武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!

Innocentblue

文字の大きさ
45 / 45

第45章 三次試験 ― 古風なる応答

しおりを挟む
応用試験を終えた翌日、商会本部の会議室には面接用の机が並べられていた。

机の向こうには漣司、リュシア、そして補佐役としてロイが座り、面接官を務める。
候補者はひとりずつ入室し、短い質疑応答を受ける。
人格、思想、協調性――組織の一員となるにふさわしいかを判断する場だ。

面接は淡々と進んでいた。ある青年は、

「金のために戦う」

とあっけらかんと述べ、
漣司に、

「それは悪くないが、組織を裏切らぬ保証はあるか」

と突っ込まれる。
ある女術者は、

「故郷を守りたい」

と強い意志を語り、リュシアに高評価を得た。
だが、会議室の扉が三度目に開かれたとき、場の空気は少しだけ揺れた。
白金糸の髪を束ね、琥珀の瞳を輝かせた少女――ルーチェ=ヴァルノアが入ってきたのだ。
彼女はゆっくりと一礼し、席に座る。
背筋は真っ直ぐだが、どこか芝居がかった所作で、既に面接官たちの視線を集めていた。

「名を名乗れ」

漣司の低い声。

「拙者、ルーチェ=ヴァルノアと申す。光の導きを修めし者なり」

ロイが思わず咳き込む。

「い、今、拙者って……?」

リュシアは無表情のままペンを走らせるが、その手元が一瞬だけ止まった。



「まずは志望理由を聞こう。なぜ二階堂商会に入りたい?」

漣司の声は低く、しかし鋭く響いた。審査室の空気が一瞬引き締まる。
ルーチェは微動だにせず、背筋を伸ばし、胸に手を当てた。
白金糸の髪が柔らかく揺れ、琥珀の瞳が漣司の視線をまっすぐ捉える。

「世は乱世。力なき者は蹂躙され、声なき者は踏みにじられる。拙者、光を以てその闇を払わんと欲す。ゆえに、この法人に身を投じ申す」

その言葉は流麗で、古風な響きが審査室に柔らかな余韻を残した。
瞬間、沈黙が広がる。誰もが言葉の重みと、少女とは思えぬ覚悟の深さに息を飲む。
しかし、緊張を切り裂くようにミナの肩が揺れ、吹き出す声が小さく漏れた。

「いやいや、時代劇……でも、ちょっと……かっこいいかも」

ルーチェは微笑みひとつせず、静かにその視線をミナから漣司へと戻す。
周囲のざわめきも、彼女の落ち着いた所作に吸い込まれるように沈黙した。
漣司は口角をわずかに上げ、視線を逸らさずに彼女を見つめた。

「……言葉は大仰だが、志は真っ直ぐだな。力だけではなく、覚悟も伝わってくる」

リュシアは書類を閉じ、細く息を吐いた。評価の表情には一瞬の緊張と共に、驚きが混じっていた。

「他の候補者には、こうした信念は見られません。単なる魔法の使い手ではなく、組織を動かす存在になり得る――その片鱗を感じます」

ルーチェはわずかにうなずき、静かに席を整えた。
その小さな動作ひとつさえ、礼儀と決意を体現しているかのようだった。
審査室の空気は、ほんの少し柔らかく、しかし確実に彼女を中心に回っている。
その場にいる誰もが、彼女という存在が、この組織に新たな波をもたらすことを無意識に感じていた。



「次の質問です。組織で働く上で最も大切なことは何だと思いますか?」

リュシアの声は淡々としていたが、その視線は鋭く、ルーチェを一瞬も逃さず射抜く。ルーチェは胸に手を当て、静かに呼吸を整えた。

「義理と恩義が最も肝心であると心得る」
「義理……?」

ロイの眉がぴくりと動いた。

「さよう。恩を受けたら十倍にして返す。義を欠けば、人は人に非ず。拙者、組織のために身命を惜しまず尽くす覚悟なり」

その声には迷いがなく、古風ながら揺るぎない決意が込められていた。
会議室の空気が、一瞬にして張り詰める。漣司は少し考え込み、低くつぶやいた。

「……合理的な答えではないが、だが、信頼性という観点から見れば、悪くない」

かすかな沈黙の後、ミナが軽く肩を揺らして笑った。

「でもさ、十倍返すって、うちの賞与制度どうなっちゃうの?」
 
ルーチェは真顔のまま微動だにせず、ロイは困った顔でうなずく。

「それは確かに」

緊張と笑いが入り混じる微妙な空気の中、組織に対する彼女の真剣さが、自然と場の中心に刻まれた。



「最後に確認しよう。もし命令と自分の信念が食い違ったら、どうする?」

漣司の声には、刀の刃のような鋭さがあった。会議室の空気が一瞬、凍りつく。
ルーチェはかすかに首をかしげる。
静かに、だが確信に満ちた瞳が漣司を捉え、やがて柔らかく、しかし揺るがぬ笑みを浮かべた。

