幸福の知恵の輪、さよならは言わないで…。

婆雨まう(バウまう)

文字の大きさ
2 / 2
第2話

あとがき

しおりを挟む
 光代がなぜ達也を愛せなかったのか。
 そこには屈折し、闇のごとく深い、ねじれた愛があった。
 かつての夫を愛していたがゆえ生じる憎悪。
 愛し方を忘れてしまった者が陥る悲劇、トラジディー。
 屈折した光が頭上から2人を常に照らしていた。
 愛されたいと願う子供がいて、愛し方を忘れてしまった親がいる。
 かつての光代は愛する夫と、平凡だけど幸せな、どこにでもあるありきたりな家庭を築くのが夢だった。
 どこかでボタンを掛け違えた夫婦は、いびつに夫婦愛を歪め、すれ違い、最終的に離婚という手段を選んだ。
 光代が引き取った息子、達也はお荷物となり、再婚の障害となった。
 子供を愛せない母。
 母親を憎むルサンチマンな我が子。
 親を愛しているのに報われない子供。
 この物語を読み、もし自分たちの家族愛を疑い、そして本来あるべき愛の形を取り戻したいと思ったなら、どうだろう。
 それだけで私の目的は果たせたのかなと思う。
 幸福は空から舞い降りてくるものではない。
 愛と涙、育んだ情と怒りでもって、手でこねるようにして真心を込め、粘土細工のように造り出してゆくものなのである。
 達也は不幸にして4才でこの世を去ることになった。
 達也がどのような思いでこの世を去ったのかはわからないが《ぼくがお母さんを守る》という、その思いは本物だったはずである。
 達也の死後、光代は啓介と再婚する道を選ばなかった。
 人生は、さよならの連続である。
 私たちは別れを言うために生きているのではないか。
 時にそう思えてしまう。
 達也は少なくとも自分自身、不幸だとは思っていなかった。
 愛されていないことを不幸に思ったこともなかった。
 ただ母親を愛したかった。
 ずっと愛していたかった。
 死んでもなお母親を守りたい。
 それだけを伝えたかったのではないだろうか。
 私にはそう思えてならない。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...