2 / 3
第1話 希望とは何か
しおりを挟む
ただ、気まずかった。
彼らは、何をするにも気を遣わなければならなかった。
彼らは、これまで歩いてきた道を迷っている。何度も何度も繰り返しては、苦しんでいる。
彼らは、これから歩む道を恐れている。自分を出せず、他人に合わせることしかできず、自ら傷ついている。
彼らは、今歩いている道に希望が持てない。ただ、無心に歩いているだけだ。なにもかも信じることができない。自分の存在意義がわからない。今も昔も、きっと将来も。
つまり、彼らの時間軸の中には光と呼べるものが一切無い。
では、どこでそれらを見出すのか?答えは無い。否。その疑問自体が間違っている。
彼らは希望《きぼう》などという幸せに満ちた言葉とはかけ離れすぎていた。
もし、仮に彼らが希望だと思うものを持っていたとしても、常人から見ると、つまり客観視すると、それらは失望である。彼らにとっての希望は、常人にとっての失望である。
彼らはなにもわからないまま、どういう経緯を辿《たど》ってこうなったのか知らないまま差別されている、あやつり人形みたいなものだ。
そもそも、彼らに人権が与えられていないのだから、彼らを人形と呼ぶには相応《ふさわ》しかった。
彼らは闇を無にすることしかできなかった。
彼らの歩く道は闇だと定義づけられ、この町の掟《おきて》に洗脳され、人々には理由もないのに不快《ふかい》に感じられた。
彼らが光を与えようとしても、人々は闇としてしか受け取れない。受け取る側の感じ方によって光か闇かが決定されるならば、やはり彼らの行為すべてが闇であった。
光を与えようとしても闇しか与えられていないならば、やはり無にすることしかできないのである。
彼らが犠牲になるのは必然であると、誰もが考えていた。もしくは、無意識のうちにそうなってしまう。そうなってしまっていた。
彼らの人生は生きていなかった。
生きている人生とは、家族に恵まれ、財産に恵まれ、地位に恵まれ、名利《みょうり》に恵まれ、食に恵まれ、友に恵まれ、恋人に恵まれ、学問に恵まれ、あらゆる才能に恵まれ、なにより、光に恵まれ、時に失敗するとしてもそれを糧《かて》にして強くなっていく、そういう人生だとするならば、彼らの人生はやはり生きていなかった。
彼らの命は生きていなかった。
命が生きているというのは、自我があり、自律して自立して、その人であるという自己同一性を持ち、というようなことであるならば、やはり彼らの命は生きていなかった。
彼らは人権が与えられていないが故に、人ではなく、ものである。人々に使われるものである。
彼らは、人に使われ、自我を貫くことができない。
彼らは、世間で雇ってもらえないから自立もできない。
彼らは、人ではない動物として扱われていて、大きくひとまとまりで能力者としてだけ捉えられているが故に、独自性を持たない。持てない。
彼らを定義づけするならば、彼らは他の動物や虫と同じ程度である。極端な話、殺されても構わないのだ。人々の生活を妨害するのだから。
彼らは、魂は持つが、命がない、そのような生き物である。
ただ、息をしているだけの、存在する意味を持たない何か・・・・・・。
***
今もそうだ。彼らは何も悪くない。むしろ人々の方が悪かった。なのに、何もできない。
「ごふっ!」
紀乃貫之《きのつらゆき》の左頬は赤く腫《は》れていた。彼は3人の人々に囲まれて、集団暴行を受けている、そんな状況だった。
***
その少し離れた先に、2人の少女がただ立ち尽くしていた。
「あぁ・・・・・・、ゆき君・・・・・・。」
と言って、彼女は1歩進みかけたが、肩をもう1人の彼女に掴まれ、制された。掴まれた彼女は一瞬震え上がった。何に恐れたのかは彼女にもわからないが、なぜか鳥肌立ってしまった。
振り向き、顔を合わせるが、もう1人の彼女は首を振り、否定の意を示した。彼女は目頭に雫を浮かべ、もう1人の彼女の方を見つめ尽くしている。
***
その傍で、まだ一方的な暴行が続けられている。
「文句でもあんのか?あ?」
「お前らが俺らにぶつかってきたんだろ?」
「なんか言えよ!この野郎!」
口々にそう言いながら、囲んだ中心にいる貫之を躊躇《ちゅうちょ》なく蹴っていく。
貫之は為されるがままだった。彼もまた、この町の掟に虐げられているのかもしれない。
