と突っぱねる。そしていよいよ迎えたある夜、突発的な悪天候が城を襲い、強風と雷がまるで天空城を攻撃するかのように吹き荒れた。雲間に稲光が閃き、大気の乱れが城の安定回路にも影響を与える。

 魔導バリアが風で削られ、雨が容赦なく落ち、浮遊石が強力に魔力を消費。メルティナが叫ぶ。「石が臨界点を超えそうです! このままだと……!」
 バルドが乗客を避難させようとするが、雷雨が激しく、飛行船やゴンドラの運行も不安定。城全体が揺れているので、客たちは悲鳴を上げて館内を動き回り、大混乱に陥る。銭丸は「落ち着いて!」と放送設備で呼びかけるが、誰もが足元の振動に恐怖を感じており、とても指示を聞いていられない。



 強風が城壁を打ちつけ、外壁の一部が剥がれて飛ばされたり、窓ガラスが割れたりと被害が拡大する。さらに雷が魔導バリアの発生塔に直撃し、塔が半壊。浮遊石制御の一部が緊急停止してしまう。城に振動が走り、メルティナが警告する。「あと数分で浮力が持たない……落下する恐れが!」
 「何だって……? じゃあ予備の魔石を入れろ!」と銭丸が叫ぶが、「こんな嵐の中で交換なんて無理だし、そもそも量が足りない!」と返される。

 その瞬間、城の底部にある主力の浮遊石がついに限界を迎え、一斉にヒビ割れが走る。中央の魔導炉が暴走し、火花を散らしながら制御を拒み、城全体が急降下を始める。ゴンドラや飛行船で逃げようとしていた客たちが悲鳴をあげ、バルドがなんとか守ろうとするが、間に合わない者も多い。銭丸も建物の梁にしがみつきながらやっとのことで叫ぶ。

 「くそっ、こんな最期になるなんて! 止まれ……止まれえええっ!」



 しかし大きな揺れと轟音のなかで、天空城がもはや激しい落下を止める術はない。城内の床が傾き、家具や設備が滑り落ち、外壁が千々に砕けて空中に散りばめられる。夜空を背景に、血のように赤い魔導光が走り、最後にはいつものお決まりともいえる銭丸の絶望の叫びがこだまする。

 「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。天空城は……爆死ッ……!!」

 直後、建物に満載された魔力やバリア装置が次々に誘爆し、大気中で巨大な火柱が生まれ、瓦礫と人々が地上へめがけて降り注ぐ。城の本体がまるで巨大な隕石のように落下し、地面に衝突した地点では凄まじい衝撃波が走って土煙と炎が広がる。空を彩っていたはずの美しい城は、わずか一夜の嵐で破滅へと突き落とされたのだ。



 翌朝、落下地点には瓦礫の山が積み上がっていた。かつて城だったものは形すらわからないほど砕け散り、魔力の名残りで焦げついた跡がそこかしこに広がる。大勢の乗客や作業員が行方不明になり、生存者も重傷を負って茫然自失のまま。「あれほど豪華だった天空城が一夜で……」と誰もが言葉をなくす。
 銭丸の姿は一切見当たらず、あれだけの高さから落ちてきたのなら無事なわけがない、とほとんどの人が思う。だが、これまで幾度となく彼は“爆死”から復活してきたというジンクスがあるため、皆が「まさかまた……」と苦い顔をするのも確かだった。
 こうして、“空に浮かぶ城”という壮大な構想は、ほんの数日から数週間の夢でしかなかった。観光客が賑わったのも束の間、最後は大墜落という破滅の光景とともに瓦礫を積み上げ、銭丸の野望はまたもや打ち砕かれる――そのあまりに悲劇的な末路に、人々は「やっぱりあの男にかかわると爆死しかない」と呆れるばかりだ。空を掴もうとした彼の夢は、地に落ちた炎の塵となって消え去ったのである。
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