浮気現場に彼女と鉢合わせて詰んだと思いきや、なんやかんやでハーレム状態になった件

駆け出しライター

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さえかの思い

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「何か思い出すことない?」


 不敵な笑みを浮かべながら黒崎さんがおれの耳元でささやく。
 駐車場を降りて遊園地の入り口に向かう途中で,おれは何度も息が詰まりそうになった。
遊園地のキャラクターに扮している人もいれば,流行りのアニメのコスプレをしている人もいる。女性は過激な服装で足のラインを見せたり,胸元をはだけさせたりするものが多かったが,小悪魔のコスプレをしている女性を見かけた時には度肝を抜かれた。ピタッと密着するサイズ感の生地が胸の形を強調し,ショートパンツのお尻からはギザギザとした尻尾が伸びている。その尻尾以外がもこもこの生地で触り心地がよさそうなところまで,ハロウィンの日に黒崎さんが着てきたものとそっくりだったのだ。


「まるでハロウィンだな。でも,なんでこんなにみんなコスプレしているんだ? まあ,いい日に来たなあ」
「さっき看板が出てたけど,コスプレすると割引価格で入園できるんだってね。私もコスプレしてからきたらよかった」


 黒崎さんが蓮の方へ言ったので,ホっと胸をなでおろす。しかしそれもつかの間で,「小悪魔のコスプレとかどう?」と笑いながら言うので,またおれはどきりとする。


「莉乃,あんまりいじめないであげて。おもしろいからいいけど」
「花音,気づいていたの・・・・・・」
「当たり前じゃない。あゆむくん,さっきから雷に怯える子犬みたいだったよ」


 なになに,と興味津々のさえかさんに,「実はね」と黒崎さんがハロウィンの夜について語り始めた。「やめてくれ」と耳をふさぐおれにも聞こえる大きさで黒崎さんは楽しそうに話す。

 そうこうしていると,入場口にたどり着いた。旅行で人気な遊園地でもあるだけに,すごい人だ。チケットを購入してゲートを通過するだけで一時間弱もかかってしまった。


「まずはみんなでお揃いの物を身に付けよ! Tシャツとかもいいし,それかそれぞれのキャラクターのかぶりものとか」
「最高! 私は被り物派かな? かわいいし」
「Tシャツだったらパジャマにもなるし,Tシャツにしようよ」


 盛り上がった女の子とたちは口々に自分の希望を言う。話がまとまらないので,みんなでお揃いのTシャツを着て,被り物はそれぞれの気に入ったキャラクターの物を身に付けるということで落ち着いた。さっそく入り口近くにあったお土産屋さんに入り,目当ての物を探し回る。


「蓮君,これ絶対似合うよ。被ってみて! ・・・・・・ほら! やっぱりね! 私はこれにするね」


 黒崎さんは蓮にアヒルのキャラクターの被り物を手渡しているところだった。黒崎さんはというと,すでに頭に別のアヒルの被り物をすでにかぶっている。その二匹のアヒルは,設定上ではつがいの夫婦で,黒崎さんがそれを意識していることは誰からもみても明らかだった。


「莉乃,あんたほんとあざといわね~」
「何言ってるの? さえかは自分に似合いそうなTシャツばっかり探したでしょ? 鏡に映る自分の見え方ばっかりチェックしちゃって。私は蓮くんに似合いそうなものを探して,さえかは自分が可愛く見えるシャツを探していた。方向性が違うだけで,一緒でしょ?」
「あんた,ほんと嫌なやつね。友達いないでしょ。いたとしても,ろくなやつじゃないわ。類は友を呼ぶってやつで」
「そうね。私に友と言える人といえば,一緒に旅行に付き合ってくれるさえかぐらいだわ。そいつは常に自分中心で確かにろくなやつじゃないわ」


 やな感じ,と口をとがらせながら,さえかさんはおれたちの方を向いて両手に持ったシャツを差し出した。


「どれがいいかな? いくつか候補を持ってきたんだけど」


 さえかさんが持ってきたシャツは,遊園地にいるキャラクターがプリントされたものだった。楽しそうに踊っているシャツ,つがいのアヒルが仲睦まじく手を取り合って歩いているシャツなど,いくつかの種類がある中でおれは正直どれでもよかった。同じように蓮もこだわりはないだろうから女の子たちで決めればいいと思っていたのだが,以外にも蓮が一枚のシャツを指差した。


「おれは,これがいいかな」


 それは,五匹のキャラクターが笑いながら涙をこぼしている姿がプリントされたシャツだった。


「いいね。うんうん。似合うじゃん! じゃあこれにしよ!」


 決まり,と楽しそうはしゃぐ黒崎さんは,そのまま蓮を連れてレジまで行った。その後ろ姿は,なんだか微笑ましかった。


「蓮くんも別にまんざらでもなさそうだし,何より莉乃も楽しそうね・・・・・・ねえ,花音の持ってるそれ,なあに?」


 さえかさんに指摘された花音は,手に持っていたものを慌てて背中に隠す。


「え,なんでもないよ。ただ見てただけだから!」
「見てただけでいいんだよ。なんでそんなに慌てて隠すの」


 花音とさえかさんが取り合いになっていたのは,コートのような見た目の茶色い上着だった。おれは,そのフォルムに見覚えがあった。それは,遊園地の一角にもある,映画の魔法使いの世界で着られている服だった。


「そのコート,せっかくだしTシャツの上に羽織ろうよ,一緒に。ついでに杖も買っちゃおっか」
「あゆむくんがそこまで言うなら,雰囲気も出るしいいかもね」


 パッと顔が明るくなった花音は,私はこれであゆむくんはこれね,と楽しそうにアイテムを選び始めた。その姿が,たまらなく愛おしかった。


「なんだかんだで,あんたたちいい関係よね」


 さえかさんがボソッと言う。その顔は,どこか寂しげだ。


「とりあえず,私は自分の分を買ってくるね。乗り物もいっぱい乗りたいし,あとで買い残したものがあるからお店に寄るなんてことがないように今のうちにしっかり見ておいてね」


 じゃ,と後ろ手に手を振ってさえかさんは行ってしまった。
 その後ろ姿が,やけに小さく見えた。
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