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6章
61話
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突如ヤクルの眼前に現れたそれはこの世のものではなかった。比喩ではなく文字通りそうだ。彼はこれまでそのようなものを見たことはなかったが、直観的にそれがなにか認識することができた。ただ驚くべきは、その数が異常であったことだ。野生動物や虫ですらここまで群れることはないだろう。
十や二十ではない。千や万の数の霊たちだ。
ヤクルを球状に囲い込み、まるで魚群のように連なって一斉にぐるぐると回りながら、全員がひとつの方向へと指を指している。先ほどまで壁いっぱいにカプセルを見ていたはずが、霊の壁はその光景を遮った。
どうやらそれらはみな、敵であるヘミュエル四世を指差しているようだ。
「こ、これは……っ?」
「おう、聞こえるか! ヤクル!」
「ナナジマ先生……!? 一体なにが!?」
「治療の甲斐あってな、和久井姉が目を覚ましたぞ。固有スキルは霊話だ。幽霊と会話できるらしい。ヘミュエル四世に殺された三十億人の霊たちが、いまはお前の味方だ!」
「三十億人……っ!?」
そこまで多くの人たちが味方してくれているというのが信じられないが、確かにヘミュエル四世に殺された人たちともなれば、こうして手を貸してくれることも頷ける。人種も種族も関係なし、彼らの考えは一致している。
自分たちが恨むべくヘミュエル四世を倒してほしい。それが幽霊たちの総意であった。
「ヤクルン聞こえる?」
ヒカゲの念話がヒナタと繋がって、ヤクルにもその声が届いた。
「ヒナタ先生! えぇと、ヘミュエル四世が攻めてきて大変なんです……!」
「大丈夫、わかってるから。霊たちから聞いてるから、僕のほうがこの事情について詳しいよ。ヘミュエル四世がヤクルンをおびき寄せて、メイプルへの復讐の道具にしようとしてるんでしょ」
「えっ……すごい……」
「いいから彼らが指を指すほうへ思い切り飛び込んで! みんなを信じて!」
その言葉を聞いてヤクルは飛んだ。先のゴーレムとの戦いを彷彿とさせる突進だ。
最早この世の理に縛られていない幽霊たちとヒナタを信じるしかない。誤ってカプセルに衝突してしまわないかだとか、幽霊を消し飛ばしてしまわないかだとか、そのような杞憂は一切無視だ。
すると、ドン、と……たしかに感触があった。
「ぐぅうううううう……ッ!!!」
「やっ……やった!」
当たった。
ヤクルはヘミュエル四世へ、ようやく一発を返すことができた。
「……くッ……フ、フフフフフフフフ……まぐれ当たりかァ……? なんだそれは……突進? たかだか一発如き……笑わせるなッ!!!」
「ぐわッ……!?」
とはいえフルパラメーター同士の殴り合いができるという訳ではなかった。幽霊たちの指はヘミュエル四世の動きを追いかけてはいたが、それでもヤクルたちの不利は変わらなかった。
「くっ……そんな……どうしたら……?」
一難去ってまた一難。ヘミュエル四世の姿が追えるようになった訳ではないため、とても咄嗟の反応など出来はしない。
幽霊たちの指の動きを追い続けながら攻撃をすることは困難だ。ヤクルの攻撃が当たったとしても、鋭く飛んでくる反撃にはとても対応できない。
つまり、殴るたび、殴り返すチャンスを与えることになる。ヤクルたちには、未来予知に近い先見の明が必要だった。
……ヤクルがどうすれば、と困っていると、のゐるが彼に向け投げかけた。
「ヤクルさん、知っていますか……?」
のゐるは、幽霊たちに報いるためには、自分が更に尽力する必要があるとわかっていた。
「経験値は、ステータスに振ってこそ意味があるんです……!」
種田のいる様――経験値を固有スキルに使用しますか?
のゐるはメッセージウィンドウに表示される「はい」を連打した。
十や二十ではない。千や万の数の霊たちだ。
ヤクルを球状に囲い込み、まるで魚群のように連なって一斉にぐるぐると回りながら、全員がひとつの方向へと指を指している。先ほどまで壁いっぱいにカプセルを見ていたはずが、霊の壁はその光景を遮った。
どうやらそれらはみな、敵であるヘミュエル四世を指差しているようだ。
「こ、これは……っ?」
「おう、聞こえるか! ヤクル!」
「ナナジマ先生……!? 一体なにが!?」
「治療の甲斐あってな、和久井姉が目を覚ましたぞ。固有スキルは霊話だ。幽霊と会話できるらしい。ヘミュエル四世に殺された三十億人の霊たちが、いまはお前の味方だ!」
「三十億人……っ!?」
そこまで多くの人たちが味方してくれているというのが信じられないが、確かにヘミュエル四世に殺された人たちともなれば、こうして手を貸してくれることも頷ける。人種も種族も関係なし、彼らの考えは一致している。
自分たちが恨むべくヘミュエル四世を倒してほしい。それが幽霊たちの総意であった。
「ヤクルン聞こえる?」
ヒカゲの念話がヒナタと繋がって、ヤクルにもその声が届いた。
「ヒナタ先生! えぇと、ヘミュエル四世が攻めてきて大変なんです……!」
「大丈夫、わかってるから。霊たちから聞いてるから、僕のほうがこの事情について詳しいよ。ヘミュエル四世がヤクルンをおびき寄せて、メイプルへの復讐の道具にしようとしてるんでしょ」
「えっ……すごい……」
「いいから彼らが指を指すほうへ思い切り飛び込んで! みんなを信じて!」
その言葉を聞いてヤクルは飛んだ。先のゴーレムとの戦いを彷彿とさせる突進だ。
最早この世の理に縛られていない幽霊たちとヒナタを信じるしかない。誤ってカプセルに衝突してしまわないかだとか、幽霊を消し飛ばしてしまわないかだとか、そのような杞憂は一切無視だ。
すると、ドン、と……たしかに感触があった。
「ぐぅうううううう……ッ!!!」
「やっ……やった!」
当たった。
ヤクルはヘミュエル四世へ、ようやく一発を返すことができた。
「……くッ……フ、フフフフフフフフ……まぐれ当たりかァ……? なんだそれは……突進? たかだか一発如き……笑わせるなッ!!!」
「ぐわッ……!?」
とはいえフルパラメーター同士の殴り合いができるという訳ではなかった。幽霊たちの指はヘミュエル四世の動きを追いかけてはいたが、それでもヤクルたちの不利は変わらなかった。
「くっ……そんな……どうしたら……?」
一難去ってまた一難。ヘミュエル四世の姿が追えるようになった訳ではないため、とても咄嗟の反応など出来はしない。
幽霊たちの指の動きを追い続けながら攻撃をすることは困難だ。ヤクルの攻撃が当たったとしても、鋭く飛んでくる反撃にはとても対応できない。
つまり、殴るたび、殴り返すチャンスを与えることになる。ヤクルたちには、未来予知に近い先見の明が必要だった。
……ヤクルがどうすれば、と困っていると、のゐるが彼に向け投げかけた。
「ヤクルさん、知っていますか……?」
のゐるは、幽霊たちに報いるためには、自分が更に尽力する必要があるとわかっていた。
「経験値は、ステータスに振ってこそ意味があるんです……!」
種田のいる様――経験値を固有スキルに使用しますか?
のゐるはメッセージウィンドウに表示される「はい」を連打した。
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