彼は殴られる度《たび》に「ごふっ!」、蹴られる度に「がはっ!」という鳴き声をあげている。
通り過ぎていく人は横目で見ながら、何もないかのように過ぎ去っていく。それは、汚物を見るような目だった。
***
その傍らで、もうその光景を見られなくなってしまったのだろうか、彼女はもう1人の彼女の胸にうずくまって泣いていた。
悲しみの泣き声をあげて・・・・・・。
もう1人の彼女は拳を握りしめ、歯ぎしりをして、彼らをただ見つめていた。見つめることしかできなかった。怒りに満ちたその目と、何もできない悔しさに満ちた瞳孔。
まるで、今は彼女がもう1人の彼女を抑止しているようだった。
否。お互い動けないようにしていたのだ。ただ単に、均衡を保ち続けていた。
***
「腹立つんだよなー!!」
まだ蹴られ続ける貫之。
「くそっ!神経に触るなー!!」
まだ蹴られ続ける。
「こいつっ!うぜえなっ!」
まだ。
「くたばれよっ!」
まだ。
「こいつ殺していいか?それから、後であの女の子たちと遊ぼうぜっ!」
貫之の血が逆流し始めた。彼は、発言者の方を睨《にら》む。
「あ?なんだこら?文句あんのか?」
権威、もとい人権を持つ者からの威嚇《いかく》に貫之は屈することなく睨み続ける。
「文句あんなら親に言いな!」
貫之の憤《いきどお》りが増した。
「お前らはな!所詮《しょせん》俺らに遊ばれるためだけの道具なんだよ!人じゃあないならものだ!ほらよ!俺らのために精一杯《せいいっぱい》奉仕しろや!」
完全に貫之の逆鱗に触れた。
貫之は発言者に超高速移動で近づき、腹に1発拳を食らわし、吹っ飛ばした。
「ぐはっ!」
ただし、貫之は傷つきすぎていたため、威力も低く、二次攻撃へ移れなかった。
ずどっ!
「がはっ!」
ずどっ!ずどっ!
「ぐっ!がはっ!」
貫之は嘔吐した。苦しみながら、2、3歩後退する。
「やってくれたな。」
とだけ言い残し、2人はもう1人を抱え去っていった。
そこには倒れた貫之とただ立ち尽くしていた2人の少女しかいなかった。
通り過ぎる人は彼らに目もくれず、過ぎ去っていく。まるで、彼らがそこにいないかのように。
まるで、彼らが外にいる虫であるかのように。
彼らは、何をするにも気を遣わなければならなかった。
彼らは、これまで歩いてきた道を迷っている。何度も何度も繰り返しては、苦しんでいる。
彼らは、これから歩む道を恐れている。自分を出せず、他人に合わせることしかできず、自ら傷ついている。
彼らは、今歩いている道に希望が持てない。ただ、無心に歩いているだけだ。なにもかも信じることができない。自分の存在意義がわからない。今も昔も、きっと将来も。
つまり、彼らの時間軸の中には光と呼べるものが一切無い。
では、どこでそれらを見出すのか?答えは無い。否。その疑問自体が間違っている。
彼らは希望《きぼう》などという幸せに満ちた言葉とはかけ離れすぎていた。
もし、仮に彼らが希望だと思うものを持っていたとしても、常人から見ると、つまり客観視すると、それらは失望である。彼らにとっての希望は、常人にとっての失望である。
彼らはなにもわからないまま、どういう経緯を辿《たど》ってこうなったのか知らないまま差別されている、あやつり人形みたいなものだ。
そもそも、彼らに人権が与えられていないのだから、彼らを人形と呼ぶには相応《ふさわ》しかった。
彼らは闇を無にすることしかできなかった。
彼らの歩く道は闇だと定義づけられ、この町の掟《おきて》に洗脳され、人々には理由もないのに不快《ふかい》に感じられた。
彼らが光を与えようとしても、人々は闇としてしか受け取れない。受け取る側の感じ方によって光か闇かが決定されるならば、やはり彼らの行為すべてが闇であった。
光を与えようとしても闇しか与えられていないならば、やはり無にすることしかできないのである。
彼らが犠牲になるのは必然であると、誰もが考えていた。もしくは、無意識のうちにそうなってしまう。そうなってしまっていた。
彼らの人生は生きていなかった。
生きている人生とは、家族に恵まれ、財産に恵まれ、地位に恵まれ、名利《みょうり》に恵まれ、食に恵まれ、友に恵まれ、恋人に恵まれ、学問に恵まれ、あらゆる才能に恵まれ、なにより、光に恵まれ、時に失敗するとしてもそれを糧《かて》にして強くなっていく、そういう人生だとするならば、彼らの人生はやはり生きていなかった。