「社長殿の命が、義に背くことなどありませぬゆえ、迷うこともござりませぬ」

その言葉は短いが、重く、確固たる意思を帯びていた。部屋の隅々まで、その響きは行き渡る。
リュシアの瞳がわずかに見開かれ、書類に向けていた視線が一瞬止まった。

「……盲従、ですか?」

しかし漣司は微笑を浮かべ、静かに首を振る。

「違うな。これは信頼だ。合理性ではなく、感情による確信かと思うが……だが、組織を動かし、仲間を守るためには、こういう人物が必要だ」

ルーチェの微笑みは揺るがず、胸の前で揃えた手の指先には、戦う覚悟と忠誠が宿っている。
会議室の空気が、緊張と期待の交錯でほのかに震えた。
その瞬間、漣司の心中にも確かな感覚が芽生える。

――この少女は、ただの魔導士ではない。組織の未来を揺るがす力を秘めている、と。



こうしてルーチェの面接は終了した。退出する彼女の背中に、ロイがぽつりと呟く。

「変な喋り方だし、考え方も独特だけど……なぜか信用できるんだよな」

ミナも微笑みながらうなずいた。

「うん、なんか場を明るくしてくれそうだし!」

リュシアは記録を閉じ、鋭い視線を漣司に向ける。

「……評価は?」

漣司はわずかに口元を緩め、低く告げた。

「合格だ」

静まり返った審査室に、かすかな期待と緊張が入り混じる。

ルーチェ=ヴァルノア――その名は、武装法人二階堂商会の歴史に、確かに刻まれたのだった。



こうして、その日のうちに一次から応用までを通過した五人の合格者が選び抜かれた。
彼らは後日、真価を問われる最終試験へと進むことになる。
机上に広げられた名簿。その中に――確かに刻まれている。

ルーチェ=ヴァルノア。

古風な言葉遣い。どこか浮世離れした所作。
一見すれば、場違いにも思える天然めいた振る舞い。

だが――。

基礎試験で見せた揺るぎない魔力制御。
応用試験で示した、無駄のない術式構築と判断力。
そして面接で語られた、飾り気のない信念と倫理観。
それらは静かに、しかし確実に審査官たちの心を捉え、彼女という存在を「通過者」ではなく――
記憶に残る者へと変えていた。
漣司は名簿を静かに束ねながら、無意識のうちにその名にもう一度視線を落とす。
数値でも、肩書きでもない。組織にとって本当に必要なもの――
それを直感的に理解しているかのように、胸の内でつぶやいた。

(人材とは、数字や経歴だけでは測れない……真価とは、こういうものか)

最終試験は後日に回される。彼女がどこまで力を隠しているのかも、今は誰にもわからない。

それでも――。

この日を境に、ルーチェ=ヴァルノアという名は、武装法人二階堂商会の誰もが意識する存在となっていた――
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

この世界にダンジョンが現れたようです ~チートな武器とスキルと魔法と従魔と仲間達と共に世界最強となる~

仮実谷 望
ファンタジー
主人公の増宮拓朗(ましみやたくろう)は20歳のニートである。 祖父母の家に居候している中、毎日の日課の自宅の蔵の確認を行う過程で謎の黒い穴を見つける。 試にその黒い穴に入ると謎の空間に到達する。 拓朗はその空間がダンジョンだと確信して興奮した。 さっそく蔵にある武器と防具で装備を整えてダンジョンに入ることになるのだが…… 暫くするとこの世界には異変が起きていた。 謎の怪物が現れて人を襲っているなどの目撃例が出ているようだ。 謎の黒い穴に入った若者が行方不明になったなどの事例も出ている。 そのころ拓朗は知ってか知らずか着実にレベルを上げて世界最強の探索者になっていた。 その後モンスターが街に現れるようになったら、狐の仮面を被りモンスターを退治しないといけないと奮起する。 その過程で他にもダンジョンで女子高生と出会いダンジョンの攻略を進め成長していく。 様々な登場人物が織りなす群像劇です。 主人公以外の視点も書くのでそこをご了承ください。 その後、七星家の七星ナナナと虹咲家の虹咲ナナカとの出会いが拓朗を成長させるきっかけになる。 ユキトとの出会いの中、拓朗は成長する。 タクロウは立派なヒーローとして覚醒する。 その後どんな敵が来ようとも敵を押しのける。倒す。そんな無敵のヒーロー稲荷仮面が活躍するヒーロー路線物も描いていきたいです。

異世界から元の世界に派遣された僕は他の勇者たちとは別にのんびり暮らします【DNAの改修者ー外伝】

kujibiki
ファンタジー
異世界で第二の人生の大往生を迎えた僕は再びあの場所へ飛ばされていた。 ※これは『DNAの改修者』のアフターストーリーとなります。 『DNAの改修者』を読まなくても大丈夫だとは思いますが、気になる方はご覧ください。 ※表紙は生成AIで作ってみたイメージです。(シャルルが難しい…)

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

処理中です...