『こちらダンジョン広報課、ただいまトラブル対応中!』

安部 真夜

文字の大きさ
5 / 7
初出勤と暴走ケモノ端末

第4話 はじめての。

しおりを挟む
《魔導端末・放送中》

──ピピッ。

 起動音が鳴った。

 魔力の波紋が空気を震わせ、淡い光がブースの中央を満たす。

 正面のスクリプト画面に、カウントが表示された。


              《00:03》
              《00:02》
              《00:01》


 始まった。

 頭が真っ白になる音が、した。

 

「こ、こ、こんにちはっ、えっと、ええと……! こちら、ギルド広報課、担当の……ミレイユ・フォーンですっ!」

 噛んだ。滑った。声が裏返った。
 目の前にいるのは誰もいないはずなのに、視線の圧だけがずっしりとのしかかる。

(ダメだ……! 喉が、詰まって……)

 

 目の端に、パスカルがいた。
 じっとこちらを見ている。何も言わない。でも、逃げ道も与えない。

(やるしかない……やらなきゃ!)

 

「今日の放送は……迷宮“グレイラの螺旋”第三層、《沈黙の沼地》についてお届けしますっ!」

 深呼吸。言葉をひとつずつ置いていくように、丁寧に発音した。

「このエリアでは、足場のぬかるみや魔力霧によって、視界や移動が大きく制限されます。……うまくいかないと、仲間を見失います。だから、離れすぎないようにしてください」

 言いながら、自分の声が震えていないことに驚く。

「出現する“毒吹きトード”は、広範囲に毒ガスをばらまきます。毒耐性ポーションの携行を、必ず……必ずお願いします」

 

 一度だけ、声が揺れた。

(……必ず)

 その言葉に、昔の誰かの顔が浮かんでいた。
 毒で倒れた仲間を回復しようとして、回復が遅れて、判断を誤ったあの瞬間。
 “自分だけが助かってしまった”あのときの、感触。

 でも――。

「……それから、“モヤカゲ”に遭遇した場合。焦らないでください。幻影に惑わされず、信じてください。“仲間が、あなたのすぐそばにいる”って」

 ミレイユは、視線の先――冒険者たちの準備を映すモニターに目をやる。

 年の近い女の子たち、まだ新しい武器を握った手が小刻みに震えている。
 視線を交わすこともできずに俯いたままの後衛の少年。
 かつての自分が、そこにいた。

「……大丈夫です。わたしも……あなたと同じでしたから。最初は、誰だって怖い。でも」

 

「怖くても、支え合えたら、きっと前に進めます。だから、どうか。――帰ってきてください」

 

──ピピッ。

《放送終了》

 

 端末の光がふっと消えた。魔力の振動も止まる。
 ブースの空気が、ほんの少しだけ、静まり返る。

 ミレイユは、ようやく息を吐いた。
 自分でも気づかないうちに、手が震えていた。

「……終わった……?」

「まあニャ。どうにか」

 パスカルが肩に乗って、ぼそりと呟く。

「最初はカミまくりだったけど、途中から……意外と、よかったニャ」

「……ほんと?」

「コメント欄、“新人だけど応援したい”って三件、“かわいい”が五件、“毒トード”が“ドクドクトード”に聞こえたって誤解が二件ニャ」

「うぅぅ、恥ずかしい~~~~!」

 頭を抱えるミレイユに、ブースのドアが開く音が重なった。
エルナが静かに現れる。

「……よく頑張ったわ。内容の精度は後でフィードバックするけど、伝えるべきものは伝わったと思う」

「っ……ありがとうございます……!」

「油断しないで。放送は毎日あるわ。今日だけじゃ、何も証明されない」

「……はいっ!」

 

 それでも。
 ブースを出る足取りは、ほんの少しだけ、軽かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

悪役女王アウラの休日 ~処刑した女王が名君だったかもなんて、もう遅い~

オレンジ方解石
ファンタジー
 恋人に裏切られ、嘘の噂を立てられ、契約も打ち切られた二十七歳の派遣社員、雨井桜子。  世界に絶望した彼女は、むかし読んだ少女漫画『聖なる乙女の祈りの伝説』の悪役女王アウラと魂が入れ替わる。  アウラは二年後に処刑されるキャラ。  桜子は処刑を回避して、今度こそ幸せになろうと奮闘するが、その時は迫りーーーー

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

聖女じゃない私の奇跡

あんど もあ
ファンタジー
田舎の農家に生まれた平民のクレアは、少しだけ聖魔法が使える。あくまでもほんの少し。 だが、その魔法で蝗害を防いだ事から「聖女ではないか」と王都から調査が来ることに。 「私は聖女じゃありません!」と言っても聞いてもらえず…。

処理中です...