彼らの命は生きていなかった。
命が生きているというのは、自我があり、自律して自立して、その人であるという自己同一性を持ち、というようなことであるならば、やはり彼らの命は生きていなかった。
彼らは人権が与えられていないが故に、人ではなく、ものである。人々に使われるものである。
彼らは、人に使われ、自我を貫くことができない。
彼らは、世間で雇ってもらえないから自立もできない。
彼らは、人ではない動物として扱われていて、大きくひとまとまりで能力者としてだけ捉えられているが故に、独自性を持たない。持てない。
彼らを定義づけするならば、彼らは他の動物や虫と同じ程度である。極端な話、殺されても構わないのだ。人々の生活を妨害するのだから。
彼らは、魂は持つが、命がない、そのような生き物である。
ただ、息をしているだけの、存在する意味を持たない何か・・・・・・。
***
今もそうだ。彼らは何も悪くない。むしろ人々の方が悪かった。なのに、何もできない。
「ごふっ!」
紀乃貫之《きのつらゆき》の左頬は赤く腫《は》れていた。彼は3人の人々に囲まれて、集団暴行を受けている、そんな状況だった。
***
その少し離れた先に、2人の少女がただ立ち尽くしていた。
「あぁ・・・・・・、ゆき君・・・・・・。」
と言って、彼女は1歩進みかけたが、肩をもう1人の彼女に掴まれ、制された。掴まれた彼女は一瞬震え上がった。何に恐れたのかは彼女にもわからないが、なぜか鳥肌立ってしまった。
振り向き、顔を合わせるが、もう1人の彼女は首を振り、否定の意を示した。彼女は目頭に雫を浮かべ、もう1人の彼女の方を見つめ尽くしている。
***
その傍で、まだ一方的な暴行が続けられている。
「文句でもあんのか?あ?」
「お前らが俺らにぶつかってきたんだろ?」
「なんか言えよ!この野郎!」
口々にそう言いながら、囲んだ中心にいる貫之を躊躇《ちゅうちょ》なく蹴っていく。
貫之は為されるがままだった。彼もまた、この町の掟に虐げられているのかもしれない。
彼は殴られる度《たび》に「ごふっ!」、蹴られる度に「がはっ!」という鳴き声をあげている。
通り過ぎていく人は横目で見ながら、何もないかのように過ぎ去っていく。それは、汚物を見るような目だった。
***
その傍らで、もうその光景を見られなくなってしまったのだろうか、彼女はもう1人の彼女の胸にうずくまって泣いていた。
悲しみの泣き声をあげて・・・・・・。
もう1人の彼女は拳を握りしめ、歯ぎしりをして、彼らをただ見つめていた。見つめることしかできなかった。怒りに満ちたその目と、何もできない悔しさに満ちた瞳孔。
まるで、今は彼女がもう1人の彼女を抑止しているようだった。
否。お互い動けないようにしていたのだ。ただ単に、均衡を保ち続けていた。
***
「腹立つんだよなー!!」
まだ蹴られ続ける貫之。
「くそっ!神経に触るなー!!」
まだ蹴られ続ける。
「こいつっ!うぜえなっ!」
まだ。
「くたばれよっ!」
まだ。
「こいつ殺していいか?それから、後であの女の子たちと遊ぼうぜっ!」
貫之の血が逆流し始めた。彼は、発言者の方を睨《にら》む。
「あ?なんだこら?文句あんのか?」
権威、もとい人権を持つ者からの威嚇《いかく》に貫之は屈することなく睨み続ける。
「文句あんなら親に言いな!」
貫之の憤《いきどお》りが増した。
「お前らはな!所詮《しょせん》俺らに遊ばれるためだけの道具なんだよ!人じゃあないならものだ!ほらよ!俺らのために精一杯《せいいっぱい》奉仕しろや!」
完全に貫之の逆鱗に触れた。
貫之は発言者に超高速移動で近づき、腹に1発拳を食らわし、吹っ飛ばした。
「ぐはっ!」
ただし、貫之は傷つきすぎていたため、威力も低く、二次攻撃へ移れなかった。
ずどっ!
「がはっ!」
ずどっ!ずどっ!
「ぐっ!がはっ!」
貫之は嘔吐した。苦しみながら、2、3歩後退する。
「やってくれたな。」
とだけ言い残し、2人はもう1人を抱え去っていった。
そこには倒れた貫之とただ立ち尽くしていた2人の少女しかいなかった。
通り過ぎる人は彼らに目もくれず、過ぎ去っていく。まるで、彼らがそこにいないかのように。
まるで、彼らが外にいる虫であるかのように。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる