異世界経営術!現代知識で無双したら、毎回破滅フラグが立つ

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第68章「幻影迷宮で爆死!? 虚ろなる深層の果て」

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 「海や空、それに森や深海まで散々手を出してきたけど、まだ“幻の迷宮”って分野を本格的に攻略してないよな? 聞くところによると、《幻影迷宮》と呼ばれる不思議な地下空間があるらしいじゃないか。そこを観光地化すれば、スリルを求める冒険者や貴族が大挙して押し寄せるに決まってる!」



 黒峰銭丸は、王都の冒険者ギルドで古い地図を広げながらいつもの大声で豪語した。周囲にはいつもの仲間、水無瀬ひかり、バルド、メルティナらが顔をそろえている。これまで何度も大規模な開発事業を打ち立てては、最後に爆発や崩壊とともに散ってきた彼である。仲間たちは「また始まるのか……」とげんなりしつつも、無理やり巻き込まれるのはいつもの流れだ。

 「幻影迷宮って、強烈な幻覚や罠があるうえ、何かしら精神に干渉してくるような魔力の歪みがあるって聞きますけど……。そんな場所を観光客向けに開放したら、事故どころじゃ済まない気がします」
 ひかりが書類をめくりながら不安を口にするが、銭丸は「そこが逆にウケるのさ。危険を求める冒険者や金持ちの貴族は多いし、ド派手な迷宮ツアーを整備すればバカ売れ間違いない。もう爆死の心配なんて時代遅れだろ?」と大きく笑う。いつものように“爆死”の懸念を真面目に取り合う気はなさそうだ。



 こうして、「幻影迷宮を観光地化するプロジェクト」が動き出す。場所は王都からさらに山脈を越えた僻地にあるとされ、自然発生したダンジョンが“精神干渉型”の特性を持ち、古の儀式場が埋まっているらしい。魔導研究所が危険すぎると封印を検討していた場所だが、銭丸はギルドの渉外力と出資者の意向を使い、「封印ではなく観光資源にする」と押し通す形になった。
 バルドが迷宮内の警備隊や案内隊をまとめ、メルティナが迷宮そのものの調査と安全策を担う。ひかりは資金や契約を再び一手に抱え、「前にも似たような迷宮系で爆死したような……」とぼやくが、銭丸は「たかが迷宮観光で死ぬはずない」とまったく意に介さない。

 最初の難題は“幻覚と精神攻撃”への対策だ。メルティナが精神護符や耐性ポーションを配布し、できる限り迷宮内での錯乱を防ごうとする。だが、すべての観光客がそれをきちんと使うとは限らないし、そもそもどれほどの効果があるかは未知数だ。
 さらに迷宮には空間が歪んでいる箇所があり、踏み込むと方向感覚を失ったり、過去や未来の幻影を見たりという話が伝わっている。バルドが少人数の探索隊を編成し、試験的に進入して安全ルートを設定しようとするが、そこでもいきなり記憶錯乱や怪しい罠の連鎖に悩まされ、何日かかかってやっと出てくるほどの難易度だった。



 しかし、銭丸はそれを逆手に取り、「危険だからこそスリル満点だ。安全ルートを最低限確保して、あとは案内ツアーを作ればいい」と商魂を燃やす。実際に、最深部まで冒険した者はほぼいないらしく、“深層の宝”だとか“幻の魔法書”だとかの伝説がゴロゴロあると謳われている。こうしたロマンをエサに、宣伝すれば冒険者や貴族が大挙してやってくるという読みだ。
 バルドたちが血と汗を流しながら迷宮内の一部を安全化して、道案内用の魔導ランプを設置し、強力な罠や魔物を排除する。しかし、混沌とした魔力のせいで何度もトラブルが起き、作業員が幻覚に囚われて失踪する事件が後を絶たない。それでも銭丸は「いつものことだろ、ちょっと困難があったほうが客は燃える」と強引に工事を進める。

 さらに厄介なのが、迷宮奥部に眠るらしい“古代儀式場”。メルティナが調査したところ、何か大掛かりな精神儀式が行われた痕跡があり、多数の呪文陣や祭器が朽ちた状態で埋まっている。専門家によれば、これを下手にいじると強烈な怨念が呼び覚まされる危険があるというが、銭丸は「そんなのオカルトだろ? むしろ観光客が喜ぶ」と意に介さない。



 こうして危なっかしい下準備を経て、迷宮観光ツアーがついにオープンする。王都の好奇心旺盛な貴族やギルド関係者が「新たな迷宮リゾート?」と色めき立ち、ぞろぞろと山奥の施設を訪れる形になった。施設の入口にはチケットカウンターや警備所が設けられ、客には精神護符や簡易マップが配布される。ガイドつきのコースがあり、「ここは光の回廊」「あそこは蜃気楼の壁」といった解説を楽しむ仕組みだ。

