51 / 52
ジェットコースター
しおりを挟む
歓声と共に,臓器がふわっと浮かび上がる感覚に陥る。
おれは今,ジェットコースターに乗っている。この遊園地の名物の乗り物で,激しいアップダウンを自分の効きたい音楽と共に空を駆けるのが人気を博している。
はっきり言って,おれはこの手の乗り物が大の苦手だった。お金を払ってまでどうして嫌な思いをしなければならないんだ。乗り物が天に向かってゆっくりと上がっている時,あれはまさに天国へと昇っているような気分だった。こんなにだらしない生活を送っていたのにも関わらず,おれは天国に行けるというのか。神に感謝する。
ああ,神よ。どうかおれを地獄に突き落とすような,臓器だけは浮き上がり身体は強制的に落下して全身でGを感じさせる体験だけはさせたもうな。
おれの祈りは虚しく,ジェットコースターはあれよあれよと旋回する。人々が手を上げて,風を全身に受けているのがわかる。おれは声も出せず,ただぎゅっと目を閉じ,歯を食いしばり,身体を縮こまらせる。ダンゴムシもびっくりするぐらいに身体を丸め,ひたすら恐怖と戦った。
永遠に続くかのように感じた地獄への道は,ようやく終わりを迎えたようだ。ゆっくりと目を開ける。血の池に金棒を持った鬼がいることを覚悟したが,目の前にいたのはジェットコースターの安全バーを下ろして見送ってくれたキャストだった。
「お疲れさまでした! ナイスフライトでしたね!」
「僕はまだ生きているんですね。地獄に落ちた気分です」
キャストは愛想笑いを浮かべて,「足もとお気をつけて」と席を降りるように指示をした。言われなくても降りようといたのだが,身体が動かない。
「どうされました・・・・・・?」
「いや,その,身体が固まって・・・・・・」
必死にこらえていたからだろうか,股関節が固まって体が思うように動かない。
「ちょっと,しっかりしてよ!」
「ごめんごめん,でも,ほんとにだめなんだ。こういう乗り物」
「じゃあ無理せずにそう言ってよね」
ほんとにダメだと言ったのに,みんなが無理やり乗せたんだろという言葉は口に出さないでいた。そんな余裕もなかった。
「あゆむっち,生まれたての子鹿みたいじゃねえか」
蓮が腹を抱えながら笑う。さっきまで微妙な雰囲気を醸し出していたくせに,人の不幸となると一転して抱腹絶倒だ。他人の不幸は蜜の味って顔をしてる。
「よし,腰抜けはここに置いていくとして,次はどこに行く?」
「だれが腰抜けだ。股関節が外れただけだ」
「より一層情けないな」
「ねえねえ,ここ行きたい!」
言い合いするおれと蓮に割って入った花音は,遊園地の地図を手にして指で指し示した。その指した先は,魔法使いの世界のエリアだった。
「服まで羽織ってやる気満々だもんな。よし,そうと決まれば行こう」
そう言って蓮はご機嫌な様子で歩いていった。
さりげなく手を組もうとした黒崎さんの手を,自然な形で振り払ったのをおれは見逃さなかった。あれはきっとわざとじゃない。黒崎さんと蓮に何かあったのだろうか。
黒崎さんの表情はここからは見えない。蓮の様子も気になったが,自分にできることもないような気がした。
おれは今,ジェットコースターに乗っている。この遊園地の名物の乗り物で,激しいアップダウンを自分の効きたい音楽と共に空を駆けるのが人気を博している。
はっきり言って,おれはこの手の乗り物が大の苦手だった。お金を払ってまでどうして嫌な思いをしなければならないんだ。乗り物が天に向かってゆっくりと上がっている時,あれはまさに天国へと昇っているような気分だった。こんなにだらしない生活を送っていたのにも関わらず,おれは天国に行けるというのか。神に感謝する。
ああ,神よ。どうかおれを地獄に突き落とすような,臓器だけは浮き上がり身体は強制的に落下して全身でGを感じさせる体験だけはさせたもうな。
おれの祈りは虚しく,ジェットコースターはあれよあれよと旋回する。人々が手を上げて,風を全身に受けているのがわかる。おれは声も出せず,ただぎゅっと目を閉じ,歯を食いしばり,身体を縮こまらせる。ダンゴムシもびっくりするぐらいに身体を丸め,ひたすら恐怖と戦った。
永遠に続くかのように感じた地獄への道は,ようやく終わりを迎えたようだ。ゆっくりと目を開ける。血の池に金棒を持った鬼がいることを覚悟したが,目の前にいたのはジェットコースターの安全バーを下ろして見送ってくれたキャストだった。
「お疲れさまでした! ナイスフライトでしたね!」
「僕はまだ生きているんですね。地獄に落ちた気分です」
キャストは愛想笑いを浮かべて,「足もとお気をつけて」と席を降りるように指示をした。言われなくても降りようといたのだが,身体が動かない。
「どうされました・・・・・・?」
「いや,その,身体が固まって・・・・・・」
必死にこらえていたからだろうか,股関節が固まって体が思うように動かない。
「ちょっと,しっかりしてよ!」
「ごめんごめん,でも,ほんとにだめなんだ。こういう乗り物」
「じゃあ無理せずにそう言ってよね」
ほんとにダメだと言ったのに,みんなが無理やり乗せたんだろという言葉は口に出さないでいた。そんな余裕もなかった。
「あゆむっち,生まれたての子鹿みたいじゃねえか」
蓮が腹を抱えながら笑う。さっきまで微妙な雰囲気を醸し出していたくせに,人の不幸となると一転して抱腹絶倒だ。他人の不幸は蜜の味って顔をしてる。
「よし,腰抜けはここに置いていくとして,次はどこに行く?」
「だれが腰抜けだ。股関節が外れただけだ」
「より一層情けないな」
「ねえねえ,ここ行きたい!」
言い合いするおれと蓮に割って入った花音は,遊園地の地図を手にして指で指し示した。その指した先は,魔法使いの世界のエリアだった。
「服まで羽織ってやる気満々だもんな。よし,そうと決まれば行こう」
そう言って蓮はご機嫌な様子で歩いていった。
さりげなく手を組もうとした黒崎さんの手を,自然な形で振り払ったのをおれは見逃さなかった。あれはきっとわざとじゃない。黒崎さんと蓮に何かあったのだろうか。
黒崎さんの表情はここからは見えない。蓮の様子も気になったが,自分にできることもないような気がした。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる