ライターズワールドオンライン~非戦闘ジョブ「アマ小説家」で最弱スキル「ゴミ拾い」の俺が崩壊世界でなりあがる~

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5章

51話:起床

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「……繋がった。聞こえる?」

『あー……アタシこれからどうなっちゃうんだろ……って、え!? 声が聞こえる! なんで!?』

念話テレパシーならどんなところにいても近くにいるみたいに会話することができる。音が外部に漏れないから気づかれることもない。通信さえできれば小説の原稿なども直接頭脳に送信可能」

 その場にいたヤクルたちの脳内に、直接ルルカの声が聞こえてきた。ヒナタが続けざまに話す。

「よく聞いてジラジラ娘さん。いまはあたしの念話テレパシーで音声を繋いでる。幼女に切り付けられたけどクロノスは治療を受けていて無事。ヒカゲはまだ目を覚まさない。いまは領主を助けに行かせたいと思って打ち合わせているとこなの」

『なるほど和久井妹の固有スキルはテレパシーかぁ。アタシのクリスタル、いつもみたいにスクリーンを飛ばしたりできないんだよ。助かった。この回線を使ってこっちの状況を伝えるよ。いまスクリーン送るね』

 ルルカの言葉をきっかけに茶の間に大きなスクリーンが表示され映像が映し出された。ルルカのクリスタルは大きなカプセルのような装置に固定されており、身動きが取れない様子であった。

『お城に連れて来られるときに見てたけど、城の外は教団員だらけだよ……みんなヘミュエル四世さまのいいなりさ。絶対服従って感じだね』

「おいジラジラ娘、あのリルって娘は操られてんのか?」

『リルちゃんの本心はわからないけれど、妖精回路としての意識が混在してるんだと思う。恐らくヤクルをその目で見るために近付いたんだろうね……あーもう、そこまで考えが及ばなかったよ。まさか誘い受けするために野菜泥棒してたとは』

 リルの傍らの意識である妖精回路は、野菜泥棒を 教団員に発覚されることで、自身の生殺与奪を委ねるシチュエーションとなることを画策し、それを利用してヤクルたちに近寄っていた。ヤクルたちの普段の生活を監視していなければなすことができない策士の発想であった。

『ヤクルが農作業してるときになにか潜んでたと思ったんだよ……たぶんリルちゃんに監視されていたんだろうね。ヤクルに近付いたのは、ヤクルの人体改造された身体をその目で見て情報を得るためかな……それにしても、まさかヘミュエル教団員みんなが思考汚染を受けながらも、それとは別にそれぞれ妖精回路と人体改造された身体を持っていたとは……ヘミュエル四世が生前に認識疎外の固有スキルでそのことを隠してたとしか考えられない……』

 ルルカの発言を受けて、ヤクルは話を逸らした。

「……隠すといえば……ヒナタ先生といいナナジマ先生といい、どうしていままでこんなにレアで便利な固有スキルを隠していたんですか?」

獣の者獣人族のしきたりでな、あんまり自分の固有スキルを人にひけらかすなってガキん頃からいわれて育つんだよ。俺らはナワバリ意識がほかの種族より強いんだが、弱みになるところを見せびらかしてちゃ付け込まれるぞってことだな」

「あたしたちはいいからこの事態に集中しなよヤクルン。もっとも、もしヒカゲが目を覚ましたとしてもあの子はこの状況をどうにかできるスキルは持ってない。なんとかできるのはヤクルンだけなんだから話そらさないでよ。起きていることに集中して。あたしだって今回は面倒臭がりはナシ」

「……」

 ヤクルには自信がなかった。当然ルルカを助けたいとは思うが、とても自分がどうにかできる問題ではない、それどころか反対に敵に捉えられ、更に酷い結末を迎えてしまうのではないかと予想していた。

 ヤクルは、ヘミュエル四世から喰らった蹴りや浴びせられたハッタリから、自身とは埋めようのないほどの差があると感じていた。

『うーん、でも状況はよくないよ。アタシがヤクルを視認してないから、ヤクルの操作制御ができない。もし助けに来てくれるならありがたいけど、たぶんヤクルはいつもみたいに真っ直ぐ飛ぶこともままならないと思うよ。どうする?』

 ルルカのその言葉はいまのヤクルをさらに尻込みさせる。彼はこれまでのゐるやルルカを懐柔し、領地の発展に奮起し、ゴーレムを倒すほどの活躍をしてきたが、それでもなお自分の行動や主義に自信を抱くことができなかった。

 そもそもヤクルは、人助けをするという方針であれば自分のことなど顧みずに自身の力を最大限発揮させることができるのだが、今回はルルカのクリスタルが奪われてしまい、誰もヤクルのことを後押ししてくれない。そのうえ勝てる見込みも薄く、いつもの勢いを失っていた。

 勝てる、勝ちたい、誰も犠牲にしたくない……せめて、誰かが率いてくれたなら……。

 ヤクルがそう思って沈黙を守っていると、茶の間の奥の扉が勢いよく開いた。



「の、のゐる先生……?」
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