迷宮の星

リーア

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3話

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 神殿の屋上、他の衛星達がやってこられないだろうと思われる(誰も来られないだろうと思われる)場所の片隅で、月は何かするわけでもなくボーッとしていた。

 こんな所に来るのは、他の衛星達といるのが煩わしいのと、唯単に高いところが好きだからである。
 こうして高いところへとよく行くのも猫と呼ばれる理由なのだが、月はそれに気付いてはいても、今更だろうな、と思うだけで別に治そうという気持ちはない。全くもってない。

 そう言えば、と手を頭の後ろへもっていく。先程地球に少し髪型をいじられたのだが、一体何をしたのかはよく分からなかった。

 あまり髪型に変わりはないようだったが、挿した覚えのないかんざしが刺さっていることに気付いた。抜いてみると、金箔の貼られた柄に、真珠が一粒という、地味な意匠いしょうの簪だった。華やかな物が好きな地球がこれを選んだとは珍しいな、と考えながら、また髪に挿そうとして、いや、と帯に挿した。

 簪はアクセサリーなので、髪に挿した方が良いのだろうが、異性からもらったアクセサリーをそのまま身につけることには少しの抵抗がある。

 そのまま風に当たりながら、まだ地平線には届かないを眺めていると、ふと、イヤな予感がして後ろを見た。何もいなかったのだが、イヤな予感をぬぐうことは出来ず、いつもより少し早い時間になるが、下へ降りることにした。

 日の光に照らされて、少し朱色をおびながら光を反射する銀色の後ろ姿を、どこかガッカリしたようすで見送る影と、その影の周りに漂う不自然な甘い香りに月が気付くことはなかった。

 ただ、気付かなかったことは、幸いであったかもしれない。

 赤く染まり始める空を背景に立っていた影は、フッと、夕陽に溶けるように消えた。
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