迷宮の星

リーア

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12話

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「冥!、冥王星!」

 声を上げた天王星は、周りを見ることなく駆け出した。その後を海王星も追う。

「待って!そっちは……」

 慌てて声を張り上げたルミナスだったが、双子は聞く耳を持たず、先先と進んでいく。

 双子が自殺行為に走ることがないように、置いていかれた3人も後を追う。

 双子は、しばらくしてから通路の先に立つ冥王星の姿を見つけた。
 同時に冥王星も兄2人に気付いた。

 冥王星と天王星、海王星は少しの間黙って向き合っていたが、さみしさと申し訳なさのようなものを顔に貼り付けた冥王星が、兄2人が何か言う前に振り返り、2人から離れようとするかのように進み始めた。

 足におもりが付けられているため、ゆっくりと進む冥王星の後を、双子も速度を合わせて進んだ。

 ルミナス達3人も追いついたが、――気配は感じていたものの――こんな所にはいないだろうと思っていた冥王星の姿に3人とも絶句した。

 5人は、長い通路をゆっくり進む冥王星の後についていった。

 そのようにして付いた先は、大きく、深い穴が口を開けている広場のような場所だった。

「幻影の間…」

 ルミナスが小声でつぶやいた。その顔は少し青ざめている。

 幻影の間、それは迷宮の中で、決して入っては行けない場所だと、繰り返し言われてきた場所だ。ルミナスも他の人の話に聞いたことがあるだけで、実際に見るのはこれが初めてである。

 名前の通り、見る人に幻影を見せると言われるこの場所の、最も恐ろしいと言われるところは、見せる幻影が、見る人が最も見たい、だが同時に見たくないと思う光景を見せる。

 何を見たのか、天王星が身を硬直させた。だが、その少し後ろにいる海王星は天王星が見ている物が見えないのか、それでも尋常でない天王星の様子に多少の不安を覚えたようで、何事か、とルミナスに目を向ける。
 だが、ルミナスが何かを言う前に、硬直していた天王星が絞り出すような声で言った。

「地球だったんだ」

 消え入るような小声だったが、静かな広場ではヤケの大きく響いた。

「え?」

 土星の間向けた声が響いた。最もそれは、その場にいた全員の心の声を代弁したかのようなものだったが。

 ふと、ルミナスは気付いた。辺りを漂う不自然な甘い香りに。あまり強い香りではなく、ほんの少しの残り香だった。覚えのある香りだった。ルミナスもこのような香りの物を調薬に使ったことがある。

 ここにいては危ない。そう悟った。
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