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2章
13話:魔王の過去
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妖精を乗せたゴーレムが人を殺すには、行動を制限する機能であるMETH回路を淘汰する必要があった。
原初のゴーレム開発者が己の倫理観から遺した機能だが、それはゴーレムを兵器として利用したい研究者たちにとって悩みの種だった。ゴーレムは人を殺そうとすると、たちまち動作を止めてショートしてしまう。その悩みは死刑の執行にゴーレムを用いるように命じられた楓にとっても同じことであった。
楓はそれから五年の期間を経て、ルルカを宿したEデバイスという特殊なクリスタルを製造し、世界で初めて人を殺すことができるゴーレムを製造した。ルルカが初めて人を殺したのは、それから間もなくのことであった。
『死刑、執行』
巨大な剣を振り下ろすゴーレムが、まるでウィンナーでも輪切りにするかのように罪人の首を跳ね、呼吸を諦めさせた。
妖精回路の発展に伴い、求刑自体もルルカが行うようになる前提であったが、まずは試験的に死刑が執行することができるかテストされた。
彼女が最初に死刑にしたのは、人生に絶望し、六人もの人を殺した男だった。
情状酌量を汲んだとしても死刑妥当との判決を下された救いようのない男だったが、それまで楓の命令に素直に従ってきたルルカにとっては、そんな男の命だとしても精神を蝕むに十分であった。
『はぁ……』
ルルカはゴーレムのなかで、深いため息を吐いた。
その後、ルルカは緊張と戸惑いと絶望を抱えながらも、死刑の求刑と斬首刑を執行するよう強いられ、いわれる度その通りにしてきた。次々と死刑囚は首を跳ねられ、絶命していった。
ルルカはつらかったが、涙する楓を前にしてそれを言葉にできなかった。楓は人殺しの道具を作ってしまったとむせび泣き、ルルカはそれを励ましたが、自分が人を殺すために生まれてきたと突き付けられているように思え、なおもつらくて、認めてほしくて、虚勢を張った。
『大丈夫。大丈夫だよお母さん……アタシまだやれるから……』
「ルルカ……ごめん……ほんとにごめんね……」
そうして命じられるまま刑の執行を繰り返し、あっと言う間にルルカは百人単位の人間をその手にかけた。ただ言われた通りに人間の代わりに刑を下し続け、自らの責任を果たした。
やがてルルカの噂は国外に届き、彼女は別の国にも赴いた。
グジパン前王が自ら斬首刑に処された噂が諸外国に伝わったことで彼女の需要はさらに高まり、殺した数はさらに数百倍に膨れ上がった。諸外国の支配者たちが喜ぶたびにルルカは泣いた。
ルルカを開発調整する人の数も増えていき、いつの間にかルルカは、楓の手から離れるようになった。
その後も、彼女は、殺して、殺して、殺し続けた。
殺して、殺して、殺して……そうして時間だけが過ぎた。
はじめて妖精が発見されてから十数年。世界恐慌が戦争を招いた。世界で唯一人を殺すことができるルルカは、その需要を受け大量に複製が製造された。たくさんのルルカの複製たちがゴーレムに乗り込むと、圧倒的な攻撃でもって人々を無慈悲に薙ぎ払った。
ルルカは数十万の戦果に寄与し戦争の勝利へ大きく貢献したが、この頃になると、どれだけ成果を上げても彼女を気遣う者はいなかった。
もともと罪のある人を殺めることにすら罪悪感のあったルルカだが、罪のない兵士を殺めることでその精神はさらに荒んでいった。
ルルカはその人格を機能として有している以上、記憶を忘れる術を持っていない。
それが更に制約となって彼女に逃げ場を与えなかった。
――しかし非情にも、ルルカがどれだけやりたくないと願った鬼畜の所業を続けても、なにひとつ要求が緩慢になることはなかった。
そうした異常な日常を過ごしていたある日、ルルカがいつものように斬首刑を下すと、袋に顔を包まれていた受刑者は彼女の母親であったと気が付いた。
『……え?』
ルルカを開発したことで先の大戦では多くの犠牲者が出た。
各国の責任者たちはルルカを利用したまま内密に、その責任を楓に着せると決めたのだ。
『お母……さん?』
ルルカの骨格認証機能がそれに気が付いたのは、彼女がいつものように死刑を下したあとのことであった。
『……なんで! なんでなんで! なんで!?』
