迷宮の星

リーア

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9話

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「迷宮に入る許可をくれ」

 開口一番に海王星が言った言葉に、ルミナスが「あんたも?」と呟いて海王星を見た。
 先程も天王星がやって来て、迷宮に入る許可を求めていた。それだけなら良かったのだが、何を言っても聞かず、しまいにはキレたルミナスが睡眠薬の使用という強硬手段に出ることで騒ぎを収めたばかりだ。

「冥が行方不明になって3日経つ」
「知ってる」

 海王星が言うと、すぐルミナスが言った。怒っているときの笑顔ほど怖い物はない。一歩離れて傍観する太陽は、心の底から思った。

「言っとくけど冥が迷宮にいる可能性は限りなく0に近いわよ?」

 薬品の棚に手を伸ばしながらルミナスが言った。天王星に使った、2,3日眠らせる程強い薬を手に取っているところを見ると、いつものように2,3時間眠らせるだけでは頭を冷やすことが出来ないと判断しているのだろうか。ただ、ルミナスの性格を考えると、目覚めなければ良いと思っているのではないかという不安に駆られる。

「それに、冥は言われたことは素直に聞く子よ。迷宮に入ることはまずないはず。迷子にでもなったんじゃない?」

 3日も迷子になることもまた以上であることを棚に上げたルミナスが言った。もっとも冥王星の場合、なきにしもあらずなところが怖いが。

 睡眠薬の数を数えながら、ルミナスが「このペースで減るなら……」云々言っていることは無視しよう。数を心配するとはどれほどのペースで使っているのだろうか。

「冥は、この街の中であればどこでも知っている。もう迷子になることはない。迷宮に入ったのでない限り」

 一応の事実を突きつけられ、ルミナスは押し黙った。冥王星は、幼い頃から冒険だの探検だのという名の迷子を繰り返してきたため、街中のいたるところへの行き方という行き方を、全て把握している。

「理由が何であれ迷宮への「黙れ糸目」」

 海王星に言い負かされたルミナスが可哀相になったのか、太陽が言ったが、失礼ないいざまに中断した。
 別に糸目を気にしている太陽ではない。気にしているわけではないのだが、面と向かって言われ利と腹が立つのだろう。声の聞こえてきた方を睨んでいる。

「天、起きてたの?」

 太陽を糸目呼ばわりしたのは、先ほどまで会話していた海王星ではなく、天王星だったらしい。
 3日は寝る薬をかがされた天王星はわずか2時間で目を覚ましたらしい。
 
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