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初出勤と暴走ケモノ端末
第4話 はじめての。
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《魔導端末・放送中》
──ピピッ。
起動音が鳴った。
魔力の波紋が空気を震わせ、淡い光がブースの中央を満たす。
正面のスクリプト画面に、カウントが表示された。
《00:03》
《00:02》
《00:01》
始まった。
頭が真っ白になる音が、した。
「こ、こ、こんにちはっ、えっと、ええと……! こちら、ギルド広報課、担当の……ミレイユ・フォーンですっ!」
噛んだ。滑った。声が裏返った。
目の前にいるのは誰もいないはずなのに、視線の圧だけがずっしりとのしかかる。
(ダメだ……! 喉が、詰まって……)
目の端に、パスカルがいた。
じっとこちらを見ている。何も言わない。でも、逃げ道も与えない。
(やるしかない……やらなきゃ!)
「今日の放送は……迷宮“グレイラの螺旋”第三層、《沈黙の沼地》についてお届けしますっ!」
深呼吸。言葉をひとつずつ置いていくように、丁寧に発音した。
「このエリアでは、足場のぬかるみや魔力霧によって、視界や移動が大きく制限されます。……うまくいかないと、仲間を見失います。だから、離れすぎないようにしてください」
言いながら、自分の声が震えていないことに驚く。
「出現する“毒吹きトード”は、広範囲に毒ガスをばらまきます。毒耐性ポーションの携行を、必ず……必ずお願いします」
一度だけ、声が揺れた。
(……必ず)
その言葉に、昔の誰かの顔が浮かんでいた。
毒で倒れた仲間を回復しようとして、回復が遅れて、判断を誤ったあの瞬間。
“自分だけが助かってしまった”あのときの、感触。
でも――。
「……それから、“モヤカゲ”に遭遇した場合。焦らないでください。幻影に惑わされず、信じてください。“仲間が、あなたのすぐそばにいる”って」
ミレイユは、視線の先――冒険者たちの準備を映すモニターに目をやる。
年の近い女の子たち、まだ新しい武器を握った手が小刻みに震えている。
視線を交わすこともできずに俯いたままの後衛の少年。
かつての自分が、そこにいた。
「……大丈夫です。わたしも……あなたと同じでしたから。最初は、誰だって怖い。でも」
「怖くても、支え合えたら、きっと前に進めます。だから、どうか。――帰ってきてください」
──ピピッ。
《放送終了》
端末の光がふっと消えた。魔力の振動も止まる。
ブースの空気が、ほんの少しだけ、静まり返る。
ミレイユは、ようやく息を吐いた。
自分でも気づかないうちに、手が震えていた。
「……終わった……?」
「まあニャ。どうにか」
パスカルが肩に乗って、ぼそりと呟く。
「最初はカミまくりだったけど、途中から……意外と、よかったニャ」
「……ほんと?」
「コメント欄、“新人だけど応援したい”って三件、“かわいい”が五件、“毒トード”が“ドクドクトード”に聞こえたって誤解が二件ニャ」
「うぅぅ、恥ずかしい~~~~!」
頭を抱えるミレイユに、ブースのドアが開く音が重なった。
エルナが静かに現れる。
「……よく頑張ったわ。内容の精度は後でフィードバックするけど、伝えるべきものは伝わったと思う」
「っ……ありがとうございます……!」
「油断しないで。放送は毎日あるわ。今日だけじゃ、何も証明されない」
「……はいっ!」
それでも。
ブースを出る足取りは、ほんの少しだけ、軽かった。
──ピピッ。
起動音が鳴った。
魔力の波紋が空気を震わせ、淡い光がブースの中央を満たす。
正面のスクリプト画面に、カウントが表示された。
《00:03》
《00:02》
《00:01》
始まった。
頭が真っ白になる音が、した。
「こ、こ、こんにちはっ、えっと、ええと……! こちら、ギルド広報課、担当の……ミレイユ・フォーンですっ!」
噛んだ。滑った。声が裏返った。
目の前にいるのは誰もいないはずなのに、視線の圧だけがずっしりとのしかかる。
(ダメだ……! 喉が、詰まって……)
目の端に、パスカルがいた。
じっとこちらを見ている。何も言わない。でも、逃げ道も与えない。
(やるしかない……やらなきゃ!)
「今日の放送は……迷宮“グレイラの螺旋”第三層、《沈黙の沼地》についてお届けしますっ!」
深呼吸。言葉をひとつずつ置いていくように、丁寧に発音した。
「このエリアでは、足場のぬかるみや魔力霧によって、視界や移動が大きく制限されます。……うまくいかないと、仲間を見失います。だから、離れすぎないようにしてください」
言いながら、自分の声が震えていないことに驚く。
「出現する“毒吹きトード”は、広範囲に毒ガスをばらまきます。毒耐性ポーションの携行を、必ず……必ずお願いします」
一度だけ、声が揺れた。
(……必ず)
その言葉に、昔の誰かの顔が浮かんでいた。
毒で倒れた仲間を回復しようとして、回復が遅れて、判断を誤ったあの瞬間。
“自分だけが助かってしまった”あのときの、感触。
でも――。
「……それから、“モヤカゲ”に遭遇した場合。焦らないでください。幻影に惑わされず、信じてください。“仲間が、あなたのすぐそばにいる”って」
ミレイユは、視線の先――冒険者たちの準備を映すモニターに目をやる。
年の近い女の子たち、まだ新しい武器を握った手が小刻みに震えている。
視線を交わすこともできずに俯いたままの後衛の少年。
かつての自分が、そこにいた。
「……大丈夫です。わたしも……あなたと同じでしたから。最初は、誰だって怖い。でも」
「怖くても、支え合えたら、きっと前に進めます。だから、どうか。――帰ってきてください」
──ピピッ。
《放送終了》
端末の光がふっと消えた。魔力の振動も止まる。
ブースの空気が、ほんの少しだけ、静まり返る。
ミレイユは、ようやく息を吐いた。
自分でも気づかないうちに、手が震えていた。
「……終わった……?」
「まあニャ。どうにか」
パスカルが肩に乗って、ぼそりと呟く。
「最初はカミまくりだったけど、途中から……意外と、よかったニャ」
「……ほんと?」
「コメント欄、“新人だけど応援したい”って三件、“かわいい”が五件、“毒トード”が“ドクドクトード”に聞こえたって誤解が二件ニャ」
「うぅぅ、恥ずかしい~~~~!」
頭を抱えるミレイユに、ブースのドアが開く音が重なった。
エルナが静かに現れる。
「……よく頑張ったわ。内容の精度は後でフィードバックするけど、伝えるべきものは伝わったと思う」
「っ……ありがとうございます……!」
「油断しないで。放送は毎日あるわ。今日だけじゃ、何も証明されない」
「……はいっ!」
それでも。
ブースを出る足取りは、ほんの少しだけ、軽かった。
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