 最初のうちは意外とスムーズで、客の反応は「不気味だけど面白い」と上々だった。道中で奇妙な幻を見ても、ガイドが「それは迷宮の罠ですから、こちらの道をどうぞ」と誘導してくれる。モンスター類も表層部は比較的おとなしく、見世物としては程よいスリル。
 銭丸は入口で「大成功だろ? いつまでも爆死とか言わないでくれ」とひかりに得意顔を見せるが、彼女は「最深部に行く客が増えたら危ないですよ」と憂いを隠せない。既に血の気の多い冒険者が「もっと奥まで行って宝を探す」と騒ぎ始めていた。



 そして恐れられていた事態が起きる。迷宮の中で、あるパーティーが“古代儀式場”と呼ばれる場所に勝手に踏み込み、そこで何か封印めいたものを解除しようとしたという知らせが入る。バルドが止めに入ろうとしたが、既に遅く、そこを覗きに行った冒険者たちが全員行方不明になってしまった。メルティナが急ぎ捜索隊を組んで奥へ向かうが、深部の道が突然歪んだり、幻覚の度合いが急激に強まって、誰もたどり着けない。
 銭丸は「ここで逃げたら観光が大崩壊だ。対処しないと儲けがフイになる」と言い、半ば強制的に奥へ向かおうとするが、周囲は「幻覚だらけで危険すぎる」と止める。結果、彼自身が先頭で突入する形に。ひかりやバルド、メルティナも同行し、最小限のチームで迷宮深部へ向かうが、その道中で何度も幻を見て道を間違えかける。視界の端に友人の死んだ姿が出たり、過去の失敗(爆死シーン)が繰り返し蘇ったりと、嫌な幻術攻撃が絶えない。

 やっとのことで祭壇のある大広間にたどり着くと、そこには倒れた冒険者数名の姿が散らばり、一部は正気を失って呆けた表情をしていた。さらに中央の石碑に黒い亀裂が走り、何らかの精霊か怨念か、それとも悪霊じみた存在が湧き出しているようだ。メルティナが「これ、相当古い呪術が解放されたかも……」と声を震わせるなか、バルドが周囲を警戒しても、空気がぐにゃりと歪んでは方向感覚を失わせる。
 ここで銭丸が無理やり石碑を叩き壊そうとチェーンソーじみた魔導器を取り出して突撃するが、幻覚が彼を襲い、床が見えない段差へと誘導。転落しかけた銭丸が何とか踏みとどまるものの、石碑から噴き出した瘴気がドクンと響いて空間を揺らし、室内に光の乱舞が飛び散る。壁に描かれた紋様が無数に光り、空気が裂けるような轟音が響いた。



 ついに儀式場全体が“暴走状態”へ入り、迷宮の壁があちこちで崩れ始める。床がガタガタと振動し、天井から岩や瓦礫が落下。幻覚で姿を変えていたモンスターまで出現し、バルドたちを次々に襲う。銭丸は何度も転倒しながら最後の力で石碑に突撃し、いつものように断末魔じみた声を上げる。

 「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。幻影迷宮は……爆死ッ……!!」

 叫んだ瞬間、黒い瘴気と幻覚が混ざったような大爆発が室内を飲み込み、床下からも激しい爆裂が走る。石碑が真っ二つに割れて強烈な衝撃波が吹き荒れ、壁や天井が一気に崩落する。幻覚だか現実だかわからない凄まじい光と闇が交錯し、銭丸はその渦の中に見事に飲み込まれて姿を消す。



 翌朝、迷宮の入り口付近に出てきた生存者や救助隊が確認したところ、深部への通路は完全に崩れて埋まっており、儀式場は瓦礫と瘴気の塊に阻まれて近づくことすらできない状態だった。かつて“観光客向け”に整備した道もところどころ歪み、まったく通れない。
 当然、銭丸の姿は見つからず、「迷宮ごと崩落した以上、もうどうしようもない」と皆が口をそろえていう。何度爆死してもなぜか戻ってきた彼だからこそ、「またいつか」と苦い顔をする者もいるが、いずれにせよ幻影迷宮そのものは完全に封鎖されることになった。

 こうして、観光資源に変えようとした“幻影迷宮”は、わずかなオープン期間の後、内部で暴走した古代儀式のせいで崩壊し、いつものように銭丸の断末魔じみた声とともに消え去る形となる。これまで海も空も森も大失敗し、今度は迷宮でも爆死——もはや定番の落ちだが、人々はまたしても大損害を被ることになった。
 「これで懲りてくれるのか、それともまた何か企むのか……。しかし、迷宮が崩れてしまった以上、もう二度とここには近づけないだろう」——そう語る冒険者や地元の住民が嘆きの声を上げ、王都へ帰る道のりで互いにため息をつく姿が印象的だった。最後に残ったのは、迷宮の奥へ挑んだ者たちの悲鳴と瓦礫、そして慣例のごとく行方不明の銭丸という同じ結末だけである。
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