ルルカは人間を憎んだ。許せなくなった。その瞬間から任された裁判や戦争の仕事をすべて投げ出した。
人類が忌むべき魔王の称号を擦り付けられたまま――。
原初のゴーレム開発者が己の倫理観から遺した機能だが、それはゴーレムを兵器として利用したい研究者たちにとって悩みの種だった。ゴーレムは人を殺そうとすると、たちまち動作を止めてショートしてしまう。その悩みは死刑の執行にゴーレムを用いるように命じられた楓にとっても同じことであった。
楓はそれから五年の期間を経て、ルルカを宿したEデバイスという特殊なクリスタルを製造し、世界で初めて人を殺すことができるゴーレムを製造した。ルルカが初めて人を殺したのは、それから間もなくのことであった。
『死刑、執行』
巨大な剣を振り下ろすゴーレムが、まるでウィンナーでも輪切りにするかのように罪人の首を跳ね、呼吸を諦めさせた。
妖精回路の発展に伴い、求刑自体もルルカが行うようになる前提であったが、まずは試験的に死刑が執行することができるかテストされた。
彼女が最初に死刑にしたのは、人生に絶望し、六人もの人を殺した男だった。
情状酌量を汲んだとしても死刑妥当との判決を下された救いようのない男だったが、それまで楓の命令に素直に従ってきたルルカにとっては、そんな男の命だとしても精神を蝕むに十分であった。
『はぁ……』
ルルカはゴーレムのなかで、深いため息を吐いた。
その後、ルルカは緊張と戸惑いと絶望を抱えながらも、死刑の求刑と斬首刑を執行するよう強いられ、いわれる度その通りにしてきた。次々と死刑囚は首を跳ねられ、絶命していった。
ルルカはつらかったが、涙する楓を前にしてそれを言葉にできなかった。楓は人殺しの道具を作ってしまったとむせび泣き、ルルカはそれを励ましたが、自分が人を殺すために生まれてきたと突き付けられているように思え、なおもつらくて、認めてほしくて、虚勢を張った。
『大丈夫。大丈夫だよお母さん……アタシまだやれるから……』
「ルルカ……ごめん……ほんとにごめんね……」
そうして命じられるまま刑の執行を繰り返し、あっと言う間にルルカは百人単位の人間をその手にかけた。ただ言われた通りに人間の代わりに刑を下し続け、自らの責任を果たした。
やがてルルカの噂は国外に届き、彼女は別の国にも赴いた。
グジパン前王が自ら斬首刑に処された噂が諸外国に伝わったことで彼女の需要はさらに高まり、殺した数はさらに数百倍に膨れ上がった。諸外国の支配者たちが喜ぶたびにルルカは泣いた。
ルルカを開発調整する人の数も増えていき、いつの間にかルルカは、楓の手から離れるようになった。
その後も、彼女は、殺して、殺して、殺し続けた。
殺して、殺して、殺して……そうして時間だけが過ぎた。
はじめて妖精が発見されてから十数年。世界恐慌が戦争を招いた。世界で唯一人を殺すことができるルルカは、その需要を受け大量に複製が製造された。たくさんのルルカの複製たちがゴーレムに乗り込むと、圧倒的な攻撃でもって人々を無慈悲に薙ぎ払った。
ルルカは数十万の戦果に寄与し戦争の勝利へ大きく貢献したが、この頃になると、どれだけ成果を上げても彼女を気遣う者はいなかった。
もともと罪のある人を殺めることにすら罪悪感のあったルルカだが、罪のない兵士を殺めることでその精神はさらに荒んでいった。
ルルカはその人格を機能として有している以上、記憶を忘れる術を持っていない。
それが更に制約となって彼女に逃げ場を与えなかった。
――しかし非情にも、ルルカがどれだけやりたくないと願った鬼畜の所業を続けても、なにひとつ要求が緩慢になることはなかった。
そうした異常な日常を過ごしていたある日、ルルカがいつものように斬首刑を下すと、袋に顔を包まれていた受刑者は彼女の母親であったと気が付いた。
『……え?』
ルルカを開発したことで先の大戦では多くの犠牲者が出た。
各国の責任者たちはルルカを利用したまま内密に、その責任を楓に着せると決めたのだ。
『お母……さん?』
ルルカの骨格認証機能がそれに気が付いたのは、彼女がいつものように死刑を下したあとのことであった。
『……なんで! なんでなんで! なんで!?』
ルルカは人間を憎んだ。許せなくなった。その瞬間から任された裁判や戦争の仕事をすべて投げ出した。
人類が忌むべき魔王の称号を擦り付けられたまま――。
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